十勇士 作:妖狐
その光に照らされた場所は、大きな繭の中に眠る伊佐那美。
彼女はゆっくりと目を開いた。彼女と同じように、繭に凭り掛かるようにして座っていた者の目も開いた。
城の一室……
敷かれた布団の上で眠る女性。彼女の傍に、優之介達は離れようとはせず、そこにいた。
「一命は取り留めてるが……
持って、今日。長ければ明日」
「……そんな酷い状態なの?」
「元々、胸の近くを刺されている……この傷で、生きているのが奇跡だ」
「で、その女が持ってたのが……」
鎌之介の言葉に、応えるかのようにして才蔵は巾着から悪しき魂と黒く染まった四つの勾玉を出し、皆に見せた。
「何で、これが……」
「大岩を開いたから、役目を終えた……って事かしら」
「分からねぇ……
ただ」
言葉を溜めながら、才蔵は一つの勾玉を手に取った。
「異様に……この勾玉だけ、微かに光が見える」
「才蔵……」
女性の部屋で、眠る彼女を見守る優之介達……
その時、水の入った桶を持った六助が部屋へ入ってきた。桶を近くに置き、女性の額に置かれていた手拭いを洗い、絞ると再び額に置いた。
「……?
六助さん」
陸丸の声に、六助は彼が指差す方に目を向けた。
微かに動く指……そして、目がゆっくりと開いた。
「……!」
「さ、才蔵さん達呼んでくる!」
「ま、待て!陸丸!」
「ちょっと!二人共、待って!!」
少し嬉しそうに、三人は部屋を出て行った。
女性は目に映った六助を見ると、安心したかのように笑みを浮かべ、精一杯手を上げた。上げてきた手を、六助は握り優しく話し掛けた。
「お久し振りです、副隊長……」
「六助……
お願い……桜華を……あの子を、救って」
「副隊長!あまり無理をすると」
「いいの!
あの子は……あの子は一人……
私達一族がやらなきゃいけないことを、一人でやっているの……
桜華を……桜華を光のある場所へ連れ出して……お願い」
六助の手を強く握る蓮華(副隊長)……
その時、部屋へ佐助達を連れた優之介達が戻ってきた。才蔵は六助の隣へ行き、彼女を見た。蓮華はゆっくりと目を向け、微笑んで言った。
「あなたが……“光”ね」
「……」
「お願い……あの子を……救って……
桜華は……あなたが……助けに来るって……信じて待ってるのよ」
六助から手を離し、最後の力を振り絞り起き上がった蓮華は、才蔵の胸に手を当てた……すると、彼女の手が一瞬光った。
「あとは……お願い……ね」
その言葉を最期に、蓮華は才蔵に凭り掛かるようにして倒れた。
「副隊長!!」
「蓮華さん!」
「佐助!」
布団へ寝かせた佐助は、すぐに蘇生術を熟すが、蓮華は二度と息を吹き返すことは無かった……
出雲大社の屋根の上……そこに座っていた伊佐那美は、人知れず目から涙を流していた。
「……なぜ、泣いている……
お主はもう、泣かなくてもよい。妾の者になったのだからな。
もっと、深い闇が必要か……ならば、あやつ等を亡き者に」
月明かりに照らされる上田城……
各々の武器を手入れし、ケースにしまう才蔵達……城を出た彼等は、振り返り門前に立つ幸村と大助を見た。
「儂と大助は、城でお主等の帰りを待つ」
「あぁ……」
「……霧隠才蔵」
「応」
「猿飛佐助」
「はい」
「穴山氷柱」
「はい」
「三好清海入道」
「はい」
「三好伊佐入道」
「はい」
「筧十蔵」
「はい」
「海野六郎」
「御意」
「由利鎌之介」
「応」
「根津甚八」
「応」
「望月六助」
「はい」
「光坂優之介」
「……はい」
「光坂椿」
「はい」
「光坂陸丸」
「は、はい」
「名を呼んだ者達よ、約束しろ……
必ずや、桜華を助け出し……この地へ帰って来い」
「はい!」
「応!」
出雲大社……黒いオーラを纏う社。
鼻歌を歌いながら、柱の周りを歩るく伊佐那美……足にステップを踏むかのように床を叩いた。すると彼女を囲う様にして太極図が描かれた黒く染まった扉が数個出てきた。
「もう少しで……最後の敵が来る……
あの者達を消せば……
お主も少しは、大人しくなるだろう?
なぁ?桜華」
「?」
船の縁に凭り掛かっていた才蔵は、腕に巻き付けていた勾玉から、妙な暖かさを感じそれを見た。
微かに青く光る勾玉……
「……甚八!もっと急げ!」
「お安い御用だ!」
(……桜華。
もう少しだ……もう少しの辛抱だ)
微かに光る勾玉を、改めて意を決意したかのようにして才蔵は強く握った。
『桜華』
誰?
『桜華』
色んな声が、聞こえる……誰なの?
『桜華!』
『桜華!』
『桜華』
分からない……
誰……
『仲間です』
!……父さん……
『光のある場所へ……』
母さん……
帰りたい……皆の……才蔵達の所に……