十勇士 作:妖狐
警備の合間を縫って、才蔵、佐助、氷柱、鎌之介は桜華に関する情報を集めていた。
彼等だけでなく、六助や甚八も各地域に行き情報を集めていた。
そしてある日、甚八は奇妙な情報を城へ持ち帰ってきた。
「村が消えた!?」
資料を広げながら、甚八はそう話した。
「ここ半年の間に、名の無い村が忽然と姿を消したらしい。しかも一回や二回じゃない。
消える際に、目撃者があるものを見たって話だ」
「あるもの?」
「村が消える寸前に、黒い雲を周りに浮かせその中に女がいたと……」
そう言いながら、甚八は資料の中から絵が描かれた紙を見せた。
後ろ姿しか描かれたそれは……真っ黒な髪を腰まで伸ばした少女。その姿を見た優之介達の目に、以前の桜華の姿が映った。
「……桜華」
「今はどこにいるの?」
「さぁな。
この姿を見た所が、摂津付近……それ以降の情報は何も」
「今は出雲にいるとの、情報です」
その声と共に、襖を開き外から六助が現れた。
「六助さん!」
「出雲って確か、半年前に全焼したんじゃ……」
「確かに全焼しました……
ですが、黄泉への入り口……大岩があるのは地下。大社が燃えても、地下は燃えません」
「そっか……」
「場所が分かれば、こっちのもんだ!!
行こうぜ!出雲に!」
「うん!」
「待てよ」
騒ぐ鎌之介達に、今まで黙っていた才蔵は口を開いた。
「鎌之介……」
「?」
「お前、桜華を刺す覚悟はあんのか?」
「え?」
「大助、お前もあんのか?」
「そ、それは……」
「今の桜華は、昔の桜華と違う……
鎌之介や大助を、殺そうとした」
「けど!」
「覚悟があれば、出雲へ行く。
けど、無ければ来ない方が身のためだ。また辛い思いするぞ」
「……」
それだけを言うと、才蔵は部屋を出て行った。
「……封印する方法ならある。
桜華を殺さず」
「え?」
言葉を放った優之介に、大助達は顔を向けた。彼は懐から巻物を取り出し、紐を解くと巻物を広げた。
そこには、黒と白の太極図に周りに八つの丸が描かれていた。さらに、周りには難しい字で埋め尽くされていた。
「何?これ」
「伊佐那美が蘇りし時、光と八つと力を持つ勇士達が現れ、女神を再び黄泉へ封じる……
俺達は、万が一伊佐那美が蘇ったら、この伝書に従えと言われました」
「光と八つの力を持つ勇士……」
「八つの力って、どんなの?」
「森羅万象に基づいていて……
まず、火の力……
次に、水の力……
雷の力……
氷の力……
草の力……
土の力……
金の力……
そして、風の力……」
「あれ?その力って、優之介達が……」
「私達は補佐のような者……
本当の勇士のね」
「本当の勇士?
それって、誰なの?」
「……
伊佐那美がこの世に宿った時、同時に自分を封じる九人の勇士を、己で見つけると言われている」
「……まさか」
「……恐らく、あなた方です。
猿飛佐助さん、穴山氷柱さん、由利鎌之介さん、海野六郎さん、根津甚八さん、筧十蔵さん、三好清海入道さん、三好伊佐入道さん、望月六助さん、そして……霧隠才蔵さん」
「……」
「確かに……当てはまる。
怖いくらいに」
「佐助が水、六郎が草、鎌之介が風、氷柱が氷、甚八が雷、清海と伊佐道が土……」
「金は金属を指すから、火縄銃に長けている十蔵が金……
爆薬を使う六助が火……」
「となると、才蔵は?
あいつは何だよ?」
「……恐らく、光」
「光?才蔵が?」
「光の勇士として選ばれた者の傍には、自然と人が集まります……
そう、力を持った勇士達が」
「……」
「桜華は多分、初めて才蔵さんを見た時から……
“光”の勇士として、見ていたのかも知れない……
そして、“闇”である自分を、殺して欲しく形見である刀を……託したのかも……」
上田の森……
巨大岩の上に座り、才蔵は流れる川と滝を眺めていた。
“バシャーン”
川に飛び込む青達……水飛沫が飛ぶ中、才蔵の目に一瞬桜華の姿が映った。
飛沫を立て、川ではしゃぐ桜華……その姿は次第に千草になった。
「桜華!千草!」
その名前に反応したかのようにして、青達は才蔵の方を向いた。ハッと我に返った彼は、頭を手で抑えた。
そんな彼に、青達は体に付いた水を払って駆け寄った。
「……どうすりゃいいんだろうな……」
一人そう言いながら、才蔵は青と空、二匹の子供達の頭を順々に撫でた。
すると、空が耳を立て辺りを見回した。空に続いて、青と子供達も辺りを見回した。
「?どうかしたか?」
すると、川の反対側の茂みから白い髪を腰まで伸ばした女性が、手に何かを持って現れ出てきた。
才蔵はすぐに、川を渡り彼女の元へ駆け寄った。
「オイ、大丈夫か!?」
「ハァ……ハァ……
こ、これを……」
手に持っていた物を、女性は才蔵の手に渡した。
それは、黒く染まった四つの勾玉と悪しき魂だった……
「何で、これを……」
「あの子は……まだ……生きてる……」
「え?」
それだけを言うと、女性は気を失った。才蔵が彼女を呼び掛ける中、空と青は力が抜けた手を舐めた。
「……?
こいつ……」
才蔵の脳裏に蘇る記憶……自分達の前に現れた、久久能智神の姿。
今腕の中で気を失った女性と、彼女の姿が瓜二つにだった。
「……まさか」
「才蔵!」
彼を心配して、様子を見に氷柱は川へ来た。才蔵の元へ駆け寄った彼女は、彼の腕の中で倒れていた女性目を向け、驚いた表情をした。
「こ、この人……」
「様子がおかしい!
城へ連れて帰る!」
腰に着けていた巾着に、勾玉と魂を入れ女性を背負うと、才蔵は氷柱と共に城へ戻った。
全てを忘れて、一から……
『忘れる事なんて出来ない……
魂に刻まれた記憶は、永遠に残る』
お願い……この子を……
桜華を守って……
真……
『守りたかった……
ずっと傍にいて、君等を……守りたかった』
助けて……