十勇士 作:妖狐
服を着る久久能智神……裾を手で靡かせると、社の戸を勢い良く開けた。
「悪しき魂は我等の物となった……残るは四つの勾玉だけ。
さぁ……行きましょう。
伊佐那美の器がいる上田へ!」
櫓から見張りをする才蔵達……
その間、桜華は甚八と一緒に川へ来ていた。釣りをする彼を見ていた桜華に、釣られた魚が水を掛けまた川へ入った。
「……水掛かった」
「そりゃあ、悪かったな」
「……
ねぇ」
「ん?」
「……昔、父さん達に会ったことがあるって言ってたけど……
本当なの?」
「あぁ。
たしか、お前がまだ小さい時だった。
たまたま、あの里の港に停留してたら、お前が海で溺れてるって聞いて」
「え?
私の里は、確か外部との接触を閉ざしてたはずじゃ……」
「あの頃俺等は、誰にも仕えてなかったから、物質の届け屋として、光坂に雇われてたんだよ」
「……知らなかった……
だから、父さんと母さんのことを知ってたの?」
「まぁな……
けど、俺が行ったのはお前を助けたその日が最後。
その後は、幸村の旦那に仕えることになって、あれ以来行ってなかった……
だから、真助を見た時一瞬目を疑った……あの時の奴かと思った……
話し掛けて、お前や奥さんは元気かって聞いたが……」
「……聞いたが?」
「『君には関係ありません』だとさ。
最後に会った時と、容姿も雰囲気が変わってたし……何かあったかと思って、それ以上は聞かなかった」
「……あれ?
でも、里に行った時お前、何も言わなかったじゃん」
「光坂の頭と約束してたからな。
何があっても、ここのことを他言するなって。それを守ったまでだ」
「……」
「楽しいお話中、申し訳ないけど……
そこのお嬢さん、俺に渡してくれないかな?」
その声と共に、宙から彰三が降り立った。甚八は釣り竿を投げ捨て、桜華の前に立ち槍を手に取った。
「そう簡単には、渡してくれないか……」
「才蔵の所に行け……」
「え?でも」
「早くしろ!」
甚八に怒鳴られ、桜華はゆっくりと後退りすると素早く踵を返し、森の中へ逃げ込んだ。
「テメェは、俺が相手になってやる」
「おお!やる気だね?
そんじゃあ、俺も本気出そう」
同じ頃……
城下町を伊佐道達と歩く大助……その時、空から無数のクナイが振ってきた。
「大助様!!」
傍にいた伊佐道は、大助を抱き彼等の前に清海は立ち棍棒を力任せに地面を叩き、壁を作り防いだ。
「な、何だ?!一体」
「さすが、真田の勇士」
「!?」
建物の影から出て来たのは、黒いマントを羽織り、体に鎖を絡めた男だった。
「何者だ!?」
「ご紹介遅れました。
拙者の名は虎屋陽炎(トラヤカゲロウ)」
「このにおい……
テメェ、桜華をさらおうとしてた奴等の仲間か!?」
「?!」
「この不届き者が!!伊佐道!早く大助様を連れて城へ!!」
「ここは俺に任せ」
「そうはさせん」
黒い壁が大助達の周りを囲い、逃げ道を塞いだ。
「上からの命令で、全員殺せと言われている……
だから、例え若君でも見逃しはしない」
「っ!?」
同じ頃……
城で寛ぐ幸村と六郎……その時、庭から糸で繋がれたクナイが障子を破り飛んできた。幸村の傍にいた六郎はすぐに、隠し持っていた寸鉄を出し、そのクナイを弾いた。
「あ~!もう少しだったのに!」
庭へ出ると、そこにいたのは同じ顔をした二人の少年が短刀と大太刀を担ぎ立っていた。
「真田の頭、真田幸村……
貴様の命、頂戴する」
「そうはさせない!!幸村様、お下がり下さい!!」
「逃がしや」
「しねぇよ!!」
手に木の葉を舞い上がらせ、木の葉で出来た弾を放った。
「火術!棒線火!!」
飛んできた火の棒が、幸村達目掛けて飛んできた木の葉の玉に当たり燃やした。
「?!」
「この者を傷付けることは、この拙者が許さぬ」
「六助!」
「げ?!まだいたのかよ……」
「へっぴり腰になるな。
丁度二対二だ」
「いや、二対三だ!」
火縄銃を構えた十蔵は、銃口を彼等に向けて言った。
「……油断するな」
「分ーってるよ!」
皆が戦闘に入った頃……四方の櫓から見張りをする、才蔵達。その時、彼等と共にいた優之介達が辺りを警戒しだした。
「どうかしたか?」
「……来る!」
「?……!?」
素早く優之介を連れて、才蔵は櫓から飛び降りた。その直後、櫓が壊されその土煙から大剣を持った、半蔵が姿を現した。
「お久し振りで~す、才蔵!
またお会いできて、嬉しいよ」
「こっちは嬉しがねぇ!!」
「何だよ、せっかく殺りに来たのに」
「優之介、早く城へ!」
「させませんぜ!」
指を鳴らす半蔵……その合図で、クナイが飛んできた。才蔵はすぐに避け、飛んできた方向に目を向けた。
「!?……な、何で」
青い髪を一つ三つ編みにした女が、半蔵の隣に降り立った。
「ご紹介しまーす!我等の主、久久能智神の力により蘇った、千草でーす!」
顔を上げる千草……その目にはかつての生気は無く、傀儡のような表情をしていた。
同じようにして、氷柱と椿の元へ蟲使いの男が無数の蟲達を引き連れて現れた。
「チッ……女が相手かよ」
「女だからって、甘く見ない方が良いわよ?」
「みてぇだな……
名だけ言っとく……我が名は楼怨。
貴様等に殺された姉上、大蛇の敵を討たせて貰う」
「大蛇って(まさか、あの蛇女?!)」
腕を伸ばすと楼怨の袖の中から、大きな百足が出て来るなり、椿目掛けて突進してきた。氷柱はすぐに、彼女の前に氷の壁を作り守った。
「チッ!」
「私の後ろに!」
「あ、はい!」
「だから、女は面倒だ」
崖近くに設置された櫓から、飛び降りる佐助と陸丸……
目の前に降り立ったのは、小柄な少年だった。
「もう、避けないで下さいよぉ!
そこにいる子供の、ピアス持って帰らなきゃいけないんですから!」
「誰が渡すものか!
陸丸、俺の後ろへ!」
「は、はい!」
茂みの中を駆ける桜華……
茂みを抜け、出て来た先にそれは見えた。
「……才……蔵……」
目の前で腹を切られる才蔵……その光景を桜華は目の当たりにした。