十勇士 作:妖狐
『いや、どこにも』
『くそ、どこに行ったんだ』
『焼け死んだんじゃねぇの?』
『死んだら元も子もないぞ!!
アイツはあの方が』
逃げなきゃ……遠くへ。
夕暮れ……才蔵は氷柱と共に、上田の森に入り桜華を捜していた。
「桜華!!どこだ!!」
「桜華!!出て着て!!」
森を駆ける才蔵だったが、彼女はどこにもいなかった。彼等の後に続き、佐助も一緒に捜していた。
「全く、何で目を離したりするんだ!!」
「仕方ねぇだろ!」
「仕方なくない!!これだから伊賀の者は」
「あ?!」
「喧嘩するなら、桜華を見つけてから!!
今日中に見つかんなきゃ、ヤバいんだから!」
“ワオオオオオオ”
森中に響く、山犬の遠吠え。佐助はその鳴き声を頼りに、どこかへ向かった。彼の後を、才蔵と氷柱は追い駆けた。
奥へと来た佐助……小さな洞穴の傍に、山犬は座っていた。山犬の頭を撫でながら、穴を覗いた。
蹲る桜華……体を震えさせながら、桜華はそこに座っていた。
「猿!見つけ」
「シッ!
この穴の中だ。けど、相当怯えてる」
「……」
佐助を退かし、才蔵は穴の中を覗き込んだ。
「桜華、帰ろう」
「…なきゃ」
「?」
「逃げなきゃ……逃げなきゃ。あいつ等から、逃げなきゃ」
穴にいる桜華は、髪留めの紐が切れたのか、長い髪が下ろされ彼女はずっと顔を伏せ震えていた。
「桜華」
「逃げなきゃ」
「桜華」
「逃げなきゃ」
「桜華!」
桜華の手を掴み、才蔵は彼女を引きずり出した。桜華は才蔵から離れようと暴れ出した。
「桜華!落ち着け!!
氷柱、頼む!」
才蔵に言われ、氷柱は冷たい息を桜華に掛けた。彼女は気を失ったかのようにして倒れ、倒れかけた桜華を才蔵は横に抱いた。
「……余程怖かったのね」
「……」
「とにかく、城へ戻ろう。
幸村様達も、心配していることだし」
「そうだな」
抱えている桜華を抱え直し、才蔵は佐助達と共に城へ戻った。戻る中、桜華の首から掛けていた勾玉の翡翠が、青く光っていた。
『お守り?』
『そう。桜華を悪い物から守ってくれるお守り』
『綺麗な翡翠』
『絶対外しちゃダメよ』
『うん!』
『早く逃げて!!早く!!』
目を覚ます桜華……額に置いてある濡れた手拭いを退かしながら、桜華は起き上がった。部屋には障子に寄り掛かり眠る才蔵の姿があった。
「……」
『ここは安全だ。何も怖いことはねぇよ』
思い出す才蔵の言葉……ふと下に目を向けると、皿が置いてありそこにお握りが三つ置かれていた。桜華は、お握りを手に掴み頬張った。
食べる音で目が覚めた才蔵は、目を擦りながら起きてお握りを食べる桜華を見た。
「起きたか」
「……」
「……美味いか?」
「……ん」
「桜華……お前、何があったんだ?」
「……知らない」
「え」
「覚えてない……
ずっと追われて、放浪して逃げてた」
「親は?一緒じゃなかったのか?」
「知らない」
「知らないって……」
「ずっと一人だもん……」
「……」
「ずっと一人で逃げてた……村や町を転々として、逃げてた。元から着てた服は着れなくなって、死んでた山賊から服を剥ぎ取って、それを着た」
「(あの男物の着物、山賊から剥ぎ取ったのかよ)
そういえば、刀はどうしたんだ?山賊から盗ったのか?」
「ううん。元から持ってた」
「フ~ン」
その時、障子が開きそれに驚いた桜華は、才蔵の傍に行った。
「六郎さん」
「目覚めたみたいですね。桜華」
「さっきな」
「才蔵、幸村様がお呼びです。すぐに着なさい」
「分かった。
桜華、お前はもうちょい寝てろ」
「……うん」
桜華の頭を軽く叩くと、才蔵は立ち上がり六郎と共に部屋を出て行った。
一人になった桜華は、もう一つお握りを口にした。
『桜華……桜華』
「?」
『桜華……
またお母さんに怒られたんだって?』
(誰?)
『ほら、お握り。これを食べて機嫌直しなさい』
自然と涙を流れた。桜華は涙を腕で拭きながら、お握りを見た。
(私……)
「ハァ?!徳川じゃない!?」
巻物を読みながら言う幸村に、才蔵は大声を上げた。
「あぁ。
十蔵の調べによると、ここ最近徳川が動いた痕跡が無いんだ。ほれ、お主と同じ伊賀の出身の服部半蔵がいるだろ?あ奴からも情報を得たんだが」
(よく情報を得られたな……つーか、本当にあってんのか?)
「最近は、どうやって儂等真田を滅ぼそうか考えているらしい」
「そんな情報いらねぇって、半蔵に言っとけ!!
……そうなると、桜華は誰に追われてんだ?」
「そこなんだよ。誰に追われているのやら……
彼女から、何か聞いたか?」
「何も。聞いたと言えば、ずっと一人で逃げてきたってくらいだ」
「逃げてきた…か」
「幸村、徳川の事少し頭に入れといた方が良いぜ。
あの狸は、自分は動かないけど部下に動かすことがあるから」
「そうだのぉ……まぁ、考えておく」
「そんじゃ、部屋戻って寝るわ」
「才蔵、桜華の事頼んだぞ」
「……ヘイヘイ」
襖を閉め、才蔵は部屋を出て行った。
六郎は幸村に茶を出しながら、口を開いた。
「本当にいいんですか?才蔵で」
「あぁ。
アイツは少し、大事なものを持たせた方が良い」
「……」
「いつまでも過去に縛られちゃ、前に進めはしない……そうだろ?六郎」
「そうですね……」
桜華の部屋へ戻ってきた才蔵……桜華は、部屋の隅に蹲っていた。
(また……)
『ずっと一人で逃げてた……』
(……無理もないか。
怖いんだもんな)
蹲る桜華の隣に座った才蔵は、掛布団を包むように彼女に掛け自分にも掛けた。桜華は体勢を崩し、才蔵に寄り掛かる様にして倒れた。そんな彼女の頭を才蔵は撫でた。その時、一瞬だけ彼女の姿が別の女性へと変わった。青い髪を一つ三つ編みに結い、自身に寄り掛かりえ笑う女性。
(……似てるな…アイツに)
縁側を歩く佐助……ふと、桜華の部屋を覗いた。
壁に寄り掛かり眠る才蔵。彼の隣で彼にしがみ付き眠る桜華。
そんな二人の姿を見た佐助は、鼻で笑いその場を去って行った。
狐:……あれ?雑談コーナーは?やってないの?
猿:今回、話す事何かあるのか?
狐:う~ん……
あれ?そういえば、才蔵は?
猿:アイツなら今、桜華と一緒だ。
狐:あ~、そういえば。
猿:で?いつになったら、桜華の過去が明かされるんだよ!
狐:もうちょいしたらな。
猿:このコーナー、そろそろ終わりにした方が良いんじゃないのか?
狐:う~ん……考えとく。
そうだ!次から、お前等の紹介するか!
猿:紹介?
狐:うん!服とか使用武器とか!
猿:それはいいかもな。
氷:その前に、才蔵の過去もなんか気になるんですけど!
猿:そうだ!才蔵に何があったんだ!!
狐:それではまた、次回をお楽しみに~
氷:おい!!
猿:おい!!