十勇士 作:妖狐
約束通り、鎌之介は才蔵から鎖鎌を返して貰った。受け取った鎖鎌をしばらく眺めていた彼は、顔を上げ何かを言おうとした時だった。
「鎌之介」
六郎の声に、鎌之介は鎖鎌をケースにしまい彼と共に城の門へと行った。
門前に着くと、既にいる伯父が煙管を吹きながら、勝ち誇ったかのような笑みを浮かべて、鎌之介を見た。
「遅かったな?鎌之介」
「……」
近寄ってくる伯父……次の瞬間、彼を目の前に鎌之介は鎖鎌の鎌を思いっ切り振り下ろし伯父に刺した。血を出した伯父は、肩を押さえながら後ろへ引いた。
「鎌之介!!貴様!!」
「誰がテメェの所に帰るか」
「そう言っているのも、今の内だ。
早く捕らえろ!!」
傍にいた一人の男が、鎌之介目掛けてワイヤー付きのクナイを放った。彼は鎖を激しく回し風を起こし、その攻撃を防いだ。
動きが鈍った男の隙を見て、鎌之介は自身の長い髪を手に握った。
「テメェが今頃、俺を迎えに来たのは……
赤髪の男が珍しいから、それを高く売れると知ったから」
「っ!!」
「俺を売るために、迎えに来たんだろ?
だったら……だったらくれてやるよ!!」
髪に握っていた鎌の刃を入れた。
『おいおい、鎌之介は男だぞ?』
『あら、良いじゃない。
私と同じ、綺麗な赤だし』
『う~ん……』
『親父!見てみて!』
幼い鎌之介は、結った髪を揺らしながら、父親の膝に座った。父親は笑みを溢して、彼の頭を撫でた。その様子に母親も笑った。
その記憶と共に、切られた鎌之介の髪は地面に落ちた。それを見た伯父はぶち切れ、腰に挿していた刀を抜き、鎌之介目掛けて振り下ろした。振り下ろしてきた刀を、彼は鎌で受け止めた。
「小癪なガキが!!」
「テメェの所に、俺は帰らねぇ!!」
「そう言うなら、こっちにも考えが!」
「殿方の子供を、さらって売るってか?」
「?!」
声の方に伯父は目を向けた。
拘束された男が投げられ、その後ろに大助を抱き寄せた才蔵達がいた。
「鎌之介を手に入れてさらに、うちの若君を奪う作戦は失敗だったな?」
「くっ!!」
佐助から離れ大助は、鎌之介の元に駆け寄り彼に抱き着き伯父を睨んだ。
「鎌之介は、絶対渡さないからな!!」
「命知らずが!!」
指を鳴らす伯父……すると茂みから多数の忍達が、姿を現した。その様子に、才蔵達は幸村達の前に立ち武器を構えた。
「狙った獲物は必ず奪う!!どんな手を使ってもな!!
殺れ!!」
伯父の合図に、忍達は一斉に彼等に飛びかかった。
「氷術!針地獄!」
氷柱の冷気の放った手を地面に付けると、そこから無数の氷で出来た針が作られ、敵を串刺しにしていった。
「甲賀流水術霧雨!!」
「伊賀流雷斬!!」
佐助が降らせた毒付きの雨と、才蔵の刀に纏った雷が敵を殲滅していった。まだ動けていた忍達は、背後へ周り幸村達に襲いかかろうとした。
「風術!!刃風拳!!」
鎌之介の放った風に当たった忍達は、体中の至る所に傷を作った。
次々に倒されていく忍達……自棄になった伯父は、大助に隠し持っていた銃を向け弾を放った。
「うわっ!!」
「大助!!」
腕から流れる血を見た、鎌之介は伯父を睨んだ。
「ぶっ殺す!!」
その声に反応するかのようにして、彼の周りに強い風が吹き荒れた。大助を山賊から救おうとした時と同じ、あの風が……
乱れ靡く髪の中、鎌之介の左目が激しく光った。
「!!て、テメェまさか!?」
「由利式究極風術!!光風霽月!!」
巨大な竜巻が起こり、忍達を次々に飲み込んでいった。
その竜巻を、城下町から見ていたある一人の者は、急いで城へと向かった。
破壊された城壁……息を切らしながら、鎌之介はその場に座り込んだ。咄嗟に張られた氷の壁を、才蔵と佐助はたたき割り外へ出た。
「鎌之介!」
割られた壁から飛び出し、大助は座り込む彼の元へ駆け寄った。破壊された城壁を見ながら、才蔵達は呆気に取られていた。
「凄ぇ……」
「城壁がボロボロですね……」
「しゅ、修理が……」
その時、瓦礫から伯父が刀を手に這い出てきた。その音に、才蔵達はすぐに攻撃態勢に入り、彼等と同様に鎌之介もふらつきながら立ち上がり、鎖鎌を構えた。
伯父は鎌之介に狙いを定め、刀を投げようとした時だった。突然背後から腕を掴まれ、その行為を阻止された。
「そこまでだ」
「!?き、貴様!!なぜ!?」
覆面をした男は、伯父の手を拘束し連れてきていた者に、何かを伝え渡した。
「あのオッサン、連れて行かれたが……」
「どうなってんだ?」
キョトンとしている鎌之介に、男は頭に手を乗せて微笑んだ。
「デカくなった、鎌之介」
「……あぁ!!
倉の兄貴!!」
そう呼びながら、鎌之介は彼に抱き着いた。
城内……
「お初に掛かります。
私(ワタクシ)、由利倉之介と申します。今は由利一族の仮当主を務めさせて貰っています。
この度、鎌之介を保護して頂きありがとうございます。幸村様」
「何、それ相応の事をしたまでだ」
「鎌之介が兄貴って呼んでたけど……兄弟か?」
「いえ、違います。
私は、鎌之介の父君と共に仕事をやっていたので……鎌之介はそれで」
「昔からの知り合いって事か」
「そうです」
「それで、今日は何用で?」
「鎌之介を迎えに着たまでです」
「……」
「先日、主の訃報が届きました」
「亡くなった……のか」
「はい。
訃報と共に、主の遺言書が入っていました。内容は里を全て、我々一族に渡すと……そして、その城の当主を鎌之介に」
「ま、マジかよ……」
「それで、迎えに来たのか」
「はい……
しかし、先程の様子を見ると……ここの暮らしが合っているように、私には見えました」
「……」
「一応、迎えに来た事まで本人に話すつもりです」
「もし……もし、断ったら?」
「その時はその時です。
我々は、主の帰りを待つだけです」
笑みを見せながら、倉之介はそう言った。
先程の話を、倉之介は鎌之介に話した。一緒に聞いていた大助は、泣きそうな顔で彼に抱き着こうとしたが、その行為を才蔵に止められた。
「どうする?鎌之介が、決めなさい」
「……」
悩む鎌之介……顔を上げ才蔵に抑えられている大助に目を向けた。半べそをかき、ジッと自分を見ていた。
「……
ここに残る」
「……分かった」
「なぁ、主は……」
「……先日、手紙が届いた」
「……」
「元気に……やっているそうだ」
背を向け、倉之介は静かにそう言った。その目には少しばかし涙を溜めていたのを、才蔵は見逃さなかった。
その日の夕方、倉之介は城を後にした。帰る彼を、鎌之介は屋根の上から見送っていた。
「……才蔵」
「ん?」
「……何でも無い」
「あっそ……
しっかし、随分と切ったな?髪」
肩上まで切られた髪を見ながら、才蔵は言った。肩下まで伸びた横髪を弄っていた鎌之介は、後ろの髪を触った。軽くため息を吐くと、腰に巻いていた帯を取り、それを額に巻いた。
「それ、結構似合ってんじゃん」
「……へへ!だろ!」