十勇士 作:妖狐
何で、いつも寂しそうなの?
桜華達じゃ、不満なの?
『お前はよく似ている……』
お頭の家を出た桜華は、ふと後ろを振り返り家を見た。
「どうかしたか?」
「……父さんがまだ里にいた頃、ここへ来るのが楽しみだった」
蘇る記憶……真助の手を引き、蓮華と共にお頭の家へ行った。家の中を走り回ったり、庭に生えていた木に登ったりと遊んでいた。その度に、真助に注意されていた。
「あの頃は楽しみだったけど、今はもう行きたくない」
「……ここには用は無い。
帰ろう」
歩き出そうとしたその時だった。
突然、桜華の足下から硝子が現れ彼女を閉じ込めた。
「桜華!!」
「見~つっけた」
声の方に目を向けると、壁の屋根に座る灰色の髪を腰下まで伸ばし、顔に能面の面をした男が一人いた。
「お前……まさか」
「随分と成長したねぇ。
優之介……それに桜華」
「な、何で俺達の名を……」
「俺は彰三……
名ぐらいは聞いたことあるでしょ?」
「……!?」
『彰さん、また武勇伝聞かせてよ!』
『聞かせて聞かせて!』
『おーおー。いいぞ』
幼き頃の自分達は、目の前の男の膝に乗って彼の武勇伝を聞いていた。周りがその名で呼んでいたため、本名を忘れていた……二人はそう思いながら、彼を見つめた。
「ま、まさか……」
「し、彰さん?」
「当ったり~!」
「な、何で……彰さんが、あいつ等の」
「身を隠すの大変だったよ。
真助が邪魔してね、全然お前を奪えなかった……」
「……まさか、真田に俺達一族を教えたのって」
「お前等が思ってる通り、この俺・彰さんでーす」
「そ、そんな……だって」
「敵ならもう用は無い!!
早く桜華を出せ!!」
「それは無理だね。
だって、主の元に連れて行かなきゃいけないからこの子」
「?!」
「しっかし、見れば見るほど蓮華に似てるわぁ」
屋根から飛び降り、硝子の中に閉じ込められた桜華を、彰三は彼女の体を上から下へじっくりと見た。
「光坂流火術棒線火!!」
口から無数の火の棒を優之介は、彰三に向かって吐き飛ばした。彰三はすぐに避け彼を見た。
「この俺と戦るって言うのか?」
「桜華を渡すわけにはいかねぇ!(今度こそ、こいつを)」
「まぁ、別にいいけど……
死んでも知らないよ?」
「優辞めて!!
そいつと戦わないで!!」
「そうそう。戦わなくとも、桜華を渡せば死なずに済むんだよ?」
「誰が死ぬか!すぐ終わらせる!」
束を手に、優之介は勢いを付け鞘から刀を抜き振り上げた。だがその瞬間、ガラ空きになった腹に、彰三は鉄拳を喰らわせた。口から血を吐きながら、優之介は腹を抱えてその場に倒れた。
「優!!」
「だから言ったでしょ?死んじゃうって。
まぁ、力は抜いたから死にはしないけど」
「か……(ま、真面に息が……出来ねぇ!!)」
「さぁて、連れて行きましょう………?!」
突如、地面が盛り上がり桜華と優之介の周りに壁を作った。桜華は刀の束を握り、硝子越しから周りを見回し、優之介は腹を抑えながら隠し持っていた短刀を手に立ち上がった。
「間に合った!」
壁を越え来たのは、陸丸と椿の二人だった。二人に続いて才蔵達も到着し、才蔵は剣を思いっ切り振り下ろし、桜華を閉じ込めていた硝子を粉々に砕いた。
「フー!ギリギリセーフ!」
「鎌之介、何で……」
後ろから、空達の子供が桜華に擦り寄ってきた。それと共に才蔵と佐助は、桜華と優之介の頭を思いっ切り叩いた。
(うわ……)
(痛そう……)
「何の断りも無しに、外に出るな!!この馬鹿!!」
「貴様はともかく、桜華は狙われの身なんだぞ!!分かっているのか!!」
「すみません……(痛ってぇ……)」
「ごめんなさい……(父さんと同じくらい痛い……)」
「で……あの敵は何者なんだ?」
「光坂彰三。一族の中で特殊な技を使う奴」
「光坂……光坂!?」
「まだ生き残りがいたの?!」
「生き残りだけど、違う……」
「?」
「違うって、何が違うのよ?」
「……だったんだ」
「え?」
「裏切り者だったんだよ……彰さんが!!」
「?!」
その言葉に、陸丸と椿は驚きの顔を隠せなかった。
「う、嘘でしょ……」
「彰さんが……そんな」
「……事実だ。
現に、桜華を襲った。俺も襲った」
「……」
「そ、そんなはずないよ!!
だって……だって彰さん、いつもあんな優しくしてくれたじゃないか!僕達に忍の心得も殺しの心得も、教えてくれたの全部彰さんだったじゃん!」
「全てはまやかし」
「え?」
「多分彰さんは、父さんが居なくなるのをジッと待ってた……ずっと、長い間。
その間に、私達には仮の姿を作り接していた。誰にもバレずにずっと」
「そんな事って……」
「あり得るわよ」
「?!」
「私達忍は、敵の陣地へ潜り込む時相手の頭の信頼を得るために、芝居を打つの」
「そっから得た情報を、主に渡し敵を殲滅させる」
「忍の心得を教えて貰ったのなら、知ってるだろう?」
「そ、それは……」
「だから甘いの。
お前等二人は、いつもいつも。だから強くなれないんだよ」
「甘さを捨てろって、いつも頭が言ってただろ?」
「そんな簡単に言わないでよ!!
二人は平気なの?!目の前で、家族が殺される瞬間を……!」
椿はハッと手で口を押さえながら、桜華の方を見た。
「……平気なわけないじゃん」
思い出す過去……自身の囮となった母の姿を最期に、桜華は里から逃げ出した。
「……?」
その時、突然地面が揺れ出した。才蔵達はそれぞれの武器を構えた。揺れはしばらくして収まった……だが次の瞬間、周りにあった土壁が一斉に崩れ落ちた。
「やっと崩れたか」
声の方に振り向く才蔵達……崩れた土に、彰三は座っていた。
「彰さん……」
「久し振りだね。陸丸、椿。
随分と大きくなったなぁ」
「……う、裏切り者じゃないよね?彰さん」
「……」
一瞬で姿を消した彰三は、陸丸と椿の背後へ周り二本の刀を振り下ろした。その瞬間、才蔵と佐助は手に持っていた武器でそれぞれの刀の攻撃を防いだ。
「二人は下がってろ!!氷柱!」
「やれやれ……
俺は桜華を貰いに来たんだ。
だから、君達に用はない」
一瞬で二人を斬り付けたのか、彰三はいつの間にか二人の後ろに立っていた。次の瞬間、才蔵と佐助は腹から血を流しながら倒れた。
「才蔵!!佐助!!」
「ほーら、ご覧桜華。お前が俺と一緒に来れば、誰も殺さない。
嫌だと拒むなら、ここにいる奴等は皆あの世行きだ」
「……」
握っていた束から手を離し、桜華は恐れながらゆっくりと歩き出した。
「桜華行くな!!」
手を掴もうとした瞬間、優之介の前に硝子の壁が現れた。彼と同時に氷柱、椿、陸丸の前にも現れ道を塞いだ。
「邪魔はしないでね」
「桜華、行っちゃ駄目!!」
「桜華!!」
ゆっくりと歩み寄る桜華……近付いてくる彼女に合わせて、彰三は刀を鞘に収めた。
「……さぁ、おいで」
「……」
差し伸ばした彰三の腕……次の瞬間、その腕は地面へと落ちた。何が起きたか分からない彰三は、桜華のを見た。彼女の手には、刀が握られていた。その刀の刃には、先程付いた血で赤くなっていた。
狐:試験……試験……
才:狐が何かに取り憑かれてる!!
猿:いや、試験前だからナーバスになってるだけだろ。
狐:佐助ぇ、私と変わってくれぇ……
猿:いや、無理だから。
氷:試験ねぇ。
アンタ達はあったんじゃないの?あの師匠だから。
猿:あったあった。
才:思い出すだけでも、腹が立つ!
狐:試験……
氷:これ以上は無理だわ。
才:そんじゃあ、今回はここまで。
※試験日が近付いているため、しばらく更新をお休みします。