十勇士 作:妖狐
『蓮華……
仕方ないよ。全ては君や桜華、皆を守るためだよ』
『……』
結っていた腰上まで伸ばした長い髪を手に取り、もう片方の手に持っていた小太刀で切った。
『綺麗な髪だったのに』
『……邪魔になるからね。
あの人の元に仕えるとなると』
『……真』
『?』
『桜華のことは任せてね』
『あぁ。
済まないね……君にだけ負担を掛けてしまって』
滝壺……桜華はそこにある岩の上に座っていた。
そんな彼女を、真助は木に凭り掛かりながら立ち、隠れるようにして見ていた。
そこへ、お握りを持った才蔵がやって来た。真助は彼に一礼し、才蔵も真助に頷き、桜華の元へ行った。
「?才蔵」
「腹減っただろ?食え」
「……今は食べたくない」
「そうか……」
「……アイツ等は?」
「さぁな……
城の中にいるか、庭にいるだろ。
幸村の奴が、三人を外出禁止にしたからな」
「……」
「……話してくれねぇか」
「……」
「お前の過去……
真さんが出て行った後のこと……」
「……いいよ。
……始まったのは、父さんが出て行ってしばらくした後だった」
八年前……
森の中を走る幼い桜華……彼女の後を、椿達は追い駆けていた。
森を抜けた桜華は、飛び上がり追い駆けてきた椿達の手を避けた。椿達は勢いのまま川へと落ちて行った。
『アハハハハハ!!皆、びしょ濡れ~』
『もう!!避けるなんて、卑怯よ!』
『鬼ごっこに卑怯は無いよ!』
『三人がかりで追い駆けたのに……やっぱ凄い、桜華』
『ヒヒ!当たり前だよ!
だって、前まで父さんと母さんと一緒に、走る稽古してたんだから!』
『桜華ぁ!』
『あ!母さんが呼んでる』
後ろを振り返ると、手を挙げ合図を送る蓮華の姿がいた。桜華はそんな彼女に手を振り返した。
『じゃあね!また明日!』
そう言うと桜華は、蓮華の元へ駆け寄り、一緒に帰って行った。
その夜……
“バン”
『!!』
突然、戸が開いた。寝ていた桜華は、目を擦りながら起き上り階段から、下の様子を覗いた。そこには蓮華と里の長であり、一族の長である男がいた。
『こんな夜遅くに、何の用です?』
『桜華はいるか?』
『眠っています』
『なら好都合だ。
連れて行け』
そう言うと、後ろについていた二人の男は階段を上がった。階段に座っていた桜華は、二人の手を避けながら蓮華の後ろに隠れた。
『何故この子を連れて行くんです!?』
『その子が伊佐那美の器だからだ!』
『器?!そんなはずない!!』
『いいや器だ。
技を一つしか持てないが、その子は二つ以上も技を持っている!』
『だったら、椿達も一緒よ!!』
『彼等は二つだ!!
だが、桜華はお前の力である木の技と椿と同じ風、陸丸と同じ土、優之介と同じ火と氷が扱える!!
これだけの神の力を手に入れているんだ!!器に違いない!!』
『そんな理由で……!!』
男に抑えられた連華に、桜華は叫びながら彼女の元へ駆け寄ろうとしたが、その瞬間抱き上げられそのままどこかへ連れて行かれた。
「あの夜、突然引き離された……」
「力多いだけで……そんな」
「その後、あの格子が付いた社に閉じ込められて……
手足に枷着けられた……去って行くお頭の背中に、何度も呼びかけた」
『何で!!何で!!
何か悪いことしたの?!ねぇ!!お頭!!
お頭ぁ!!!』
「けど……何も答えてくれなかった」
「……」
「その日からだった……
母さんと離れて、暮らすようになったのは」
蘇る記憶……
格子越しから見える外には、自由に鳥が飛び交い、以前まで友であった子供達の声が響いていた。
自分もそこへ行きたい……立ち上がり、外へ出ようとしたが足枷が、その行く手を阻んだ。
何で、自分だけ……
そう思いながら、真助がいた頃に描いた家族の絵を見ながら、楽しかった頃の事を思い出し、一人泣いていた。
「何で自分だけ……毎日そう思った。
けど、母さんは夜来てくれた。皆が寝静まった頃に。
枷を外してくれて、一緒に森の方に行ってくれた。走り方とかクナイの投げ方とか色々……教えてくれた」
投げたくないが、的の真ん中に当たった……嬉しそうな表情を浮かべながら、桜華は後ろにいる蓮華を見た。蓮華は笑みを浮かべて、彼女の頭を撫で褒めてくれた。
「気が付けば、閉じ込められてから四年の月日が流れてた……
そして、あの日が訪れた」
寝静まろうとしていた夜……その日の夜は、月が雲に隠れていた。その暗闇の中、里に数人の人影が入り込んだ。
そして……火の矢が一斉に放たれ、民家を燃やした。炎に驚いた住人達は皆、外へ飛び出した。それを狙ってか、火に照らされた人影……黒い服を着た忍達は、次々に住民を殺していった。
逃げ惑う人々……その中、村の外れにいた蓮華は忍服に着替え、火の海の中を駆けていた。
その頃、桜華は枷に繋がっていた鎖を、昨夜こっそり持ち帰った刀で切り社から出ようとしていた。
『桜華!!』
その声が聞こえ、桜華は手を止めた。次の瞬間扉が開き、外から息を切らした母・蓮華の姿があった。
『か、母さん!!』
自身に飛び付いた桜華を力強く抱きしめた蓮華は、すぐに彼女の手を引き社の奥へと行き、床の一部を力強く踏んだ。すると、一枚の板が外れ地下へと続く階段が現れた。
『ここ……』
『隠し通路よ……
桜華、ここから逃げるなさい』
『母さんはどうするの?』
『囮になってあいつ等の気を引く』
『囮って……嫌だ!!母さんと別れるなんて』
『あなたをあいつ等に渡すわけにはいかない!!
いい!振り向かずに、逃げるのよ!!決してあいつ等の手の届かない所へ!!』
“バーン”
近くで爆発音が聞こえた……蓮華は落ちていた刀を、桜華に渡し力強く抱きしめた。
『大丈夫……あなたは強いわ』
『……』
『こっから逃げたら、六助のもとへ行きなさい』
『六助?』
『母さんの知り合い。大丈夫、あなたの事はもう頼んであるわ』
『けど……』
その時、何かが降り立つ音が聞こえた。蓮華は辺りに気を配りながら、桜華を地下の階段へ突き落し床の板で、入り口を塞いだ。
『母さん!!母さん!!』
『逃げて!!あなたを、アイツ等に渡すわけにはいかないわ!!』
『けど!!』
『逃げて!!
誰の手も届かない所へ!!』
『……』
社の戸が壊れる音がした……桜華は、目から出てくる涙を拭いながら階段を駆け下り、暗い道を駆けた。
出てきた場所……そこは、里を眺められる丘だった。燃え盛る里を見た桜華は、目から涙を流し森の方へ行き無我夢中で走った。
大好きだった母……いつも笑っていた母……
『綺麗な桜でしょ?
母さんも父さんも、桜が大好きなの。
桜の様に、立派に育って欲しくて……あなたの名前に『桜』を入れたのよ』
『桜華は本当に、真のお握りが大好きね!』
『コラ!桜華、またこんなに汚して!』
楽しかった日々……走る度に、先の尖った枝が足や腕、頬に容赦なく傷を作った。
『!!』
足を踏み外し、桜華は崖から転倒した。そして、暗い世界に彼女は入った……自身の名前だけを残して。
狐:最近の悩み、パソコンの調子が悪い。
才:知るか!!
猿:知るか!!