十勇士   作:妖狐

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「二人の言う通りだ……」

「!」


壁に凭り掛かり立っていた才蔵は、静かにそう言った。


「桜華の力……いや、伊佐那美になられるのが困るんだろ?お前等は」

「っ……」

「だから、傍に桜華を置いときたい……

そして、彼女を拘束し監禁して、伊佐那美にならない様に見張りたいんだろ?誰の目も届かない場所で」

「……」

「今でも覚えてる……

怯えきった目で体震えさせて、俺の前に現れたのを……


初めは記憶が無くて、自分がどこの誰かも分からなかった……ただ、自分が追われていることだけしか分からず、必死になって逃げていた」

「……」


黙り込む優之介達……すると、椿は目くじらを立てながら、短剣を手に取り大助に襲い掛かった。その瞬間、彼の後ろにいた桜華が襲い掛かってきた彼女の手を握り投げ倒した。怯んだ隙に、短剣を握る腕を踏み首寸前にクナイを畳に刺し、彼女を助けようとした陸丸に刀の先端を向け、優之介に雷の刃を突き付けた。


「何も変わってないね……四年前と。

感情に任せて、攻撃するのが椿の弱点……そして、その彼女の弱点をフォローするかのようにして、攻撃するのが二人の役目……」

「く……」

「言っとくけど、私はお前達をすぐにでもこの手で殺すことは出来る。

何の躊躇いも無しにね」


赤い目を鋭く光らせながら、桜華は三人を睨んだ。二人は怖じ気着きその場に立ち尽くし、倒れた椿は顔を強張らせて、彼女を見つめた。

技を消し、桜華は三人に背を向け、そのまま部屋を出て行った。


真助の決断

廊下を歩く桜華……ふと、何かの気配に気付き顔を上げた。そこにいたのは、笑みを浮かべた真助だった。彼の姿を見た桜華は、一目散に駆け寄り抱き着いた。抱き着いてきた彼女を、真助は頭を撫でそして共に歩き出した。

 

 

縁側を歩いていると、前の柱に百が凭り掛かるようにして立っていた。百は二人を見ると、挨拶するかのようにして手を挙げた。

 

 

「百」

 

「どうやら、記憶戻ったみたいだな」

 

「うん……」

 

「桜華、もう部屋で休みなさい。

 

僕は少々、この方とお話があるので」

 

「分かった」

 

 

そう言うと、桜華は真助の手を離し部屋へと戻った。彼女がいなくなってしばらくすると、才蔵と甚八も百の所へ来た。

 

 

「真さん……」

 

「……

 

 

全てを話します。

 

 

ですが、決してこの事は信幸様には話さないで下さい」

 

 

部屋に戻ってきた桜華は、襖に手を掛けようとした時、胸元が温かくなった。気になり首に下げていた勾玉を手に取り見た。勾玉は青く光っていた。

 

青く光る勾玉を強く握り、そして服の下へと隠し部屋へ入った。中にいたレオンは彼女の姿を見ると、立ち上がり擦り寄ってきた。寄ってきたレオンを、桜華は頭を撫で障子を閉めた。

 

 

 

「武田が滅んだ後、我々は身元を隠しながら生きていました」

 

 

幸村の部屋で、真助は自身のことを話し出していた。

 

 

「特に光坂は、相当苦労しました。赤い目……それだけで、光坂だという事がばれてしまい、一族の仲間の半数がさらわれ売られたと、蓮華から聞きました。

 

 

そして残った者は、昔から親しかった出雲大社の神主様の力を借り、山と海に囲まれた場所に里を作りそこに住むようになりました」

 

「真さんも、そこにいたのか?」

 

「えぇ。

 

僕は元々、蓮華の許婚……その関係もあったことで、僕は光坂とずっと一緒にいました。

 

 

里ができ数年経った時です……桜華が生まれたのは。

 

桜が咲き誇る季節でした……」

 

 

 

 

十四年前……

 

 

大広間の一室……障子が開き、微風が吹き桜の花弁が布団の上に座り、蓮華と彼女の腕に抱かれていた赤ん坊(桜華)の頭に乗った。

 

 

『あら、桜の花弁』

 

『君等の事を祝っているんだよ。おめでとうって』

 

 

そう言いながら、真助は赤ん坊(桜華)の頭に付いた花弁を手に取り、それを彼女に見せた。赤ん坊は手を伸ばし、その花弁を取ろうとした。

 

 

『桜が好きみたいだね』

 

『そうねぇ……

 

 

そうだ……決めた』

 

『名前かい?』

 

『うん……

 

 

桜華(オウカ)』

 

『桜華……』

 

『私達の大好きな、桜から取ったの』

 

『いい名前だよ』

 

 

 

「桜華が生まれてから、本当に幸せでした。一時期、主の死さえも忘れる事が出来ましたから……この幸せが長く続いて欲しいと心の底から思っていました。

 

 

しかし……あなた方は、それを許してはくれませんでしたね?」

 

 

話しながら、真助は前髪から青い目を光らせて、幸村を睨んだ。その視線に才蔵は、幸村をチラッと見て、また真助の方に目を向けた。

 

 

 

「桜華が生まれてしばらくした後、里に真田が来ました」

 

「え?」

 

 

声を出しながら、鎌之介は幸村の方を彼に続いて大助も向いた。

 

 

「……武田が滅んだ後、光坂は突如として行方を晦ませた。

 

 

伯父は血眼になって、彼等の行方を捜した」

 

「何で、そこまでして」

 

「アタシ達の力が、欲しかったんじゃないの?」

 

 

部屋の隅で、腕を組み壁に寄り掛かりながら立っていた椿は、そう言った。

 

 

「詳しい事は聞いていなかったが、光坂を決して徳川に渡してはならない……そう言われ続けていた。

 

 

伯父は武田の後を継ぎ、信濃の長になった。武田に仕えていた者達の半数は信濃へ帰還し、伯父や親父、俺達に仕えた。だが、どうしても光坂だけは信濃へ帰還しなかった……戦の後、姿を晦ませてしまい噂を頼りに捜索した。

 

 

そして、三年後……彼等が集う里を見つけた」

 

「真田が来た時は、本当に驚きました。

 

一族全員、警戒し家の中へと逃げ隠れましたから。

 

 

そして、真田は一族の頭に言いました。

 

 

『光坂が信濃に戻らないと言うならば、この地を徳川にばらす』と……」

 

「?!」

 

「咄嗟に答えが出なかった光坂は、答えを待つよう真田に申しました。

 

 

それから三年後、伯父である真田信綱は亡くなり、弟の昌幸様が長へとなられた。そしてあなたと兄が里へ訪れた」

 

「え?

 

幸村と真助、一度会ってるのか?」

 

「えぇ。

 

桜華が三歳なった頃、返事を聞きに二人で来られました。

 

 

光坂はもう誰にも仕えたくはない。

 

代わりに、光坂と同様の力を使える僕を真田に寄越すと言いました」

 

「そ、そんな……」

 

「真田に仕える条件として、僕は二人に言いました。

 

『決して、光坂の事を他人はもちろん、徳川に教えるな』と……」

 

「儂等はその条件を呑み込み、そしてまだ仕える者がいなかった兄上の元へ真助は行った」

 

「行ったと言っても、信幸様の元へ行ったのは桜華が六歳になり、儀式を終えた数日後……

 

 

何かを悟ったのか、桜華はずっと僕から離れませんでした。出発する際も、蓮華の腕の中で泣き喚いていました」

 

 

思い出す過去……

 

 

里の出入り口に立つ蓮華の腕に抱かれていた桜華は、必死に自分の名を呼び叫びながら手を伸ばしていた。自分は二人に涙を見せまいと、振り返らず里を離れて行った。

 

 

 

「じゃあ、真助さんが里を出たのって」

 

「僕等を、守る為……」

 

「それからは、ずっと信幸様の仕えました」

 

「……考えなかったのか?

 

桜華や連華さん、一族皆の事を?」

 

「一度だって、皆さんを忘れた事はありません……無論、桜華や連華も。

 

 

一度、帰ろうとしました。けど……それでは、あなた方に危険が降りかかると思い、ずっと拒んできました。

 

そんなある日、たまたま用事で出雲近くに行く予定がありました。チャンスだと思い、里へ行きました。成長した桜華や連華、一族の皆さんに会えると胸を高鳴らせていました。

 

 

あの光景を見るまでは……」

 

 

蘇る光景……

 

焼け野原となった里。里の中を歩きながら、真助は一軒一軒家の中を覗き見た。中には骨であろう砕けた白い粉や、乾いた血に染まった服が散乱していた。

 

真助は辺りを見回しながら、急いで自分の家へと急いだ。家へ着き中へ入った……中は物家の空になっており、亡骸がどこにもなかった。

 

 

動揺しながら、真助は里中を走り二人を捜した。

 

もしかしたら、生きているのでは……その思いで、胸がいっぱいになった。

 

 

だがその思いは、辿り着いた木々に囲まれた社の前で、朽ち果ててしまった。

 

社の中に、昔蓮華にあげた桜の簪が床に転がっていた……その簪には、微かに血が付いていた。

 

 

里から出た真助は、抑えていた何かが弾けたかのようにして、その場に泣き崩れた。その鳴き声は里中に響き渡った……

 

 

 

「蓮華達はもう死んだ……生きていないと、自分に言い聞かせました。

 

 

けど……」

 

 

言葉を詰まらせる真助……幸村達に背を向かせていたが、体を震えさせ手を強く握りながら言葉を言った。

 

 

「まさか……あの日、また会えるとは思いませんでした。

 

 

一目で分かりましたよ……あの子が、桜華だって」

 

 

その言葉に、佐助はあの日から引っ掛かっていたものが、ようやく解けた様な気持ちになった。

 

真助は、桜華と初めて会ったにも関わらず誰に聞いたのか彼女の名前を知っていた……何より、桜華は才蔵以外の者を警戒していたが、真助にはそんな素振りも見せず彼に懐いていた。

 

 

「しかし、関係がばれてはまずいと思い、なるべく距離を置き彼女に接しました。

 

 

本当に……本当に、生きていてくれてよかった」

 

 

そう言いながら、真助は幸村達の方に振り向いた。彼の目には涙が溜まりつつも、笑みを浮かべていた。




才:……本当の父親だったのか。

狐:初めに言ったでしょ?

真助と関係があるって。

猿:確かに、言ってはいたが……

氷:母親はどうなってるの?結局、生きてるの?

狐:追々話すよ。

それより、今回は疲れたからここまで。

才:ほいよ。

氷:また次回。

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