十勇士 作:妖狐
頭を抑えながら、桜華は剣先を才蔵達に向けた。
「桜華」
呼び掛けながら、才蔵は彼女に歩み寄った。桜華は寄ってくる彼に、剣先を向け息を荒げた。
「桜華、俺だ」
「……」
「桜華」
差し出してきた才蔵の手を、桜華は刀で突き刺しそうと突いた。刺される寸前、才蔵の前に真助が立ち塞がり、彼女の刀を自身の刀で防いだ。
「!?」
「落ち着きなさい、桜華。
ここにいるのは皆、味方です」
「……サン」
何かを呟きながら、桜華は手から刀を落とし真助に凭り掛かるようにして倒れた。倒れた彼女を、真助は横に抱き上げた。
社へ戻ってきた半蔵達……くノ一は、女性の傷付いた腕の治療に当たった。
「まさか、記憶が蘇った如きで、あそこまで暴れるとは」
「記憶に、何か術でも掛かってたんですか?」
「闇の部分を封じられていたのよ。
だけど、半分解けかかってたから、解きやすかったわ……」
「そんじゃあ、ずっと長い間記憶が無かった状態だったんですか」
「そう。
闇の記憶が蘇れば、こっちのもの。傷が癒え態勢が整ったら、また行くわよ」
「了解」
雨が降る上田……部屋に敷かれた布団に、桜華は眠っていた。その傍には、真助が座り彼女の頭を撫でた。
幸村の部屋では、優之介が声を荒げていた。
「あの状況を見て、まだ桜華を渡さないって言うのか!!」
「渡すわけねぇだろ!!
あんな変な野郎達が襲ってきて、それで訳の分からない奴等に、はいどうぞ何て渡せるか!!」
「そうだ!鎌之介の言う通りだ!」
「っ……」
「どうしても渡せと言うなら、教えて貰おうか?
選ばれた子供の意味と、何故蓮華が生きていたのか」
「!!」
顔を強張らせる三人……視線を反らしながら、黙り込んでしまった。
その間に、桜華はゆっくりと目を開けた。真助は撫でるのを止め、手を引き彼女を見つめた。起き上がった桜華は彼をジッと見つめ、そして膝に置いていた手を掴み見た。
「お握りの味、変わってなかった……」
「……」
「帰ってきて欲しかった……ずっと」
「……」
「何で……何で、どっか行っちゃったの?」
目から大粒の涙を流しながら、桜華は真助の手を握り彼を見た。
「……言いましたでしょう。
君等一族を守るためだと」
涙を流し、真助は彼女に言った。桜華は座っている彼に飛び付いた。真助は飛び付いてきた彼女を受け止め、下ろしていた手で力強く抱き締めた。
「よく……生きていてくれました……
桜華!」
黙り込む優之介達……
「……光坂は、闇の女神を封じ守るために作られた一族だって聞いた」
黙り込んでいた優之介は、そう口にした。椿は何かを言おうとしたが、それを陸丸は首を左右に振り止めた。
「闇の女神は、光と八つの力で封じていた」
「選ばれた子供っていうのは、その女神を封じる力を持ったガキのことなのか?」
「あぁ……一族の力は一人一つ……
それ以上の数を持った者が、選ばれた子」
「私は風と草。陸丸は土と金。優は火と氷。そして桜華は雷と水」
「けど、桜華は他にも使えた……
蓮華さんの力を受け継いでいた」
「力?」
「木の技だ。
蓮華は、一族特有の技と八つの力全てを使えていた」
「桜華は彼女と同様木の技と、椿と同じ風と、陸丸と同じ土と、俺と同じ火と氷が使えた。
そして、五歳の時……俺等は女神を封じるための、魂を貰った」
そう言いながら、優之介は手に着けていた緑色のブレスレットを見せた。彼に続いて椿は髪に挿していた赤い簪を、陸丸は耳に着けていた黄色いピアスを見せた。
「桜華が下げてる勾玉と同じ勾玉」
「椿の勾玉は、荒魂(アラミタマ)。
陸丸の勾玉は、和魂(ニギミタマ)。
俺の勾玉は、幸魂(サキミタマ)。
そして……桜華の勾玉は、奇魂(クシミタマ)」
「……」
「……魂を貰ってしばらくした後、桜華の力が強くなっていった。
初めは、蓮華さんの血を継いでるから、偶然だろうって誰もが思ってた。
でも……その力、強力なものになっていった。いつか力を抑えることが出来なくなると思った……それで」
「それで、私を閉じ込めた」
襖を開け縁に凭り掛かるようにして立ちながら、桜華は静かに言った。腕を組み垂れた前髪から赤い目を鋭く光らせながら、彼女は彼等を見た。
「桜華……」
「母親から私を引き離し、手枷と足枷を着けてあの社の中に閉じ込めた」
「あれはアンタを狸から守るために」
「守る?
何を?私から自由と母さんを奪っときながら……」
「けど、君の力は僕等より遥に強く」
「そんなの当たり前じゃん……
父さんと母さんから稽古を受けてたんだから」
「……」
「まぁ、私と違ってお前達は何の稽古もしなかった。
だから、私より下なのは当然」
「そ、それは……」
「桜華、今すぐ俺達と来い」
そう言いながら、優之介は桜華の手を掴んだ。そんな彼の手を振り払い睨んだ。
「また自由を奪うの……」
「違う!!俺はただ、お前を」
「守りたい?
嘘ばっかり……里が襲われた時、助けにも来なかったじゃん!!」
「あれは、伊勢に行ってたから」
「何でお前達が伊勢に行くことになったか、言ってあげようか?
お頭に言われたんでしょ?『近々、里が襲われる……お前達三人は伊勢へ逃げろ』って」
「!」
「な、何でそれを……」
「陸丸!!」
椿に怒鳴られ、陸丸は慌てて口を手で塞いだ。
「ほらね……結局、お前達三人は“私”じゃなくて、私の“力”が大事なんでしょ」
「そんな言い方……
桜華!一応、優はアンタの」
「椿!」
「けど!」
「頼む桜華。お前をあの人達の手に渡すわけには」
「そうやって、また私の自由を奪うんでしょ!」
「そんなわけ」
「あーもう!!
愚痴愚痴文句言っていないで、さっさと来なさいよ!!」
そう言いながら、椿は桜華の髪を掴み引っ張った。引っ張られた桜華は、彼女の腕を掴み引き離そうとした時だった。
椿の手に突然鉛が当たり、その痛みから椿は桜華の髪から手を離し、後ろへ下がった。
「さっきから聞いてりゃ、勝手なことばかり言いやがって!!」
鉛が着いた鎖を持ちながら、鎌之介は桜華の前に立った。
「桜華を守る気ねぇお前等に、本人を渡せるか!!
俺だったら、桜華をこの命賭けても守り抜いてやる!!」
「そんなの、口先だけにして貰える?
どうせ、アンタ達も桜華の力を見れば」
「見たよ!」
「?!」
「オイラ達、桜華の力見たよ!
黒い爆発だろ?もう見たよ!けど、そんな力関係ない!!
その力がオイラと鎌之介を守ってくれたんだ!だから、今度はオイラが桜華を守る!!」