十勇士 作:妖狐
森を歩く才蔵達。鎌之介は、目頭を手で抑えながら唸り声を上げていた。
「鎌之介、大丈夫?」
「くっそ、頭痛ぇ……」
「そりゃあ、昨日あんなに飲めば、二日酔いにもなる」
「何で才蔵は、二日酔いにならないんだ?」
「お前と体質が違うからだ」
「っ……?」
木の上から飛び降り、幸村の前で頭を下げる佐助……
「ご無事で何よりです!幸村様!大助様!」
「留守番ご苦労だったな。佐助」
「ただいま!佐助!」
「ンだよ、猿の出迎えかよ」
「良く無事で帰れてこれたな?馬鹿蔵」
「誰が馬鹿だ!!」
「止さぬか!!外での喧嘩は!!」
京都から帰ってきて数日後……突然、あの男はやって来た。
“ドン”
突然、地面が揺れ縁側でレオンの頭を撫でていた桜華は、揺れに驚きレオンに抱き着いた。
他の部屋では、勉強をする大助と彼の勉強を見る伊佐道、庭で鉄棍棒を振り鎌之介と組み手をしていた清海が、その揺れに気付き手を止めた。
城外を警備していた才蔵達は、屋根の上からある男を見下ろしていた。
「おい、あれ……」
「ヤバいぞ、色々……
才蔵はすぐに桜華の所に!氷柱は六郎にこの事を!」
佐助に言われ、二人はすぐにその場から去った。
城内では、床を強く踏む男とその男を宥めるかのようにして、話し掛ける袴を着た真助が歩いていた。
「そうご立腹にならないで下さい。
侍女達が怯えてますよ」
「これが怒っていられるか!!
真田の恥だ!!あの馬鹿は!!」
城内を歩く真助達……やがて外へと出て、縁側を歩いた。そして、ある一室の戸を勢い良く開けた。
部屋にいたのは、伊佐道と大助だった。伊佐道は、書物を置き平伏せ、大助は彼を見て慌てて平伏せた。
「お、お久し振りです!伯父上!!」
「多少は礼儀が良くなったようだな、大助」
「は、はい!(怖い!早くいなくなって!)」
男が大助に話している時、真助の背後から何かが抱き着き、彼は後ろを見た。そこにいたのは、少し怯えた様子の桜華だった。真助は、彼女の頭に手を置き静かにするようにと、口の前に人差し指を立てた。
「信幸様!」
氷柱に言われ、早足で六郎は彼の元へ駆け寄り傍で膝を付き頭を下げた。
「お久しゅうござます!」
「六郎か」
「事前に連絡を下されば、出迎えましたのに。
本日は、どの様なご用で上田へ?」
「連絡下さればだと?」
六郎の傍の床を力任せに踏み付け、そのまま歩いて行った。その後を六郎は慌てて追い駆けていった。
「こ、怖かった~」
「相変わらず、怒りっぽい人だ」
「やはり、信幸様であったか」
汗を拭きながら、清海は歩み寄りその背後から水を飲みながら鎌之介が寄ってきた。
「凄ぇ地面が揺れて、ビックリしたぜ!」
「お前は出なくて正解だったな。鎌之介」
「絶対頭下げるか!」
「そういう態度は、決して信幸様の前で出さないように」
「へ~い」
「あいつ、誰?」
真助の袴の裾を握りながら、桜華は姿を現した。
「オイラの伯父の、真田信幸様」
「真田信幸?」
「幸村の兄貴だよ。
確か、沼田の殿だよな?」
「えぇ。
しかし、幸村様と違ってすぐに頭に血が上るお方……そこがちょっとした欠点ですね」
「……?
あれ?桜華、レオンは?」
「庭に置いてきた」
「庭に……」
「置いてきた……」
「甚八!!」
その時、六郎の怒鳴り声が響いた。彼の声に、全員その方へと向かった。
庭では、レオンは獲物を捕らえたかのようにして唸り声をあげながら、信幸を睨み攻撃態勢になっていた。信之は睨み付けるレオンをジッと睨んでいた。すると、レオンは勢いをつけ信幸に襲い掛かった。
「信幸様!!」
飛び掛かってきたレオンを、信幸は素手で受け止め押し倒した。レオンはすぐに体制を戻し、唸り声を上げ、牙を剥き出しにした。
「す、スゲェ……」
襲い掛かろうとした時、駆けつけた才蔵が信幸の前に降り立ちレオンを止め、背後から甚八が首輪を掴み抑えた。
「あ!甚八!才蔵!」
「落ち着け!!レオン!」
暴れるレオンに、才蔵は羽織の裾を広げ、信幸を隠した。
「ほらレオン!もういないだろ?!見えないだろ?!
だから落ち着け!!」
「ウゥ……」
唸り声をあげるレオン……すると、真助の後ろに隠れていた桜華に気付いたのか、唸るのを止め彼女の方を見つめた。それに気付いた甚八は、首輪から手を離した。離されたレオンは、一目散に真助の元へと駆け寄った。
「大丈夫か?信幸さん」
「相変わらず、躾のなってない馬鹿猫だ」
「ほっとけ」
「それより……
真助、後ろに誰かいるのか?」
「いたらどうします?」
「どうもこうもない。
とにかく、そこを退け!」
真助を退かし、信幸は後ろにいた桜華を睨んだ。睨まれた桜華は、怯えだしレオンに抱き着いた。レオンは唸り声を上げながら、攻撃態勢を取った。それを見た甚八は、慌てて首輪を手で掴み抑えた。
「この者は何だ?」
「……」
「大助、答えよ!!」
「あ、はい!!
えっと……
す、数ヶ月前からうちに置いてる……お、桜華です」
「置いているだと?どういう事だ」
「そ、それは……」
「……まぁ、この事も含めて全て愚弟から詳しく話を聞く。
して、主は挨拶無しか?」
「……」
信幸を見る桜華……彼女の脳裏にはある映像が流れていた。
激しく怒鳴る男に、殴られたのか頬がとても痛かった。そんな自分に庇うかのようにして、抱き締める女性と男を宥める二人の男性の姿が流れていた。
何も答えない桜華に、信幸が触れようとした時だった。
突然クナイを取り出した桜華は、伸ばしてきた信幸の手を切ろうとクナイを振った。その動きを瞬時に察知した真助は、クナイを自身の腕に刺させ桜華と信幸の間に立った。
「真助!!」
「真助さん!!」
「ここで道草をせず、早く幸村様の元へ行かれては?」
「っ……」
「六郎、早く案内しなさい」
「御意。
信幸様、こちらです」
六郎に案内され、信幸はその場を離れていった。彼の姿が消えると、レオンは大人しくなり桜華の方を見た。
「もう大丈夫ですよ、桜華」
そう言いながら、真助は微笑を浮かべながら桜華の頭を撫でた。
「さぁ、クナイから手を離して下さい」
「……」
優しく言う真助の言葉に、桜華はゆっくりとクナイから手を離した。離すと同時に桜華は、力無く地面に座り込んだ。
「真助さん、腕大丈夫ですか?」
「何、ほんの掠り傷です」
「しっかし、相変わらずレオンは懐かねぇな。信幸に」
大あくびをするレオンを見ながら、鎌之介は言った。
「オェ!」
その時、桜華は突然嘔吐した。それを見た才蔵は、驚き心配しながら、彼女の背中を擦った。
「桜華、大丈夫?!」
「緊張が解けたのでしょう。
才蔵、彼女を少し離れ所へ」
「あ、はい。
桜華、行こう」
支えながら桜華を立ち上がらせ、才蔵は彼女を連れ城を離れた。
「真助」
「?」
「話がある。ついて来い」
そう言うと、甚八は歩き出した。真助は腕を治療しながら彼の後をついて行った。
才:雑談コーナー!
ついに登場!幸村の兄貴・真田信幸!
鎌:俺、あの男嫌いだ。
大:オイラは苦手。
才:俺も無理だ。
来るたんびに、敬語を使えだ礼儀を弁えろだ。いちいちうるせぇんだよな。
鎌:そうそう。
子供にも容赦ないからな。
甚:あれで良く、殿を勤められるな。
真:真田の未来を心配しながら生きている人ですから、頭固いのは仕方ありませんよ。
才:やっぱりか……
あれ?
そういや、狐は?
真:狐さんなら、まだお布団の中ですよ。
才:は?!
真:何でも、眠くて仕方ないから寝かせてくれとか。
才:起きろぉぉおお!!狐ぇぇ!!
猿:起きろぉぉおお!!狐ぇぇ!!
氷:寝かせといてあげなさいよ。
伊:そういえば……
狐って、確か寝起きが悪かったような……
甚:そういや、一緒に飲んでた時そんなこと言ってたな。
自分は寝起きが悪いって……どうにかして直したいって。
幸:何か、悪い予感しかしないんだが……
才:ギャァアアア!!
猿:ウワァアアア!!
六:やられましたね。
筧:起こさなくていいものを起こそうとするから……
氷:また次回ね!