十勇士 作:妖狐
「何をそんなに警戒している」
「……」
「やっと見つけた……
桜華、俺と一緒に来い」
「……ナイ」
「?」
「お前なんか、知らない!!」
そう言うと、桜華は駆け出した。その後を少年は追い掛けようとしたが、そんな彼を六助は阻止し懐から出したロープで彼を拘束した。
「どこの輩かは存知ないが、あの子を連れて行こうというのならば、命は無いと思いなされ」
「……」
「さぁ、その顔を見せて貰う」
「や、やめろ!!」
暴れる彼の面を、六助は外した。外した瞬間、六助は目を見開いて驚いた。
「お、お主……」
町を駆ける桜華……彼女の脳裏には、三年前の記憶がフラッシュバックに蘇った。
道を歩く自分に、住民は出て行けと言うように石などを投げ付けた。体中にいつも痣を作っていた桜華は、隠れるようにして路地裏で、誰も使われていない井戸の水で、傷痕を冷やした。冬には皮膚がひび割れ、指先がいつも血で滲んでいた。
走り疲れた桜華は、息を切らしながらその場に手を膝に付け息を調えた。
「あれ?桜華」
その声の方に目を向けると、飴をなめる鎌之介がいた。彼は息を切らしている桜華の元へと駆け寄った。
「どうしたんだよ?
こんな所に一人で」
「……」
「あれ?才蔵と六助の野郎は?
一緒じゃないのか?」
「……」
「桜華?」
「……」
ふと桜華の手を見ると、彼女の手は微かに震えていた。それを見た鎌之介は、持っていた袋から飴を出し彼女に渡した。
「これでも舐めて落ち着け!
なぁに、才蔵の所にこの俺が連れてってやるよ!」
そう言いながら、鎌之介は桜華の頭に手を置き笑みを見せた。そんな彼に、桜華は小さく頷き貰った飴を口に入れた。
夕方……
「オーイ。戻っ」
「お前等はここで待ってろ!!」
幸村が帰ってきたと同時に、才蔵は宿を飛び出した。
「どうしたのだ?才蔵は」
「それが……」
階段から降りてきた大助は、心配そうな顔をしていた。
「大助、どうした?」
「桜華が、帰ってきてないんだ」
「!」
「桜華だけじゃない!
鎌之介も六助も……」
「帰ってきてないのを知って、才蔵が今探しに」
「……清海と伊佐道も探してきてくれ」
「分かりました」
「はい」
「お、オイラも!」
「大助は儂と留守番だ。
もし三人が帰ってきた時、誰もいないと心配になるだろう?特に桜華は」
「う、うん……」
「二人共、頼みましたよ」
「あぁ。伊佐道」
「はい」
二人は靴を履き、外へ出ると別れて走り出した。
暮れる町……その隅にある井戸の前に、鎌之介と桜華はいた。井戸の水を汲み、鎌之介は頭に巻いていた鉢巻を取り、それを水に浸すと蹲り座る桜華の前にしゃがみ痣だらけになっていた彼女の腕を掴み、付いている泥を拭いた。
「……桜華、立てるか?」
「……」
「……
さ、才蔵探しに行ってくるから、ここで……!」
震える手で、桜華は立ち上がった鎌之介の服の裾を握った。
「……来たくなかった」
「……」
「三年前……
この姿見て、皆私のことを異端な存在だって言って、殴ってきた。
何か事件が起きると、いつも私のせい……だから、この国を出た」
その言葉に、鎌之介は自身の過去を思い出した。
目の前で血塗れになり倒れた二人の男女と、鎌で人を刺す幼い自分……
「……桜華、才蔵の所に行こう」
「……」
「立てねぇなら、俺が背負ってやるから……な?」
鎌之介の手を借りながら、桜華はふらつきながら立ち上がった。顔に出来た痣を隠すようにして、襟巻きを顔に巻き彼と共に歩き出した。
角を曲がろうとした時だった。
「!才蔵!!」
才蔵の駆ける姿を目にした鎌之介は、彼の名を呼び叫んだ。声に気付いた才蔵は、足を止め振り返り二人を見た。
「桜華!!鎌之介!!」
「才蔵、俺……俺」
「何も言うな。訳は帰ってから聞く。
?!
鎌之介、桜華の顔どうしたんだ?!」
襟巻きを取り、才蔵は桜華の顔の痣に触れた。
「悪達に絡まれて、そしたら……
桜華のこと」
「暴力を受けたって事か」
「……うん。
俺、俺」
「説明は後でいい。
誰も責めはしない」
戸惑う鎌之介の頭に手を置きながら、才蔵はそう言った。鎌之介は、落ち着こうと浅く息をしながら小さく頷いた。
桜華を抱き上げ、才蔵は鎌之介と共に宿へ帰った。
「鎌之介!!桜華!!」
宿へ戻ってきた鎌之介に、大助は駆け寄った。隣で才蔵は靴を脱ぎ、黙ったまま部屋へと戻った。
「桜華も一緒だったんだ!
よかった!二人共無事で!」
「……」
「鎌之介?どうかしたか?」
「……」
「鎌之介?」
「……
鎌之介、もう部屋で休みなさい」
六郎の言葉に、鎌之介は小さく頷くと部屋へと戻った。
それから間もなくして、清海達は戻ってきた。二人は桜華達が戻ってきた事を聞くと、安心しホッと胸をなで下ろした。
夜、虫の音が響く中鎌之介は布団の中で丸まり眠っていた。
『お前が両親を殺したのか!』
『違う!!俺じゃねぇ!!』
『じゃあなぜ、ここで人が死んでいる!!』
『それは、こいつが』
『お前しかいないんだ!!』
『この人殺しが!!』
『二度と俺達の前に姿を見せるな!!』
『大丈夫か?』
何かを思い出したかのようにして、頑なに閉じていた目を開き、鎌之介は飛び起きた。隣では清海と伊佐道が眠っていた。
息を切らしながら、鎌之介は立ち上がり二人を起こさぬようにソッと部屋を出た。
場所は変わり、どこかの森……月明かりが差し込む広場に、六助は昼間に会った少年と一緒にいた。
「まさか……」
「そのまさかです……
桜華は、大名に知られちゃいけない存在なんです
元武田だったあなたなら、分かりますよね?この意味」
「……」
「かつて、桜華の母親も」
話すと共に風が吹いた。その言葉に、六助は耳を疑い驚いた。
「それが本当なら……
なぜ、今頃になって桜華を!!」
「こちらも、まさか生きていたとは思いませんでした。
あの炎の中、生き残る者などいやしないと思いましたし」
「……」
「そういうあなたは何故、あの子の傍に?」
「拙者は蓮華に頼まれたのだ。
自分に何かあったら、子供を頼むと言われ」
「そうですか……
後日、上田へお伺いします」
そう言うと、少年は風を起こしその場から姿を消した。六助は思い詰めた顔をしながら、その場を立ち去った。
才:雑談コーナー!!
ついに復活だぁ!!
猿:何で俺が、あんな事を……
氷:そう言わずに。また出来るんだから喜びなさいよ!
鎌:復活した記念に、何話すんだ?
才:俺は、狐に聞きたいことがある!
狐:?何だ?答えられる範囲ならいいぞ。
才:狐は、何でこの『十勇士』を書こうと思ったんだ?
氷:それ、私も気になったわ。
大:オイラも!
狐:普通にノリで。
甚:ノリって……
別の理由があんだろ?
狐:言ったら読者の皆さんに『うわ~、いつものパターン』って、引かれそうだから言えない。
筧:そんな単純な理由なのか?
狐:……うん。
才:まぁいいや。言いたくなきゃ。
狐:才蔵はそういう所がいいよ。
それに比べて佐助は……
猿:っ!
氷:読者の皆さん、また次回!