十勇士 作:妖狐
「はい?」
「この者を知りませんか?」
上田付近の茶屋で、似顔絵が描かれた紙を亭主に見せる男。
「さぁ……
!
そういえば、似たような子なら上田にいたよ」
「本当か?!」
「あぁ、つい最近。
まだいると思うよ」
紙に描かれた似顔絵……それは桜華とよく似た少女の絵だった。
「あー!!ムカつく!!苛々するー!!」
城下町を鎌之介は、鎖を振り回しながら歩いていた。その後を大助は歩きながら、周りに軽く挨拶をした。
「そんなに苛々するなよ!鎌之介」
「だってよぉ!!あのクソ女、戦えると思ったのに弱くて!!
それに才蔵にくっつきやがって……」
「鎌之介は、才蔵大好きだもんねぇ」
「うるせぇな!!
あぁ!!クソ!!あの、桜華の野郎と戦いてぇ!!」
鎌之介がそう叫んでる時だった。
「あの、桜華を知ってるんですか?」
「あ?
誰だ?テメェ」
声の方に振り向くと、そこには笠を被り旅の格好をした男が立っていた。
その頃、才蔵は桜華と氷柱の二人と茶屋で団子を食べていた。
「何でお前が一緒に来るんだよ」
「いいじゃーん。私、甘いもの好きだし」
「あのなぁ……?」
茶屋へ入ってくる一匹の鼬に、才蔵は目を向けた。鼬は才蔵達の姿に気付くと、彼に駆け寄り椅子を伝い肩へと登った。
「佐助の鼬?」
「猿が鼬を寄こすって事は……
城へ戻れ」
「……」
「(何かあったのか?)
……桜華、城に戻るぞ」
城へ戻ってきた才蔵達。門前に佐助が立っており三人を見るとすぐに駆け寄ってきた。
「猿、何か」
「二人共、来い!」
「あ、おい!」
「ちょっと!」
門前に桜華を残し、佐助は二人を彼女から引き離し少し遠い所へ連れて行き話し出した。
「どうしたんだよ!猿」
「落ち着いて聞け。
桜華を知る輩が、城へ来ている」
「?!」
「桜華がいるなら、是非会わせて貰いたいとのことだ」
「敵じゃねぇのか?」
「名を聞いても、桜華を見せてからだと頑なに」
「何で桜華を?」
「詳しいことは、桜華に会ってからだそうだ」
「何ちゅう、勝手な野郎……」
「とにかく、桜華を連れて早く幸村様の所に」
「分かった。
猿達は先に行っててくれ。俺は桜華に説明してから来る」
「分かったわ」
二人は先に城へ行き、才蔵は門前で待っている桜華の元へ行った。
「何の話してたの?」
「ちょっとな。
桜華」
「?」
「城に、お前を知ってる奴が来てる」
「!」
「奴は、お前に会いたいと言っている」
「……」
顔を強張らせながら、桜華は顔を下に向かせた。そんな彼女の手を、才蔵は握りしゃがみながら桜華を見た。
「俺が傍にいる。もちろん、猿達も」
「……でも」
「敵だって分かったら、すぐに攻撃する。安心しろ」
「……」
「さ、行こう」
才蔵の手を握りながら、桜華は城へと入った。
幸村の部屋へ着き、襖を開けた。
部屋には全員集まり、幸村の前には笠を傍に置き座る、灰色の髪を生やした男がいた。男は入ってくる才蔵の手を握る桜華を見るなり、立ち上がり彼女に近付いた。怯えた彼女は、才蔵の後ろへ隠れ顔を出しながら警戒するように、彼を見た。
「間違いない……桜華だ」
「何で分かる」
「若き頃の母親にそっくりだ。
白い髪に、この目元。どこからどう見ても桜華だ」
「桜華の母親を知っているのか?」
「もちろんです。
無論、あなたもよく知っています。
真田幸村。幼少期は弁丸、そして殿になる前は原二郎。
元は武田二十四将の一人、真田昌幸の次男。
武田が滅んだ後、真田家がこの信濃と甲斐を任され、そして上田を幸村、あなたが長となり今に至る」
「凄い……
まさに、その通りだ」
「オメェ、名は」
「申し遅れました。
拙者は、望月六助。武田に仕えていた武将です」
「望月……確かにいた」
「武田が滅んだ後、拙者は甲斐の国で質屋をやっていました。
しばらくして、桜華の母上・光坂一族のくノ一、光坂蓮華(コウザカレンカ)から、連絡が届きました。
子供が出来たと」
「それが桜華……」
「蓮華……
あぁ!あの武田軍副隊長の光坂蓮華か!」
「はい、その蓮華です」
「誰なんだ?その蓮華って」
「武田軍副隊長・光坂蓮華。
別名・戦場の殺人花と言われたくノ一だ。
しかし、あの蓮華に子供が出来ていたとは……」
「間もなくして、拙者は光坂の里へ行きました。
そして、父親に抱かれたまだ幼い桜華に会いました」
「……」
才蔵の隣に座る桜華を見ながら、六助は言った。桜華は少し緊張が解けたのか、ずっと六助を見ていた。
「ところが、数年が経ち遠出の帰り、里へ寄った時……
変わり果てた里を目にしました」
「……」
「里付近の村で聞き込みをすると、拙者が来る数週間前に襲撃を受けたと。
拙僧はすぐに、覚えている桜華の特徴を書きそれを手にしながら各地を転々としました」
「けど、あなたが最後に会った桜華と四年前の桜華じゃ全然違うわよ!」
「娘はたいてい、母親に似る者だ。
母親の特徴を書けばいいし、記憶に残っている桜華の特徴を書き出せば、この絵になる」
そう言いながら、六助は桜華の似顔絵を皆に見せた。
「いや、確かに似てるけど……」
「凄く似てるとも言い切れない……」
「かと言って、似てないとも言い切れない」
「まぁ、話は大体分かった。
お主が怪しい者じゃないことも、桜華の敵でないことも。
だがな、そこにいる桜華は記憶を無くしている」
「?!」
「ここへ来た時、彼女は名前しか覚えていない状態だ。
それは今でも変わらない」
「……」
「六助、お主が良ければここへ置いてやってもいいぞ」
「ほ、本当か?!」
「構わん。
それに、ここに桜華がいるとなれば尚更、お主はここにいようと頼むだろ?」
「そ、その通りだが……」
「認めんのかよ、オッサン」
「……ねぇ、一つ聞いてもいい?」
「?」
「桜華は本当に、その光坂蓮華って言う女性の子なの?」
「間違いない。
拙者は、蓮華を幼い頃から知っている」
「そんじゃ、その顔以外で証拠見せてくれよ」
「良かろう」
大助に言われた六助は、立ち上がり桜華の元へ寄り彼女の右手を掴んだ。
「少し、失礼するぞ」
手袋を取り大助を手招き、指をさして見せた。桜華の右手の甲には桜の花弁の痣があった。
「この痣……」
「光坂一族のもう一つの特徴だ。
一族の者には、必ず体のどこかにこの痣がある」
「体のどこか?
ケツにある奴もいたのか?」
「さぁな。
拙者が見てきた中では、腹や背中と言った他人から見える場所にあった」
「顔にある奴もいたのか?」
「もちろんいた」
「へ~」
「へ~」
「さぁ、話しはこれで終わりだ。
各自、部屋に戻っていいぞ」
幸村に言われ、全員部屋を出て行った。
「なぁ桜華!
上田の森に行こう!」
「……」
「お!それ面白そうだな!
桜華行こうぜ!」
戸惑っている桜華の手を引き、大助は鎌之介と共に部屋を出て行った。その後を、甚八に寝そべっていたレオンは起き上がり追い掛けていった。
「何かあったら、レオンが守るだろ」
「あの変態に任せていいのやら……」
「六助、ちょっと聞いていいか?」
「?」
「何で桜華が生きてると思った」
「……」
「あの里の状況からして、桜華が生きている確率は低い」
「……
直感で思ったんです……あの里を見た時、桜華は生きていると。
生きていて良かった……本当に……生きていて」
そう言いながら、六助は目から涙を流した。
才:雑談コーナー!
ついに、桜華を知る輩が出たぞ!!
猿:そんなもん、見りゃあ分かる。
氷:敵じゃないって事は、確かね。
才:そういや、話しの中にあった勾玉が四つあるって書いてあったけど……
狐:今後の展開に、御期待を。
猿:話で分かったことは、桜華は確実に光坂一族の生き残りだという事。
狐:今回、いっぱい書いたからキャラ紹介するねー。
では、どうぞ↓
名前:海野六郎(ウンノロクロウ)
年齢:不明。
使用武器:寸鉄・鞭。
容姿:紺色の髪に青い瞳。
服装:腹出しの長袖に幅の大きい長ズボンを穿いている。手には毒針が仕込まれている指輪をしている。