八幡の武偵生活   作:NowHunt

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舞台急転

「そういや、どこから上に行ける?」

「あっちだ。ココが通った場所を使おう」

 

 装備を整え終えた遠山に訊ねて、いざ戦いに行こうとしたところ。

 

「お前ら、早急に頼むぞ。さっさとココをぶちのめしてくれ」

 

 まだ口調が荒い理子がそう告げてきた。というより、いたんだ。すっかり忘れていた。そうだよな、理子が動いた時点でゲームオーバーだ。

 

「そりゃタイムリミットあるし、もちろん急ぎはするが、理子がそう言うのは珍しいな」

「あたしにも色々あるんだよ……!」

「色々? …………あっ」

 

 歯ぎしりしながらそう言っている理子。

 少し気になって理子の座席を除くと、そこには山ほど積まれたいちごミルクの空箱があった。この短時間でどれだけ飲んでいるんだ……。そして、何より特筆すべきことがある。息は若干荒いこと、額には冷や汗が流れていること、おまけに足元をモゾモゾとさせていることだ。 

 ここまでくれば理子が何に急いでいる理由は嫌でも分かる。まあ、つまるところ……お花を摘みに行きたいんですね、理子さんや。だから乗る前に言ったのに……。あんなに飲むから。

 

「理子」

「何だ?」

「……その、何だ、ペットボトル……渡そうか?」

「八幡お前マジで殺すぞ?」

「ごめんなさい」

 

 怖かった。それはもうめちゃくちゃ怖かった。

 武偵殺し時代の理子より遥かに怖かったぞ。冗談抜きで人殺しそうな目付きだ。すいませんデリカシー足りてませんでした反省してます。

 

「……比企谷、ふざけてないで行くぞ」

「キンジ! こっちは真剣なんだよ! ホントに頼むからな!」

 

 理子の怒声か忠告か分からない言葉を背にしつつ、車両の屋上へ行くために梯子を登る。

 

「星伽さんが斬ってくれるタイミングはいつごろなんだ?」

「とりあえずは俺らが上に立ってからだな。指示は俺が出す」

「了解。それで、上に出たらどう攻める?」

「ココ単独なら比企谷が前衛でいいだろうが、そこがまだ分からないからな。俺の方が比企谷より銃の扱い得意だから、俺が援護って形でもいい気はするが」

「あんな曲芸普通できる奴いないからな」

 

 相手の銃弾を撃って弾き返すとか、相手の銃口に向けて完璧に発射するとか。

 俺はごくごく普通の人間なので。遠山みたいに人間辞めてるわけではない。

 

「ココの脱出手段も気になる。できるなら比企谷がココを制圧してほしい」

「神崎でも退けた相手をか……。そういや、レキに一応脱出手段の無力化頼んでるけど、星伽さんが車両ごと切り離したら、いくらレキでも無理あるか」

「2キロなんてすぐに離れるだろうしな」

 

 遠山に同意見。レキにお願いしたときは車両の切り離しまで頭になかった。正確にはあったけど、レキを戦線から逃がすことしか考えていなかった。

 

「しかしまあ、脱出方法もそうだが、上に仲間いそうだよな」

「さっき比企谷はドッペルゲンガーやら姉妹やら言ったが、それは間違っていないと思う。ただ、ここにいるかどうかは正直判別つかないよな。俺もいる方に7割くらい賭けたいが」

「神崎との会話を聞いた感じ、姿形が似ているだろうから、恐らく姉妹だよな。それか双子? でも、いるかどうかは別の話になるし」

 

 髪型変えろ云々話しているときだ。あのココは神崎とは初対面みたいな反応をしていたが、神崎はココに負けている。他にも近接や遠距離の完成度の違いからも読み取れるが。

 

「考えても仕方ない。開けるぞ。状況が不明だ。臨機応変に行くぞ」

「おう」

 

 先に遠山が登り、俺も後に続く。

 

「…………ッ!」

 

 どうにか屋上まで這い出たはいいものの、今まで感じたことのない風圧で吹き飛ばされそうになる。何より風がうるさい。

 新幹線はとっくに時速200kmを突破している。そんなところに立つのだ。気流も風圧もかなりの激しさだ。こんなの経験したことない。

 

 しかし、絶対に立てないというわけでもない。スパイクを引っ掛けて立ち上がる。

 

 ココはどこだ。……いた、あそこか。16号車後方。そこにあるパンタグラフ――車両上の架線から車両に電力を供給する金具――の手前に何か設置している。光が点滅しているってことは何かしらの信号といった辺りか。てことは、仲間への合図? 

 まだ気付かれてないはず。気付かれる前に奇襲を仕掛け――ようとしたところで超能力の副作用であるセンサーが働く。

 

「――――!」

 

 後ろに誰かいる――――

 即座に遠山と一緒に振り返りざまに放ったファイブセブンとベレッタの銃弾は――ギンッ! ギギギンッ――! と甲高い音を立てつつ逸らされた。背後にいたココの青龍偃月刀によって。

 

「炮娘! 金次、八幡来了!」

「――猛妹! 抓住!」

 

 やっべ、中国語分からないし、さっきの銃声で後方のココに気付かれた。

 やはり仲間いたのか、これはぶっちゃけ面倒だな。単独なら幾分マシだったろうに。

 

 向こうのココはUZIを構えている。その隙に俺らは中央まで下がるが。それにしても……UZI? あ、昨日俺とレキを撃ってきたのコイツだったか。隠れてて分からなかったな。よくよく考えれば、あのとき姿を確認できれば、ココのカラクリも見抜けたかもな。いやうん、あの状況では無理があったが。

 えーっと、炮娘と猛妹が名前だよな。炮娘が銃の方で猛妹が近接。……で合っているよな? 何にせよ、ココという存在2人で1人といったところか。ふむ、そう言われるとこれはもう完全にWだな。足りない部分を補うという意味でも。

 

「ココ、ココ――おしおきの時間だ」

 

 遠山はキザっぽい台詞と共にもう1つ銃を抜く。遠山が2丁も? 普段見ないスタイルだ。珍しいこともあるな。

 というより、2丁目の銃、ベレッタじゃなくて……デザート・イーグルじゃないか。拳銃の中でもかなりの大型。反動も俺のファイブセブンやベレッタとは比べ物にならない。しかも、この新幹線の上でか。……遠山、お前やっぱり充分かなりイカれてるよ。その判断、恐れ入る。

 

「キンチ、お前……HSS、なってるカ。どうやったネ」

「アリア使たか、ココに似ているアリアを使たのか」

 

 2人ともその事実に驚きのあまり顔を赤くする。HSSの発動状況知っていたんだ。イ・ウーにいたからそれもそうか。金一さんもいるだろうし情報とか手に入れようと思えばいくらでも入手できるだろう。

 なるほど、自分たちが遠山の性的対象に入っているかもしれないという事実に驚愕したのか、それとも危機を感じたのか……。とりあえず無駄に警戒しているわけだ。

 

「ふふっ」

「笑うな」

「せやかて工藤」

 

 ごめん、普通に面白い。

 遠山の悩みの種をこうやって笑うのはどうかと思うが、面白いものは面白い。俺の目付きがまるでゾンビだの腐っているだの揶揄されるとき、客観的に見るとそう映るのか。

 

「き、気を付けるネ、猛妹。いろいろと気を付けるネ」

「是、炮娘。何にせよ……HSSは無傷で捕らえること、ムリある」

 

 2人とも強い殺気を放ってくるが……あれ? 俺眼中になし? ちょっとショック。

 

「さあ、来い。――――と、その前に。白雪、頼んだ」

『はい! キンちゃん、比企谷さん、それに皆さん、ご武運を――!』

 

 突如――――炮娘のいる後方から綺麗な緋色の光が放たれる。車両の中央にいる俺でもはっきり見えるくらいはに目視できる鮮やかな輝きだ。

 そう感じた瞬間には15号車から1号車は減速を始めた。

 

「うおっ」

 

 ……マジか。本当に斬ったよ。新幹線だぞ。鉄の塊ぶった斬るとかいくらなんでも星伽さんスゴすぎないか? こんな芸当できる奴なんて俺の周りにそうそういない。寧ろいたら困るレベル。そりゃイ・ウーも一時期ジャンヌを送ってまで欲しがる人材なわけだ。

 

「キャッ……」

 

 と、ココのどちらかが言ったのか不明な可愛らしい悲鳴と。

 

「お見事」

 

 遠山の称賛の言葉が重なる。

 

 何にせよ、これでかなり気持ち的に楽になった。爆発しても人死には俺らだけで済む。周辺の被害は東京まで行ったらヤバいだろうが、その辺りの対策は不知火たちが向こうと連携しているはずだを最小限に抑えてくれるはずだ。

 

 さて、ここからは戦力になるのは俺と遠山のみ。武藤は運転中だし、材木座は爆弾の解除方法を模索中。理子は身動き取れない。つまり、俺らが殺られればそれこそゲームオーバー。背水の陣。

 この感覚……何度か味わったことがあるが、今となっては不思議ととてつもなく気分がアガる。だいぶこの世界に染まっているな。

 

「猛妹、レキに逃げられたヨ」

「やはり星伽は凄いネ。まさか新幹線斬るとは。でも、炮娘、安心する。イレギュラーがいればレキは従うネ」

「キンチも大事。キンチいればアリアも付いてくる」

 

 水投げや昨日とは違い、完全にマジモード。殺気がガンガン伝わってくる。今から来るのはココの本気。

 今度は俺もココたちの視界に入っているようだ。眼中になかった方が良かったな……。奇襲やら自由に動けただろうな。

 

「比企谷は猛妹の相手を」

「だな。UZIの処理は任せたぞ」

「ああ。お互い死なないようにな」

 

 俺と遠山の背中合わせ。もしかして俺らだけで戦うってのはこれが初めてじゃないか。何回か遠山と組んで戦うことはあっても、俺と遠山だけという状況はなかった気が……。借金取りの仕事は2人でやったことあったな。

 

『お前ら、あと10秒で加速する。落っこちるなよ』

 

 武藤からのインカムでの忠告。

 

「なあ、少し疑問だが……相方が神崎じゃないのは不服か?」

「もちろん女性の前でカッコつけたいとは思うよ。ただ、兄さんと組んだときも思ったが、存外、こういうのも悪くないな。それに、アリアにはここで死んでほしくないからね」

「おいおい、それって俺は別に死んでもいいってことかよ」

「まさか。比企谷がこんなとこで死ぬわけないだろ。お前が背中にいるってだけで信頼できるさ」

「……そっか。なら――期待に応えないとな」

 

 雑談を交わしつつ猛妹を視界に入れる。もうそれ以外の情報はいらない。目の前の相手を制圧する。この風の中長い武器がどれだけ使えるかは知らないが、棍棒を組み立て構えて迎え入れる。

 対する猛妹は、青龍偃月刀を構え、こちらに向けて一直線で駆けてくる。

 

「……ッ」

 

 速い。時速250kmの勢いを一身に浴びて突っ込んできている。文字通り一瞬で距離が詰められた。

 猛妹は俺の足目掛けて青龍刀を振るってくる。全身のバネを使った薙ぎ払い攻撃。俺はタイミングを見計らって棍棒を軸にしつつ跳躍。さながら操虫棍のように。……別にふざけてるわけじゃないからな。

 

「――――ッ」

 

 ……マジか。ちょっと跳ねたくらいなのにけっこう後ろに飛ばされる。思いの外バランスが取れない。空中に長めにいたらなかなか厳しい。早めに着地しないといけない。

 ワイヤー銃を新幹線に向けて撃ち、フックが固定したのを確認してからワイヤーの巻き取り機能を用いてすぐさま着地。……今のジャンプからのクラッチクローの動きに似ていない? 似ていない? ……そうですか。どうせなら急襲突きでも使ってみたかったな。あんな人間離れした動きできるわけないけど。飛翔使えばワンチャン……? いやまあ、3rdから9割太刀しか使ったことない人間なので、他の武器種のことどうも言えないから仕方ない。

 

 着地した俺はスパイクで足元をきっちり固定させてしっかり立つ。さすがに無闇に跳び上がらない方がいいな。いくら烈風で新幹線の風圧を軽減できるとはいえ、危険なことには変わりない。落ちるわけにもいかないからな。

 

 ていうか、棍棒だと風圧で小回り利かない。やはりこの車上で長い武器を使うのがムリあるな。現に猛妹も青龍刀を新幹線に突き立てふっ飛ばされないように背もたれにしている。

そして、猛妹が次に取り出して武器は――

 

戦扇(バトルファン)……」

 

 大きな扇。真紅と金で着色された扇。よくある竹などでなく金属製。

 というより、戦扇と戦うの初めてなんだが……。どうやって戦えばいいんだ。セオリーが分からない。授業では主に打撃武器として用いることが多いと習ったが、その気になれば斬り刻むこともできる。ココが用意している武器だ。確証はないが、武偵高の購買部で買った棍棒くらい斬れる威力をしているはずた。

しかし、全長は60cmほど。それほど射程はない。一応の救いだな。

 

「…………」

「――――」

 

 まだ猛妹との距離は充分ある。この距離を保てば恐らくイケる。だか、それは難しい。新幹線の進行方向に猛妹はいる。さっきみたいに追い風に乗れば一気に詰められる。だからといってまた空中に逃げるわけにもいかない。どう攻める……?

 

 そうこう模索していると、またもや猛妹が突っ込んでくる。戦扇を広げ縦横無尽に斬りかかる。くっそ、思いの外速い。前回みたいに動きながら回避するのができないから余計にキツい。しかも俺が烈風を使う気配を見せれば、すぐに下がって距離を取る動きを見せてくる。

 

 攻撃後の隙にカウンターを決めようと思っているが、重量のあった青龍刀とは違い、戦扇はかなり軽い。その分、隙も少ない。……思っている以上にジリ貧だな。

 反撃せずに受け流すだけに徹している。しかし、そんなの猛妹からしたら攻撃し放題だ。今は烈風を警戒しているからか深く踏み込んでこないが、反撃がないって分かっているなら怖くない。当たり前だ。むしろ烈風がなかったらもっと攻撃が激しかっただろう。

 

「くっ……」

 

 一応は反撃ついでに突いているが、こんなに風が強いと全然勢いが足りない。簡単に捌かれる。

 

 ……このままでは埒が明かない。これが続けば俺が殺られるだけ。

 こうなったら――――

 

「なっ……!?」

 

 猛妹の驚く声が聞こえる。それもそうだろう。猛妹の攻撃に合わせて棍棒をわざと手放したのだから。棍棒はそのまま線路へカランコロン……と音をたてつつ落ちていく。もう今後、あれは拾えないだろう。

 俺が棍棒を手放したせいでほんの一瞬、猛妹の動きが崩れる。この新幹線の上ではほんの一瞬は大きな隙になる。猛妹は烈風を警戒していて見逃してくれたが、俺はそれを逃すわけにもいかない。このチャンスで決める――!

 

 袖の下に仕込んであるスタンバトンを取り出して、鉄である戦扇に思いきり電気を流す。

 

「チッ!」

 

 すぐさまそれを察知した猛妹は俺と同様に戦扇を投げ捨てる。最小限にダメージを抑えたが、それもまた隙だ。ガラ空きの図体に今度こそ攻撃を当ててやる。

 

「うっら――ッ!」

 

 出来る限りの勢いをつけた正拳突き。落ちない範囲で烈風で加速もつけた、殺さないようにと制圧するための今できる最大の攻撃。ガラ空きの腹目掛けて狙いを定める。

 

「――――っ!」

 

 手応えあり。そのまま追撃……を? ……あれ? 

 

「ようやく掴まえたネ」

 

 くっそが。猛妹、ダメージ覚悟でわざと攻撃貰って俺の腕をがっちり捕えやがった。

 後の先か。そのままオチるかもしれなかったのに、なんつーう胆力。というより、猛妹めちゃくちゃ馬鹿力だ。引き剥がせねぇ! 神崎程度の図体のくせして馬力も神崎並かよ。

 

「八幡、イレギュラー。本当にお前のこと欲しくなったヨ」

「何回も言ってるだろ。お断りだっての……!」

 

 残った左手でナイフを抜刀し、猛妹の腕を斬りにかかる。

 

「おっと、危ないネ」

 

 それを見るや否やすぐに手を離し……何かを取り出した。あれは――香水瓶! てことは来るぞ、気体爆弾が!

 

 猛妹は間髪入れずにシュッシュと香水瓶を使う。を俺の目の前には5つのシャボン玉。不味い。すぐにしゃがんで烈風でシャボン玉を上に飛ばす。軽いシャボン玉はすぐに飛んでいくが、その直前に全部破裂した。

 

 ――――烈風!!

 

 爆破は咄嗟の最大出力の烈風で抑えることができた。しかし、爆破の瞬間の閃光までは防げなかった。あまりの眩しさに思わず目を閉じる。ダメだ、眩しいって言うより目が痛い。下手すりゃ失明だ。神崎みたいにはできないか。

 

 目を閉じている間にもセンサーが反応する。すぐ近くに猛妹がいる。追撃を仕掛けに来るか。視覚がヤバい今、密接されたら精度の高い迎撃はできない。なら近付かせない。

 この技は本番ではまだ試したことないけど。

 

「全方位――」

 

 練習でできたことは本番でもできる。だからこそこの一撃を――!

 

「――――鎌鼬!」

 

 俺の周り全部に向けて全力の烈風を用いた攻撃――鎌鼬を繰り出す。後ろにいる遠山には当たらずに、すぐそこにいる猛妹には当たるように。

 

 星伽さんみたいに新幹線をぶった斬るような威力はないが、それでも人くらい斬ろうと思えば斬れる威力だ。しかし、さすがは猛妹。奇襲で出したのにきっちり避けてきた。

 

 本当は声なしで出せる状態が望ましい。ただ、そこまでの練度がない。烈風や飛翔は何度も使って慣れているが、鎌鼬に関しては声に出さないと完璧に超能力のイメージを掴めない。

まあ、今はそれでいい。下手にやったら人殺しかねない一撃だ。武偵が羅刹含めてそういう技を頻繁に使うわけにもいかない。

 

「……ふぅ」

 

 何とか視力も回復してきた。まだ若干チカチカはするな。

 にしても、マジでギリギリだな。多分あのまま追撃貰っていたらそれこそ殺られていただろう。猛妹は武器はない素手。絞め技の類でも恐らく貰っていた。そこまで喰らったら烈風を使う集中力すら保てなかったな。危ない、間一髪だ。

 

「惜しいネ。今ので終わらせようと思ったヨ」

「そうかい。残念だったな」

 

 そう会話していても新幹線はスピードを緩めずにどんどん進む。カーブの先にトンネルが見えてきた。トンネル入ったら戦闘とか言ってられないな。それまでにどうするか。

 

『スピードまた上がるぞ! 気を付けろよ!』

「……っと」

 

 武藤の忠告と共にまた新幹線の速度が上がる。これで……今は何キロだ? 覚えてないな。――と、俺と猛妹は睨み合っている状況だから、今速度が上がってもそこまでの影響はなかった。

 

 しかし、俺の後方はそうはいかなかった。

 炮娘が放ったUZIの弾丸を遠山はベレッタとDEの2丁で捌いていた。炮娘は猛妹に絶対当たらないように弾丸を撃っている。遠山がどう捌いても織り込み済みのように。だが、先程スピードが上がった衝撃でそれがズレた。

 

 遠山は銃弾逸しという、銃弾と銃弾で撃って、軌道を逸している。ブラドのときは理子の銃弾がブラドの魔臓に当たるように自身の銃弾を当てて軌道修正を行った。イ・ウーでシャーロックと撃ち合ったときは、シャーロックの銃弾を跳ね返して、その跳ね返ってきた銃弾をまた新しく撃って逸した。文面で書くと頭おかしいな……。

 

 そして、今回もそうやって俺らに銃弾が当たらないようにしながら撃ち合いを続けていた。が、スピードが上がった衝撃でその遠山の計算がズレた。炮娘は遠山を撃ち、遠山は自分が喰らわないように撃って逸した。

 …………問題はその逸した後の軌道だ。さっきの衝撃で少しUZIの銃弾を掠めた程度で終わってしまった。大きく逸らせなかった。その銃弾は遠山の頬ギリギリを横切り――――その後ろにいる猛妹へと飛んでいったのだ。

 

「…………ッ!!」

 

 猛妹の直感が優れているのか、その銃弾は何とか当たらずに済んだ。

 が、避けるために猛妹は大きく回避行動を行った。それはもう新幹線の屋上をゴロゴロと転がった。

 

 しかし、それがイケなかった。今までならそれでもすぐに体勢を立て直せたかもしれない。だが、スピードが上がった瞬間にそれを行うと、また新しく加速した新幹線のスピードに耐えきれず、猛妹はその場で踏ん張りきれなかった。

 

 つまりここまで長々と語って何が起きたかと言うと――――猛妹は新幹線から落っこちたのだ。この速度の新幹線から落ちた。絶対死ぬ。あんなの助からない。

 

「――――クッソが!」

 

 そして、俺も後を追うように――――新幹線から飛び降りた。

 




そろそろこのペースは落ちる
あ、活動報告の募集のやつまだ募集中です(2020/7/20現在)

ReoNaさんのLotusを全人類に聞いてほしい。いい曲です。それとTill the Endも。ReoNaさんを推すのだ

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