八幡の武偵生活   作:NowHunt

58 / 139
君にできるなにか

 日本に帰ってきた翌日の夕方。

 

 久しぶりの武偵高の廊下を歩く。目指すは音楽室。

 

 ジャンヌはこの時間を指定してきたから帰ってすぐ寝た。起きたのは昼が過ぎてから。そのせいでスマホは20%しか充電してない。

 

 音楽室に近づくとピアノの演奏が聞こえる。音楽は疎いから曲名は知らないけど……上手だ。

 

 扉を開ける。そこには優雅にピアノを弾いている――ジャンヌの姿がある。

 

 俺が入ってきたのを確認すると武偵高のセーラー服姿のジャンヌは演奏を止める。その姿違和感ないな。

 

「ピアノ、上手だな」

 

「ありがとう。私の趣味みたいなものだ」

 

「へー……。ちなみにさっき弾いてたのって何て曲名なんだ?」

 

「『火刑台上のジャンヌ・ダルク』という曲だ」

 

 自慢気に語るジャンヌ。………なにそれ、自虐ネタ?

 

 ジャンヌは立つと、

 

「こうして直接会うのは久しぶりだな」

 

「あぁ。つっても、3ヶ月くらいか?」

 

「そのくらいだな。………それで八幡、聞きたいことがあるのだろ?」

 

 唐突に、纏っている雰囲気が変わる。

 

「そうだな。ブラドのことを。……ただ、その前にジャンヌ」

 

「何か?」

 

「いや……今までもそうだが、なんでそんな簡単にブラドの情報を教えようとしてくれるんだ?」

 

 ずっと疑問に感じてたこと。

 

「ブラドと我が一族は仇敵なのだ。勝手にいなくなってくれるのなら、それにこしたことはない」

 

 それと、と口加え、

 

「……私も理子には自由になってほしいからな」

 

 目を伏せて、悲しそうに言った。

 

「俺としてはありがたい。それはそれとして、情報を漏らしたらお前が危ないんじゃないか?」

 

「お前に心配されるほど私は弱くなぞ」

 

 知ってる。

 

「イ・ウーでは最弱なのだがな」

 

 ………マジかよ。本当に大丈夫か?

 

「今はこの話は置いておこう。………まず、ブラドは吸血鬼だ」

 

「らしいな」

 

「そして、あいつは死なない」

 

「…………」

 

「例えどんな攻撃をしても効かない。一瞬で回復する」

 

「魔臓だっけか?」

 

 そういう器官があるから回復できるとか。

 

「ふむ。そういえば、八幡がイ・ウーにいる間に話したことがあったな」

 

 一応は俺が超能力を教わっている間に聞いたことがある。

 

「4ヵ所を同時攻撃しないと死なないんだろ」

 

「その通りだ」

 

 それだけなら狙撃手を配置すれば良いだろう……とか思ったが厄介なことに、

 

「それで、魔臓の位置は分かったのか?」

 

 魔臓の位置が分かってない。いくら狙撃ができたとしても、的がはっきりしてないと意味がない。

 

 だから、今回の本題がこれだ。前回話を聞いたときは知らなかった。

 

「あれから色々と調べた。3ヶ所までは分かったぞ。魔臓には『目』の模様が描いてあるらしい。実際に私は見たことないが」

 

 なるほど。

 

「左右の肩と右のわき腹にある」

 

「あと1つは………」

 

「それは不明だ。どこかに隠してあるのか、もしくはその1つは目の模様がないのか、今のところ分からない」

 

 でも、シャーロックは知っている。だから、ブラドを従えることができた。

 

 ――――つまり、絶対に分かる位置にはある。

 

「情報はこんな所だな。それと八幡」

 

「……どうした?」

 

「最後に忠告だ」

 

 忠告、ね。

 

「絶対に独りで戦うなよ。最低でも3人、できれば神崎アリアをパーティーに入れろ」

 

「あいつが双剣双銃だからか?」

 

「あぁ。お前は銃を両手で扱えないだろう?」

 

「そうだな」

 

 左手で撃つ練習はしているが、両手では撃ったことない。そもそも1丁しか銃持ってない。

 

「忠告、了解した。確かにその通りだよな。4ヵ所同時攻撃しないといけない奴に独りは無謀、か」

 

 無謀だけど、そこは知恵を使えば………。まぁ、協力して倒す方がいいに決まっている。

 

「色々とありがとな」

 

「気にするな」

 

「礼はまたいつかする」

 

「……なら、私の趣味に付き合ってもらおうか」

 

「ピアノ弾けないぞ」

 

「それではなく、また別の趣味だ。男目線からも聞きたいのでな」

 

「よく分からんが、そういことなら」

 

「決まりだな」

 

 その時見せたジャンヌの笑顔は年相応に可愛らしいものだった。

 

 

 

 

 

 

 ちょっとばかし腹ごしらえをして、装備科の建物に入る。

 

 材木座に言われた場所までのーんびり歩く。……しっかし、いつも油臭いな、ここは。

 

 よく分からない機械とかは心踊るけど、得体の知れないものが多すぎる。お、あそこはけっこうな人たちが集まって何か制作しているな。何あれ?ロボット?

 

 などと、思っていると、目的地に着く。そこで材木座と平賀さんが何やら話し合っている。頃合い見て声かけるか。

 

 5分程、2人のよく分からない話に耳を傾けている。すると、材木座はようやくこっちに気づいた。

 

「おお!八幡、どうしたのだ?そんな所で」

 

「話落ち着くの待ってただけ」

 

「比企谷君、こんにちわなのだ!」

 

「平賀さん、どうも」

 

「今回は材木座君の依頼にお邪魔させてもらわせてありがとう!」

 

 元気良いな。

 

「こちらこそ。普通に助かる」

 

「むむっ、その言い方だと我に不満があるようだな」

 

「そんなことねーよ。………それで、どうだ?」

 

 尋ねると、材木座は何か持っている。俺に差し出してくるのは一見するとデリンジャーだ。

 

 しかし、実際は、

 

「おー……これが」

 

 材木座に依頼した1つ。小型のワイヤー銃。

 

「うむ。では、これの説明を行うぞ。まず、射程は最大15m。本体の位置にある安全装置のレバーを変えると2種類のモードを使える」

 

 8m先にある鉄棒に向けて材木座は発射する。直径1cmくらいのワイヤーが高速で打ち出される。

 

 そのワイヤーの先端には爪みたいなのがあり、クルクル回ってガチッと固定される。材木座がデリンジャーを引っ張ってもビクともしない。

 

「1回引き金を引くとこのように発射される。もう1度引くと……」

 

 まるで掃除機のコードみたいに巻き戻る。

 

「では、モードを変えてみる」

 

 また発射して、ワイヤーを同じく鉄棒に固定する。そのまま引き金を引くと、今度は材木座の体がけっこうな勢いで鉄棒に引き寄せられる。

 

「と、ワイヤーを回収する時、ワイヤーが元の場所に戻ってくるのと体ごと引き寄せられる2種類がある」

 

 なるほど。

 

「ワイヤーの強度はどのくらいだ?」

 

「ふふっ……」

 

 なんか、材木座、スゴいにやけている。隣にいる平賀さんも似たような表情だ。

 

「八幡よ、今回使用したこのワイヤー………何でできていると思う?」

 

 急な質問だな。

 

「制服とかに使われている防弾繊維か?」

 

「「スパイダー!!」」

 

 口を揃えて叫ぶ2人。

 

 スパイダー………蜘蛛?

 

「それなりに有名な話だがお主は知らないのか?」

 

「蜘蛛の糸を鉛筆並の太さに束ねるとジェット機をも止められるくらい強い糸になるのだ!」

 

 あー、少し聞いたことあるような。

 

 しかも、このワイヤー銃に使われているのは鉛筆より少し太い糸だな。

 

「そんな糸を………」

 

「理論上、400トン以上は余裕では耐えることができる」

 

 材木座は自信満々に語る。

 

「スゲーな」

 

「しかし、問題があってな。銃本体もかなり丈夫に造ったが、さすがにそこまでは耐えれない。ジェット機と綱引きはできんぞ。それに加えて、それほどの衝撃が加わればお主の握力も持たない」

 

 それもそうか。

 

「だから、例えば……空中でブランコ状態になったならば、すぐさまそこから離脱しないとキツいであろうな」

 

 そうなったら、烈風使ってどうにかするか。握力もこれ以上に鍛えないと。

 

 次に平賀さんが、

 

「比企谷君。ワイヤーの先端部分には鍵爪があるんだ。さっき材木座君がやったみたいに棒に巻き付ける他に、淵とかにも引っ掻けることができるのだ!あ、そうそう、射出された時はかなりの勢いがあるからガラス程度ならぶち抜けるよ」

 

 へー…………聞けば聞くほど性能良いな。

 

「それと、お主が頼んだ銃弾。20発――ファイブセブンのマガジン1つ分は完成したぞ」

 

「おお、ありがとう」

 

「絶対に人には使ってはダメだぞ。これは……ほんの少しカスっても人が簡単に死ぬ威力だ」

 

 真面目な雰囲気な材木座からマガジンを受け取る。

 

「心配すんな。人には使わないからよ武偵法は守る」

 

 この銃弾はブラド用だ。効果があるかは分からないけどな。

 

「もしこの銃弾が実用化すれば、新たな武偵弾として登録されても可笑しくないレベルなのだ!」

 

 不安そうな材木座とは対称に平賀さんは興奮した様子で言う。

 

「実用すれば、特許権は材木座だな」

 

 冗談混じりに返す。

 

「創るのに中々苦労したから私にも分け前欲しいのだ」

 

「ふっ!我が金持ちになったら考えてやろうではないか!!」

 

 仲良いね、君たち。

 

 その後、金を材木座に渡して、預けてたスタンバトンを教化してもらってたり、色々と武器を借りたり、買ったりしてから装備科から去った。

 

 金一気に減ったな。また任務受けないと。

 

 

 

 

 

 

 

 もう日が落ちかかっている頃。

 

 部屋に戻り、イ・ウーから貰ったコートに武器を動きが邪魔にならない程度に装備する。

 

 左の内ポケットに、マガジン×3。

 右の内ポケットには材木座から貰ったマガジンとその他色々。

 左袖に作ったポケットにはスタンバトン。

 ベルトの裏側にはナイフ。右にはファイブセブン。左にはワイヤー銃。他に材木座から借りた物も詰め込む。

 

 ………それと、ネックレスになっている璃璃色金を首にかける。

 

 これで充分かな。ジャンヌに屋敷の場所教えて貰ったし、もう終わった時間帯だろうな。様子でも見に行こうか。

 

 そう考えた俺は武藤に連絡して、バイクを借りた。VTRとかいうバイク。

 

 確かアギトが乗ってたバイクだよな。走行中に変身しようとした所で、氷川さんにスピード違反でキャンセルした場面は笑った。

 

 1年の時に武藤と遠山とバイクは私有地で散々乗ったからな。そりゃスゴい上手ってわけではないが、高速で走れるくらいには運転できる。免許は取ってないけど、武偵免許見せればどうとでもなる……はず。

 

 と、いうわけで、バイクに乗り、屋敷のある横浜まで向かう。

 

 しばらく走って横浜に入ったところで、携帯が震えたのでコンビニで一旦止まる。

 

「ジャンヌか。どうした?」

 

『理子たちがブラドと接触した』

 

 …………は?

 

「どこでだ!!」

 

 つーか、いたんかい!

 

『横浜ランドマークタワーの屋上だ』

 

「すぐに行く!」

 

 ………あれ?なんでジャンヌは位置が分かったんだろう?今はいいか。

 

  

 

 スピード違反なんか知らずにバイクを走らせて横浜ランドマークタワーに着いた。

 

 勝手に入ってエレベーターに駆け込み、屋上を目指す。

 

 最上階に着いたエレベーターから降りて、走って、屋上の扉を開けようとした瞬間――

 

 

 

 

 ビャアアアアアアウヴァイイイイイイイイイイイ――――――――ッ!!!!!

 

 

 

 

 俺の耳に入ったそれは………恐らくナニカの咆哮か。

 

 まだ扉を完全に開けきってないこの場所ですら圧される。

 

「くっ!」

 

 思わず扉を閉めてしまう。それでも、衝撃がここまで届く。

 

 ティガレが実際にいたら、こんな感覚なんだろうか、みたいな場違いなことを思う。

 

 とりあえず、どうなっているか確認しないと!………理子、無事でいてくれ!!

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――――

 

 ――――――――

 

 ――――

 

 

 

 

 

 

 ――――や、ヤバい!ヒステリア・モードが解かれた!?

 

 ブラドの咆哮がキンジ、アリア、理子を襲う。

 

 その破格な咆哮の大きさにキンジのHSS――ヒステリア・モードは萎えてしまった。

 

 つまり、キンジは今この瞬間、アリアを含む超人ではなく、ごくごく普通の人間に戻ってしまった。

 

 ――――ど、どうすればいい!?俺は何をすれば………?

 

 ヒステリア・モードなら判断つく状況だが、無理矢理元に戻ってしまったという普段は経験したことのない関係上、焦りに焦りまくる。

 

 その間にも、ブラドは屋上にある電灯の着いてある鉄の柱をもぎ取り、キンジに止めを指そうとする。

 

「キンジ、危ない!!」

 

 アリアが呼び掛けるも、咄嗟のことで反応ができないキンジ。

 

「えっ」

 

 ブラドが柱を振りかぶった時に、

 

「うん?」

 

 低い声で唸る。

 

 キンジやブラドが下を向くと、コロコロ………と、黒い何かが転がっている。

 

 それが何かを瞬時に判断したのは強襲科に所属していたキンジと現強襲科のアリア。遅れて理子。

 

 この3人は一気に目を伏せる。

 

 そして、

 

 ピカァァァ――――!!

 

 と、辺り一面が輝き、白く染まる。

 

 武偵弾である閃光弾よりも単純な光は強く、武偵弾には劣るがコンパクトな手榴弾型の閃光弾。

 

 ブラドはその光を直接見てしまう。

 

 ブラドは暗い場所に慣れている。そして、今、辺りは暗かった。そこに入る突然の光。

 

 柱を落とし、手で目を押さえながら後退する。

 

 これを投げた人は誰なのか確認しようと見渡すキンジ達の耳に……カツン、カツン、と足音が聞こえる。発生源を見る。

 

 そこには――――

 

 

 

 

 

「ここかぁ………祭の場所はぁ………?」

 

 

 

 

 

 

「ひ、比企谷?」

 

「えっ、八幡!?あんた何でここにいるのよ!!」

 

「ハチハチ………よりにもよって、なーんでその台詞を選んだの?」

 

 いるとは思わなかった男がいた。八幡は3人に近づく。

 

「神崎の質問に答えると、ちょっとした依頼でやって来た」

 

「……ありがとね」

 

 その言葉の意味を察した理子は嬉しそうに微笑む。

 

「おう」

 

「で、ハチハチは浅倉好きなの?」

 

「どっちかって言うと手塚派だな」

 

「ならなんでその台詞を?」

 

「気分」

 

 するとアリアが、

 

「あんた達何の話をしてるのよ?」

 

「仮面ライダー」

 

 八幡が呟く。アリアはよく分からない様子だ。

 

「ねぇ、ハチハチ。知らなさそうだし、アリアに龍騎勧めてみようか?」

 

「あれが初っぱなはキツいだろ……」

 

「じゃあ、電王?」

 

「ストーリーが初見では難しいわ」

 

「あー……確かに私でもハナさん関連で理解するのに大分時間かかったよー。だったら、話自体は分かりやすいし、面白いしオーズにしようか?」

 

「オーズは名作だけど……主人公の闇が深い。見るなら、2番目くらいに勧めたいな」

 

「アマゾンズ!」

 

「それ初見に勧めるのは一番アカン奴!!………いや、めっちゃ面白かったけど。つーか、脚本が小林靖子さんばっかじゃねーか」

 

「あ、分かった?」

 

「そりゃ分かるわ」

 

「そ、それより、比企谷。お前こいつのこと知ってるのか?」

 

 と、話している内に、キンジが話しかける。そこで八幡は今のキンジがヒステリア・モードではないことに気づく。

 

 とりあえず八幡が答えようとした時、

 

「………ッ!」

 

「うっ!!」

 

 八幡が息を呑み、キンジは呻き声を上げる。

 

 視界がある程度回復したブラドが八幡とキンジを狙い、腕を振り下ろし、叩きつけようとしていた。

 

 すぐさま八幡はキンジの腹を蹴って水泳のターンみたいにその場から回避する。キンジは蹴られて吹っ飛び、近くにいたアリアにぶつかる。

 

「ふみゃ!」

 

 ぶつかった衝撃でアリアの可愛らしい声が響く。

 

 ――――ドスンッッ!!

 

 激しい音がする。その衝撃で床はひび割れていた。

 

 キンジを蹴って転がった八幡は立ち上がり、ブラドに向き直る。

 

「そこのガキ……お前は誰だ?」

 

「俺の中のっ………ゴメン何でもない。それと別に教える義理はないと思うけど……なぁ、ブラドさんよ」

 

 その言葉にニヤッと笑うブラド。

 

「ほぅ……俺の名前を知ってるのかぁ」

 

「少しだけイ・ウーにいたことあるからな」

 

「「えっ!!」」

 

 予想外の一言にキンジとアリアが驚く。

 

 その間に八幡はブラドを観察する。

 

 ――――あった、白い紋様。……これが魔臓か。

 

 左右の肩、右のわき腹に目の形をした模様がブラドにある。それらを同時に攻撃すれば倒せるらしい。

 

 しかし、

 

 ――――これじゃ、もう1つが分からないな。

 

 ジャンヌの言う通り体にある魔臓は3つしかない。残り1つは見つからない。

 

「なぁ、神崎、理子」

 

 ブラドはまだ完全には視界が回復してないから深追いはしてこない。ブラドから距離を取りながら、八幡は呼び掛ける。

 

「どしたの?」

 

「八幡、あんたねぇ……!」

 

 顔を赤く染めたアリアが文句を言おうとする。

 

「いやー、まさか蹴った先に神崎がいるとは思わなかったから」

 

 棒読みも棒読み。実を言うと、狙えたらいいなくらいの気持ちでキンジを蹴った。

 

 そこで八幡はチラッとキンジの方を見てみる。そこにはさっきと雰囲気がまるで違うキンジが立っていた。

 

 八幡がキンジを蹴った時にアリアとぶつかった拍子にヒステリア・モードになったみたいだ。何があっかは……神のみぞ知る。

 

「比企谷、狙ったのか?」

 

 ヒステリア・モードの発動条件を知っている八幡に小声で尋ねる。

 

「だから、偶然だってば」

 

「で、何の用よ」

 

 アリアに急かされる。

 

「ちょっと遠山と話したいから時間稼いでくれない?」

 

「そんなこと?別に構わないわよ」

 

 アリアは大胆不敵に、

 

「ホームズと手を組むのは癪だけどね」

 

 理子は不敵に笑う。

 

「お前ら残弾は?」

 

「ないわ」

 

「同じくないよ」

 

「俺はそこそこ残っている」

 

 しかし、アリアと理子は互いにマバタキ信号で理子は「1」、アリアは「1」「1」と送る。ブラドに知られないためにわざわざマバタキ信号で答えた。

 

 アリアは両方の銃に、理子はどこかに1発ずつ持っている。ブラドに止めを指すための弾。八幡はそれを理解する。

 

「しばらくこれを使え」

 

 ベレッタM92を2丁をアリアと理子に手渡す。

 

「マガジンは1つだけ。あ、これ装備科の材木座に借りたから……そうだな、()()にでも返しといてくれ」

 

「………明日、か」

 

 理子が感慨深そうに呟く。

 

「これ貸すわ」

 

 その様子を満足げに見たアリアは自分の刀を1本理子に投げる。

 

 それを受け取った理子は、

 

「ねぇ、みんな。………私の名前を呼んで」

 

 ゆっくりと、か細い声で呟く。

 

「はぁ?理子、あんた、とうとう頭おかしくなったの?」

 

 と、アリア。

 

「理子は理子。それはこれからも絶対に変わらないよ」

 

 と、キンジ。

 

「それよりも理子よ、残りのアニメ早く見せてくれない?」

 

 と、八幡。

 

 全員、何気ない口調で『理子』と呼んだ。 

 

「そうだ。私は……峰理子だ!!」

 

 吹っ切れた様子で叫ぶ。

 

「やるぞ、アリア」

 

「足引っ張らないでよ、理子」

 

 そして、かつて宿敵同士だったホームズとリュパンが背中合わせで立っている姿がそこにある。

 

「頼んだ」

 

 それだけ言い残して、八幡とキンジは下がる。

 

 

 まず八幡が、

 

「ブラドの情報を共有したい」

 

「比企谷、それはいいが、後でお前がイ・ウーにいたってこと教えろよ」

 

「構わない。つっても、言えること少ないけどな。で、ブラドに魔臓って組織が4つあってそこを同時に攻撃しないといけない。俺が知ってるのはそこまでだ」

 

「俺も似たようなものだ。もしかしてジャンヌから聞いたのか?」

 

「まぁな。魔臓3つは分かるんだが、残り1つってどこにあるか分かるか?」

 

 八幡の質問にキンジは、

 

「予想は付くが、確証がない」

 

「………それはどこだ?」

 

「舌だ」

 

「舌?」

 

「口に攻撃したら、不自然に庇う動作が多かったから……恐らくだが舌か他の口の組織のどこかだろう」

 

「なるほどな」

 

 筋は通っている、と考える。

 

「でも、間違っていたらアウトだな。警戒されて狙うのが難しくなる」

 

「だから、確証が欲しい」

 

 フー………、と深呼吸する八幡。

 

「それなら、俺の役目だな。顔付近を攻撃してみるから、分かったら、1発適当に撃ってくれ。そしたら、頃合い見てここから飛び降りるから。それを合図にお前らが仕留めてくれ」

 

 キンジはその一言に目を丸くする。

 

「飛び降りるって……死ぬ気か?」

 

「そのくらいなら大丈夫」

 

 ケロッと答える八幡に、その言葉に嘘はないだろうとキンジは判断する。

 

「よし、それでやってみよう」

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 さてと、ブラドに攻撃するとは言ったはいいが、どうしようか。

 

 ブラドに近づいてみたはいいが、神崎と理子がいい感じにヒット&アウェイで攻撃している。

 

 入る隙間がねぇ………。

 

 遠山は……後ろでタイミングを窺っているか。

 

 とりあえず攻撃手段は決めた。上手く成功するかはさておき。何とか隙を………。

 

 お?どっちもどうやら俺が渡したベレッタの弾が切れたみたいだ。

 

「下がれ!」

 

 それを機に、俺が叫ぶと、2人は散らばる。

 

 そこで、俺はコートから手榴弾を取り出す。閃光弾とかじゃなくて、ただの爆弾だ。授業の演習では使ったことあるけど、実戦は初めてだ。

 

 ピンを抜いて、すぐにブラドの顔を狙って投げる。神崎が後退しながらも上手く気を引いてくれてたから、すんなり当たった。

 

 ドゴォォン!!

 

 見事にタイミング良く爆発し、ブラドはその衝撃からか後ずさる。

 

 ………あ、HSSの遠山でもこの暗さとこの爆風だったら、舌に魔臓があるか確認するの難しいな。

 

 そう思ってたら、

 

 ――パァン!!

 

 遠山がブラドの目に発砲する。

 

 確認できたのか。ということは、遠山の予想通り舌に残りの魔臓があったってことになる。

 

 次は……どのタイミングで飛び降りようか。できれば、ブラドの意表を突くタイミングがいい。

 

「ガキが……死ね!!」

 

 ――って、ヤバッ!!

 

「うっ」

 

 一瞬でこっちの方に来たブラドの裏拳をモロに喰らってしまう。

 

 咄嗟に裏拳と同じ方向に跳躍はしたが、威力と勢いは殺しきれず吹っ飛ぶ。それはもうメッチャ吹っ飛ぶ。

 

 そして、当然着地できずにビルの屋上から落ちてしまう。

 

 

 ………わぉ。

 

 

 景色が遠ざかる。でも、思考はクリアだ。

 

 ランドマークタワーとの距離は大体5、6mか。

 

 いやー、烈風使えてよかった。使えなかったら、確実に死んでたわ。

 

 下から風を起こした烈風で落下を少しでも和らげ、ワイヤー銃をランドマークタワーの壁――ガラスに向けて発射する。

 

 落下しながら+初めてで狙うのは難しかったが、何とかガラスを破って突き刺さり、ワイヤーの先はどこかの淵に引っ掛かる。

 

 おお、ちゃんと固定されている。

 

「ちょ、うおっ!」

 

 安心したのも束の間、固定した部分を支点にターザンみたいな感じでビルに一気に近づく。

 

 このままじゃ結構な勢いでぶつかる。が、そこまで固くないガラスのお陰か、その勢いを乗せたターザンキックでパリィィンとガラスは割れた。

 

 割った瞬間に、引き金を引き、固定したワイヤーを解除する。俺はそのまま転がる。

 

「いって………」

 

 そういや、落ちてる最中に雷鳴が聞こえたせいで銃声は聞こえなかった。けど、どうせあいつらならどうにかしているだろ。

 

 

 

 ブラドの攻撃のダメージも残ってたし、しばらくボーッとしている。

 

 そしたら、遠山からメールがきた。

 

『ブラドは倒せたからなー。先に帰っておく』

 

 へー………流石。つーか、軽っ。

 

 どんな感じで倒れてるんだろう。あとでブラドの様子を見に行くか。

 

『了解。俺はのんびり帰るわ』

   

 それだけ返す。と、ここで充電が切れる。ジャンヌとも電話したかな。仕方ない。

 

 あ、この割れたガラスどうしよう。ワイヤー引っ掻けた上階の分と、今ここのフロアの分と………うん、知らない!ここの関係者には悪いけど。

 

 

 

 それから5分経ち、エレベーターに乗り直し、最上階に着く。

 

 屋上の扉を開く。

 

 念のため足音を立てずに気配を消しながらブラドを探してみる。

 

「お」

 

 すぐに見つかった。

 

 うわっ、鉄柱の下敷きになってるよ。いたそー……って………は?

 

「…………え?」

 

 思わず声が漏れる。

 

 ちょっと待て。何か……違和感がする。

 

 あいつ、動いてないか?手に何か持ってる。あれはもしかして……注射器?

 

 それをブラド自身に射した。

 

 すると、何やら赤い煙をたてて、

 

 

 

 

 

 

「くっそが……」

 

 ブラドが軽々しく鉄柱退かして立ち上がった。

 

 

 

 

 

 …………マジかよ。

 

「あ?さっき吹っ飛ばしたガキか」

 

 ブラドが動いた時に隠れようとしたけど、遅くて見つかった。

 

「………お前、今、何をした?」

 

 どうにか平静を保つためにゆっくりと俺は目の前に立つ。 

 

「特性の薬打ったんだよ。体のあらゆる細胞を一時的に増幅させて活性化させるやつをな。そこから無理矢理魔臓を回復させたってわけ。ま、試作品だから1個しかないけどよ」

 

 うっわ、マジだ。魔臓戻ってるよ。

 

「ああ!思い出しただけでもイライラしてくる!!4世ごときがっ!所詮は繁殖用牝犬(ブルード・ビッチ)のくせに!!」

 

 …………これは聞き逃せないぞ。

 

 

 

「訂正しろ。理子を4世と呼ぶな」

 

 

 

 自分でも驚くくらい低い声が出る。殺気が溢れる。

 

「バカか。あんな出来損ない、名前で呼ぶ価値ねーよ」

 

「うるせぇ………自分の価値は自分で決めるもんなんだよ。それでこそ意味がある」

 

 ………頭に血が昇る。ここまでキレたことはないな。

 

 ダメだ、冷静になれ。まずは遠山に連絡を。あ、電源切れてるじゃん。

 

「まずはガキ、お前を殺す。その後にでも4世を檻に戻すとするか。ハハッ、4世の未来は俺のモノだからよ……逃げれるわけないよなぁ」

 

 イチイチ、本当に癪に触る野郎だな。

 

「もし理子の未来がお前のモノなら、俺が奪い返してやる。………そう簡単に奪えると思うな」

 

「できるのかぁ?たかが人間が」

 

 ブラドは俺の言葉なんか意に介してないような口調だ。

 

 でも、俺は武偵だ。そして、武偵には武偵憲章とかいう物がある。その中から今回は2つ、当てはまる。

 

 

 武偵憲章2条:依頼人との約束は絶対に守れ。

 

 武偵憲章8条:任務は、その裏の裏まで完遂すべし。

 

 理子の依頼はブラドが現れた時には絶対に駆けつける、だった。 

 

 だから、俺はここに来た。ブラドを倒さないのは理子と一緒にいた遠山たちだ。

 

 だが、こいつは復活しやがった。これが武偵憲章の『裏』ってところか。

 

 俺は来ただけで何もしてない。

 

 だったら、約束は守らないといけないな。今度は俺の番だ。

 

 もう理子の前にこの姿を見せてはいけない。理子がこれから心の底から笑って、生活できるように。

 

 ――――ここで、ブラドを倒す………いや、殺す。

 

 

 

「任務を開始する」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




この展開、書き始めてからずっと書きたかったんですよ。色々思うことあるかもしれませんが、許してくださいm(__)m



▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。