今、俺こと比企谷八幡はイ・ウーのとある部屋の一室にて小学生、よくて中学生くらいの女子といる。
「自己紹介始める?」
その女子はブロッコリーのサラダを食べていると、急にそんなことを言ってくる。
「お、おお」
「じゃあ、私から。私はセーラ・フッド」
セーラと名乗った少女は銀髪碧眼。身長は女子中学生といったところか。武偵高のセーラー服ではなく、どこかの学校のセーラー服だ。そして、これはソフト帽かな?それを被っている。
「俺は比企谷八幡だ。……どう呼べばいい?」
「セーラで。私は八幡って呼ぶ。ヒキガヤ?は言いにくい」
何でだよ。そんなに呼びにくいか?………はっ、もしかしてシャーロックの入れ知恵?……そんなわけないか。
「それで、話は聞いてる。八幡は、超能力のことをどのくらい知ってる?」
ブロッコリーを咀嚼しながら聞いてくる。食べるか話すかどっちかにしなさい。
「全く知らん」
即答する。
そしたら、セーラは深く深くため息をつく。めんどくさそうだな、おい。
「わかった。基礎的なことを教える」
「お願いします」
なんで俺は敬語を使ってるのか?
「まず、超能力は属性は70以上ある。相性の良い悪いのが激しい。
あとは日によって力を発揮できるか変わる。天気みたいにね」
なるほど。よくあるゲームみたいな5属性とかではない。雨が降るみたいに使える頻度は変化するということか。
「そして、超能力にはその強さに応じてG(グレード)で表記される。例えばイ・ウーでかなり強い人ならG25とかね。ちなみにジャンヌはG6~8」
要するにその数字が高いほど強い超能力が使えるというわけか。
「でも、高ければ高いほど有利でもない」
「というと?」
「超能力は自分の精神力を使う。Gが高いと早く精神力を消費する。長時間の戦闘は向かない」
ふむ。ゲームとかでいうなら、一撃で消費するMPが多いということか。精神力の上限はセーラの話を聞く限りそこまで差はないかな?
「へぇー。あ、セーラはどのくらい?」
「教えない」
そうですか………。
「ここから本題だね」
セーラはブロッコリーを食べ終える。そしたら、俺の方を見る。やだ、恥ずかしい。
じっくり見ること数秒。うなずくと、
「八幡は使えるよ」
お、嬉しい話だ。ただどのくらい使えるのか。
「ありがと。セーラは風速は最大どのくらい?参考程度に教えてくれ」
「私?私は風速50m以上」
しれっと言うが、確か台風で大体風速15m/sからだよな。いや、強すぎるだろ。
突然セーラが、
「ただ」
「ただ?」
「八幡はそこまで扱えないよ。多分だけど、Gは高くない」
………まあ、そんなには期待してないけど。でもセーラが言うけど、実際はどんなもんだ?
「銃弾の対処はできる?」
「それはやってみないとわからない」
うーん。だよなー。
「じゃあ、早速行くよ」
セーラは立って、移動を開始する。俺もそれについていく。
「てゆーか、教えてくれるんだな」
「教授の頼みだから」
わかったことがある。セーラ、ふてぶてしい。生意気。まるで俺のアミカみたい。
…………ってあれ?今さらだけど、もう年越しているな。ウソだろ。ああ、小町に会いたい。なんで今年一発目に会う奴らがこんな超人なんですか?
思えば、この1年濃い時間を送ったな。
武偵になって、
初めて銃を持って、
蘭豹に投げ飛ばされて、
レキに殺されそうになったり、
夏休み最終日に黒歴史作ったり、
留美と強盗犯を捕まえて、
レキと夜のお台場。
…………極めつけのイ・ウーに誘拐される。
こうして振り返ると波乱の1年だったな。でも、この1年の方が、波乱になりそうな気がする。
俺とセーラは廊下を歩いている。歩きながら、セーラは俺の顔を無言でジーっと見ている。
……何か顔に付いているか?つーか、そんなジロジロ見ないで。恥ずかしい。……これさっきも思ったな。
「何か付いているのか?」
さすがに耐えきれなくなった俺が尋ねる。
「………別に。八幡はいつ死ぬのかなって……すぐには死ななさそうだけど」
何か1人でしゃべって、勝手に自己完結させている。いや、その前に死ぬってなんだ?縁起の悪いこと言うなよ。
暇だし、ここは情報収集でもするか。
「そういえば、ここイ・ウーは、シャーロックやジャンヌ、峰理子と……シャーロックは違うな…まぁいい。誰かの子孫が多いけど、セーラもそうだったりするのか?」
ただの世間話だと思ったらしいセーラはうなずくと、
「ロビン・フッド」
そう答えた。
これまた聞いたことのある名前だな。確か、弓の名手であることが有名だ。あとは義賊みたいな感じか?
何だか、俺の知り合いが恐ろしいことになってきた。
「だったらセーラの主武器も弓?」
「さあ?」
曖昧な返事をしやがって。でも、声色からしてその可能性はある。これで1つ情報が増えた。セーラの武器は恐らく長距離だな。
「私から質問」
今度はセーラか。
「何だ?」
「日本の野菜はおいしい?」
そんなことか。ブロッコリー食べてたし、菜食主義者なのか。
「そりゃ上手いものは上手い。特に取れたては格別だな。そのまま生で食うこともできる。きゅうりとかトウモロコシとかな」
よくある小学校や中学校で行く社会科見学であまり人のいなかった農家を選択したことがある。
その時に食べさせてもらった野菜は美味しかった。
「…………そう」
声は穏やかだが、どこか俺に対し、羨ましさが交ざっている。そんなに野菜が好きなのか?わからん。
で、そのまま歩くと、シャーロックと戦ったホールまで来た。
「じゃあ、練習始めようか」
その瞬間、セーラを中心に風が巻き起こった。…………スカートめくれてパンツ、チラッと見えましたよー。
ーーーー1週間後。
「私はこれから仕事あるからこれで終わり。あとはわからなかったら、連絡して。教えるから」
そう言って、師匠であるセーラは去っていった。どうやら今、イ・ウーはヨーロッパ辺りに停泊しているみたいだ。
えっ?修行過程を飛ばした理由?
そんなもん、作者が超能力の修行の仕方を知らないのがイケないんだよ。本編にはホンの少ししかなかったし……………え、これ何の話?作者って何?本編って何?
……まあ、この話は置いとこう。
練習風景の一部抜粋。
セーラやジャンヌが言うには、俺のGは3。操れる範囲は最高半径4mである。ショボいぞ俺。でも、長く超能力使えるらしいそれはそれでいいか。
ちなみに風速はまだわからない。が、20m/secはないらしい。でも、上手にいけば、台風並の風速は起こせるらしい。
そして、風を完璧に操れるようになると、空気をクッションにして、跳べるとのことだ。
空中機動が可能になる。これは、極めればすごい便利だ。
しかし、俺はそこまで辿り着けるか怪しい。今の俺は俺を中心に威力の小さい竜巻を起こせるレベルだ。
「超能力を使うには、イメージが肝。自分の周りを自分の体の一部と思い扱う」
と、セーラは言っていた。それだけのイメージ力が必要になる。……恐ろしい。
俺だってイメージは得意だ。厨二病を患っていた時期もあった。妄想じゃないよ。あくまでイメージだからな。そこのところ、勘違いするなよ。………言ってて悲しいな。
これ特に練習風景じゃないな。説明じゃん。
また、休憩中では。
「一部の超能力者は超能力を使うために、色々あるけど、原動力がある。ーー能力を使うと、体から何か消費する。そして、その消費したものを摂りたくなる。私はブロッコリー。……八幡はどう?今何が食べたい?」
「俺は………飲み物だけど、MAXコーヒーかな?」
「……ああ。あの甘ったるいもの。あれはコーヒーとは呼べないと思う」
「バッカ野郎。人生苦いことばかり、コーヒーくらい甘くていいんだよ」
「あれはコーヒーじゃない。原材料名を見ると、最初に加糖練乳が来てる。コーヒー入り練乳と考えるべき」
「それは、そうだが………」
「私の勝ち」
と、どや顔をしてくる。可愛いと思うが、ウザい。つーか、何の勝負だよ。意味不明だ。
「話を戻すけど、八幡の場合はそのMAXコーヒー。糖分かカフェインかはわからないけど、それを常備しておくこと」
セーラがブロッコリーばかり食べてることは意味があったのか。
「わかった」
俺と同時にセーラは立ち上がると、
「じゃあ、練習再開しようか」
「ふべっ!」
その瞬間、突風に吹き飛ばされ、壁にすごい勢いで激突した。
受け身はできたが………痛い。
セーラに教わって1週間で使えるようになった。………しかし、使えるといっても半径は10cm、風の威力は空のビニール袋が転がるレベルだ。
こんなのでは到底太刀打ちできない。セーラには鼻で笑われた。腹立つけど、言い返せない俺がいる。
そして、セーラはやはり弓を主武器としている。実際見せてもらったが、500m離れて的の中心に、それも連続で寸分違わず当てていた。
風を操って矢の向きも変えれると言っていたし、これはレキを越えてるだろ。
まあ、セーラがいなくなったけど、超能力に関してはジャンヌも使えると聞いたし、他に峰理子がいる。そいつらに聞けばいいか。ジャンヌなら親切に教えてくれそうだな。
セーラがいなくなってから、さらに2週間過ぎた。
俺はセーラに言われた通りに超能力の練習をしていた。時折ジャンヌに教わり、順調?に進んだ。
今となっては空のビニール袋を空中に浮かすことができる。………………これでも成長したんだよ?
他には、カナに見せてもらった「羅刹」という技をノーモーションで繰り出せるように練習中だ。
俺の超能力がどこまで伸びるかはっきりしていない状態なので、自分でもできる限りのことはやる。
もちろん、それは1日の少しだけだ。せいぜい3時間。あとは惰眠を貪っている。
イ・ウーに来てもやることは対して変わってない。
しかし、俺には気になることがある。
それはーー峰理子についてだ。
ジャンヌから峰理子の過去を聞いた。それはもう壮絶な過去を。俺の過去も相当だと思った。けど、比べ物にならない。
何を以て、今日まで過ごしたのか。それを知りたい。そして、これからどうするのかを。
………………どうして、そんなことを感じたのかはわからない。理由を説明できない。
でも、あの時の言葉。
「それじゃ意味ねぇんだよ!!」
それまでは俺がどうかしよう、という考えには至らなかった。でも、あの叫びを聞いてから、何か、俺の考えが変わった。
特に助けたいというわけではない。俺なんかが、助けになるとは到底思えない。そんな簡単に救えるとは、峰理子の心が解放されるとは思えない。
決して、それは恋心ではない。
それでも………俺は知りたい。
そして、知って、峰理子と俺の初めての……になりたい。
そう思った。
あまり話したくない毒使いに毒を吐かれながら夜飯を食べて、もう寝ようと部屋に戻ろうとする。
食堂を出て、廊下を歩いていると、曲がり角で俺を待っていたらしい人物がいた。
「ハチハチ。時間いい?」
どこか暗い表情をした峰理子だ。
「ああ……」
メリークルシミマス