おかしいな。
ここ最近比企谷を見かけない。あいつどこか出掛けるって言ってたけ?
いつもの比企谷なら、外に出るのはタルいとか言って休日は基本引きこもっている。しかし、俺が部屋に籠っている間に姿を消した。
大晦日から実家に帰るとは言っていたが。まだ29日だ。
「教務部にでも聞くか」
携帯を取り出し、武偵高に連絡する。
『はーい、もしもーし。ここは武偵高教務部、蘭豹や。誰や』
不機嫌そうな蘭豹の声が聞こえる。
「遠山キンジです」
『ん、遠山かー。お前どうした。というより大丈夫か?』
「はい。少しは落ち着きました」
もちろん、まだ心の整理はついていない。でも、あの時よりかは冷静だ。
『ほぉー。それで、何か用事かー」
「あ、その、比企谷について何か知りませんか?ここ最近見かけないんですが」
『あーー、比企谷。あいつなぁ。それならこの前に3月の中旬ぐらいに戻るって連絡あったわ。まあ、あいつは成績ええし、出席日数も足りてるし大丈夫や』
「それで、どことは言ってましたか?」
『……うーん。それは言ってなかったな』
「ありがとうございます」
『おお』
蘭豹は電話を切る。
武偵高には連絡しているのか。
比企谷はどこかにいるのか。にしても、比企谷の荷物はそのまんまだしな。外泊なら自分の荷物は持っていくよな。
他に知っていそうなのは……。あ、レキなら知っているかもな。よく比企谷と一緒にいるし。
レキに電話をかける。
『はい』
繋がった。
「俺だ、遠山だ」
『キンジさんですか。何か用事ですか?』
いつもの抑揚のない声だ。
「比企谷のことなんだが。どこにいるか知っているか?」
『私も知りません。八幡さんに連絡しても、音信不通でした。どこにいるのかわかりません』
いきなりレキの声が低くなった。……ちょっと怖い。
『ですが、風と関係のある者にあっていると思います。そう、風が言っているのです』
…………出たな。レキがよく口にする風。このことは深く聞かないことにする。
「情報ありがとな、レキ」
『はい、キンジさんもお元気で』
俺が通話を終了しようとした時に、
『次会ったら……覚g』
おっと、何か余計な言葉が聞こえた。
………まあ、うん。比企谷、頑張れ。死ぬなよ。
どうせ、いつか、働きたくないとか言って、ひょっこり帰ってくるよな。比企谷だし。
ーーーーーーーーーーー
サヴァン症候群
知的障害や発達障害などのある者のうち、ごく特定の分野に限って優れた能力を発揮する者の症状を指す。
wiki参照。
俺は遠山のことを知ろうと、ジャンヌに尋ねた。そしたら、サヴァン症候群を知っているか、聞かれた。
「ああ。聞いたことはあるが」
「うむ。それならば、話は早い。遠山の一族は代々、サヴァン症候群の遺伝子を受け継いでいるのだ」
ジャンヌがそう話を切り出したから、予想はついてた。だから、特別驚きはしない。
「どんなだ?」
「その、言いにくいとだが」
と、前置きしてから、
「性的興奮すると、思考力・判断力・反射神経などが通常の30倍にまで向上するのだ」
と、顔を赤らめながら述べた。
な、なるほどー、そうなのかーー。遠山すごいなーーーー。………ってなるか!
30倍になると具体的にどうなる?
ジャンヌが言うには……、
思考力は頭が良くなるのか?それとも記憶力?
判断力の場合は、頭と体とのタイムラグがなくなる?
反射神経は、勝手に体が動くのか?
あまり、生物の授業は受けたことは、ないんだよな。俺の頭ではこれが精一杯だ。
「ヒステリア・サヴァン・シンドローム。略称はHSSだ。そして、カナ曰く、遠山キンジの場合、女性優先の思考になり、女性の前ではかなりギザ?な行動をとるそうだ」
ジャンヌはそう付け足す。あと、ギザじゃなくて、キザだからな。それだとピラミッドのある場所になるから。
まあ、だいたいわかった。……ゴメン、ウソです。
もし、それが本当なら、嫌すぎるな。なんだよ。要するに強くなるけど、女性の前でカッコつけるナルシストになるんだろ。絶対嫌だわ。確実に黒歴史を創造するんだろ。
しかも、それになるには、ほとんどの確率で女性の前ってことになる。
なんとなく、遠山が女は嫌いだって言ってたのを思い出した。その理由、わかったよ、何となくはな。
「結局、あれは遠山の兄なの?それとも姉なの?」
遠山のことは少し知れたが、本題はこれだ。
「カナは性別上は男だ」
あれが、ねー。あの絶世の美女が男ね。世の中の女性涙目だぞ。もちろん俺も。いや、……戸塚タイプとするなら納得できる。
遠山兄が男なら、また疑問ができる。
「遠山兄は、なんで女装するんだ?まさか、そういう趣味?」
ジャンヌは首を横に振り、
「HSSは、基本は、その、…性的興奮をキーとして発動するが、人それぞれ、また別のキーがある」
言いにくそうに、顔を赤らめるジャンヌが可愛かったりする。
でも、マジメな話だから、表情には出さない。いわゆるポーカーフェイスを心がける。
「カナは自ら女装して、HSSを発動する。その時は自分が、完璧に女性になりきっているので、自分が男とはわからないらしい」
イマイチわかりにくい。
えーっと、遠山兄が自ら絶世の美女に化けることによって、そのHSSを発動できる。
………何それ、HSSって何でもありなの?
しかも、化けるだけならまだしも、男ってわからない。自分が女になる。……………ピンと来ないな。いや、来る方が異常だよな。
まあ、深く考えず、そういうことだと理解しておく。
「それはわかった。で、なんでここにいる?俺みたいに勧誘でもされたのか?」
「正解だ」
合ってるんかい。
「では、話を変えるぞ。武偵殺しを知っているか?」
あれか。乗り物に、減速すると爆発するぞ爆弾を仕掛けて武偵を殺す。でも、あれって……………
「逮捕されてなかったか?」
「捕まったのは真犯人ではない。……真犯人が誰かは言わないでおくが、そいつがカナを勧誘したのだ」
てことは、その武偵殺しはイ・ウーのメンバーだな。誰だ?ってその前に、
「そのカナって強いんだろ?そんなホイホイついていったのか?」
「カナはイ・ウーでやることがあると、その勧誘を承諾したまでだ」
何か、俺の何かが、キレそうになった。
遠山兄は遠山の現状を知っているのか。
兄という目標を失い、精神はやられ、武偵を嫌いになった。それだけならまだしも、遠山もネットや週刊誌で非難されている。
それを気にせず、なんでここにいる。下がいるなら、責任持てよ。常に目標でいられるようにしろよ。………小町の目標になっているかはよくわからないけど。
「八幡。いいか」
ジャンヌに肩を叩かれる。
「……ああ」
「お前が何を思っているのかは大体想像はつく。私もネットとかを見たからな」
「……すまないが、もう眠い。寝かせてくれ」
もうあまり考えたくないので、わざと大きなアクビをして、話を中断する。
「わかった。今日はもう疲れただろう。ゆっくり休め」
ジャンヌがドアに手をかけたところで、背を向けたまま、
「おやすみ」
と言う。
「ああ、おやすみ」
今日は疲れた。色々ありすぎた。眠気がヤヴァイ。………………ああ。この微睡み最高…………。あと、ジャンヌが、オカンみたい………。
そのまま、俺はベッドに倒れ込んで、意識を手放した。
…………目を覚ました。
まだ海中らしく、時間がわからない。……ってあれ?時間は何を基準にしているんだ?というより、今はどこにイ・ウーはいるんだ?
時間の感覚がおかしくなりそう。
部屋にある洗面所で顔を洗う。そして、制服のブレザーを脱ぎ、昨日もらった黒のコートを着る。
おお、軽い。しかも動きやすい。
体を伸ばしたり試すと抵抗なく動く。
あとは防弾の性能を調べないと。でも、編み目を見る限り、大丈夫そうだけどな。
部屋から出ると、どこに行けばいいのかわからず、とりあえず食堂に行くことにする。
食堂に着いた。
食堂の中に入ると、そこには遠山兄、カナがいた。他に人は見当たらない。
「話、しましょうか」
高い声で、俺に話しかけてくる。
俺は無言でカナの正面に座る。食事を俺の方に引き寄せる。
「1つ聞いていいか」
スープを飲みながら、尋ねる。
「いいわよ」
こいつ、本当に男なのか………。
「あんたがここにいる理由は聞かない。……が、今の遠山の状況を知っているのか?」
「想像はつくわ」
しれっと答える。
「もちろんキンジには悪いと思ってるわ。でも、私もやることがあるの。それにあの子にも成長してほしいしね」
成長……?
「今の遠山を見て、同じことが言えるか?あいつは目標のあんたを失い、しかもそのせいであいつまで世間から非難されているんだぞ」
思いの丈をぶつける。
「そう。……でも、あの子なら大丈夫よ。私の弟だもの。それに私よりもあの子は強い。だから、大丈夫よ」
なんだか、やけに自信のある言葉だな。俺を納得させるような響きだ。
……そう言うならこれ以上は言わない。言えない。人様の家庭だからな。
しかし、これだけは言おう。
「でも……、ちゃんと見届けろよ」
これは上である者の義務だ。
「もちろん」
誰でも見とれるような笑顔で答えた。
「あ、それと、お願いだから、あなたが戻っても私の無事は言わないでね」
「いつかは知るだろ」
「それでもよ」
仕方ない、ここは従うか。あ、そうだ。
「じゃあ、条件いいか?」
「あら、何?」
「俺でもできそうな技を教えてくれ」
そう言うと、カナは少し目を開く。
ここに来たからには色々学ばさせてもらう。じゃなきゃ、誘拐された意味がない。
「いいけど……。どんな技がいいかしら?」
ふむ。
………シャーロックと戦ってからの俺の課題。それは、近接格闘だな。シャーロックに近寄られてから、何もできなかった。あそこで少しぐらい動けたら何かは変わったかもしれない。
「体術だな」
カナはうなずき、
「そうね。なら私の技を1つ教えるわ。……その前にご飯食べちゃいましょう」
「ああ」
場所は変わり、何やら格闘場みたいなとこにいる。
「教えてもいいけど、これ武偵法9条も破る技だから、使用する際には注意してね」
………さらっととんでもないこと言ったぞ。要するに殺人技かよ。
「わかった」
「じゃ、見せるわ」
カナは近くにあるマネキンを目標に見据える。このマネキンはできる限り人間の感覚に近いことになっている。
そして、
「羅刹」
そう呟くと、
ーーーーズドオォォン!!
ノーモーションで右手をマネキンの左胸に掌底をぶち当てる。
それを確認できたのは、カナが殴った後の体勢でだ。手の開き具合から何となく掌底だ。
マネキンはかなり吹っ飛んだ。
「………なにこれ?普通の掌底?」
俺の言葉に首を振るカナ。
「違うわ。これは相手の心臓のある中央、中心にかけて掌底を放つのよ。震動によって、心臓震盪、という致死的不整脈を意図的に起こす技よ」
簡単に纏めると、相手の心肺を強制的に止める技……か。確かにこれは9条破りだ。
……マネキンを見ると、胸の中央、中心がへこんでいる。5cmほど。
とんでもない威力だ。恐ろしい速さでもある。
おまけに、絶対これ横隔膜とかもヤバいだろ。
かなり、器用な、必殺技。
ーー必ず殺す技。
「これは武偵が持っていたらダメだろ」
思わず、そう言葉が漏れる。
「あら、そんなことないわ。だって人と戦うとは限らないじゃない」
さらっと言いますが、何と戦うんですか?崔?ゴリラ?象?
ーーーーあ、そういえば、ジャンヌがブラドを鬼って言ってたな。………人以外と戦うことあるのかな。
「質問いいか?」
「いいわよ」
「カナにはHSSがある。神経を強化できるからこその威力だろ。………俺はどうやって威力を底上げする?」
素直な疑問だ。
「教授が言ってたわよ。風を習う予定でしょ。どこまで使えるかは知らないけど。だったら、それで上手に使って上げなさい」
なるほど。上手いこと使えばイケる。何せ弾丸を弾き飛ばせるほどの風を起こせる。…………言われたように、俺がどこまで使えるか知らんけど。
「あ、八幡」
不意に呼ばれると、カナの手元が光った。と、同時にパァンと鳴り響く銃声と俺の腹に衝撃が走る。
「ぐぁっ……!」
急な痛みに腹を抑える。
ーーが、武偵高のブレザーに比べたらそこまで痛くない。至近距離なのに。例えるなら、蘭豹の本気の一撃から時速20kmのスクーターにぶつかった位まで減った。……………減ってるんだよ?
スゴい。ここまで衝撃を分散してくれるとは。イ・ウー恐るべし。まあ、でも、分散したかわりに体全体痛いけど。
あと、回転弾倉、リボルバーの拳銃のシルエットが見えた。この距離、俺の目があったから見えた。
あのマズルフラッシュは何だ?銃声からして、けっこう古い。
「今の見えたかしら?」
「うっすらとな」
カナは驚いた顔をする。
「へぇ…。じゃあ、原理は理解できたのかしらね」
大方の予想はつく。
「ーー早撃ち、だろ?」
それもとてつもなく正確の、恐ろしいスピード。HSSはここまでできるのか。
「そうよ。…見せた、から」
そう言い残し、カナは去っていく。
その言葉の真意は、
「見せたから、あとは自分で真似でもしなさい」
ってところか。
試してみるが、全然できません。
自動拳銃より回転弾倉の方が早撃ちには向いている。…………うん、ムリ。止めよ。
とりあえずはシャーロック待ちだな。
あれから4日ほど経った。
俺はノーモーションであの動きを再現しようと練習した。こればかりは一朝一夕ではできない。
他には、俺はナイフ、ジャンヌは大型の剣で模擬戦した。結果は俺の全敗。1回だけ惜しいとこまでいったけど。
あと、ここは教え合う場所というわけで、ジャンヌに意識の逸らし方を軽く教えたりした。
あ、あれ?俺、ここに来てから1回も勝ってない。………………みんなおかしいからね。
そうして、俺に超能力を教えてくれる師匠とやらのご対面。
イ・ウーの看板に上がると、そこには留美と同じくらいの身長の少女がいた。それとシャーロックも。
この子じゃないよね?
と、シャーロック目配せするが、シャーロックはうなずくだけ。
マジですか?
なんか、カナとの話し合いがあっさり終わった。
うーん、これでいいかな?
あと教えてほしいことがあります。
皆さんは、暗記科目……主に世界史Bなのですが、どのように暗記しますか?
よろしければぜひ。