更新ペースは落ちます。
「お兄ちゃん、遊びにき・・・た・・・・・・よ・・・・・・・・・」
小町は徐々に言葉を失う。俺たちの体勢を見て、顔を蒼白とさせている。
「お兄ちゃん、いや、ゴミいちゃん、今なら警察間に合うよ?」
まるで、汚いゴミを見るような目で、そう告げる。
止めろ!武偵が犯罪を犯すと、武偵三倍刑といって一般人の三倍の刑罰を食らうんだ。
「小町、君から見たら俺、押し倒されているよね?」
説得を試みる。
「そうだね。まー、お兄ちゃんが女性を襲うなんてしないよね、チキンだし。チキンだし」
こらっ、失礼でしょ。兄にそんなこと言うのは。
「小町さん、大丈夫です。私からしたくてしたので八幡さんは悪くないです」
と、ここで火に油を加えるのはレキ。しかし、以前小町と会った時よりも無表情ではない。
「お、お兄ちゃん、レキさんに何を仕込んだの?前と印象大分違うんだけど」
それに目ざとく気づき、驚く。
「とりあえず、移動していい?」
全員リビングにある椅子に腰をかける。
「ところで小町、なんでここにいるんだ?」
「えーっとねー、武偵高の文化祭に興味あったから遊びにきたの。それでどうせならお兄ちゃん探そっかなーって歩いていたら、遠山さんを見つたの」
「ほうほう」
「お兄ちゃんいますか?って聞いてみてら、部屋で休んでいるって言うから、部屋の場所を教えてもらって乗り込んだってわけです」
なるほどなるほど。ただ単に文化祭に来ただけなのか。
「寮監は?」
「兄に会いに来ましたって言ったら通してくれたよ」
そうか。ならいい。
「ところでなんで今日は文化祭に行かないの?」
「1日でもうほとんど回ったから」
「へー、そうなんだ。ちなみに独りぼっちで?」
「俺を誰だと思ってる。当たり前だろ」
胸を張って答える。
「そこ堂々と言うところじゃないでしょ・・・」
頭を抑え、悩む動作をする。すると小町は何か思い出したように顔を上げ、
「レキさん、こうして会うのは久しぶりですねー」
突然話をすり替え、笑顔でレキに声をかける。
「そうですね、会うのはお久しぶりです」
キョロキョロ2人を見る。その視線に気づいたであろうレキが俺の疑問に答える。
「あれから小町さんとは連絡先を交換して、何度かやりとりをしています」
その言葉に驚く。
「えっ、そうなの?」
「はい」
いつの間に、そんなことを。小町、すごいな。
「とはいっても、他愛のない雑談だけどね」
小町がそう言うけど、レキ、雑談できるの?できないよね?そうだよね?
「それで、お兄ちゃん、今日はもう文化祭行かないの?」
小町が立って、尋ねてくる。
「ああ、さっきも言ったが、昨日で充分だしな」
「なーんだ。それでは小町はまた文化祭に行ってきます」
敬礼をする小町、可愛い、異論は認めん。
そう思っていると、ガシッと足を蹴られた。蹴られた方を向くとレキがなにやら不満そうな顔をしていた。
「痛いんですけど」
ぼやいてみるが、レキの反応はなし。
「んーー?はっ!おーー!ほうほう」
小町は小町で何か納得している。しかも大声で。その顔はイラッとするな。
「もう小町行くね、じゃあねお兄ちゃん」
「ああ」
「レキさん、頑張ってくださいね」
頑張る?何をだ?
「はい」
レキはそれが何かわかっているようだ。俺はわからない。まあ、女子同士の秘密ということにして詮索はしないでおこう。
小町も部屋から出て、今は俺とレキの2人だ。そして、なんか気まずい。理由は言わずもかな。
「レキ」
「はい」
「女子寮の様子はどうだ?」
「確認します」
そう言い、窓から女子寮がある方向を見る。レキは俺の方を見て、
「恐らく大丈夫でしょう」
良かった良かった、これでレキから解放される。
「ですが、まだ人だかりがあります。もうしばらくここにいることにします」
えぇ、マジで?お前は気まずくないのかよ・・・・・・・・・
「こんなとこいて楽しいか?」
思わず口からこぼれ落ちる。少しやっちまったという感じはした。しかし、レキは間髪入れず、
「はい」
と、答える。
ーー少し驚いた。レキが楽しいって思ったことにだ。
その返答に恐らく俺の顔は赤くなっているだろう。なにせこんな真っ正面から言われることは少ないから。
「そうか」
俺はぽつりと呟く。それに対し、レキは、こくり、とうなずく。
いつまでこの状態が続いただろうか。気づけばもう夕方、文化祭も終わりである。生徒がちらほら見える。
それまで俺とレキはずっと無言のままボーッとしていた。それが特別不快ではない。
そこでふと思う。
俺はレキをどう思っているのか、と。
俺とレキの関係をどう表せればいいのか上手く言えない。最初はカルテットでの敵、しばらく一緒に暮らしたことのある人、そして、俺を、俺なんかを助けてくれた恩人。
そこで、俺は再度俺に問いかける。このことに関して、レキをどう思っているのか?
レキは可愛いと思う。客観的に見ても。
もし、レキが他の男と一緒にいたらどう感じる?
そんなの答えは決まっている。ーーそいつからレキを奪いそうになる。
ってことは、俺はレキを好きなのか?・・・・・・いや、俺には好きという感情を理解できない。
だから、わからない。
そんな考えを頭の中で巡らせていると、
「八幡さん、私はもう帰ります。ありがとうございました」
レキが俺の隣にきて、軽くおじぎをする。
「あ、ああ。じゃあな」
「はい、また」
玄関までついていき、レキを見送った。
1年の文化祭は終了した。
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