八幡の武偵生活   作:NowHunt

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あくまで個人の意見です


考えていることを文字に起こすとコレジャナイ感が強い

 あれから少し時間は経ち、人工浮島内にあるカフェへ移動する。客はまばら、席は端の方だ。これなら大声で話さない限り迷惑にならないだろう。

 

 俺らは互いにコーヒーを頼み一息つく。

 

「あ、このコーヒー美味しい。何て銘柄でした?」

「ブルーマウンテン。わりと高級な豆だぞ」

「へー、これが噂の。僕飲んだことなかったです」

「値段はわりと高いぞ」

「奢りですか?」

「まさか。きっちり割り勘だ。俺が飲みたかっただけ」

「えー」

「こういうときじゃないと飲む機会あんまないしな。つーか、お前も稼いでるだろ」

 

 雰囲気が落ち着いたところで本題に入る。

 

「それで、相談って? というよりなぜに俺?」

 

 わりとマジで要領を得ない俺はそう訊ねる。俺ら接点なさすぎじゃない? 間柄で言ったら今の時点でヒルダとほぼ同じだよ?

 

「この前遠山先輩と同じ話をしまして……どうやら比企谷さんが適任と言っていたので、お詫びと一緒に話を訊けたらな……と」

「……? よく分からんけど、どんな内容?」

 

 やはり分からない。

 

 すると、可鵡韋はカバンからPCを取り出した。

 

 そしてどこか言葉を躊躇うように、頬を赤らめ視線は逸らしつつポツリと話し始める。

 

「実は僕、趣味で小説を書いているんです。よく出版社の賞に応募しているんですが、全然結果が振るわなくて一次選考も通らず……遠山先輩にも話した……ことがあるんですが、そのとき比企谷�さんもよく小説を読んでいて詳しいとおっしゃっていて、何かアドバイスを貰えたらなぁ……と思ったんです」

 

 それはスゴい。可鵡韋の言葉を訊いた俺は率直にそう感じた。

 

 実際、本って1冊だいたい10万文字前後だろう。それをよく書き上げているってことだから、かなりの労力になる。口振りからして何回も書いてそうだ。仕事で忙しそうな身でよくやるな。

 

 書いては凹んでの繰り返しの材木座とはだいぶ違う。

 

「ほーん。出版社って例えばどこの?」

「それは――――とかです」

 

 可鵡韋が挙げたいくつかの出版社はラノベをメインで出しているところだ。

 

「つーと、可鵡韋はラノベ書きたい感じ?」

「特に拘りがあるわけではないんだすけど、調べてみると話題になりやすいと言いますか、部数も多いものもあるので少し憧れるなと」

「なるほど」

 

 それは少し分かる。

 

 何だかんだ一般文芸よりラノベの方がメディアミックスなどといった展開で見かけることは多い。漫画化、アニメ化、映画化とかな。別に一般文芸がないとは言わないし、普通に数多くあるが、母数の問題かな。

 

「アドバイスね……。別に俺は小説は書いたことないしあくまで読者視点……それこそ俺の主観ありきになるが、それで大丈夫?」

「もちろんです。お願いします」

「んじゃ、とりあえず今できてるとこを読ませてもらうな」

「は、はいっ」

 

 渡されたPCに開かれたファイルの内容を読む。

 

 読み進めてみる……これはまだ本文ではない。まだプロット段階か。もう1つのファイルは遠山の改善案がいくつか記されている。とりあえずはプロットを読む。

 

 

 ジャンルはファンタジー小説。舞台は雪国。

 

 序盤はゴツい主人公が滅びた敵国のゴツい仮面の騎士を追うシーンから始まり、色々と続いているが……。

 

 やたら文章が難解、堅苦しい印象が残る。起承転結はできているが、前述した文章の難解さのせいでどうも読み進めるのが若干キツい。

 

 ――――現段階ではあまり面白くない、というのが今の俺の率直な感想だ。

 

 続いて遠山の改善案は……敵国の騎士を女性にする。なるべく序盤に騎士を捕らえ、雪山で遭難したところでサバイバル展開にする。そこから協力して遭難を乗り越える……と。

 

 

 

 まだ触りの部分だけだが、何となく可鵡韋の抱えている問題が見えてきた。

 

「どうでしたか……?」

 

 どこか緊張している口調の可鵡韋。

 

 何だろう、漫画の持ち込みとかこういう感じなのだろうかとどこか不思議な感じだ。いや俺は編集者気取りか。材木座には似たことしているけれども。にしても、アイツ、武器イジっては小説書いてとよくやるな……。世話になっている俺が言うのもあれだが。

 

「そうだな……改善前のプロットから話すな。本編の面白さ云々は一旦置いといて……。まずあれだ、今の段階だとどうもラノベの需要と供給が合ってないなってのが率直�な感想だ。ラノベの出版社に応募している割りにはラノベになってないって言えばいいな」

「ラノベになってない……?」

「ざっくり言うと読者層に合ってない。まぁ、可鵡韋も知っていると思うけど、ラノベの読者層って大半は俺らみたいな男性がほとんどだ。それもメインの年齢となると10代後半から20代にかけてってところかな」

「はい。そうですね、書店でも僕と同じくらいの年代の人をよく見かけます」

 

 ラノベコーナーにいる可鵡韋を想像すると少し違和感というか……少し様子を外から見てみたさがある。

 

「だろ? だからこそラノベを書かないといけない。で、今のお前の作品にはラノベとして欠けている要素がある。これは大半のラノベに当てはまる要素だ。そこらが足りないと思う」

「ライトノベルに必要な要素……それは何でしょうか? 普通の文庫本とかとは違うんですか?」

「年齢層が離れたりしているからな。読者が求めているベクトルが多少なりと違う」

 

 文庫本とかだと幅広い年代がターゲットになっていることだってある。とはいえ、これも一部の話だろうけれど。

 

 どんな本を出すにしてとある程度年齢層は絞るだろう。

 

「面白いストーリーは大前提な上に話すと、ラノベに必要なのは――――まず最初に、分かりやすく、そしてカッコ良く活躍する主人公だ」

 

 思わず力説する俺。きっと恐らくメイビー間違っていないはずだ。

 

「これはドラマや映画、少年漫画とかどのジャンルにも通ずることだと思うが……やはり物語の中心は主人公だ。その主人公がそうだな――――例えばろくに活躍しない、したとしても活躍内容が地味過ぎる。そんな主人公だと読んでいて面白くないかもしれない」

 

 何だかんだ主人公がどう活躍するのか気になって小説を読むものだ。それがラノベだろうと文庫本だろうと。そこがおざなりになってしまっては意味がない。

 

「それと主人公の好感度もいるな。あ、この好感度は作中キャラではなく読者からのな」

 

 ここもきっと重要だろう。

 

「主人公がウザいキモい、言動がチグハグで意味不明……敢えて作者がそういう風に書いているわけでもなく、自然とそうなってしまったら、どれだけストーリーが良くても俺はその作品を好きになれない。バトルでもラブコメでも、思わず応援したくなる主人公が重要ということだな」

 

 ぶっちゃけアニメ見るときだって主人公がなんか合わないなーと思ったら続き見る気力湧かないしな。どれだけ話が面白くてもなんかなぁとなる……そこは完全に個人の感性だけどな!

 

 と、話を戻しまして。

 

「次に魅力的なヒロインだ。さっきも言ったようにラノベの読者の大半は男性。時間を割いて読むからには可愛い異性……ヒロインを読んで癒されたいし、魅力的なヒロインがいれば作品の華にもなる。ヒロインの性格は作者の好みだから好きにしたらいいし、寧ろがっつり性癖出していこうぜって思う」

 

 流行り云々はもちろんあるし商業作品なら多少は取り入れる必要はあるけれど、せっかく自分で1からキャラクターを考えるならそこはもう自分の癖を全面的に出してほしい。

 

「まぁ、ラノベの第一印象なんて9割表紙に描かれているヒロインなとこあるからな。いわゆるパッケージ買いってやつ。その観点からもヒロインは重要だわな」

 

 俺が長々と語っている内容を可鵡韋は必死といった表情でメモしている。これで大丈夫?

 

「他にも世界観やら設定やら……そもそものジャンルやら色んな要素が絡み合ってはいるけど、ラノベを書くならその辺をちゃんと意識した方がいいかな。人気な作品ほどそうなっていると思うぞ」

 

 逆にヒロインがあまりいない 登場キャラクターがほとんど男のいわゆる硬派なラノベってある? 思い付かない……。ラノベでないなら普通にあるけれど。

 

 可鵡韋はメモも取り終え一呼吸入れると。

 

「なるほど……勉強になります。たしかに表紙に女の子が描いていることがほとんどですね……。そのためにヒロインのキャラ付けや容姿が重要と」

 

 ラノベならヒロインはより力を入れる必要があると……思う。

 

「先ほど面白いストーリーが大前提と言っていましたけど、どうすれば面白いストーリーを書けますかね? 書き進めるほど、どうすれば面白くできるのか分からなくなってきくるんですよー……」

 

 お前もしかして俺のこと編集者だと思っている? そんなの俺も知りたいよ?

 

「んなの読者の受け取り具合にも依るから何とも……それぞれ好みとかあるだろうし、こうすれば面白くなるって断言なんてできないな」

「では……えっと、比企谷�さんが面白いと思うストーリーにはどんな特徴がありますか? あ、特徴と言うよりどんな要素があれば面白いと思えますか?」

 

 お前は俺にどこまで求めているんだ……。

 

 ちょっと考えよう。面白さ、面白さか……。改めて思い返すと言葉にするのは難しい。

 

「良く言われているのは物語としてちゃんと筋が通っているか……軸がしっかりしているかだな」

「そこがブレてしまっては……というやつですね」

 

 ストーリーとしては散らかりそうだな。

 

「……他にはそうだな、さっきのと似通っているだろうし、これこそ個人的な話にしかならないけど、どれだけ物語に説得力を持たせるかってのが重要なんじゃないか」

「説得力?」

「納得できる理由付けと言い換えてもいいかな。例えばラブコメでヒロインが主人公に惚れる展開があるとして……その理由や過程が今まででちゃんと描写できているか、突拍子がないか……みたいなこれならヒロインは主人公に惚れるなって読者が納得できる説得力が欲しい」

 

 いつの間にか好きになっていました――――が本当にいきなりのいつの間にかなのか、それともそのいつの間にかをしっかり書いているのかだとだいぶ印象が変わるだろう。

 

「バトル系統ならどうして敵に勝てたのか……これこれこういう理由があって勝てました、といった内容を自然と書けているのかとか。理由は後付けで良いと思うし、別に明記しなくてもいいだろうけど。ただ、それまでに納得できる描写があるのかどうかだな。何の伏線や描写もなしにいきなり敵に勝ちました負けましたはさすがにつまらない……まぁ、好みの問題だけどな」

 

 別にそれが大丈夫、面白いといった人たちもいるだろう。個人の感性を否定するつもりはもちろんない。

 

「そういう意味合いでの説得力ってことだ。要するにストーリ上の展開が不自然じゃないか……大丈夫、こんなんで伝わっている?」

「もちろんです! 要するに過程をいかに丁寧に書くかってことですね。どれだけ結果が良くても過程がおざなりになっていたら魅力は半減する。……僕としても非常に納得できる意見です!」

 

 お、おぅ。随分目を輝かせているな。

 

「まぁ、面白さなんて個人の感性だ。それこそ人によって違うからこれが正解なわけでもないんだけどな。あくまで一例、俺の意見なの忘れないでくれよ」

「そのくらい分かってますよ。最初に忠告してくれていましたしね。そ、それで! 他には面白さについて何かあります?」

「他なぁ……」

 

 やたら考えすぎて頭痛くなってくる。

 

「まぁ、設定は予めしっかり練っていた方がいいわな。個人的にはライブ感で話進むよりも設定が固めてある方が好きだな。話の前後で設定が矛盾してあったら、なんか……うん、読みにくい」

 

 ワートリレベルで設定がしっかりしてあるとなお好み。いや、あれは普通に最高峰レベルだが。

 

「それに設定が最初からしっかりしているなら、キャラも喋りやすいと思うんだよな。設定がガバガバならさっも言った矛盾も起きやすいけど……そうでないなら、話していても特に違和感なくストーリーが進行するんじゃない?」

「ふむ……」

 

 またもや真剣な表情でメモを取っている。講義かな?

 

「その設定というのは……世界観とかでしょうか」

「だな。世界観とか舞台設定、キャラの年齢や容姿に性格、他のキャラとの関係性、オリジナル用語の意味――――ざっとこんなところか?」

 

 わりと適当に思い付いたことを喋っているだけなので、それが全てではありません。

 

「それと直接な話の内容とは別になるけど、読みやすい文章を目指すってのはどう?」

 

 一拍置いて話を続ける。

 

「今のプロットを読んでも感じたが、お前の文章はどうも堅苦しい印象がある。頭にスッと入らないって言うか、文章を読んで理解するまでいつもよりラグがあるんだよな。せっかく頑張って書いたのに読者に伝わらなかったら意味ないだろ。読みやすい……伝わりやすい文章に変えていかないと」

 

 漫画だろうが小説だろうが読みにくかったら正直詠む意欲すら湧かないからな。

 

「……そう言われましても急に難しいですね……どうすれば?」

「えーっと、まずあれかな、やたら小難しい単語をあまり使わない……例えばムダに画数多い漢字を使って誤用生んだり、意味が分からなかったりする場合がある。別に全く使うなってわけじゃないけど、そんな文章ばかりだと難解になるだけだ。……とはいえ、お前は誤用に関しては特にしてないな」

 

 ただ誤用していない代わりに小難しい単語はかなり使っている。昔の歴史小説かと思うほどに単語がやたら難解だ。

 

「あとは一文を長々と書かない。句読点でちゃんと区切りを付けるとか」

 

 誰でも簡単にできることであり、読みやすさに関しては重要だと思う。

 

「長い文章は目が滑るときがあるし、目を離したら一瞬どこまで読んだか分からなくなるときもある。だから一休みできる区間を作った方がいいんじゃない? 区切りで言うと段落もちゃんと作った方がいいな。……まぁ、それは言われなくてもできているか」

 

 プロットを読みながらブツブツ話す。

 

 このどこまで読んだか分からなくなるのは、国語の文章題を解くときによく陥りがちになるな。時間が決められているから焦るときがある。

 

「あ、文章と言えば、ライトノベルって一人称視点の文章が多いですけど、どっちがいいんですかね? 僕は三人称視点で書いてますけど、傾向的に一人称の方が良いのかなって」

 

 ふむ、地の文についてか。

 

「それこそ作者の好みだろ。別に何を選んでも問題ないって。それぞれメリットあるんだから何使ってもいいだろうよ。強いて言うなら作風やジャンルに合わせりゃいいと思う。……たしかに言われてみれば一人称の方が多い印象だな。全然気にしてなかったわ」

 

 ラノベに限ると個人的には一人称の方が読みやすさはある。なんでだろ? 好みの問題?

 

 可鵡韋と一緒に言葉にしてみるか。

 

「メリットですか。一人称だとそのキャラクターを通じて目の前の光景を描写を詳しく書けるということですか」

「それも当然あるけど、どっちかって言うと心情の方が比重デカいんじゃないかな。そのキャラの視点だから三人称より詳しくそのキャラ……まぁ、だいたい主人公か。主人公が何を考えているか何を思っているのか読者に伝わりやすい……と思う。主人公の考えてることが分かれば、好感度云々とかに繋がるんじゃないか?」

 

 やはり思考が分かったならば、感情移入もできる、共感もできる。そういう意味合いで読みやすいのだろう。

 

「なるほど……。逆に三人称視点のメリット……客観的に情景を書けることになりますかね。主人公だけに囚われない、広範囲でストーリーを描けるような……」

「だなー。いわゆる神視点だから事実を書けるってのは強みだな」

 

 ミステリー小説とかによく使われている印象。逆にミステリーで一人称視点は向いていないと思う。

 

「あとは何だろ、主人公だけじゃない、色んなキャラにスポットを当てやすいとかか。主人公視点だけだと話を広げにくいことはきっとあるだろうし。でも、やりすぎると視点があっちこっちに行って分かりにくくなるかもな」

「たしかに一人称視点だけだと、あくまで主人公の視点ありきでの印象で語ることになりますね」

「一人称でもやろうと思えばやれるぞ。その場合、行間空けて別キャラに視点変更でもすればいいんだけどな」

 

 エロゲで言うところのアナザービュー。

 

「主人公はこのときこう思っていたけど、実際このキャラはこう感じていましたよ……的な感じか。ただ三人称視点ならイチイチそんなことしなくてもいいわな」

 

 三人称でも人の心情やらは書けると思う。

 

 ――――彼は○○を見てこう思っていました。

 

 簡単な例を挙げるとこういう風に。ちなみにこのような文章を三人称一元視点と言うらしい。

 

「比企谷さんはどちらが好みですか?」

「ラノベ読むなら俺は一人称かな。やっぱ主人公に感情移入や共感したいところはある。主人公の思考が分かればそうしやすいし」

 

 あ、何となく分かった。一人称が好みなのはエロゲもだいたい一人称視点で進むからだ。ラノベもエロゲも進める感覚的には同じなんだ。馴染みがあるというか三人称だと違和感あるとでも言えばいいか。

 

 あと個人的一人称の一番良いところは文字数稼げるところだぞ(小声)

 

「でも、お前の作品なら三人称の方が向いてそうだな」

「さっきまでの話を踏まえますと……うーん、僕もそう思いますね。でも、結論を出すのは早いと思いますし、また色々と試してみます」

 

 たしかに何が良いかは現時点で判断できないしな。

 

「それらを踏まえて……遠山の改善案と合わせて可鵡韋の書いた小説を見ていくけど……なんなあれだな、本題に入るまで随分話が長引いたな。悪い」

「いえいえっ、そんなことないです。寧ろ参考になる話ばかりでした!」

 

 本当に? ここまででけっこう文字数使ったよ? 何を言っているんだ俺は。

 

「主人公やヒロインの設定は改めて練るとして、やはり序盤でどんなキャラか分かる見せ場がほしいかな。……でも最初は主人公が雪山を進軍してヒロインと戦う。これだけだと少しやりにくいか」

「最初に分かりやすい、主人公やヒロインの活躍を書いて興味を引いてもらうということですね」

「そうそう。あー、別に絶対じゃないからそこは好きにしたらいいけどな。活躍できるかどうかなんてジャンルに寄るだろうし」

 

 ミステリーだと主人公の活躍はどうしても終盤になるかもしれない。謎を解く展開は恐らく最後の方になりがちたわろう。

 

 バトル系統なら最初に敵を倒すシーンで活躍を描けることはできそうだ。ウィザードやビルドみたいに。

 

「序盤のサバイバル展開でどちらも魅力を書ければいいだろうな」

 

 雪山でのサバイバル――――考えただけで俺はしたくない。

 

「こうして見ると遠山の改善案は普通に良いんだよな」

 

 いくらでも面白くなりそうな要素がある。

 

「女性騎士……ヒロインがいるという、先ほどの話に当てはまりますね」

「それもあるし、雪山でのサバイバル展開ってのが良い。序盤でムリに活躍シーン書けなくても、ここで主人公やヒロインのキャラ作り……積み重ねができそうだしな。上手くやれば主人公の見せ所になるかな? サバイバル知識が豊富な主人公がヒロインを助けてもいい。敵対関係の中互いに協力して大きな障害を乗り越えるのもいい。これらからラブコメ展開にもできそうだ」

 

 無人島に取り残された敵対関係の主人公とヒロインとかも面白そう。と、今は関係ないな。

 

「もしヒロインの出身が滅びた敵国ではなくて、まだ国同士戦っていたら、雪山サバイバルを乗り越えたあとも色々な展開にもできるな」

「……!」

 

 …………なんか可鵡韋がまたもや目を輝かせている。これはいくらか言った方がいいだろうか。パッと思い付いたことは話してみるとしよう。

 

「例えば……久しぶりに再会したと思ったら2人の立場は前の関係……敵対関係に戻っている。しかし、雪山での記憶や経験は忘れられない。芽生えた恋情と戦わなければいけない使命、それらに苦しむ主人公とヒロイン。ロミオとジュリエットのような関係にも……」

 

 完全に俺好みですはい。

 

 ブラック・ブレットの蓮太郎とティナみたいな関係性好きです。最初はお互い敵対関係だと知らなかったけど日常を通じて仲良くなった。しかし、お互い敵だと判明し戦わなければならない展開ならなおさらだ。

 

 あの戦っている相手が蓮太郎と知ったティナの表情がマジで好き。他にも似たようなのなあったら教えてほしいまである。

 

 ここまで話してふと思い当たる。

 

「――――と、悪い。なんか話しすぎたな。これはお前の作品なのに俺が口出ししすぎるのも良くないな」

「いえいえ、充分すぎるほど貴重な話を聞けました。それに作者と編集者が展開について話し合うのはよくあることですよ」

「いや俺編集者じゃないからね……」

 

 勘違いしてない? 本業はバリバリ武偵ぞ?

 

「しかし、比企谷さん本当にスゴいですね。まるで編集者と見間違えるほどですよ」

「普段似たようなことやっているんだよ。お前みたいに小説書いて感想訊かせてくれって言うやつな」

 

 ネットで悪口書かれるのが嫌だからとか言っているが、俺も散々酷評している。その両者にどんな違いがあるのか俺には知らない。

 

「へぇー! 経験があるんですね。道理でアドバイスが的確だと思いましたよ」

「まぁな。アイツもアイツで素直にアドバイス受け止めてくれたらなぁ。……と、こんなもんで大丈夫か? さすがにこれ以上はもう話すことないんだけど」

「はい! ありがとうございました!」

 

 元気よい礼。恭しく頭を下げる可鵡韋。

 

 あの夜戦った相手だとは思えない。没頭できるほどの趣味もある、あんな血生臭い職業を除けばよくいる一般学生と変わりない。

 

「――――」

 

 ……ふと感じる。俺より年下、しかして強者。……なぜ旧0課に所属しているのだろう。どういう経緯があったのだろうか。

 

 まぁ、完全に個人の事情になるから深くは問えない。

 

 若くしてあのような組織にいるからには何か遂行したい目的があるだろうと推測できる。それこそ、それは普通に暮らしていれば絶対に叶わない目的、願いなのだろう。

 

 もしそんな覚悟があればの話になるけど、その目的のために自身の命を懸けている可能性もある。

 

 そんな人がいれば、優しい奴はそんなの止めろと諌めるのかもしれない。

 

 とはいえ、屈強な願望を持っている人をムリヤリ止めたとしても、今後の人生きっと振り払うことができない後悔が付き纏う。ジーサードのときも思ったことだ。やるだけやって諦めがつくまで進めば良い。

 

 しかし、何もせずただ見逃し、もし目の前の彼が亡くなったとしたら、夢見心地があまりにも悪い。この相談事で、俺たちはもう知り合ってしまった。今度はこちらに何もしなかったという後悔が生まれるだろう。

 

 可鵡韋を強く止めるつもりはない。俺には彼の事情を知らない、これ以上深く知るつもりもない。

 

 ただ――――何てことのない、明日また遊ぼうと子供が言い合う程度の、未来の約束をすればいい。

 

「なぁ可鵡韋」

「ん? 何ですか?」

「その小説がいつ完成するのか知らないけど……まぁ、できたら読ませてくれよ。ここまで偉そうにアドバイス……みたいなこともしたし、知らぬ存ぜぬってのもな。感想くらいなら言うから」

 

 一瞬――――ほんの少し顔に曇りが見えたのを俺は見逃さない。しかし、すぐに落ち着いた表情に戻る。

 

「えぇ、そのときは是非」

「おう。……っと、コーヒーなくなったな。追加で注文するわ。お前は?」

「僕はまだ残っていますし、大丈夫です」

 

 ――――これで何が変わるのかは俺には分からない。まぁ、約束をした。それだけで恐らく充分だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




まだまだ序盤だけど、誰に見せるでもないラブコメ小説を書いている

あくまで個人の意見であり、実際にできているのか分かりません

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