八幡の武偵生活   作:NowHunt

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休日は家に引きこもるのに限る

「八幡さん」

「ん、どした?」

 

 高校最後の学年、最高学年になってからおよそ1ヶ月が経過した。5月に差し掛かる。

 

 この前戸塚とも話したことだけれど、もう1年が経つころには国民の義務である勤労の義務を果たさなければいけない。

 

 納税の義務、教育の義務に比べて勤労の義務は些か時代遅れなのではなかろうかと俺は些か疑問に感じる。

 

 たしかに働かなければ金は増えない。生きることも難しい。しかし、わざわざ毎日汗水垂らして出社しなくてもこの技術が進んだ現代社会、ここまで来れば労働をしなくても引きこもって暮らせるのではないのだろうか――など考えることもある。

 

 しかしながら、当然として現実はそんな甘くない。働かずして生きていく方法は宝くじに株やパチンコ、競馬や競輪など、ほとんどギャンブルに偏ってしまうのが珠に傷だ。そんな奇跡の連続が続くほど俺は運が良くない。

 

 そもそも既に俺は学生でありながら命懸け(文字通り)で働いている立場でもある。正直なとこ今さらかと問いたくなる内容だ。なんなら何度も死にかけたまである。まだ俺17ぞ?

 

 それはそれとして……働きたくないんだよなぁ。5000兆円(非課税)がほしい!

 

 ――――こんなバカげた想いとは裏腹に今は朝飯をレキと食べている最中だ。

 

「少し相談したいことあるのですが……時間を要する話題ですので夜にでもお時間いただけますか?」

「分かった。また晩飯時にでも話してくれるか?」

「えぇ、そうします」

 

 何やら相談事を持ち込まれたが、今さらっと話せるほど軽くないという内容だったので、改めて持ち越しと相成った。

 

 しかしながら、何だかんだここまで一緒にいるのだ。相談内容は何となく推測できる。

 

 レキが改まって言うことだ。大方仕事……依頼関係だろう。何かしら厄介な依頼でも舞い込んできた、もしくは遠出する必要があるからしばらく離れる。そんなところと予想する。

 

 とはいえ、外れている可能性もあるので改めて夜に訊くとしよう。

 

 食後のコーヒーを飲み終えたタイミングでレキは口を開く。

 

 世間話だろうか。レキはこの俺以上に会話のタイミングが上手くない。話題の選出はわりと唐突だ。

 

「そういえば、あかりさんとはどうですか」

 

 内容は間宮あかりについてだった。

 

「どうって」

「アミカ契約して時間が多少は経過しましたが」

 

 確実に意識してないだろうけれど、一瞬平常より低い声を出したレキ。普通にビビったぞおい。本人的には普通に訊いているのだろうけれど……。

 

「どうもこうも、時折稽古付けてるくらいだ。1年のときよりかなり強くなっているな。だいぶ客観的に動けているというか、体の使い方が上手だ。元々持っていた技術を武偵の技術によく落とし込んでいる」

「アリアさんのアミカだったことはあるようですね」

「なぜ上から目線……」

 

 経験からするとお前の方がそりゃ圧倒的に上だけどな。

 

「アレの無茶振りに付き合ってたらそりゃ強くなるだろうよ。最近はなんか間宮の技術の応用でよく武器がスられる。元々人体エグる技らしいけど」

 

 そんな技をさらっと先輩に使わないでね? 自分で言っていて血の気が引く。

 

 フル装備ならあちこちに武器仕込んでいるから1つ盗られたところで大した影響ないってのはある。あ、だからといって銃盗られたら普通にキツいですねはい。

 

「しかし、アミカとは具体的に何をするのでしょうか。私にはいないのですが、稽古を付けることくらいですか?」

「基本的にはそうだな。それと、たまに学校から出る任務で同行はするな。あとはこっちの用事……任務でコキ使ったり。遠山や神崎はよくしていたらしい」

 

 部活の先輩後輩のような間柄だろう。遠山の場合、アミカ期間が終わっていてもよくアゴで使っていたみたいだ。それより、後輩の方が遠山に懐いており色々と手伝っていたとのこと。たしか後輩って忍者だっけ?

 

「しかし、八幡さん。あまり任務に留美さんやいろはさんを同行させていましたか?」

「俺はあんまり……たまにはしたけどな。俺が個人でよく受ける任務って警護関係だからな。そんな人数いらないし」

 

 それに俺の取り分減るからね。なぜアイツらに俺の分け前を渡さなければいけない。

 

「狙撃科はあまりアミカ関係を結ぶ人たちは少ないので、少し気になってました」

「スナイパーなんて個人の拘りが他のとこより強そうだもんな。狙撃技術に関しても感覚重視なとこあるだろ」

「基礎的な技術を教えることは可能ですが、狙う射程距離を伸ばすほど経験を重ねる時間が重要になります。例えば、風の読み方など……そのような感覚は教えて早々身に付けることができるものでもないでしょう」

 

 そりゃそうだろうな。誰だって教わってすぐできるようになったら苦労しない。

 

「今思えば八幡さんは……まだこの世界に入って2年程度ですが、前々から戦ってきた人たちと渡り合えるのはスゴいですね」

「そうかぁ? まぁ、かなり濃い時間過ごしてきたからじゃないか。お陰でどうにかこうして生きているよ」

 

 めちゃくちゃ死にかけているけどな!

 

 

 

 

 

  

 ――――そして、授業は終わり放課後。

 

 レキは何か用事があるとどこかへ行くと言っていた。今日は間宮や一色に対して付き合う予定もない。最近ちょくちょく学校に残っていたしたまには直帰しよう。

 

 材木座にメンテ頼むのはもう少し先だよなー、俺で簡単なメンテするかー、帰ったら録画溜まってたアニメでも見るかー。

 

「……ん」

 

 そんなこれからのことをのんびり考えながら校門を潜るところで、少し離れた場所にふと気になる人物をが目に入る。

 

 その人の服装は武偵高では見かけない真っ白な詰め襟を着ている少年だ。セーラー服でもブレザーでもない。

 通行人の生徒がチラホラとそちらを覗いている。反応はイケメンだの見ない顔だの強そうだの千差万別だ。俺も野次馬精神で少し気になり誰だろうと遠目でそこを注視する。

 

「アイツ……」

 

 離れた場所でも誰かが分かった。

 

 どうやらざっくり1ヶ月前遠山を逮捕しようとした集団である旧0課に所属する――――可鵡韋だった。俺とも戦った、ろくに本気を出していない印象だったのに充分過ぎるほど強かったな。

 

 なんでここにいるんだと疑問に感じる。

 

 まず真っ先に思い付くのは遠山に対して何かしらの用事があることだけど……遠山は留年したのでローマ武偵高校への転入が決定した。今は千葉にあるイタリア語の勉強のために外国語の学校に転校したらしい。

 

 アイツは国際的だな。すぐにどっか海外にいる気がするのは気のせい?

 

 その辺可鵡韋なら知ってそうだけどな。わざわざここに来る必要なくない?

 

 そう思っていたら、可鵡韋がこちらに気付いたのかふと目が合う。

 

 一応は知り合いなので会釈だけして去ろうとする。この知り合いと会ってもこちらは話しかけるつもりはないですよオーラを醸し出してこそぼっちというものだ……。

 

 なんて内心おかしなことを考えていると。

 

「あ、比企谷さん。お久しぶりです」

 

 普通に声をかけられた。え、なに。

 

「……おう」

「何ですかその嫌そうな声」

「うるせぇな。以前に喧嘩吹っ掛けられた相手に話しかけられたら警戒するだろ」

「うーん、そう言われるとこちらの立つ瀬がないと言いますか……でも、比企谷さんの周りにいる人たちも最初は敵対関係だったっていうパターンが多いらしいじゃないですか」

 

 そうか? と疑問に感じ、記憶を遡ってみる。

 

 遠山や武藤、材木座や戸塚はさて置き、レキは……カルテットで戦ったとは言えあれは所詮学内行事だ。そなあともバカスカ撃たれたことはあるけど。

 

 理子は、あれ一応は敵対していたでいいのか分からない。猛妹はうん、あれは敵だ。何なら今も若干立ち位置怪しいまである。主にお姫様のせいで。

 

「まぁ多少はな。で、どうした。遠山はここにいないぞ」

「知っていますよ。実は今、遠山先輩と同じ学校に通っているんで。遠山先輩とはまた別件で用事がありまして……あぁ、あれは解決したと言えば解決したか」

 

 ブツブツ呟くように話してから可鵡韋は一拍置く。

 

 あ、そうなの? 

 

「今回は比企谷さんに用事があるんですよ。簡単に言うとお詫びに来ました。遅くなって申し訳ありませんが」

「詫び? つーと、前のいざこざでの?」

「はい。あのとき僕の攻撃で服を破いてしまいましたからね。全く同じのとは言いませんが、似たような服を探してきました。どうぞ」

 

と、手に持っていた紙袋を渡される。中身を覗くとたしかに似た雰囲気のシャツがある。

 

「ありがと。随分律儀だな。別に俺が突っかかっただけなんだから気にしなくていいのに」

「それはそれ、これはこれです」

 

受け取ったのを確認した可鵡韋は少し表情を変化させる。こちらの様子を伺う雰囲気だ。

 

「つかぬことをお伺いしますが、比企谷さんってこのあと用事ありますか? もしお時間大丈夫でしたら、ちょっと相談したいことがありまして」

 

 そう可鵡韋はどこか恥ずかしそうにおずおずと話す。

 

 戦ったときの印象はどこか大胆不敵といった感じだったけれど、こうも下手に出るとは珍しいように思う。

 

 この短い会話だけど、ごく普通の青年といった印象だ。

 

「このまま帰るだけだから構わないが……あ、秘匿性ある話題か? お前の職業的に」

「仕事の話ではないです。えーっとですね、僕個人の、プライベートの相談なんです」

 

 まだ出会って2回しかない奴に頼み事か。随分と信頼されているのかいないのか。まだ大して可鵡韋のこと知らないんだよなぁ。

 

「じゃあ……どっかカフェにでも行くか。コーヒー辺り大丈夫?」

「えぇ、好きですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




まとめると長くなったので、めちゃくちゃ中途半端ですけどここで一旦切ります
アリア新刊を読むたび自分は海外に住めないなと思う

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