八幡の武偵生活   作:NowHunt

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後始末はお早めに

「……よう、お前大丈夫か?」

「いや全然? 歩くの辛いんだが? こちとら骨にヒビ入ってんだぞ」

 

 

 あれからどうやらジーサードの指示のお陰で、アメリカ空軍が砂漠のど真ん中で寝転んでいる俺らを迎えに来てくれた。よく見付けてくれたなって思ったけど、線路に近い位置で戦ったから、まだ分かりやすかったかな?

 

 迎えを寄越してくれたのも、無事にジーサード一行が目的地に着いたらしく俺らの迎えに手を回せたらしい。どうにか任務は遂行できたと胸を撫で下ろし安堵する。

 

 迎えの軍用ヘリでレキが通訳で間に入りつつ軍の人は俺に応急手当てをしてくれた。俺の反応的に肋骨は折れてはないみたいだが、ヒビは入っているだろうと。と言っても、これはあくまで俺の反応できちんとした場所で検査したら結果は違うかもしれないとのことらしい。

 

 まぁ、こんくらいは必要経費か。

 

「悪いな」

「このくらいでしたら全然平気です。むしろ助けてもらいましたから」

「それはお互い様だろ」

 

 ――――と、それはそれとして、痛みやらで歩くのキツいので車イスを貸してもらってレキに押してもらいながらジーサードと合流したところです。ちょっとこの状態は恥ずかしいです。

 

 

 話は戻って。

 

「比企谷、無事だったか!」

「お前もな、遠山」

 

 ジーサードの後ろから遠山やかなめがワラワラ現れてくる。何やら全員俺らに文句を言いたげな不満そうな表情を向けている。え、なに、そんな俺ら信用ないか?

 

 あとそんな大勢で急に来られると普通に驚いてしまう。

 

「もう、比企谷さん。いきなりのあれは心臓に悪いよ。いや助かったからこっちが文句言うことじゃないんだけどさー」

 

 かなめの怒ったような困ったような表情である程度察する。

 

「あぁそういう……あれが最適解だったから別にいいだろ。俺らがどうのよりお前らも普通に大変だったろ。まぁ、お互い様ってことで。お疲れさん」

「どうもー。私らはまだトランザムに乗ってたり武装もまだ豊富だったりで大丈夫だったよ。でも、比企谷さんは生身なんだよ? そりゃ心配にもなるよー……」

「言っておくが、俺たちは生身でも普通に強いぞ。と、少し調子に乗って自画自賛してみる」

 

 まぁ、結果としてはわりとボロボロなんだけどね? 遠山たちは軽傷はあれどみんな普通にピンピンしているな……なんだコイツら、頭おかしいんじゃないか? 

 

「比企谷さんが強いのは知っているけどさ。一応言っておくと、マッシュと戦うのは生身が強いとかそんな次元じゃないと思うんだけどなぁ……」

 

 アハハ、と少し引きつった笑みを浮かべるかなめ。それを言われてみればたしかにと思ってしまう部分もある。今回はどうにかなったが、あれと戦うとはつまり軍と戦うのと同義だ。……よく俺ら無事だったな。

 

 ていうか、シャトルに追いかけられて外傷程度で済むお前らもそれはそれで引くわ……。どうやらシャトルは遠山がパンチで粉々にしたらしいし……嘘だろ、お前ら人間か?

 

 頭おかしくない?

 

「で、お前らにどんだけマッシュは戦力割いたんだ?」

 

 ジーサードはそこで割って入ってくる。こっちはこっちで心配そうというか、どちらかと言うと興味本位が勝っているような表情だ。若干なりと目をキラキラと輝かせている。え、子供?

 

 俺は俺で少し上を向いて頭を捻らす。つい数10分前のことだが、順番ずつ思い出して口を開く。

 

「えーっと、まずLOO本体だろ。で、LOOの武装にM134が2丁、MK-47ストライカーも2丁。ストライカーの方はレキが始末して撃たれてないけど。……そうそう、あとなんかレールガン? みたいなのもあったな。あれはレキが防いで不発だから実際どんな威力だったのかは知らない。そんでプレデターがこっちに10機、プレデターにあったのはマシンガンとヘルファイアが20発か。ヘルファイアに関してはあれだ、全部撃たれたわ。マジで死ぬかと思ったな……しんどかった……」

 

 多分死んでいる目でゲンナリしつつもそうやって戦ったときのことを羅列していると…………。

 

「おい、なんだお前ら。その顔失礼だろ」

 

 見事なまでに全員顔が引いている。引いているどころかコイツら全員ドン引きしているぞ。俺らを見る目が人として向けられていいものではない。

 

「いやだってねぇ……?」

「さすがの俺も引くわ。なんでお前ら生きてんだ?」

 

 かなめは視線を逸らして、ジーサードは真顔でそう訊ねてくる。コイツの真顔とか珍しい気がする。

 

「銃弾に関しては烈風で逸らすことはできるし、ミサイルは色金の力でどうにかできた。LOOも超能力で破壊寸前まで持ってけたし。つっても、それでこの様だぞ。歩くの辛い……」

「さらっと言うが、マジでお前らとんでもねぇな……。イレギュラーの名前に偽りなしか」

 

 目を閉じつつ頷きながらもそう感慨深く呟くジーサード。「本気で戦いたくなってきたな」という言葉にはスルーしつつも話を続ける。

 

「つーか、マッシュも人2人殺すのにヘルファイア20発は過剰戦力だろ。んなの普通に戦争や紛争レベルだぞ……。やまぁ、実際、それで死んでないお前らの方が遥かにおかしいがな。悪い、依頼しておいてなんだが、俺アイツに同情するわ」

「おい」

 

 自分でもそういう自覚は少しあるが、お前らもお前らで大概だと思う。

 

 俺にパンチで戦闘機を粉々になんてできないからな?

 

 精々、影を使って呑み込むことしかできないぞ。しかもそれ自体、俺が使っているというだけで、色金の力だ。俺自身の力ではない。

 

「どうせ衛星で映像記録してんだからあとで見ろ。……あーあ、仕方ないけどがっつり記録される範囲で色金の力使っちまった……」

 

 あれは使わないと生き残れないのでそこに後悔はないが、あまり世に広めたくなかったというのはある。そういや、香港では瞬間移動使ったし今さらなところはあるか。

 

 それでも、隠せる部分は隠したいし残念と言わざるを得ない。

 

「そうだな。じゃあ、あれだ、あとで鑑賞会しようぜ。あのイレギュラーがどうやら力をフルに使って戦ったらしいし、少しくらいイレギュラーの全容が分かるかもだぜ。映画並のスクリーン使うか?」

「お、いいね。絶対面白いよ。お兄ちゃんも見る?」

「せっかくだし良いかもな。ぶっちゃけ俺も比企谷の戦闘をがっつり見たことないし、色金の力もかなり使ったみたいだしな。けっこう気になる。上からのアングルしかないのが残念だ。どうせならハリウッド並のカメラワークで見たい」

「お前ら止めろ!」

 

 生まれてこの方褒められ慣れてなく顔が赤くなっているのを自覚しながら本気でやりかねないコイツらに対してツッコミを入れる。いやこれは果たして褒められていると言えるのだろうか、ボブは訝しんだ。

 

 そういえば遠山はアクション洋画好きだったなと記憶を探る。あと別にハリウッドほどのアクションなんてしてないし、何ならそこまで動いてないんだよなぁ。

 

 ……ふむ、何とも引きこもりらしい戦い方だ。動かず勝つ、どこかしらカッコいい響きに憧れるが、それはただただ固定砲台のようなものだと思うし、その真骨頂とも言えるべき存在は確かにいる。今車イスを押してくれている狙撃手なんですよ。

 

 随分と締まらないな……。

 

「でだ、今からどうすんだ? とりあえずジーサードの勝ちなのは分かったが、色金の場所へは行けるのか?」

「それならマッシュが案内してくれる。今はその手続き待ちだ」

 

 遠山の回答に少し目を丸くする。予想外の返答に脳の処理が一瞬追い付かなかった。

 

 あれ、マッシュ? なぜ今この名前が?

 

「えーっと、いきなりのことで全然分かっていないので、1つずつ疑問をぶつけるが……まずマッシュがここにいるのか?」

「あぁ。アイツは元々エリア51で俺らを相手にしていた。さすがにニューヨークからここまでだと、LOOやら操れないしな。距離がありすぎるし」

「ん、たしかに。それもそうか。で、マッシュはなぜ俺らに協力してくれる? さっきまで敵対関係だっただろ。少ししか話してなく偏見ありだが、性格からして簡単に敗けを認めなさそうな奴だぞ。あの手合は」

「まぁ、俺らがここに来れたことで、アイツの権限やらがほとんど失ってな。罪状はよく知らないが、危うく逮捕ってところでジーサードが助けたんだよ。仲間にするって」

「んだそりゃ」

 

 お人好しか。どうして殺そうとしてきた奴を仲間に……とはいえ、ヒルダや猛妹も一度は俺の味方になったことあるし、ダメだ、今の俺では到底人のこと言えないことに気付いた。

 

「それで、仲間になったマッシュが瑠瑠まで案内してくれると?」

「時系列で言えば、そういうことになる。まぁ、手続きとかが終わるまで休んどいてくれ。レキもお疲れ様」

「そうさせてもらうわ」

「はい、ありがとうございます。キンジさんもお疲れ様でした」

 

 と、遠山からの説明も終了し、マッシュの手続きが完了するまでしばしの休憩時間に入った。

 

 レキから予備のMAXコーヒーをもらいチビチビ飲みながらその時間を過ごす。

 

 非常に甘い……脳に染み渡る。さすが原材料名で真っ先に加糖練乳が記載されているコーヒー。普通、そこに含まれている成分や材料やらが記載されるからね。

 

 ……さて、この感じだと超能力が使えるのは補給しても多分明日になるかなぁ。さすがに今日は使いすぎた。

 

「ところで今さらな話、レキはケガとかないか?」

「はい、平気です。あったとしても八幡さんよりかは遥かに軽傷です」

「だな」

 

 こちとら骨にヒビ入って車イス押してもらっているわけだしね。

 

「にしても、今回の戦闘はマジでしんどかったわ」

「そうですか? 八幡さんは今までかなりの強敵と戦ってきましたよね。今回は規模も質も違うとは思いますが」

「何だかんだ超能力者関係との戦闘が多かったからなぁ。あぁいう手合は早期決着を心がけると勝機が見えたりするんだが……」

「純粋な科学が相手だとそうはいかないと」

「そういうことだ。物量も全然違うし。ただ、その点でいうとある意味、そういう相手ということもあって……こっちの超能力が向こうには未知な部分があるから、攻めやすさは少しはあったかな」

 

 少しはな。逆にこっちの科学兵器が通じないのは勘弁して……。

 

「……?」

 

 そう話しつつもチラッと横を見ると、ジーサードたちが何やらタブレット端末を見て騒いでいる。映画を鑑賞しているノリだが……。うるせぇ。

 

 と、レキが俺の視線に気付いたのか。

 

「なるほど。どうやら先ほどの私たちと戦闘の映像をアメリカから購入したらしいです」

「即決かよ。早すぎるわ」

「ちょうど八幡さんがM134を防いだ場面です」

「さよかい」

「ジーサードさんとかなめさん以外の人たちが八幡さんを人外のような視線で見ています」

「へー」

「今度はヘルファイアを防いだ場面です。キンジさん含め、まるで化物のような視線を送ってきています」

「ほーん」

「少し苛ついたので撃っていいですか?」

「お好きにどうぞ」

「では――――武偵弾を使いますか」

「金をドブに捨てるとはまさにこのことか」

 

 もうなるようになーれ。寝よ。

 

 

 

 

 

 

「――――はぁ。何だい、この体たらくは。まったく。ポップコーンでもいるかい?」

 

 というマッシュの一言でしばらく続いた喧騒も落ち着いた。あれから15分ほどサリフの激闘の鑑賞会は続いていたみたいだ。どうして繰り返しで見るんだ。

 

 この光景のせいで頭を抱えたマッシュはまだ会話をしていないこちらへ近付く。ジーサードたちはすぐに動けるように片付けしてるし。

 

「よう、マッシュ。さっきぶり……でいいのか? 戦っていたとはいえ、互いに距離は離れていたわけだし、なんか変な感覚だな」

「そうだね、さっきぶりだ。はぁ……君がここにいることを疑いたくなるよ……」

「世の中、不思議なことはあるもんだぞ。ホント、困ったもんだな。うんうん」

「間違いなくその筆頭が何を言っているのやら……」

 

 なんて軽口を叩き合えるのなら、先ほどの遺恨は水に流そうといったところか。お互いに。

 

「それで、瑠瑠の場所へ案内してもらえるって?」

「そこに関しては問題ない。責任を持って瑠瑠色金の元へ連れていこう。――――もっとも、僕も君たちと同様、実際に見たことはない。一応は初めて行く場所ということになる」

 

 それだけ俺に告げてから再度ジーサードたちに呼びかけ集合をかけた。

 

「――――」

「八幡さん?」

「何でもない。付いていくか」

「はい」

 

 意外だな。かなりの権限を持っているマッシュはまだ行ったことないとは。行きたくなかったのか行く理由がなかったのかは分からないが、なるほど。そのような空間へ踏み込むとなると、俄然興味が湧いてきたと同時に少し恐ろしくもある。

 

 未知というのは心惹かれる部分もある。未知を既知にしたいとでも言うべきか。しかし、それ以上にやはり未知だからこそ、どうしようもない恐怖を感じてしまうな。これは多分様々な経験を積んでも慣れない感覚だ。

 

 

 ――――そして、マッシュの案内の元、俺たちはひたすら地下へと下る。

 

 途中、マッシュしか開けない何層もの隔壁が開いていく様はSFっぽさがある。

 

「おおっ」

 

 目の前の科学が詰まった現象に思わず感嘆の声を上げる。

 

 分厚い鉄の扉が何枚も……たしかにこれは開閉の権限のあるマッシュしか開けれないわけだ。最悪、俺の影を使えば通れるかもしれないが、それを差し引いても分厚すぎる。

 

 本来、色金を隠すならそれくらいしないといけないということが如実に伝わってくる。どれだけ珍しいというか価値のある物質なのだろうか。身近にあるからこそ、不思議だ。

 

 ……湖に沈んでいる漓漓本体はどうなるんだって話になるな。いや、あんなのが色金とは思わないから、ある意味秘匿性があると言えばあるのか……?

 

「これより先が地下5階のF隔壁。僕も初めてだからね。詳細な案内は期待しないでくれ」

 

 随分と緊張めいた面持ちなマッシュのあとへ続く。

 

「厳重だなぁ」

「そらそうだろうが。価値を考えればこれが最低限ってところだろ」

 

 俺の呑気な呟きにジーサードが反応する。

 

 そうして辿り着いた地下7階の大広間――――

 

「なっ……」

 

 遠山たちの驚愕した声が聞こえる。

 

 それもそのはず。

 

 

 目の前に広がった光景は――――黒塗りのクラシックカーの一群だったのだ。

 

 

「……マジか」

 

 たしかにこれは驚く。20台ほどの世界最初期辺りに製造された実に古めかしい車があるだけだ。

 

 あまりにも予想外すぎるこの光景は……どこか素晴らしいとさえ思えるほどだ。いや、これはマジでスゴいな……。

 

「瑠瑠色金はどこだ……?」

「やられだぜ、マッシュ……。瑠瑠色金は誰かが……もうどこかへ避難させてやがったんだ……!」

 

 と、遠山とジーサードは目前の風景に何やら焦っているようだが――――

 

「お前ら何言っているんだ?」

 

 俺は俺でその言葉についての意味が分からず、つい俺はそう口を出してしまう。

 

「比企谷、どういう意味だ……?」

「意味も何も――――」

 

 どうして分からないんだ? 瑠瑠色金の行く先が――――と真っ先に疑問に感じるが……。

 

「なるほど」

 

 と、それもそうかと納得できる部分がある。

 

 遠山たちは色金本体を見たことないんだ。見たことのある俺には分かる。というわけで説明する。

 

「この車の金属部分――――全部が色金だ。俺のネックレスもそうだけど、まさかここまで加工できるとはな」

 

 不思議と確信がある。これがそうだと俺の信用ならない直感が告げている。

 

 色金は名前の示す通りそれぞれ色違いだが、それは加工したときの話だ。多分、かなり研磨しないと色に違いは出ないはず。あと能力を使うときに使用者の周りに浮かぶ色かな?

 

 そして、色金本体の色はただの岩――――この車の色と似ている。まぁ、これは随分前に塗装してそれがわりと剥がれている部分が多かったからこそ分かったのだが。

 

「なっ……!?」

「はぁ――――!?」

 

 俺の意見を後押ししたのはジーサードの仲間で超能力者のロカという女性とツクモだった。超能力の観点からもそうだと分かったらしい。

 

「とはいえ……かなりの量だな。マッシュ、これどうやって持って帰れば……あぁ、別に俺はいらないが」

 

 とマッシュに向き直ろうとした瞬間――――

 

 

「――――……ッ!?」

 

 

 不意に俺の意識が飛びそうになる。違う。俺の意識はそのままだ。その上で俺の意思とは別に口が動き、俺の声ではない女性の声が聞こえる。

 

『――――ルル、そこにいるのですね』

 

 周りの驚愕している声が聞こえる。まるで女装している姿を見られたようだ。くっ、こんな辱しめを受けるなんて……いやこれホント恥ずかしいんだけど。ごめんね?

 

 と、俺……ではなく漓漓の声と同時に上空がうっすらと蒼く光り、裸体の女性が浮上する。霊体とでも表現するべきか。多分触れようとしても触れることは叶わない。

 

 というより、勝手に出て来て勝手に俺の体を使わないでほしいんだが……。とてつもなく変な感覚だぞ。この空気の読めなさはさすがレキと共通するところがある。

 

『お許しください……。あなた方の愛する姿をお借りしたことを。私たちには定まった姿というものがございませんから……』

 

 蒼く光っている女性が語りかける。この瑠瑠の姿が誰なのかは分からないが、恐らくジーサードたちの関係者なのだろう。

 

 そして、また勝手に口が動く。

 

『ルル。私はこの者と漓巫女を通じて物語のあらましを見てきました。もう……止めましょう。ヒヒを……』

『私は……争うときを、殺めるときを、止めるときを恐れていました。たった3つしかない私たちが、また孤独に近付くときを。ですが、もうリリの言う通りなのでしょう』

 

 コイツら何言ってんだ……。

 

 いやまぁ、何となく言いたいことの予想は付くが……。だいぶ前に漓漓から言われたからな。要するに緋緋をどうにかすればいいんだろう。もうちょい分かりやすく直接的な表現をしてほしいものだ。

 

 一拍起き、祈りを済ませたかのように見える瑠瑠は口を再度開く。

 

『どうか止めてください。ヒヒを――――緋緋色金を。私たちの姉を』

 

 まぁ、そういうことになるよな。というか緋緋が姉なんだな。今さら知った。過去に教えてもらったことがあったかもしれないが、ぶっちゃけ覚えていない。

 

 とはいえ、ここまでは大方予想通りといえば予想通りだ。しかし、俺が知りたいのはこの先だ。俺は前に助けてと言われた。だからこそ俺は武偵として、命の恩人として神崎と緋緋を助けなければならない。

 

 そのための方法が知りたい。

 

 

 

「――――」

 

 それから行われた瑠瑠の説明や遠山の質問は色金や緋緋の止め方について。俺の意識は漓漓に乗っ取られたまま。体返して?

 

 そして、話をまとめる。まず色金とは意志を持つ金属。

 

 かなりざっくり言うと色金は霊体が取り憑いた金属だ。あり得ない話だけど、俺が何か物体――――例えば携帯を通じてそこから感じる現象を理解できる、といったところだろう。

 

 それが分割されると、当然憑いていた霊体も分割される。どんな質量だろうと意識の大きさは変わらない。これが『一にして全、全にして一』という意味らしい。だから俺の首にもある漓漓色金も本体と変わらない漓漓の人格が宿っている。

 

 それから色金の在り方。漓漓と瑠瑠の2人は今あるモノを変えたくない。永遠に眠り続けることを望んでいると。つまりは不変だ。

 

 しかし、緋緋は姉とはかなり違う在り方を望んでいる。

  

 緋緋は数千年前に情熱という人間の感情を好んでしまった。それからの緋緋は恋と戦いの感情を昂りに共感することに夢中になった。結果として、過去の大きな戦争へ積極的に関わることになってしまったと。

 

 そして――――

 

『段階的にですが、殺すということです。私は今、姉を殺す決意をしたのです』

 

 瑠瑠がした決断。それは緋緋を止める。しかし、その行為は殺すと同意と瑠瑠は告白した。

 

「ダメだ、殺さない。家族殺しの片棒は担がないぞ」

 

 と、遠山は即座にその結論を否定する。これに関しては俺も同意見だ。家族を失った(生きている)遠山は当然として、家族を殺しかけた俺も良い気持ちはしない。誰だって進んで好きな家族を殺したい奴なんていないはずだ。

 

 それから、遠山が出した代案は武偵なら当然と言うべきか。

 

「逮捕する」

 

 とのことだ。方法は不明だが、生粋の武偵なら遠山はこう言うに決まっている。

 

 ジーサードの仲間たち全員がわりと絶句している途中、空気を崩さないように、それとも瑠瑠の気が変わらないうちに瑠瑠がいる部品を持ち出し、遠山はジーサードたちと共に去っていった。

 

 

 

「……はぁ、やっと解放された」

 

 ふと体の自由が戻り、突如訪れた息苦しさが終わったので一息つく。

 

「大丈夫ですか?」

「肉体的には何にもないから平気だ。変わらず、ヒビあるところは痛いが」

 

 なにせ、地下に行くにあたって普通に今車イスから降りて立っているからな。立っているだけで徐々にダメージを受けている。どうせなら、乗っ取るついでに漓漓が俺のケガを治してくれたらいいのに。

 

 なぜ俺たちがまだここにいるのかというと、レキが事前に10分だけマッシュにここの滞在の許可を取ってくれたからだ。まぁ、俺たちがマッシュに勝てたご褒美というか、追加報酬のようなもんだ。

 

 というわけで、遠山が去ってから漓漓の介入がなくなった俺は改めて瑠瑠と向き合う。

 

「えーっと……俺も俺で瑠瑠に聞きたいことがある」

 

 まだ霊体の姿になっている瑠瑠に俺は話しかける。

 

『はい、私もあなたとは直に会話してみたいと思っていました。リリの力を扱える者。私がいるロザリオを通じてあなたを視ていました』

 

 ロザリオ……たしか理子が持っていたな。あれ? てことは理子も超々能力者なのか? 普段理子は超能力使わないから分からないが。まぁいいや。

 

「俺は何度か漓漓に呼ばれ話したことがある。……あれを会話と呼んでいいかは別として。それでだ、俺は漓漓からは助けを求められた。その内容は多分、緋緋に関してだろう。さっきお前らは緋緋を殺す決意をしたが、別に何も殺したいわけじゃないだろう?」

 

 改めて訊き直す。瑠瑠は気まずそうに目を細めつつ視線を逸らす。

 

『…………えぇ。それはもちろん。なにせ、これでも姉妹ですから。ですが、妹の不始末は姉が責任を持つものです。今までは私たちはヒヒに関与できませんでしたが、今は私たちを扱える方々がいます。であれば、殺します』

「俺が聞きたいのはそこだ。漓漓は助けてと言った。つまり、殺さずどうにかする方法があるはずだ。でなければ最初から殺してって漓漓なら言うはずだ」

 

 俺がどこか引っ掛かっていた部分はそこだ。

 

 実際、助けてではなく守ってとかつてカジノでは言われたから仔細は異なるが、ほぼ同意だろう。というより、守ってと言うなら、それこそ殺す以外の選択肢があるはずだ。そこに矛盾というか――――どうも不明瞭だったのだ。

 

 瑠瑠の言う内容と漓漓の依頼は。

 

「実際、方法はあるのか? 神崎を殺さず、緋緋も殺さない方法は」

 

 かなりムチャな要求なのは当然理解している。しかし、そこだけは誤解にならないうちにハッキリとさせておきたい。

 

『……今の私には思い付きません。逆にあなたの考えを教えてください』

 

 もしあったとしたら、遠山たちの前で話しているだろうから、ここまでは予定調和だ。改めて訊いただけだ。

 

 俺も俺で考えを述べる。

 

「と言ってもな……。まず考えたのが、神崎から色金を物理的に除去する。残念だがこれはムリ。体の奥深くに埋まっているらしいし、取り除いたら神崎が死ぬからな。次……一方的に色金の力を使えるようにして乗っ取りを防ぐための殻金はもう効力を失っているらしいからこれもムリ。あと数が足りないらしいし。…………俺が取り返した分では足りなかったらしい。次、どうにか交渉して俺みたいに色金の力を使わせてもらう。これは乗っ取りに関して何も解決してない。だから、これもダメだ」

 

 色々と思案してきた内容を独り言のように口に出していく。

 

「お前らがどうにかして緋緋の力を失わせようとすると緋緋が死ぬからこれもダメだ。緋緋の本体を探して粉々にしても力は弱まらないし特性から言って意味がない。次……仮に神崎を閉じ込めて緋緋の意欲を失くそうとしても、どうせ反省しないし問題を先送りするだけなので、これもナシ。緋緋の説得もぶっちゃけ効果がなさそうだ。説得でどうにかなるなら、そもそも戦争を起こそうとはしないだろう。そうなると、外的要因ではどうにもできない気がする。つまり、残りは内的要因――――神崎自身がどうにかするって話しかなくなるわけだ」

『……というと?』

「俺には全くできなかったが、色金に体を乗っ取られた際乗っ取り返す……っていうのか? 押し返す感じに近いか? 要するに、神崎アリアの体の所有権の争いに勝つ」

 

 一番無難な考えはこれだよなと口に出しながら考える。

 

 さっきのこと含めて俺は何度か体の所有権を漓漓に奪われている。それで命は助かったこともあり、文句を言える立場ではないが――――奪われるということは奪うこともできると示唆しているのでないだろうかとも思う。

 

「――――」

 

 と口では言うものの、精神的な話になるので俺には到底手段も方法も分からない。

 

『それは……かなり厳しいでしょう。ヒヒが活動していないときは大丈夫でしょうが、奪うとなればヒヒが目覚めているときを狙うということ――――力を貸し与えたならともかく、過去、そのようなことができた人物に心当たりはありません』

「だよな。ただ、奪うまでと行かなくても、対等な力関係を築ければ……いや、それが可能ならそもそも論として体を奪われていないか」

 

 水掛け論に頭が痛くなってくる。

 

 ここまで来て収穫なしは悲しい。俺は瑠瑠と会話できてある意味満足だが、そもそもの目的は神崎を助ける手段を模索すること、そして解答があるならそれを聞くことだ。

 

「なら神崎の体そのものを奪いやすくする? それこそ外的要因で……神崎の体そのものに価値がないということが分かればあるいは?」

 

 それだと貧乳に価値がないと言っているように聞こえるな。これではまるで巨乳こそ正義! とでも言いたい発言だ。いや別に俺はそんなこと微塵と考えていないなぜなら貧乳はステータスだか――――ちょっと待って痛い痛い痛い。

 

「いっ……おいレキ。腹をつつくな。わりとマジで痛いから」

「なぜか今、無性にイラッとしたので。……しかし、それも難しいでしょう。どうやら緋緋色金とアリアさんの相性はかなり良いらしいです。性格を鑑みるに、緋緋色金が自らアリアさんを手放すことはないかと」

 

 かなり不機嫌なレキの意見に同意。高速肘打ちはキツいです。

 

『そうでしょうね。であれば、ここまで話は拗らせていないです。……しかし、あなたの考えを聞けて良かったと思います。ヒヒを殺すという方針は変わっていませんが、この会話は頭の片隅に置いておきます』

 

 一通り話は終えたらしく、張っていた肩肘に力が戻る。緊張していた反動か、堅苦しいため息が出る。

 

「……はぁ。解決策は見付からず、か。あとは遠山に任すか。俺も俺でもうちょい探ってみるよ。ありがとな、瑠瑠」

 

 ここまで来て、という気持ちは強いけど、それも仕方ない。完全な無駄足というわけでもないし、別にいいか。

 

『いえ、こちらこそこのような会話しかできず申し訳ありません。ところで、何かあったときのために私を持っていきますか? そこにある部品ひと欠片でも』

 

 そう問われ少し考える。

 

「いや、別にいいよ。一応、俺たちは漓漓を持っているし、そこに追加して瑠瑠までいたらなんかややこしいだろ」

 

 

 

 

 

 それから、最後にありがとうと瑠瑠は言い残し消えていった。直後、マッシュに時間が来たと忠告を受け地上へ戻る。

 

「比企谷は瑠瑠色金と何話したんだ?」

「ん。実のあることは何も。神崎と緋緋の救出方法について話していた。具体的な策はなかったけど」

「……そうか。ていうか、どうして俺らがいなくなってからにしたんだ?」

「いや俺、漓漓に体乗っ取られてたし、質問できてなかったから。それにまぁ、なんつーか、ジーサードたちはマトモに話せる状況じゃなかったろ。あんな超常現象に慣れていなさそうだし」

「それはそうだな。俺は色々と見慣れていたからな。比企谷は……」

「俺も俺で色金と話した経験……は、うん、あるからな。ていうか、そもそも今の俺は超々能力者の端くれなもんで」

 

 瑠瑠と話した内容は遠山には細かく話さなくてもいいだろう。結論として、明確な解決策は見付からなかったわけだ。今このような話をして余計に話を拗らせるわけにもいかない。

 

「なぁ比企谷。俺は次にイギリスへ行くことにした」

 

 不意に告げられる。その意味を少し考える。

 

「イギリス……。そっか、神崎がイギリスにいるんだっけか?」

「あぁ。アリアもアリアで色金について調べているはずだ。俺の目的はアリアというよりかは、アリアの妹だけど。レキはどうするんだ?」

「私はウルスへ戻ります。どうやら風が呼んでいるので、一度話してみようかと。八幡さんはどうされます……?」

「俺は日本だな。風……漓漓がレキを呼んでいるなら、俺もウルスへはまた行きたくはあるけど。まぁ、これでもケガしているから療養目的で」

 

 と、各々次への目的地について語る。

 

 レキはモンゴルに帰るのか。ていうか、俺は漓漓からアクション受けていないんだよな。なぜに?

 

「気を付けてな。ウルスのみんなによろしく」

「はい」

「遠山もな。気を付けて」

「おう。というか、この3人だと比企谷が一番重傷なんだから、比企谷こそゆっくり休んでくれ」

「……そうだね。そうする」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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