もう壊滅したイ・ウーの中でもリアルに世界征服とか企んでいた頭イカれている集団に属していたパトラとカツェが、修学旅行でのんびりと観光していた俺の前に現れた。今、停泊しているタンカーを用いて何か事件を起こそうとしている。それを未然に防ぐため、俺はそのタンカーに単身乗り込む。いや、休暇くらい普通に休暇を楽しみたいんですけどね。
さて、パトラたちより先にタンカーへ乗り込んだのはいい。チラッとさっきまで俺がいたところを確認する。目を丸くしてこちらに走っているな。アイツらも焦って追いかけてきてすぐに乗船するだろうが、飛翔で一足先に到達できたのはアドバンテージだ。今のうちに船内へ駆け込もう。
そう思ってだだっ広い甲板に着地したが――――既にそこには何か異質なモノが甲板を埋め尽くすほど立っていた。
二足歩行の人型で体長は2mほど。全身が黒く、頭が犬のような印象。これは見覚えがある。カジノでも戦ったことがある、パトラが扱う使い魔であるゴレムだ。襲撃に備えて配備させていたのか。しかし、前回よりかは一回り大きい。
「くっそ……」
思わずボヤく。どうやらそう簡単にはいかないらしい。船内までの入り口までざっと50mある。横幅も同じくらいだ。そこにパッと見分かるだけで……50体はゴレムがいる。そして、俺を見るや否や――もしくはパトラの指示でか、全部の人形が俺を一斉に凝視してくる、まるである種のホラー映像だ。
すぐに駆けようとした足が止まる。パトラめ、かなりの数を注ぎ込んでいやがる。ここでは無制限に超能力を使うことはできないが、その辺りの準備は抜かりないか。
このゴレムを倒すにはまず、かなり硬い装甲を破壊して、中にある核を潰す必要がある。前回は俺の初代棍棒では装甲はビクともしなかったからな。なぜか神崎の蹴りで壊れたけど、星伽さんの超能力と剣術の合わせ技でようやく壊すことができた。いや、アイツの蹴りどんな破壊力だよ……。
装甲を破壊する必要はあるにはある。けれど、拳銃で撃ち抜くことは別に可能だ。問題は貫通させてもその部分だけでは大したダメージにはならな――――
「くっ……」
後ろから気配がして思わず左に飛び退く。……1体のゴレムが砂鉄でできた腕を剣状にしてきて背後から切り刻んできたか。危ないな。あれの切れ味はかなりヤバい。カジノでは壁をガリガリ削っていた。あれに当たらないようにしなければ――――と思ったら、また同じように複数のゴレムが波状攻撃を仕掛けてくる。
「――――……っ」
俺はその波状攻撃に当たらないよう距離を取りながら回避する。
攻撃を避けながら観察してきた結果、どうやらゴレムは5体で1つの小隊として動いているみたいだ。どれだけ数が多くて単騎で強かろうとも連携しなきゃ、所詮は雑魚になってしまう。特に近接の連携はそれだけシビアだ。遠距離攻撃なら離れて火力を集中させるだけでいいが、近接なら1体の動きが邪魔になって、ドミノ倒しのように連携が失敗することなんて多々あることだ。それを踏まえると、このゴレムの動きは実によくできているな。小隊が攻撃し終わったら、次の小隊が攻撃に……ウザったいな。
俺が小隊分の攻撃を避けきったら、次に別の小隊が攻撃を仕掛けてくる。その繰り返しで甲板の奥まで下がらされた。間隔がなさすぎて、俺が攻撃する時間もないほど避けに徹しられた。
その隙にパトラたちは乗船し、船内の奥底まで移動している。せっかく早く乗れたと言うのに、そのアドバンテージは一瞬で覆されたか。やっぱりそう簡単には上手く事が進まないな。こっちを見てほくそ笑んでたカツェは絶対殴るからな!
――――しかしまぁ、これはどうする? 影を使って一気に進むか? 飛翔で上を飛んでも扉の前はガッチリと守れている。どこかしらでゴレムとは戦わないといけない。もしよしんば最低限の距離で詰めれたとしても、扉前のゴレムに少しでも時間を使えば後ろから別の小隊が襲いにくるだろう。
パトラたちを相手にする前に超能力を使い切ったら戦況は厳しくなる。本来なら、タンカーを無力化さえすればいいが、もう乗船を許してしまい、俺が足止めされている時点でその前提は崩れ去った。戦うのは必至だ。戦力は残しておきたい。
それに加えて今後のことに備えて、超能力の使用は最小限に抑えたい気持ちがある。もしも、そのときが来た際、超能力が使えなかったでは話にならない。
だったら、俺の持っている武器でどうにかするしかないな。ナイフ、棍棒のヴァイス、こっそりと違法改造したスタンバトン。そしてファイブセブン。手持ちの武器はこれか。この中で選ぶなら――――
「ファイブセブンだよな」
他にゴレムを破壊できるほどの攻撃力はない。時間をかければヴァイスでもできるだろうが、今は時間が惜しい。速攻で進むしかない。
拳銃はゴレムでも撃ち抜ける武器だ。人類の叡智が造り上げた結晶である拳銃は例えどれだけ超能力で強化している相手でも戦える。人が生身で扱える武器で最強だと思うのが拳銃だ。
ファイブセブンは他の銃よりも貫通に特化してあるSS190弾を扱える拳銃。元々はみんな大好きP90のサブアームだしな、これ。しかし、攻撃範囲はそのため狭い。ファイブセブンが使用する弾丸は5.7×28mm弾。これは遠山が使うベレッタM92Fで扱われる9×19mmパラベラム弾より相当細い。そのような弾丸では、人間相手なら無類の強さを発揮するが、ゴレム相手では不足と言える。アレには痛覚なんてもんは存在しないしな。デカブツ相手だと心許ない。
それでも、俺がナイフやヴァイスではなくファイブセブンを選んだのには理由がある。ある一点に狙いを引き絞り、撃つ。
――――パァン!
と、聞きなれた乾いた銃声が鳴り響く。放たれた銃弾はゴレムのある箇所を撃ち抜いた。本来なら、どれだけ撃ってもダメージはほとんどないだろう。例えば、DEのよう大型拳銃とかなら、その衝撃でかなり装甲が崩れるかもしれないけど……いや、それでも今回は図体がデカいからな、拳銃では厳しいだろう。
しかし、ある一点――――ゴレムの核を正確に撃ち抜けば話は別だ。
「…………」
俺が撃ったゴレムはその核を撃ち抜かれ、元の材料であった砂へと戻り、崩れ落ちる――――のを確認する前に近くにいるゴレムを次々に俺は撃つ。
「ふー……」
ホントに核を撃ち抜くことに成功して安堵する。
今の俺にはゴレムの核の位置が分かる。どれだけ装甲で固められていても、どこに在るのかが分かる。前回、カジノではそんなことはなかった。でも、今の俺には確信という形で理解できる。そこに撃てば当たる――――と。
色金を使えるようになったからなのか、そういう超常的な存在に慣れてきたのか、1体1体の核の位置はそれぞれ違うのにも関わらず、その全てが分かる。俺なら撃ち抜ける。
「……それにしても。うおっ、あっぶね」
少し油断して左右からの挟み撃ちを喰らいそうになる。後方に転がりそれを回避。
まぁ、ここまでカッコつけてみたけど…………うん、いくら分かったところで数が多い分、俺が圧倒的なまでに後手後手なんだけどね? いやだって、明らかこっちの弾丸の数は先に尽きるだろうし、おまけに船内から追加のゴレムが10体くらい来たし。最短で突っ切ろうにも四方八方からゴレムが邪魔してくるしで、全っ然進めない。
ファイブセブンで迎撃しているが、その場から大きく動けない状態が続いていると。
――――ズウゥゥン。
と、船全体が少しずつ揺れ始める。
「うっそだろ……もうかよ」
いよいよタンカーが動き始めてしまった。もうパトラたちは動かしたのか。早いって。
この進行方向……ヴィクトリア湾方面か? てことは、やっぱり突っ込んで自爆でもかける気か。…………いや、これはタンカーだ。下手すりゃ、この中により燃えやすい燃料とか積んでいたら……それこそ石油とかを。もしそうなら、被害規模は港程度では収まらないのではないか、都市丸ごと燃えるのではないかと、最悪の想像をしてしまう。当たってほしくはない予想だけど、犯人パトラたちだしなぁ、あり得るよなぁ。
まるで夏休み最終日に、とても1日だけでは終わらないやり忘れていた課題に気付いたときのような絶望感。やってもやっても終わらないあの感覚。アキレスと亀かな?
「もうやだぁ……お家帰るぅ……」
と、ボヤいても何も事態は進まない。ていうか、このセリフ俺が言っても気持ち悪いだけだね! このセリフは然るべき人が使わなければ。まさかエロゲで泣かされるとは思わなかった。
「あぁ~……」
現状、俺はゴレムの妨害により船内へは行けず、パトラたちはタンカーを動かすことに成功した。もう温存とかムリだな。と、俺は重く湿った、訊くだけで相手のやる気を削ぐようなため息を吐いて諦めて空を仰ぐ。
うん、暗い。都会だから星とか全然見えないな。
ここまで事態が悪化すれば、四の五の言ってはいられない。こうなったら影を使って一気に削り取ってやる。その隙に最短で船内に潜り込む。一度船内に入ってしまえば、あの巨体なんて恐れなくていい。そこまで大きくないであろう通路に、そんな多い数のゴレムは不得手だろ。そのあとはもうなるようになれ。その場その場でどうにかするしかない。
なんて半ば自棄になりつつ特攻を仕掛けようと試みる。
「ふぅー……」
色金の力である影を使おうとするなら、普段の烈風とは違う集中力が必要になる。そのため、ファイブセブンでゴレム相手に応戦しつつ、集中力を練ろうとした次の瞬間――――
――――ドオオォォン!!
と、突如俺の背後から爆音が鳴り響くと同時に、ゴレムの1体が粉々に弾け飛んだ。
「――――ッ」
いきなりの爆音に耳を防ぎながらも先ほどの攻撃の威力に戦慄する。
な、何なの今の? 大砲と見間違えるほどの威力だよ。いや、え、えー……つ、強すぎる……あのゴレムの跡形もないんだけど。核を撃ち抜くのではなく、その衝撃で完膚なきまでに破壊した。何なの千佳ちゃんのアイビスなの? あれでは中にある核などどこにあろうと全く関係ない。今の攻撃は全てを粉々に砕け散らせるほどの威力だな。
あのゴレムをあんな粉々に粉砕できるほどの破壊力……一体誰が? そう疑問に思ったが、その疑問はすぐに解消されることになる。それも後ろから――――海の方からエンジン音が聞こえ始めた。
「――――!」
何かと思えば、水上機だ。水面上に浮いて滑走が可能な航空機。種類までは分からないが、その機体の中には数人乗っている。俺がいるタンカーに近付いたと思えば、スピードを緩めた水上機の中からザッと飛び降りる人影が…………。
「やっほ~、ハチハチ、お待たせっ! りっこりんでーす!」
「八幡、助太刀に来たよ。SOSってこれのことよね。このタンカー……誰が動かしてるの?」
「お待たせして申し訳ありません、八幡さん。援護します」
理子と猛妹、そして、レキがここに来てくれた。この戦場に。船上とかけてみた。ヤベぇ、くそつまんねぇわ。
にしても、わざわざ援軍に来てくれてありがたい限りだ。乗船する前に送った俺のSOSサインを拾ってくれたみたいだな。いやもうホント、マジで助かる。独りではどうにもならなかった場面だ。かなりキツかったからな。
「悪い、来てくれて助かった」
レキたちに話ながらゴレムを迎撃する。
水上機の定員があったにしろ、来たのはこの3人だけか?
「遠山たちは?」
「キンジさんたちは藍幇の代表と最終決戦をしています。アリアさんも同様です。私たちは決闘が終わったので、即座に援護に来ました。藍幇の残りのメンバーと白雪さんは陽動に備えて別の場所へすぐに出撃できるよう藍幇城で待機しています」
そこらの判断はさすがだな。レキが判断したかどうかは分からないけども。まぁ、みんなで話し合った結果かな。
実際、星伽さんがここに来たらゴレムとは相性が悪いだろうし、かなり苦戦するかもしれない。別に星伽さんをバカにするつもりは全くなくて、超能力の相性って複雑なんだよな。俺みたいに超能力を補助的に使って物理攻撃をするならともかく、超能力の攻撃となると、それはもう色々と複雑すぎる。
「あれ、これってパトラの使い魔だよね、八幡。見た目的に」
「あぁ、このタンカーに乗ってるのはパトラとカツェ。今俺らの前に立ちふさがってるのはパトラの使い魔だ。多分タンカーを使って大規模なテロを仕掛けようとしているんだけど、俺には詳細は分からない。何となく予想は立ててみたけど、証拠はない。なぁ、理子なら内容が分かるか?」
簡潔に状況を説明する。最悪の想像は考えられるが、証拠がないとどうにも決め手に欠ける。ここはわりと専門の理子に訊いてみたい。
理子は険しい顔になりながら説明をする。
「んー、なるほどなるほど。よりにもよってカツェか……あのクソッタレが。これは相当ヤバいな。多分、タンカーにある原油を導火線にして香港の都市に火を付けるんだろ。言うなれば、言葉に表せないほどの大規模な火災をしようとしている。港にぶつけて原油撒き散らすんだろう。そこに火を付ければドカーンって燃え上がる寸法だ。ハチハチに分かりやすく言うなら、規模で言うなら冬木の火災かそれ以上ってところかな」
予想はだいたい当たっていたな。いや、そんな悪い方向で当たられていても困るんだけど。
それを思い付いて実行に移すのがマジでイカれている。だからこその対抗策はあるにはあるんだけどな。これはどちらかと言えば、カツェではなくパトラに向けてのだ。それが何なのかはパトラとタイマンで戦えるときに使ってみるか。どこまで効果あるのか分かんないけど。
「はぁ!? パトラにカツェ……許せないね。私たちの街にそんなの!」
猛妹は理子が言った内容に憤慨している。
それもそうだろう。いきなり自分の育った街を壊そうとする輩に出くわして何の感情も湧かない奴がいたらそれはそれでイカれているだろう。俺だって千葉に被害を加える奴が目の前にいたらボコボコにするからな!
それはともかく……。
「ていうか、なんで猛妹まで来たの?」
「ちょっと酷くない!? 数分で水上機手配したの私よ!」
「そりゃありがたいけど……」
だって、お前の所属している組織は今レキと敵対している。つまりは俺とも藍幇は敵対していると言える……かもしれない。そんな見ず知らず……見ず知らずは言いすぎか。そこまで知らない仲じゃないし。でも、何かしらの罠かもしれないのに、よく来てくれたよ。
「ふっふっふっ……愛している人からのSOSは見逃さないよ。私の立場なんて関係ないよ。ポイントを稼げるときは稼ぐのができる女よ」
「……お、おぅ……そ、そうですか」
相変わらずのド直球の好意にドギマギする。こんな場面でもそういうことを平然と言える猛妹の胆力はスゴい。そして、俺の反応はダサい。いや、キモすぎだろ……。もうちょいマシな反応できないの? できないの。
「というより、ポイントって……その言葉が俺の心象を悪くするとは考えないのか」
「今さらじゃない?」
確かに。
「へー……」
「――――」
なんて猛妹と話していると、なんかデジャヴ……。
俺の反応に不本意なのか、理子は目を細めて何やら睨んできてなんか呟いているし、レキに至っては瞳孔が開いている。その視線は是非とも俺や猛妹ではなく、ゴレム当たりに向けてほしいです……。怖い。
「まぁいいか。ハチハチにはあとで問い詰めるとして、パトラたちは?」
「船内。先に俺がタンカーに着いたんだけど……あぁもう邪魔だな! こんな感じで妨害喰らって足止め中だ」
冷ややかな視線を止めてくれた理子は話を戻してくれる。その途中でゴレムが襲ってきたから、その体躯を思いきり蹴り飛ばす。
「では八幡さんは船内に侵入しようとして遮られているということですね」
「あぁ……まぁ、そういうこと……だな、うん」
「本当は藍幇との決闘が終わり次第、八幡さんと合流して観光をしたかったのですが」
「まぁ、うん……しゃーないよな」
「許せませんね」
レキは何やら嬉しいことを言ってくれているが……俺の意識はそこにいかない。
あの、さっきから気になっていたんだけど、レキが持っているそのライフル…………いつものドラグノフじゃないよね。あの、これどう見ても……バレットM82なんですけど! 対物ライフルじゃん!
さっきゴレムを破壊したのはレキだな。対物ライフルでの攻撃なら納得したわ。
それも対物ライフルってのは、WWⅠ辺りで戦車の中にいる人を狙撃するために開発されたと授業で習ったことがある。うろ覚えだけど。あの戦車を撃ち抜ける、軽車両など相手にならない、そんな威力を有しているのが対物ライフルだ。そんな恐ろしい代物を使うっていうか、持っていたんだ……。全然知らなかった。まぁ、普段から使えるもんじゃないしな。あんなのMAP兵器もいいとこだろ。
それを使えるレキもこと戦闘に関して改めて化物だと実感する。これがSランク武偵の本気か……。
それ、俺に向けて撃とうとしないでね? まず直撃したらその部位が確実に吹き飛ぶ。骨に当たらなければ、どうにか繋がっている状態にはなるかもだけど、1.5km離れた人間を胴体から真っ二つにしたとも噂されるほどエグい武装なんだよな。カスッただけだとしても、その部位は一生使い物にならなくなるくらいの深刻なダメージを負うことになるらしい。基本的にショック死だよ!
何それ怖い!
「できれば理子か猛妹か付いてきてほしいけど」
レキのバレットM82はさて置き、味方が増えた現状さっさと突っ込まないといけない。相手は2人だから近接が得意な理子か猛妹とタッグを組めるならありがたいが。
「うーん、ゴレムが多いからハチハチ単騎で行くしかないよね。甲板で押し負けるのがある意味不味いし」
あっさり断られた。しかし、理子の意見も納得がいく。それもそうかといったように。
いくらゴレムが船内に入るのが難しくても、あれは砂でできている。いざとなれば姿を変えることもできるだろう。それでパトラたちとゴレムに挟まれたら絶対詰む。
「そうね、私たち3人はゴレムの相手ね。八幡に道を作るよ」
「ちょいちょい。私たち3人じゃなくて4人だよ」
ん? 理子、どういうことだ。まだ援軍がいるのか? と思った瞬間、理子の影が突如として蠢き、あまりにも不自然な形になる。それは理子の影の中にもう1人いるかの如く。
これは……見覚えがあるぞ。
「……はぁ、仕方ないわね。理子の頼みよ。感謝しなさい、イレギュラー」
「ヒルダ!?」
理子の影から出てきたのはまさかのヒルダ。前に俺が初見の攻撃でボコボコにした相手だ。いや、影に入れるのは知っていたけど、まさか理子の影に潜んでいたとは思いもしなかったからめっちゃ驚いたわ。
え、何だ、お前不法入国したの? おーい、ここに犯罪者がいまーす! って、ここにいる人たちだいたい犯罪者ばかりだった。てへ、八幡うっかり。キモ。
とりあえず挨拶はしておくか。助けてくれるみたいだし。
「お前いたんだな。まぁ、お前が味方なら頼もしいわ。よろしく」
「あら、平然としているのね。私を恨んでないのかしら?」
「理子が許しているなら、俺にとやかく言う権利はない。所詮は外野の戯言だ。それに一度戦って勝敗が決したら、わざわざ恨みなんて持ち越さねぇよ。んなの貴重な記憶容量のムダだ。というより、俺は別にお前に恨みはないしな。あのときは理子の依頼でお前を倒しただけだ」
ムカついたことはあったが、別になぁ……それよりも俺はヒルダを殺しかけたわけだし、ヒルダの父親ぶっ殺しているしで恨まれるのは俺の方だと思うんだけどな。ぶっちゃけ恨みとかどうでもいい。
「ただし、あれだぞ。次に理子に手を出そうとしたらショットガン2丁担いで諏訪さんスタイルでお前を蜂の巣にするからな」
「……誰なのよ、ソイツ」
「おいおいお前、あの諏訪さんを知らないのか。ボーダーで上司にしたいランキング(俺調べ)第2位の男だぞ。ちなみに1位は東さん」
「だから誰なのよ!?」
そうヒルダとじゃれ合いつつ理子に向き直る。
「理子――――お前は大丈夫なんだな?」
「あぁ。私が決めたことだからな。問題ない」
キッパリと理子は頷く。
「なら俺はもう何も言わない。ただ、なんかあれば呼べよ。ショットガンやら戦車やら担いで絶対に助けに行くからな」
「……っ。う、うん。そのときはよろしくね、ハチハチっ!」
「ちょっと、そのときなんてないんですけど。心外ね」
目を丸くして少し照れた理子にヒルダが茶々を入れる。あれ、思いの外仲良さそう?
え、なんか意外だ。てっきり互いに遠慮しているというか、日常会話が弾む関係には見えないけど。だって……なぁ? 積み重ねた年月があれだし。
「ねぇねぇレキ、八幡って理子に優しくない?」
「同感です。八幡さんは理子さんに優しい上に甘いところもあります」
「私と態度丸っきり違うよ。ぞんざいすぎね」
「それは仕方ない部分はあると思いますよ。今まで私の八幡さんに行動を思い返してください」
「うっ……」
そこの2人、ちょっと静かに。それと女子のマウント合戦怖い。これが噂の『コイツは私が唾付けてるんだから手出すんじゃねーぞ。コラァ!』という何気ない女子特有の会話ですか。よくラブコメとかで見かけるやつ。
「――――何はともあれ来てくれたありがと」
「お礼はあとです。パトラたちを捕まえてからにしましょう」
「だな」
と、ようやく戦力も出揃い、各自臨戦態勢に入る。
「じゃあ、改めて――――私たちがゴレムを退けるから、その隙にハチハチは突っ切ってね」
「あんな人形、相手にもしたくないけれど……今回は特別よ。イレギュラー、あなた理子に感謝しなさいよね」
「ある程度片付いたら加勢しに行くけど、それまでにパトラたちを倒してね。ボコボコにするんだからね! 私たちの香港を燃やそうとする奴らは!」
理子は超能力で髪を操り双剣双銃に。
ヒルダはその身に電気を纏わせ。
猛妹はその体躯と寸分違わない青龍偃月刀を構え。
「――――では。お前たち、そこは邪魔だ。八幡さんの道を開けなさい」
珍しく言葉が荒々しいレキのバレットM82の狙撃――――いや、砲撃により第2ラウンドの幕は開けた。