八幡の武偵生活   作:NowHunt

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多分今回は箸休め的な回

「…………おい、お前ら何してんだ? いや、お前らつーか、神崎か」

「なにって、八幡とレキの帰り待っていたんだけど? そろそろ戻るってキンジに連絡したでしょ?」

「まぁ、そうだな。ただお前がいるとは思わなかったよ?」

 

 

 ――――長きに渡る事件も一応は解決し、総武高校をあとにした俺たちは一度それぞれの寮で別れてから、部屋に帰ってきた。

 

 

 で、帰ってきたはいいけど、なぜか我が家でくつろぐかのように神崎がリビングに佇んでいた。テーブルでだらけながら桃まんをリスのように頬張っている。そして、遠山は神崎の相手が疲れたのかソファーで寝転んでいる。おい、家主こら。

 

 つーか神崎、お前桃まんめちゃくちゃ食べてるな。そこいらにゴミが散らかっている。おい、そこのだらけている家主! 注意しなさい!

 

「はむはむ。……あら、レキは一緒じゃないの?」

「レキは荷物置きに部屋まで戻った。用事あんのか。呼び出そうか?」

「お願いしていいかしら。労いも兼ねてお疲れを言いたいのよ。あとちょっと頼みたいこともあるし」

「はいよ」

 

 むっ、そういうことなら無下にはできない。世界でも有数な貴族様なんだから、きっとさぞかし豪勢なもてなしがされることだろう。なんて淡い期待をしてみるが、特にこれといって部屋には特別な雰囲気はない。知ってた。だって、神崎は桃まんしか持ってないのが見て取れるもん。はぁ、少しはがし残念。

 

「つーか、遠山。せめて何か一言ほしいんだけど」

「……いや、これからのことを思うと比企谷とレキには申し訳ないなって」

「あ? 労いだけじゃなくて、なんか話あったりするんか?」

「そうよ、ちょっと八幡に訊きたいことあってね。ま、レキが来てから話すわ」

「だからって、せめてソファーから起き上がってほしかったけどね?」

 

 

 

 

 

 レキが来てから、遠山と神崎に相談を受けた。

 

「そっか、もう修学旅行Ⅱの時期か。それで、香港行くって? そこに猛妹たちがいんのか。……師団のお前らが攻めるのは分かるが、俺らサリフは中立だぞ。立場的にももうちょい別の場所に行きたいんだけど。FEWとは関係ない、平和そうなグアムとか」

「あそこ島国じゃない。日本と何が違うのよ」

「色々違うだろ」

 

 修学旅行Ⅱは簡単に言えば、海外旅行だ。

 

 前回の修学旅行Ⅰは国内だったが、今回は海外での修学旅行。行き先は各々チームで決めるらしい。帰ってきたばかりで頭に入っていなかったが、もうそんな時期だったか。前回に引き続きまーた藍幇か。アイツらと関わりたくない俺の気持ちを察してほしい。

 

 そんな淡い期待は露知らず、神崎は話をズンズカ進める。

 

「それでね、これはキンジの提案なんだけど、私たちは香港で藍幇との決着をつけるつもりよ。ジーサード含めてキンジも因縁つけられたし、新幹線ジャックもあって無視していい相手ではないわ。ちょうどいい機会だからね。ただ問題として、相手……ココの中にはレキ並の腕を持つスナイパーがいるわ。さずのあたしと言えど、スナイパーとは相性が悪いわ。そこで、レキを雇いたいのよ」

 

 そういやいたな。俺は直接戦ったことはないが。俺が猛妹と一緒に新幹線から落下したあとにレキが仕留めたという奴だ。あの頭のどこかを狙撃して神経を麻痺させる高等技術を披露した。あれ俺もできるかと試してみたが、あそこまで精密射撃は俺には無理だった。

 

 とはいえ、レキを雇う、か。うーん。

 

「それ、俺らの立場どうなんだ? ただでさえ、俺ら……いや俺か。俺はヒルダ倒して師団寄りに思われているんだけど、そこでレキを貸したら、それこそ眷属たちから敵認定されると思うぞ」

「だからレキ個人よ。レキは確かに中立だけれど、ウルス全体は師団に加入しているわ。もう抜けたとはいえ、レキ個人は元々ウルスに所属していたんだし、どうにか誤魔化せるんじゃない? それに向こうも傭兵雇ってるって噂だしね」

「ならいいが……まぁ決めるのはレキだしな」

 

 外野がとやかく言うことではないか。と、全員レキの方へ向く。レキは頷いてから。

 

「分かりました。報酬についてはまた後ほど話し合いましょう。相手の狙撃手を抑えればいいのですね。どのような戦いになるかは不明ですが、了解しました。あとついでなのですが、藍幇の中に今のうちに殺っておきたい人もいますが、殺し……仕留めて構いませんか?」

「……ん? えーっと、ほどほどにね? じゃあ、スナイパーの相手は頼むわ。……あぁ、それと八幡」

 

 ……レキ、お前まだ猛妹狙っているのか。神崎も若干引いているし、いい加減諦めたら?

 

 で、神崎か。俺にも訊きたいことがあるって話だな。

 

「あんたにも訊きたいことがあってね。その内容なんだけど、色金……特にレーザーの特性について教えてほしいのよ」

「レーザー……。そういや遠山、ジーサードは大丈夫なのか?」

「まぁな。比企谷のおかげでケガは大して酷くはない。今は大人しく休んでるよ、多分」

 

 なら良かった。傷跡小さくてもレーザーのせいで貫通しているわけだし。

 

「ほら、相手は色金の力を使えるのよ。恐らく藍幇の代表者として出てくるわ。あたしはまだ色金の超能力はそれほど使えないし、特徴とかを実際に使ったことのある八幡に色々訊きたいのよ」

「…………えー」

 

 しばらくの沈黙のあと、俺は思わず不満の声をもらす。

 

「ちょ、なんでそんな声出すのよ!」

 

 明らか不満な俺の態度に神崎は声を大きくし、いかにも怒り新党といった雰囲気を露にする。

 

「いや、神崎。よくよく考えてほしい。武偵は本来、自分の情報は秘匿するもんだぞ。おいそれと明らかにするのはいくら気心知れている相手でもそれはただの自殺行為だろ。そんな間抜けは武偵はいない。将来的にお前が使える可能性があるとしてもだ」

「むっ……。まぁ、それもそうよね。武偵なら手の内隠すのは当然のことだわ。こればかりは責められないわね。うーん、なら八幡。あなた何か欲しいものある?」

「んじゃ、家一件。それかマンション一室。または5000兆円(非課税)」

「あんた限度ってもんがあるでしょ!?」

「冗談だってば」

 

 叫ぶ神崎をなだめる。でも実際、色金の情報はそれくらいの価値があると思ったり思わなかったり――――

 

「ならお疲れの意味も込めて何かお高い飯でも奢ってくれ。フルコース? みたいなの」

「あら、そんなのでいいの。了解。ちょっと予約取っとくわね。特別にキンジも招待してもいいわよ?」

「マジか。さすがアリア様……! 比企谷、ありがとう……!」

 

 神崎の意地悪な笑みに遠山は平謝りしている。なんなんだ、これ。イギリスは飯不味いってことで有名だけど、貴族様が拵えるお店なら充分安心できるだろう。

 

「さ、予約は取れたわ。報酬はそうね、今訊いておきたいし、後払いでいいかしら?」

「まぁな。最初に言っておくが、色金に関して当然俺も分からないことがある。完璧に色金の力を扱えているわけではないしな。だから、俺の分かる範囲で答えるというのを念頭に置いてくれ」

「そりゃね。色金のこと完璧に分かってるのって、ひいお祖父様くらいじゃないかしら」

「シャーロックなぁ……」

 

 この前会ったねぇ。今はどこで何をしているのだか。どうせコソコソと何かデカい事件を起こすのだろうなと予想はできる。頼むから巻き込まないでくれ。

 

「まぁいいわ。さっそく質問始めるわね。キンジも気になったらどんどん質問してよ。……まずはそうね。レーザーの射程距離は?」

「正確に測ったことはないが、視界内ならだいたいは届くぞ。もちろん、離れすぎていたら、狙いにくいし、そもそも威力が減衰して当たらないこともあるだろう。俺の場合はこう……」

 

 腕を伸ばし、親指と人差し指を合わせて△の形を作る。

 

「これで照準を絞る。この△の間にレーザーが通るようにな。俺が狙えるのは最大でせいぜい100m前後だな。それ以上はキツい」

「ふむふむ。じゃあ次に装弾数は?」

「1発。これは多分他の奴でも変わんないんじゃないか。力の消費が大きすぎるから、レーザー撃ってもチャージに俺は1日かかる。もし俺以上に慣れてるとしても早くて半日は必要だと思う」

「その1発を小分けにすることはできるのか?」

 

 と、遠山。

 

「試したことあるけど、俺はできなかった。多分これも他の奴と比べてもそこまで大差ないとは思う。基本的には0か1だな、あれは。まぁ、俺は1発撃ったらだいたい気絶するし、滅多に使わないから、そこまで細かい部分は検証できてないんだよな」

 

 加えて、あれを牽制目的で……威力調節できる代物ではない。

 

「あたしは実物見たことあるわけじゃないけれど、撃つときって目に光が集まるのよね。そのときの発射タイミングとかは?」

「かなり大ざっぱになるけど、輝きが最高潮に達したとき……としか言いようがないな。これも俺の体感だけど、一番輝いたって思った瞬間にはもう発射している」

 

 実際に撃つ瞬間を録画して色々試したことがある。

 

「玉藻はあのレーザーを如意棒って呼んでいたが、威力はどれくらいだ? いくら視界内のものは撃てるとしても、限度はあるんじゃないか? 地球を貫通とかできないだろうし」

「そりゃ、できたらスゴすぎるな。つっても、あのレーザーは基本的に熱だから、さすがにビルとかをいくつも貫通させたら途中で威力は落ちて消えると思う。何か分厚い金属の塊……とかも途中で貫通できずに終わるかな。ただまぁ、人体くらいは簡単に射抜けるぞ。それは遠山も見ているか」

 

 俺の言葉に遠山は頷く。

 

「射抜ける……レーザーの口径はどの程度かしら?」

「これも正確に測ったことはないけど、目の虹彩から出るから――よくて数ミリってところか。そこまで口径でかくねぇし、どれだけ貫通できたとしても、撃ちどころが悪ければたいしたダメージにはならないんじゃないか。脳か心臓、肺とかの臓器、動脈辺りを撃ち抜かないと」

「なるほどね……」

 

 そう神崎は神妙な表情で呟く。

 

 口ではそう言うが、それなりに離れているとしても脳程度なら狙いやすいし、やっぱりかなり強い代物なのではないかと再認識する。さすが色金だな。これでもうちょいコスパ良ければ、もっと頻繁に使え……いや、あんな必殺技、武偵がおいそれと使うわけにないかないか。

 

「使われればほぼ必中というわけね。これはかなり厄介だわ……。となると、発射をキャンセルさせることはできるのかしら?」

「それはかなり簡単だぞ。チャージしているときって目が光っているんだけど、一度でも目を瞑ってしまえば、それでキャンセル扱いになる。レーザーを撃つためにはずっと目を開く必要があるんでな。だからまぁ、ぶっちゃけ猫だましとかすれば普通に防げるぞ。あー、でも、そんくらいの距離詰めていたら普通に殴ればいいか。とはいえ、防ぐだけで、また撃たれたら、そりゃキツいとは思うけど……。キャンセルさせてもレーザーを撃った扱いにはならないから、いつでも撃てる状態には変わりないし」

 

 それを言うと、遠山と神崎は面を食らった表情になる。思いの外、簡単に防げることを知ったらそうなるよな。

 

「なら比企谷。もし……相手にレーザーを使わせなければいけない状態になったら、どうすればいいと思う?」

「必殺技は撃たせないに限ると思うけど……。うーん、そうだな、撃たせる直前に視線を逸らさせるとかか、あとは分厚い盾を用意するとか。撃たれたらあんなの避けようはないから、その程度しか対処方法はないと思うなぁ……どうなんだ。なんか重力レンズって言われる超能力使えるなら、レーザーの軌道を逸らせるらしいんだけど、遠山には関係ないし」

 

 例えば何か目立つ物を投げて一瞬でも相手の目がそっちに行けば……俺がステルス戦法で銃投げるみたいな感じか。いやでも、色金の力を使える相手なら相当手練れのはずだし、そんな見え見えの戦法に引っ掛からないと思うなぁ……。

 

「――――とまぁ、ざっと伝え終えたわけだ。俺から話せるのはこんなんだけど、大丈夫か?」

「えぇ、充分よ。参考になったわ」

 

 

 

 

 神崎から高級な料理をご馳走させてもらったあとの夜、俺はレキの部屋で荷物の整理を手伝っていた。今後の打ち合わせも兼ねてだ。ぶっちゃけレキの荷物なんて少な過ぎて手伝いとかあってないようなもんなんだけどな。

 

「レキは神崎たちに着いていくとして、俺は香港で何しようかな。どうせ別行動だろうし」

「素直に観光でもすればいいのでは?」

「それもいいと思うんだが……」

 

 ただちょっとな……。懸念することが……。

 

「歯切れが悪いですね。どうかしましたか?」

「いやさ、藍幇って中国の中でもかなり有数なマフィアなんだろ。構成されている人数は末端とか含めたら、それこそ100万人越えるらしい。てことは、俺らの動きはどんな形か知らないけど、ある程度は捕捉されるかもしれない」

「そうですね。私単体なら、気配を消せば自由に行動できる可能性はありますが」

「……だから下手に動いたら、藍幇……特に諸葛や猛妹辺りに捕まりそうなんだよな」

 

 俺はレキほど完璧に気配は消せない。一般人程度なら、そこいらでも気配を誤魔化しつつ歩けるけど、マフィア相手だと厳しいだろう。どう気配を消したとはいえ、監視カメラには普通に映るわけだし。香港の監視カメラ事情は知らないけども。

 

「いっそのこと俺は別の国……あぁいや、サリフで動かないとだから俺も香港だよな」

 

 そこは確定している事項だ。

 

「いやでも、よくよく考えれば眷属である藍幇がわざわざ俺に声をかける理由なんてなくないか? 眷属に入れっていう申請も何回も断ってるしな」

 

 うんうん、そうに決まっている。たかだか一般人を全勢力かけてマフィアが襲ってくるとかないに決まっている。そう納得していると、レキはさらりとその希望を打ち砕く一言を放つ。

 

「確かにそうかもしれませんが、実力行使で来たら応戦するしかないですよ。例え八幡さんが中立、無所属でも、もし眷属所属を懸けての勝負に負ければ、眷属に入るしかありませんので。そうなったら、私もそうなりますが。かなめさんやジーサードさんも無所属から師団になったそうです。ヒルダも含めて」

「あ、ヒルダもなんだ」

 

 理子によって命は助けられたのは知っていたけど、どうやらその後師団に移っていたらしい。まぁ、どうせもう会うことはないだろう。

 

「では八幡さん。もしあの女が現れたら一報ください。狙撃します」

「俺の目の前で撃たれるのはちょっと……。かなりショッキングな映像になるんだが。や、そもそも殺すなよ? 武偵法の縛りレキがどうにかできても、俺やバスカービルが関わっている時点でアウトだからな?」

「…………チッ……」

 

 そないあからさまに嫌そうな顔して舌打ちしなくても……。ホント、感情表現豊かになったね……。ある方向においては。果たしてそれは成長と呼べるモノなのだろうか甚だ疑問ではあるが。もう少し歩み寄ってもいいんですよ?

 

 とはいえ、これ以上この話題を広げないように話を戻す。

 

「まぁ、そうだな。それを念頭に置いてのんびり観光するか」

「香港は日本に比べて治安悪いそうなので、気を付けてくださいね。調べてみると、スリなども多発するそうです」

「あ、そうなんだ。なら、荷物は最小限のがいいか」

 

 雑談しつつレキの荷物を片付ける。

 

 ドラグノフ関係は俺が触れない方がいいので、他の荷物となると……衣服辺りか。いや、前に多少買った服があるとはいえ、かなり少ないな。

 

 そんで俺がレキの衣服を片付けているわけだから、その、白色の物体も……普通に触っているんですが、あなた大丈夫なの? なんか何も言ってこないけど、このまま片付けてもいいの? ていうか、どうして俺がレキの部屋の構造やら衣服を片付ける場所も理解しているのだろうか……なにこれ家政夫? これが夢にまで見た専業主夫の仕事か。色気ねぇなぁ、この仕事。

 

「では八幡さん。私は今からドラグノフの整備するので、適当に切り上げて大丈夫ですよ」

「つってももうほぼ終わってるしな。そろそろ帰るか。んじゃ、また明日」

「はい。お休みなさい」

 

 

 ――――で、部屋に戻ったはいいいが。

 

「…………なにこの硝煙の匂い」

 

 日常的に香る火薬交じりの匂い、なんかリビングから漂う煙……そして若干扉が斬れているこの惨状具合。と、同時に神崎と星伽さんの靴が玄関にあるのを見付ける。

 

 遠山の悲鳴が聞こえるのを理解してから考えること数秒。

 

「よしっ、レキの部屋に泊まるか!」

 

 

 

 

 

 

 

 




ネトゲ嫁の新刊まだですか?



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