八幡の武偵生活   作:NowHunt

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総武高校編最終話 日常へ

「昨日はお疲れ様でした」

「坂田さんたちこそ」

「はい、お疲れ様でした」

 

 鏡高組襲撃の翌朝、それもかなり早朝。俺とレキは警察に顔を出して事の顛末を聞いている。加えて、取り押さえる前に頼んでいたことも諸々確認のために訪れた。今日か明日で事件を終わらせたい。そろそろ疲れた……いや、武偵高での生活の方が疲れるけど、疲れるベクトルが違うというか。精神的に疲労するというか。

 

「そのあとどうなりました? その……銃痕が……そのー」

 

 威嚇射撃でビルの床を凹ませたの思い出して、思わず肩身が狭くなる。多額の金で弁償とか言われたどうしよう……。

 

「ま、まぁ、そこは石動組のせいと言いますか、上手いこと誤魔化しておきます」

「すんません。何かあれば弁償しますんで」

「いえいえ、大丈夫ですよ。そもそもあのビル、建設されたの20年ほど前なんですけど、石動組の息がかかった建設業者が関わってたみたいで」

「あぁ、やっぱりそうですか。じゃないと、わざわざあんな地下通路……用水路への出口作れませんよね」

「そうです。その業者はもう倒産していますし、管理を任された別会社も似たようなもんですから、だからまぁ、誤魔化しは効きますし、あそこ普段使うような人もいないらしいので」

 

 なら良かった……。一安心した。

 

「そういや、あのビルに何人くらいいたんですか?」

「幹部除けば、26人ですね。数多すぎると移動も大変ですしね。一応全員逮捕したんですが、余罪やら色々まだ調べている最中ですので、全員を追及できるかと言うとまた別の話になります。藍幇の関係者は調べが付いていませんので、さすがに……。ま、まぁ、密輸された銃はかなりあるから、そこをこれから捜査するところです」

「お願いします」

 

 そうなんだよな、藍幇を取り逃がしたせいで完全解決とまではいかない。というより、藍幇側の証拠がなさすぎて、捕まえるなど現段階ではできないのが現実だ。ホントアイツらときたら……クソが。

 

「それで、今回の依頼はほぼほぼ終わりということですね。ありがとうございます」

 

 今回依頼されていたのは総武高が誰に、どのように取引に使われていたかを調査するというのだ。確かにほぼほぼ終了したが、まだ判明していない部分もある。

 

「あー、いえ。まだ最後の仕上げが残っていますから。一件落着には早いです。総武側の人間……手引きした奴が誰なのかはまだハッキリしていませんので」

「あぁ、そのことで、先日頼んだモノの鑑定結果がこちらに」

 

 と、坂田さんはファイルを渡してくれる。中身をレキと一緒にパラパラめくりつつ読み進める。

 

「一応私も目を通しましたが、内情を知っている比企谷さんやレキさんの方が分かるのではと」

「そうっすね。大方予想通りというか」

 

 ここでレキが口を挟む。

 

「はい。しかし、これは……この人を逮捕という形に落ち着いて良いのでしょうか?」

「まぁ相手も相手だからな」

 

 今回石動組の手引きを実行した奴がなにせ生徒だからなぁ……。

 

「つっても、これ罪に問えますかね?」

「そうですね、判断が難しいところですが……恐らく窃盗にはなると思いますし、ヤクザと関わっているので内容にもよりますが、罪にはなるかと。とりあえず、取り抑えたら一報ください。私たちが直接行ってもいいのですが、ここは比企谷さんやレキさんの方がやりやすいのではと」

「分かりました。となると、なるべく騒ぎにならないように放課後狙うか。レキ、どうする、拉致る?」

「普通に呼び出しましょう」

「あまり警察の前で堂々拉致すると言わないでほしいのですが……」

 

 苦笑する坂田さんにすいませんとペコペコ頭を下げる。何分、こちらは犯罪紛いのとこをやることで有名な武偵でして。別段、その選択肢に対して抵抗感とかないのが困る。借金取りとかもやったことあったなぁ。

 

「そういえば、今朝ニュースサイトでチラッと見たんですけど、鏡高組の内容がけっこう内容と違ってましたね。内部抗争はそうですけど、石動組とのことは書かれてませんでしたね」

「情報統制があったみたいです。恐らく、藍幇の圧力が日本にかかってましまったのでは……。逆に、石動組の取り抑えは幹部や組長が含まれていたので、そこはちゃんと記事にしてもらましたけど」

 

 要するに癒着があったと。加えて、貴族である神崎が関わったらイギリスも黙ってないしな。今回は別に何てことはないだろうが。ただ普通に武偵として制圧しただけだしな。今さらだけど、どうして貴族が武偵をやっているんだろう?

 

 それはともかく――――

 

「あー、そういう感じっすかー。やっば藍幇鬱陶し……」

「全面的に同意します」

「お前のそれめっちゃ私怨も含まれているよな?」

「フフッ――――どうでしょうか」

「こっわ」

 

 

 

 なんて世間話をこなしつつ時間も近付いてきたので、俺とレキは警察をあとにした。目指すは学校、もうすぐで始業の時間だ。さすがに遅刻は避けたい。

 

 一応はこの長期の捜査で離れているから、単位を付けやすいようここの成績やらが武偵高に反映される仕組みになっている。まぁ、もう卒業に必要な単位は取り揃えてはいるけど。つーか、総武の授業内容難しくて、ホントに反映されるのか疑わしいまである。まぁ、そこは平塚先生が融通してくれるだろう。

 

 始業ギリギリで学校に着いた俺は誰とも話さずに席につく。クラスは何かといつも以上に騒がしく、何があったのか疑問に思っていると由比ヶ浜たちの声が聞こえた。由比ヶ浜と葉山と縦巻きロール……三浦か。

 

「近くにいるヤクザが捕まったって。チョー怖いんだけど」

「全くだね。何か事件を起こそうとしていたし、しばらくはワイドショーとかもこれで持ちきりかもね」

「でもでも、偉い人たちが捕まったし、危ないことないんじゃない?」

 

 クラスのいくつかのグループの話に耳を澄ませていると、どこも似たような話ばかりだ。

 

 やはり自分の住んでいるところ近辺で起きた事件があると、どうしても気になるし話題にもなるだろうな。その気持ちはよく分かる。ミーハーというか、変な優越感というか、野次馬精神というか、その辺りの感情が芽生えるのだろう。……ただ周りの反応を見るに俺とレキが関わっていることはどのニュースには載ってなさそうだ。少しばかし安心した。

 

 肘をついて改めて教室全体を見渡す。

 

「――――」

 

 ぶっちゃけいつも以上に騒がしい。グループで固まっている人たちの話題は似たようなもんだ。ただ、もうすぐ授業が始まるんだがなぁ。もうちょい静かにしてほしいなぁ。――――と、特に変わりのない、ここ1ヶ月で見てきたクラスの面々を見渡す。

 

「…………ん」

 

 しばらく眺めているとある部分に目がつく。

 

 あ、いた。目的の人物はちゃんと教室にいた。良かった。これで下手に休まれると捜索に時間かかるからそうなるとキツすぎるわ。んじゃ、次の休み時間辺りに適当にルーズリーフを千切って放課後に呼び出しかけるか。周りにバレないように仕掛けないとな。そのくらい余裕だけども。

 

 とはいえ、目的の人物を観察しているが中々に挙動不審だ。石動組と関わりがホントにあるのか話を聞いてみないことには分からないが、もし真実ならいきなりこんなことになって不安に陥るだろう。本音を言うと、どのようにただの学生がヤクザと面識を持つようになるのか甚だ疑問ではある。俺もマフィアとは繋がりみたいなのはあるけど、それは武偵だからの話だ。その辺りも放課後に訊ねてみるか。

 

 まずは――――

 

「さぁ、授業を始めるぞ。ちゃんと復習はやってきたか? もう半年もすれば、すぐに受験期間だ。今のうちに覚えれる範囲は覚えておいて損はない。今日も引き続き源氏物語だ。源氏物語は時系列ごとによって光源氏の立ち位置が違う。その違いを知るためには、それぞれのエピソードのザッとしたあらすじを覚えるのが手っ取り早い。まず紫の上からだが――――」

 

 平塚先生の授業だ。

 

 この先生、熊を素手で殴り殺せる脳筋のくせしてどうして授業は分かりやすいんだろうか。個人的七不思議だ。ちなみにあと6つはこれから考える。この人はホント無駄に男勝りというか、蘭豹と一緒に飲んだくれるから2人して婚期逃すんだよなぁ……。蘭豹はともかく、平塚先生はジャンヌ同様同性にモテそうだ。

 

 まぁ、目的の人物は教室にいるんだ。見失わないように焦らず進めよう。次の休み時間にはレキにも連絡をしておこう。とりあえず今は授業に集中しよう。

 

 

 

「ヒッキー、ちょっといい?」

 

 昼休み、目的の人物の机にはもう呼び出しのための手紙を仕込んでおり、ソイツはまだ教室にいるのでここで見張ろうとしたところで、由比ヶ浜が声をかけてきた。

 

「どうした?」

「一緒にお昼ご飯食べよっ!」

「葉山たちとじゃなくてか?」

「んーっとね、隼人君たちは部活の方で行っちゃったからね。優美子たちは今日学食だって言うから」

「なら学食行けばいいんじゃないか」

 

 わざわざ俺のとこに来なくても。

 

「まぁまぁ。あたし学食騒がしくてあまり好きじゃないんだよね。ゆきのんも今日は教室で食べるらしいし、部室に行くのもできないし」

「ほーん。別にいいけど」

「ホントっ!?」

 

 そういそいそと由比ヶ浜は弁当を取り出し、隣の机をくっ付け広げる。

 

「あれ、ヒッキーパンだけなんだ?」

「まぁな。今朝はわりとバタバタしていて用意してなかったし、別にこれだけで充分」

 

 転校した当初は昼メシを早く食いすぎて周りから多少は浮いていたから、今は食べるスピードも気を付けている。武偵は飯を食っているときは無防備だから、早めに食べる習慣がある。ちゃんとした弁当なら未だしも菓子パンとかなら特に。

 

「そういえば、ヒッキー聞いた? なんか昨日この辺で大きなヤクザが捕まったんだって」

「らしいな」

 

 新幹線ジャック同様、俺らはめちゃくちゃ当事者だけど。

 

「物騒だよねぇ」

「全くだ。もうちょい平和に過ごしたいんだがな」

「だねー。前にサキサキが襲われていたときもそうだし、ちょっと最近治安悪いよね」

 

 サキサキ? あぁ川崎か。あのとき雪ノ下と由比ヶ浜いたもんな。

 

「この辺千葉駅周辺だから、わりかし武偵事務所多いんだけどね。こうも事件続きだと怖いよ。学校近くにも一軒くらい武偵事務所ほしいなぁ」

「そういうもんか」

 

 確かにあまり武偵と遭遇することはない。千葉に武偵高もなかったはずだしな。

 

「ていうか、ヒッキー。前聞きそびれたんだけど、なんでヒッキーがあの怖そうな人たちに勝てたの!? なんかサキサキがめっちゃスゴい動きしてたって言うし!」

「……さてな。偶然だ、偶然」

 

 ここで本業ですからとか言うわけにもいかない。校長先生との約束もあるし、俺ができることと言えば適当に誤魔化すだけだ。

 

「むー、なーんかヒッキー怪しーい」

 

 怪訝そうな眼差しを向けてくる由比ヶ浜。俺の適当な返事に納得してないようだ。

 

「ヒッキー格闘技とかしているわけじゃないんだよね?」

「そうだな」

 

 そりゃ向こうの方だったしな。

 

 俺のなんかただのケンカ闘法だぞ? カウンター主体の我流。見てから隙を付くのが性に合っている。まぁ、ヒルダみたいな攻撃させたら危険な相手にはこちらからずっと攻めるしかないってのもあるが、基本的にはこの戦闘スタイルだ。

 

「直接見たわけじゃないんだけど……ヒッキー何か隠している?」

「んー、つっても秘密なんて誰しも持っているだろ? 女子なんて特に。秘密があるからこそ女は美しいってベルモットも言っていたし。……といっても、前に俺が住んでいたとこが治安悪くてしょっちゅうケンカが起きるから自然とこうなっただけだぞ、俺の場合な」

 

 嘘は言っていない。バレる嘘はつかない主義なもんで。……最近コナン読んでないな。90巻越えた辺りから追っかけてねぇ。

 

「ふーん……」

「早く飯食え。昼休み終わるぞ」

「うわっ、ホントだ」

「そういや、生徒会選挙も無事終わって良かったな」

「そうだねー。大変だったよ」

「会長になんかあったら、お前らも手伝いなよ」

「それはもちろん。あたしとゆきのんはこうやって……祭り上げた? 立場だしね」

「なんでそこで疑問系になるのかね」

 

 ――――こうやって雪ノ下や由比ヶ浜たちと話すのもそろそろ終わりだろうな。

 

 なんてほんの少しだが、名残惜しさに加えて非常に残念に思う気持ちがあった。……少し意外な感情だ。

 

 

 

 

 

 

 

 ――――放課後、平塚先生に許可をもらった空き教室――――特別棟の家庭科で使われている実習室にレキといる。レキはスリングショットを、俺はファイブセブンを隠し持って。

 

「来ますかね?」

「ん? まぁ来ると思うぞ。午後に俺の手紙を見付けたときわりと青ざめていたからな。無視したら何されるか分かったもんじゃねーだろ、って思うだろうし」

 

 あれは5時限目だった。先生にバレないよう覗き見していたが、分かりやすいくらい表情が変化していた。息も多少荒くなっていたし、不自然に周りをキョロキョロしていた。先生に注意されていたほどな。

 

 教室で正体をバラすのは騒ぎになりそうだから、一緒に連れていくのも憚れていた。だから、こうして待っている。

 

 さて、いつ来るか…………お。

 

「足音しますね」

「だな」

 

 ――――ガラガラ。

 

 と扉が開く音がする。目的の人物は怯えた表情でこちらに入ってくる。

 

「よう、遅かったな。――――相模」

「………………あんた、転校生と……そっちも転校生……?」

 

 俺が呼び出したのは相模だ。

 

 こちらを不審に思いながらもゆっくりと相模が席に座ったのを確認してからレキは出入口を抑えるために立つ。俺は相模の真正面に座る。

 

「なんで、うちを、呼び出したの……?」

「あれ、理由は書いたろ? 石動組との繋がりについて教えてほしいって」

「……あんたら、何者なの? もしかして、警察……なの?」

「当たらずも遠からず。俺らは武偵だ。ある事件を捜査しにここに来た。ある事件ってのは……お前なら分かるか」

 

 その言葉で相模はバツが悪そうに視線を逸らす。自分のしてきたことが全て判明して逃げ場がない――とでも考えているのかね。

 

 

 改めて、今回、石動組と総武高とで繋がりを持っていた人物は相模南だ。

 

 どういう経緯で関わりを持ったのかは不明だが、相模だと判明した流れとしては――――まずレキと体育館を捜査したとき、あの地下室の入り口……というか、階段辺りだな。そこでここの事務員が使っている帽子だけを見付けた。あと未使用の銃弾が数発転がっていた。

 

 まぁ、銃弾はともかくとして、そこにあるのが帽子だけというはどこか不自然だった。たまに事務員が掃除とかをしているのは見かけたが、あれは帽子もつなぎがセットだった。だから、帽子を落としてどこかにつなぎを隠しているのだろうと思った。

 

 もちろん、石動組の奴らがつなぎごと持ち去った考えもあったが、夜中の監視カメラにはつなぎを着た姿は映っていなかった。

 

 ていうか、あれだ、普通に監視カメラに映ってたんだよなぁ。いやまぁ、つっても顔は隠されていたんで分からなかったし、映った秒数なんて3秒もなかった。そこから特定するのはムリあったな。あんなの根気よく探さないとまず見付かんねーわ。

 

 探してくれたの平塚先生と校長先生だったし。いくら武偵でも生徒が監視カメラ見るのはダメって言われた。

 

 だったら、わざわざつなぎを着る必要はなさそうだけど、夜中だろうと校内で動いても怪しまれないようにだろう。もしかしたら、行きもつなぎを着ていたのだろう。で、予め決めていた場所でつなぎを脱いでそれを相模が回収した感じかな。

 

 そして、俺が先日1人で特別棟を調べていると、ここである物を見付けた。それがもう片方のセットの事務員のつなぎだった。帽子がないことは分かっていたが、別に相模や石動組からしたら、あんなとこ落としたとしたも誰も調べはしないだろうとタカをくくっていたのかもしれない。だから、放っておいたと。

 

 そして、相模は回収したつなぎをこの実習室の普段使われないような引き出しに隠したと。鍵はどうなんだって問題があるけど、元々そこを隠し場所に決めていたなら、石動組側がそこの鍵だけは持っていたのかもしれない。それもあとで調べる必要がある。

 

 恐らく、俺が1人で調べているとき、特別棟に来たのは相模だったんだろう。髪色も明るい茶髪で一致する。実習室の様子を見にきたが、鍵が施錠されていたので入れなかったといった辺りか。

 

 あとはそれらを渡して警察にお任せした。それには石動組の奴らの指紋とは別に女生徒の指紋も検出された。それが誰なのかは……まぁ、警察が頑張って調べて相模と分かったみたいだ。どうやったのかは知りません。そういう専門的なのは俺は詳しくないので。いやー、警察って怖いね。悪さしたらすぐバレるんだから。

 

 

 

「いつ石動組と接触したかは定かではないが……時期的に不登校期間の間か?」

 

 と、話を戻して相模に問いかける。

 

「――――」

 

 分かりやすい。顔に出ている。わりとバレバレだ。

 

「なんで知ってるの?」

「そこはまぁ、捜査したし?」

 

 警察が調べたところ、教師や事務員などと石動組との繋がりは誰もいなかったから、残りの可能性は生徒だろうと思っていた。ただ、さすがに1000人近い人数を洗うのはムリあったからな。そういうのもあって、雪ノ下たちから相模のことを聞いてから何となくは怪しんでいた。一応は怪しい人らをリストアップして警察に渡した。それが見事にヒットしたわけだ。

 

「まぁいいや。話続けるぞ。さっきも言った通り、どういった繋がりがあったのか言え」

「…………」

「だんまり? 言っておくけど、お前のしたこと普通に犯罪だからな? 過程がどうあれヤクザの手伝いしたんだから。どうせこのあと警察にご厄介することになるし、さっさと吐いた方が楽だぞ」

 

 時系列や校内で起きたことは何となく調べはついているが、何がどうなって女子高生がヤクザと関わることになるんだか……それが分からない。

 

 チラッとレキに視線を送ると、レキはこくんと頷く。どうやら校外には坂田さんたちが待機しているようだ。あ、別に俺がレキの心を読んだわけじゃなくて、マバタキ信号で教えてくれただけだぞ。と、誰に言い訳しているのか分からない言い訳をする。

 

 

 しばし待つこと1分。相模はようやく観念したのか喋り始めた。

 

「……うちが不登校になった経緯は知ってる?」

「ざっとはな」

 

 言ってはなんだけど、わりと相模がクズだった話だろ。自業自得、因果応報。――しかし、だからといって誹謗中傷する奴らは色々と終わっている。そういえば、誹謗中傷の中に体を売っている――といった内容があったが、それが恐らく石動組なのだろうか。

 

「最初はただすることもなく出歩いているだけだった。適当にお金を使って、適当に遊んで、たまに家には帰らなかったこともあった。そんなことしてたらすぐお金は尽きた。不登校になったのは自分のせいって分かったから、親に小遣いをせびることなんて……ムリじゃん。そこで、夜出歩いていたら…………」

「あぁ、石動組と会ったわけか」

 

 不良少女とヤクザね。

 

「そのね、適当に歩いているとき、ちょうど取引? かどうかは分からないけど、拳銃をたくさん持っていたところを見てしまったの」

「……場所は?」

「適当に歩いてたらあんまり……ただ、海岸を歩いてたから……多分そこ」

 

 その辺は警察も抑えていた場所かな。

 

「最初は死ぬ……とも思ったし、死ななくても酷い目に遭わされるって思ったわ。でも、うちが総武高の生徒って分かると…………」

「協力しろって持ちかけられた――――ではなく、脅された」

 

 俺がそう言うと、相模はコクリと頷く。

 

「まぁ、ヤクザは追い詰める技術に関しちゃかなりのもんだからな。もし逆らったら、お前の周りまで被害が及ぶ。それこそ身内とか。警察に相談すれば良かったのに。そうすりゃ保護でも何でも願えたろ」

「……できなかったの。うちの周りにはあれから誰かが見張ってたから。さすがに学校の中までは見られなかったけど、それ以外はずっと。不審な行動を取れば……すぐにでもって。スマホにも何か分かんないウイルス……みたいのも仕込まれて」

 

 それでずっと手伝いされたわけか。確かに不運だ。そんな四六時中監視されていては神経が到底もたない。しかし、相模はその状態で少なくとも1ヶ月は過ごした。これは妙な話だな。

 

「とはいえだ、人を恐怖で支配するのには限度がある。人間、追い詰められたら自分でも分からないくらい力を発揮することもある。お前は、やろうと思えば現状を解決できたばずだ。例えば、学校で第三者に警察へ保護を求むとかかな。いくら監視されようが、学校では大丈夫だったんだ。口頭で厳しかったら、筆談するなり方法はあった。……まぁ、お前、俺みたいにボッチみたいだったからそれも厳しいか。ただ厳しいってだけで不可能じゃない」

「…………何が、言いたいの?」

「つまりは飴と鞭だってことだ。どうせそれなりに報酬貰ってたんだろ?」

「…………っ」

 

 またもや沈黙。顔に図星って書いてあるぞ。

 

 そりゃそうだ。こんなの甘い餌を用意しているだろう。じゃなきゃ、こんな普通の女子高生を縛り付けるのは土台ムリだ。何かの拍子で計画が漏れることもある。ヤクザはその辺り周到だ。

 

「し、仕方ないじゃん……そうするしかなかったんだから……。言うかと聞かないとうちだって、親だって危険な目に遭うんだから……」

「でも、お金は美味しく頂きましたってか。……お前の境遇に同情はする。同情はするが、人様に迷惑かけている時点でヤクザとなんら変わりねぇよ」

 

 涙目の相模に俺ははっきりと告げる。

 

「だって……!」

「さっきも言ったが、お前は持てる可能性を試そうとしなかった。確かにヤクザに監視されるのは怖かったろう。俺だってそんなの怖いわ。誰だってそうだ。ただ、お前は助けを求めることをせず、あろうことか目の前の人参に食い付いた。その時点で同じ穴の狢だ」

「だから、仕方ないって言ってるじゃん……! なによ、いきなり現れていきなりうちのことを悪く言って……」

 

 

 ――――相模を見ていると、1年の春休みに俺が解決したあの倉庫での事件を思い出す。

 

 

 アイツも脅させれていだから、仕方なく……そう言った。そして、俺のことを悪と罵った。別にそのことについてどうこう論じるつもりはない。武偵は基本的に悪すれすれのことするし、ぶっちゃけ間違ったことは言っていない。

 

 だからこそだ、これ以上は相模は道を間違えてはいけない。お前のしてきたことは間違い、罪だったとハッキリと伝える必要が俺にはある。――――せめて早く正しいレールに戻してやらないといけないだろう。それが俺の役目だ。

 

「このあと警察に行くぞ。何がどうあれ、自分のやらかした罪は償え。そして、真っ当に……とまではいかなくてもちゃんとに生きろ。人様に迷惑はかけるな。まだお前は20もいってないんだ。……大丈夫、ちゃんとやり直せる」

「――――……うん」

 

 涙目は収まっていないが、相模は頷いてくれた。

 

 納得したかどうかはさて置き、一先ずご同行はしてもらえる。

 

 

 

 と、ちょっと話を変えて気になるところを聞いておこう。

 

「……そういや今、お前の監視はどうなっている?」

「昨日、石動組の偉い人たちがいっぱい捕まったから、うち1人に手を回している余裕はないと思う。珍しく監視はなかった。…………ただ」

「ただ?」

「今日の夜、呼び出されている」

「どこに?」

 

 相模はメモに待ち合わせ場所の名前を書いて俺に渡す。一応、分かっている人数も書いてくれている。お、良い情報だ。確認してから、レキにメモを見せる。坂田さんに連絡してもらう必要がある。

 

「レキ、相模の家族や近辺の保護要請をしといてくれ。――――じゃあ、相模。とりあえずお前の携帯壊していい? あとで機種代弁償すっから」

 

 

 

 

 

 ――――その後、相模を警察に引き渡し、坂田さんたちと一緒に待ち合わせ場所に乗り込んだ。そこには前回、俺たちと会った幹部の木崎ではない1人の幹部がいた。あとは雑魚が10人ほど。木崎は現れなかった。どこで何をしているんだかを

 

 手早く制圧してから、一旦は警察がその場にいた全員の身柄を確保することができた。俺と相模が同じ学校というのは知っていただろうが、まさか相模の正体までバレるとは思っていなかったみたいだ。……はっ、俺らが昨日組長やら取っ捕まえた時点でその可能性を考慮してないとは浅はかだったな。

 

 いや口では偉そうに言うけど、俺1人では普通に相模を見破るのムリでしたね、はい。調子乗りました。

 

 川崎や相模の家族はこれから石動組関係者から報復されないよう、保護すると落ち着いた。石動組は幹部含めて一挙に検挙。残りの幹部である木崎もじきに捕まるとのことだ。

 

 罪に問えるのか余罪はどうなるのか、それらを判断するのは警察や立法の仕事だ。それに加えて、相模の処罰もどうなるかは俺には分からない。

 

 しかし、法の番人である武偵の出番は――――これにて閉幕。

 

 

 

 

「比企谷さん、レキさん。本当にお疲れ様でした」

「学校側からも、深くお礼を……ありがとうございました」

 

 翌日、校長室で坂田さんと校長先生……本郷さんと話している。

 

「いえ、こちらこそ色々とお世話になりました。本郷さんからマスターキーやら監視カメラやらムチャさせてもらいましたし、坂田さんたち警察なんかは特に俺の雑な捜査の穴埋めをしてもらって……」

「私たちの情報統制も助かりました。恐らく、私たちのことを元から知っていた人以外、正体はバレなかったと思います」

 

 思いますってところは、ちょっと怪しい人物がいるってことで。川崎とかな。

 

「もう転校手続きも済んでいるんですよね?」

「えぇ、昨日のうちに東京武偵高の校長と話をつけましたよ」

 

 あの人とですか……あれ、顔思い出せねぇ……なんかよく分かんない爺さんと話したんですか…………そうですか。なんか最後の最後でこの人おっかねぇ。

 

――――――

――――

――

 

「あぁ、そういや、昨日相模の携帯壊したんでその弁償代、今回の給料から抜いといてください」

 

 数分、雑談をながらふとそんな話題を出す。忘れていたぜ。データを残すわけにもいかなかったし、データを丸ごと消去するよりかはぶっ潰した方が手っ取り早かった。

 

「あれは必要経費ってことにしてますんで、気にしなくて大丈夫ですよ」

「マジっすか。いやー、ビルでの銃痕といい助かります」

 

 

 なんて話していると朝のHRが始まる時間帯になる。

 

「では、比企谷さんとレキさん。この度は千葉県警を代表して、私坂田から。改めて本当にありがとうございました。また何かあればよろしくお願いします。……それでは、私は仕事があるのでこれで失礼します」

 

 再度深くお辞儀をしてから坂田さんは退出した。

 

「……ふむ。比企谷さんにレキさん、そろそろ時間ですね。最後に別れの挨拶を生徒たちにお願いしますよ」

 

 もう今日で総武高校の比企谷八幡と三枝レキの出番は終わりだ。……この三枝って名字出番なかったな。みんなしてレキって呼んでいたらしいし。

 

「分かりました。何だかんだで、仲良くなれた人たちはいましたし、別れの挨拶はちゃんと済ませないとですね」

 

 雪ノ下と由比ヶ浜、あとは葉山たちに川崎…………そして相模。俺からしたらわりと関わった人が多かった。いきなりいなくなるわけにもいかないし、挨拶は大事だ。

 

 やはり、どこか寂しい気持ちはある。何だかんだで、この普通の日常は悪くなかった。放課後、雪ノ下たちと話すのも、クラスの奴らに色恋沙汰でからかわれるのも、俺にとってはある意味新鮮だった。

 

 もしかしたら、俺にはこんな青春もあったのかもしれない。誰かの相談事を聞いて、面倒なことに巻き込まれたり、それこそ人間関係に悩まされたり。そこで様々なスレ違いが起きていたかもしれない。…………血が流れない、そんな俺の日常が。そんな俺らしくないセンチメンタルなことを思ってしまう。考えてしまう。

 

「――――」

 

 ――――しかし、俺の居場所は硝煙が香るあの血生臭い世界だ。俺にとっての普通の日常は日々銃弾が飛び交うあの危険な世界だ。たった1年と半年ほどしかいないのに、それが俺の日常なんだ。平和な日常にこれ以上浸れない。もう戻らないといけない。

 

 校長室の扉に手をかけてレキを見る。

 

 

 

「じゃあ、レキ行くか。最後の挨拶が終わったら――――」

「はい、いつもの日常へ戻りましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 






これで1年近く……ギリギリ1年にはいってないけど、総武高校編は終わりです。色々とガバがあるのは見逃してね!

投稿遅れました。最近はAWの方を書いてたり、スパロボVを買ったりFGO六章があったり月姫が届いたりと色々と事情があって投稿がかなり遅れてしまいましたね。なんとか8月にできて良かったぁ
次も投稿されたらお願いします

そういえばスパロボVしていて思ったんだけど、ZZ本編でGフォートレスに変形したことあったってけ?


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