八幡の武偵生活   作:NowHunt

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総武高校編⑧ 再開

「……それで、アイツら石動組の奴らなんすかね?」

 

 あれから30分、川なんとかさんを襲った男2人組は現行犯逮捕され、警察に連行された。現場に着ていた坂田さんと一緒に俺も警察に行くことにした。レキは言った通り、先に帰ってもらったが、時間を置いてこちらに来るかもしれないな。

 

 そして、今は坂田さんと待合室で取り調べ待ち中だ。

 

「んー、どうですかね。今回の2人が幹部クラスなら顔は判明しているので、すぐに分かるのですが……」

「まぁ、石動組と関わりがあるにしろないにしろ、アイツらはどう見てもただのゴロツキでしょうね。幹部辺りなら、あんな街中で安易な行動はしないと思います」

「比企谷さんの言う通りですね。石動組全員がこんな行動してくれるのなら、僕らも苦労しません。ここ最近は本当に大人しかったですし」

 

 全くもってその通りだな。

 

「ちなみに、大人しくなったのっていつ頃ですか?」

「比気谷さんとレキさんに依頼する数日前にはかなり頻度は減ってましたね。警察に嗅ぎ付けられると思ったのでしょう」

「なるほど。……そういや、アイツら拳銃持ってましたよね?」

「ええ、どちらもベレッタM92です」

 

 遠山と同じのか。まぁ、遠山のは改造しまくってて純粋なM92ではないが。それを言ったら、俺のファイブセブンも似たようなもんだな。

 

「それって密輸のやつですかね?」

「まだ完全に調べきれてはいませんが、恐らくそうです。銃の固有ナンバーはすぐに調べられるので、国が許可していない銃ならわりとすぐに……おっと失礼」

 

 話の途中にドアがノックされ、坂田さんは立ち上がる。スーツを着た警察官とドアの前で何か話している。わざわざ率先と聞き取りはしないが、事情聴取での経過に変化でもあったのだろうな。少し待つとしよう。

 

 しばしボーッとしていると、坂田さんが戻ってきた。

 

「お待たせしました」

「いえ、大丈夫です。さっきの人は……」

「取り調べをしていた私の上官です」

「てことは、やっぱ何か分かったんですか?」

「経過報告ってだけで、取り調べはまだ終わったわけじゃないですが。まず、アイツらは石動組の下っぱも下っぱです。変に暴力自慢したい若い衆といったところですね」

「そこは予想通りですね」

「はい。最近は私たち警察も動いていたので、大人しくさせてたようですが、我慢が利かず川崎沙希さんを襲ったそうです。言い方はアレですが、ヤクザにしてはかなり頭が弱い部類ですね」

「同感です。それで、最近の動向の目的とかってアイツらから分かりそうですか?」

「まだそこまでは……というより、何かクーデターをするにしても下っぱ程度の面子にはろくに教えてないそうです。どうもその辺りは幹部以上の秘密らしいですね」

 

 そのわりにはゴロツキとかを取引に使っているそうだが、そこからはバレない自信があるってことになる。用意周到というかは大胆不敵が当てはまりそうだな。

 

「それと、やはり銃はこちらが許可したものではないので、密輸したものですね。いつされたものかは判明していませんが、とりあえず押収はしたので、調べる限りはこちらで調べます」

「お願いします。……そういや、さっき言ってた川崎沙希のことですが、どうやら家族ぐるみで石動組に目を付けられているみたいです。できれば保護かなんかを」

「もちろん。それも川崎さんに別室で話を聞いているので分かっています。どうやら川崎さんが言っていた通り、ここ最近で詐欺まがいのことをして借金を負わせているらしく、明日からこちらで対処できます。親御さんももうすぐで来るらしいですので」

 

 川なんとかさん……いやもう川崎って呼ぶけど、川崎も事情聴取ってことで警察に来ている。といっても、当然取り調べなんかではなく、今回巻き込まれた事件についての話を詳しく聞いているだけだ。

 

「それで、比企谷さん。何か学校について分かりましたか?」

「あー、それがさっぱりです。今日から本格的な捜査なので調べようと思ったらこれですし。明日からまた頑張りますよ」

「えぇ、お願いします。マスコミには今回の事件で武偵はいなかったと伝えておきます。一般人が巻き込まれてすぐに警察が来た……という感じで。比企谷さんたちの存在はできる限り隠します」

「あー、どうも。かなり助かります。……まぁ、誰かに見られてそうですが、とりあえずは向こうに知られずに済みますね」

「はい。……すいません、そろそろ事後処理がありますので失礼します」

「お疲れさまです。俺、帰って大丈夫すか?」

「もちろん。今日はありがとうございました」

「いえいえ。仕事ですので、何も問題ないですよ」

 

 正直久しぶりに暴れられて楽しかったまである。合法的に人殴れるっていいよね!

 ……ダメな思考だ。今さらか。

 

 

 

 事件があった翌日。本日は生憎の雨天なり。音がとても喧しく、登校するだけで制服がかなり濡れた。

 

 七条先生から昨日の事件の顛末が話され、今日は念のため部活が禁止となり放課後は速やかに帰るよう言われた。俺が関わったとは教師側には伝わっていないらしく、俺の周りは由比ヶ浜以外穏やかだった。

 どうやら昨日の野次馬の中に由比ヶ浜と川崎以外俺を知っている奴はクラスにいなかったみたいだ。で、その川崎は休みをとっている。まぁ、警察の事後処理辺りに付き合っているのだろうな。

 由比ヶ浜は朝から俺の安否を心配していたが……まぁ、俺が戦ったのは知らないので普通に誤魔化すことはできたな。まさか俺が奴らをボコボコにしたとは思うまい。

 

 そして、体育は雨なので体育館ですることに。

 

 いつも2クラス合同で行われるので、雨天時も自動的に体育館に集まる。が、2クラス合計80人がそれぞれ担当している競技をするのに体育館は手狭だ。

 

 そういうわけで今日の体育ではドッジボールが行われた。ぶっちゃけ休み時間の延長線上のようだ。参加したい人は参加して、それ以外の人は体育館の隅で友だちと喋っている。

 ドッジボールには主に陽キャと思われる男子が集まってクラス戦をしている。俺はわざわざ参加はせず、体育館のステージに座りボーッとしている。なんか由比ヶ浜も交ざってるから本気で話す相手がいない。

 

 合同のクラスがレキと一緒なら適当に2人で喋っていたのに、残念ながら合同ではないのでそれは叶わない。暇だな。今からでも参加するか? したところで俺にボール回ってくるか? ひたすら立ち尽くしているイメージしか湧かないな……。

 

「……」

 

 そういや、総武高の体育館って今日で初めて来たかも。入る機会今までなかったし。わりと綺麗だなぁ。どこにも焦げ跡がない。凹んでる箇所もない。硝煙の臭いもしないし、爆発音も聞こえない。素晴らしすぎか?

 

 この1年ちょっとでかなり毒された自分にある種の嫌気が出てくる……。最初はカルチャーショックが激しかったって言うのに。

 

 

「ん?」

 

 何をするわけでもなくボーッとしていたら、俺の横をボールが過ぎていった。あ、ステージの奥まで行っちゃった。誰かが弾いたのか。

 

「ごめん、ヒキガヤくーん! ボール取ってくんなーい?」

 

 戸部が大声で俺に頼んでくる。ムダに目立つの恥ずかしいんで止めて……。

 

「おーう」

 

 ぶっきらぼうに返事してからステージ奥へのっそり歩く。

 

 ……なーんかやけに音響くな。体育館特有のあのギシギシ音とは鳴らないが、足音がけっこう反響する。まぁ、そんなもんか。一般的な体育館とか久々すぎてな。えーっと、ボールはどこ行った……あ、あった。けっこう奥まで転がったな。わりと奥にある。

 

「戸部、ほい」

 

 ステージからボールを投げ返す。

 

「ありがとねー!」

 

 軽い返事と共に戸部はコートへ戻る。なんか戸部含めたドッジボールをしている奴ら元気だな。

 

 特にドッジボールをするつもりがないし、しばらくステージ奥にいるか。誰もいないし、いい場所だな。……にしては、やっぱここ何か引っかかるな。特段怪しい箇所なんてないけど、あれか、職業病か? まぁ、いずれここも捜査する予定だが……何だかなぁ。

 

「……まぁいいや。また来れば」

 

 

 時はさっさと流れて放課後。今日は強制下校なので生徒は足早に帰っていった。こっそり残っているのは俺とレキだけ。特別棟の屋上前の階段で身を隠していた。2人して足音消して歩いたわ。

 

「どう? 足音聞こえる?」

「少しだけですね。しかし、足音の大きさからして教師です。生徒はいません」

「うしっ。じゃあ、行くか」

「分かりました。ですが、どこへ?」

「気になるところあってな。レキの意見が訊きたい」

 

 昨日、校長先生からマスターキーや予備の鍵を諸々借りたのでどこでも行くことができる。まぁ、さすがに薬品が入っている科学系統の教室の鍵は貰えなかったが。ていうか、校長先生も管理していないらしい。特別な薬品触るのにも免許やらいるみたいだ。

 

「ここは……」

「あれ、初めてだったか?」

 

 で、移動したのは体育館。

 

 やっぱり気になるものは気になる。ということで、レキに視てもらうことにした。

 

「はい」

「今日体育なかったのか。っていうか何選択したんだ?」

「卓球です。玄関近くに専用の卓球場がありますのでそこで行っています」

「へー。……勝てたことあるの?」

「あると思いますか?」

「ないと思います」

「えぇ、一度もないです。ラケットは振りますが、全然当たりません。当たっても変な場所へ飛びます」

 

 レキがスポーツをしているという新鮮な驚きを味わい、つい欲張った質問をしてしまう。

 返ってきた答えは、まるでただの初心者あるあるみたいだった。実際問題、あの軽い球を打つの力加減難しすぎだとは思うわ。スマッシュ打ってみたいけど、初心者には難易度が高い。

 

「それで、何を調べるのですか?」

「あぁ、あっちの奥」

 

 2人しかいない体育館をゆっくり歩く。2人だけだといつも以上にだだっ広く感じるな。体育の授業中は狭く感じたのに。体育館の中からは俺たちの足音以外何も聞こえない。……どうも不思議な感覚だ。

 

「でだ、ここが気になるんだが」

 

 案内したのはさっきも行ったステージ奥。というよりステージ裏だな。

 ステージの横には階段が両脇にあり、下に降りれる造りだ。下がったところにはパイプ椅子がいくつか折り畳んで置かれている。ステージには明るい電灯はなく、影になっていて暗い。

 

「ここのどこが……?」

「んーっとな」

 

 ステージ中央で強く足踏みをする。そして、徐々にレキの方へ移動しつつまた足踏み。ドン! ドン……ドン…………ドンと音が響いていく。

 

「体育館ってこんな響くもん?」

「老朽化が進んでいるなら、ここまで響きそうですが、ここは違います。この体育館は3年ほど前に改修工事がされたそうですね」

「ああ、そうなんだ」

「はい。美術部の方が言っていました」

「ステージ下にパイプ椅子が積まれているにしては大きいなーって」

 

 そう、俺が立っている真下にはパイプ椅子が敷き詰められている。これはどの体育館でも共通しているはずだから不自然さはない。それに小学生や中学生の体育館ではけっこう軋んでいてが、ここはレキの言う通り改修されたのかそんな音はしない。

 

「空洞が多いのか……?」

 

 足音を立てながら歩いて確める。建物というのは中身が詰まっているのと空洞が交互になっている造りが一般的だろう。よく家の壁を叩いてどの辺りが空洞なのか興味本位でやったことがある。

 しかし、ここはその詰まっている部分が足りない……というより、少ないように思える。特に壁てはなく床。これは体育の時間に確かめ、不思議に感じたことだ。

 

「――――八幡さん、こちらに来て下さい」

 

 不意にレキに呼ばれた場所へ移動する。おぉ、もう何か見付けたのか、と期待する。狙撃手は空間把握能力が優れているから、こういうときはホントに助かる。俺だけでは正直なところ、どうにもならない部分が多すぎるからな。

 

「恐らくですが、これが怪しいかと」

「あー……なるほどなるほど」

 

 レキが示した場所を調べると、ずっと引っかかってた俺の疑問は解消された。

 

 あぁ、そういう感じか。そりゃ俺では分かんないわ。納得はしたが、コレどうすっかな。今からどうこう解決できるものではないのは充分な程分かった。つーか、非常に面倒なパターンだ。

 

 この学校そういう使われ方していたんだな。俺が初日レキに話した結末1から3が全部外れた。いや、一部はカスってはいるかな。とはいえ、ここから進めることが一気に増えたな。警察と連携するか……その前にこちらである程度調べはしておかないと。

 

「どうします? このまま行きますか?」

「とりあえず今は装備がな。レキもドラグノフ持ってないし、俺も今は銃しかない。せめて近接武器……ヴァイスがほしい。今すぐってのはけっこう厳しいし……そうだな。明後日の夜、ここに潜入しよう。まだ調べることが残ってるのもあるから。それに夜行くのにも校長先生や平塚先生の許可が必要だろうし」

「分かりました。となると、学校にアレがあるのでしょうか?」

「かもな。つーか、あるにしてもこの広い学校から探し出すのキツくね?」

「でしょうね」

 

 3歩進んで2歩下がる――のをリアルで経験するとはな。ダメだな、地道な調査ってのはかなり苦手だって今回ようやく理解した。次があるなら、そのときは謹んで断ろうと軽く決意する。

 

「一先ず今日は帰るか。買い物しておこう」

「えぇ、そうですね」

「あー、昨日で冷蔵庫空になってたなぁ。色々買い溜めしとくか」

 

 

 

 

 現在はあれから30分ほど経ち、買い物が終わり絶賛帰宅中。もうちょいで着く頃合いだ。雪ノ下建設が建てた物件だからか、スーパーと距離が近いいい立地にある。

 雨は一向に弱まらず、傘をさしつつ荷物を運ぶ。野菜や肉やら弁当用の冷凍食品やらけっこう買い込んだから微妙に重い。

 

「八幡さん、カバン持ちましょうか?」

「あ、いい? なら頼むわ」

 

 軽いっちゃ軽いけど、持ってくれるのはありがたい。

 

「明日はどこを調べますか? 私はまずアレを探す方がいいと思いますが」

「それもだが、手引きした奴が学校内にいるはずだからな。そっちも調べないと」

「別れて捜査します?」

「それはムリ。俺1人じゃ、どうせすぐ限界くる。まぁ、放課後までは各々調べて……そこから合同捜査って感じでいいかな。明日は……先に証拠抑えれば芋づる式に犯人分かるだろうし、やっぱアレ探すか」

「分かりました。それで――――」

「…………あ? 何だ?」

 

 家の目の前に車が止まっている。俺らしかいないマンションだぞ。誰が何の用だ? 薄々予想はできるけどな。そりゃまぁ、俺らに用があるって言うと、かなり限られるし。

 車種は……えーっと、あれ黒色のベンツか? 高級車ってやつだな。維持費大変そう。

 

 そして、車の側には1人の男が立っている。ゴツい体にスキンヘッド、グラサンにスーツ……何だろう、ここまで主張しなくてもいいんじゃない。いや、もしかしたらそっち系ではない可能性も微粒子レベルで存在しているけども。

 

「お前が比企谷か?」

 

 間近で姿を確認して分かった。あー、案の定コイツやっぱり石動組だ。しかも幹部。資料に載っていた。名前は確か……そうそう、木崎なんちゃらって奴だ。石動組の幹部の中では事を荒立てないと言われているらしい。

 

「……そうだが」

「おぉ、お前さんがそうか。良かった良かった。お前が来るまで3人ほどに話しかけて不必要にビビらせちまったからな。予め写真を確認しておくべきだったな」

「ならその見た目どうにかすれば……? せめてグラサン外すとか」

「バカを言うな。ハゲにはグラサンだろ」

「お、おう……」

 

 謎のこだわりがあるようで。

 

「それは置いといてだな。比企谷、お前に用があるんだ。ああ、自己紹介はするでもないな」

「まぁな。多少は知っている。で、用つーと、アレか。昨日のお礼参りってところか。悪かったな、お前らんとこの若い奴ら散々痛めつけて」

「構わん。むしろああいう調子付いた奴を捻ってくれて助かる。もう少し冷静に行動してほしいもんだ。……ったく、ああいうバカの躾には苦労するぜ。こっちの状況分かってんのか」

 

 悪態つく態度を見るにマジで変な騒ぎは起こしたくないんだな。

 

「と、そうじゃなくてだな。お前に用というのは、ある人物に会ってほしいんだ」

「……誰だ?」

「あぁ~。そりゃすまんが、答えられない。つーか、答えることができない。俺にも伏せられている情報だ。実際、俺も会ったことはないし、組の中では組長しか知らない人物だ。幹部にもその人物の性別や年齢すら分かっていない。……ただ、これだけは言える。ソイツは俺らの界隈では相当な大物だということだ」

 

 石動組の組長しか知らない人物。もしかして今回の取引先か?

それにしては幹部も知らないとはある種の不自然さがあるな。一体その人物ってのは誰だぁ?

 

「……それで、今からか?」

「おう。厄介なことに断ったら、その人物がここに乗り込むと言われている。人数は不明だが、もしかしたらかなりの大人数で、という可能性もある。こんな街中で騒ぎを起こすのもどうかと思うから、ぜひ付いてきてほしい。石動組からしてもここで警察とは関わりたくないんでな」

 

 それは面倒だな。というより、けっこう懇切丁寧に教えてくれるな……。別にいいんだけどさ。大丈夫なの?

 

「分かった。アンタらに付いてくよ。ただ、その前に荷物片していいか? 袋の中に冷凍食品あるんだよ。早めに冷凍庫に入れたい。変に溶けたら勿体ないし」

「お、おう。……思いの外、主婦みたいな発言だな」

「ほっとけ。制服濡れて着替えたいし、5分くらいで戻る。あ、隣の奴も連れてっていいよな?」

「大丈夫だ。先方からもその許可は出ている」

 

 

 部屋に戻り、荷物を片付けてから武偵高の防弾服に着替えて装備を簡単に整える。ヴァイスとファイブセブン、レキはドラグノフが入っているトランクを背負い、車に乗り込む。運転手がいたらしく、木崎は助手席、俺らは後部座席。

 

 ……ヤバい、めっちゃ座席フカフサ。めっちゃ気持ちいい。これが高級車ってやつか。おぉ……初めて乗ったぞ。ヤクザはこうやって高いモノを買って周りに金持ちってのをアピールするらしい。この車もその一環なんだろうな。

 

「目的地はどこだ?」

「幕張近くにあるビルだ。道路状況にもよるが、ここから30分はかかるだろう。ゆっくりしていってくれ」

「その場所には誰がいる?」

「お前に会わせたい人物とその関係者と訊いているが……うぅむ、確か組長もそこにはいないはずだ。今日はお前らを送る手筈だけだな」

 

 これ以上は訊いてもムダそうだと判断して大人しくする。にしても、幹部を送迎役にするとは豪勢な扱いだな。

 

 

 ――――30分後。言われた通り、幕張の駅近くにあるビルに着いた。法廷速度を遵守しながら走っていたのはなんかツッコミしたくなったけど。めっちゃ安全運転じゃねぇか。わりと道混んでたし、安全運転になるのも当たり前……になるのかなぁ。

 

 ビルの方は全面ガラス張りだ。外からは中がどんな様子かはさっぱり見えない。そういや、幕張というと、石動組の本拠地が近くだよな。

 

「このビルの8階にある紅玉の間という場所に行ってくれ。受付には話が通っているらしいから、素通りで問題ないはずだ」

 

 車から降りた俺たちに窓から顔を出した木崎はそう告げる。

 

「はいはい。じゃ、送ってくれてありがとさん。……なんか礼言うのは違う気がするな」

「まぁ、ある意味お前らを拐った――とまではいかないが、似たような立ち位置だからな。礼はいらん。なんなら、俺がする方かもしれん。俺はここまでだ。……石動組の幹部である俺が言うのも何だが、充分気を付けろよ」

「……おう」

 

 なぁなぁ、コイツ転職した方が良くない? どうしてヤクザやってるの? 武偵になるなら歓迎するぞ。大丈夫、どっちも似たようなもんだ!

 

「ではこれで失礼する。この後は録り溜めているアニメを消化しなくてはな!」

 

 最後にそう言うだけ言って、木崎は元気よくその場から去っていった。

 ……何だろう、色々楽しそうだな。立場が違うなら、コイツとは仲良くなれた気がする。多分材木座とも話が合うだろう。

 

 

「個性的な人でしたね」

「……だな」

 

 レキからも一言。レキが言うってことは相当だな。

 

「ハァ……行くか」

「はい」

「レキは誰だと思う? 件の人物とやらは」

「そうですね。私は1人心当たりがあります」

「マジ?」

「えぇ。……もし私の想像が正しいなら、いつも以上に警戒した方がいいかもしれません。戦闘にはならないと思いますが」

「了解した」

 

 レキとしては珍しい程、緊迫した雰囲気が伝わる。

 レキには予想がついているのか。マジで誰だろう。一概には断言できないが、レキが知っているということは、俺も知っている可能性はあるよな。とはいえ、レキが警戒を促してくるからにはかなりの手練れだな。俺も気を引き締めないと。

 

 ビルのエントランスに入ると、これまたスーツ姿の若い女性がいた。女性はこちらに近付き、お辞儀をする。

 

「比企谷八幡様、レキ様。ご足労おかけしました。本日はお越しくださり誠にありがとうございます。今から8階、紅玉の間へご案内します」

 

 丁寧な挨拶だ。それに加えて、俺の名前だけでなく、レキの名前も判明しているんだな。こっちの事情はある程度筒抜けっのが分かる。

 

「「…………」」

 

 思わずレキと顔を見合せ、互いにコクリと頷く。

 これは……どうやら付いていった方がよさそうだな。俺らを招待したのが誰か判明していないが、それなりに手の込んだもてなしをしてくれるそうだ。

 

 女性に付いていき、エレベーターに乗り目的の紅玉の間とやらへと到着した。

 

 扉を開け入ると――――そこはとても広い空間だった。紅玉の名の通りか、紅い絨毯にいくつもの高級そうなテーブルが置かれている。椅子はないな。電灯もシャンデリアが吊るされている。周りの装飾品も金が使われているのか、ムダに眩しい。一目見るだけで金がかかっている造りだというのは理解できる。料理は置いていないが、ここは立食パーティーなどに使われる場所なんだろうな。

 

「…………」

 

 しかし、俺とレキを除けば誰もいない。案内してくれた女性もエレベーター降りたら「この先です」とだけ言われてどこかへ消えた。それ以降は俺らだけで歩いた。

 

 手の込んだイタズラかと思ったが、さすがに違うだろうな。わざわざする意味がない。とすると、まだ件の人物は到着してないのかもしれない。……呼んでおいてそれはどうかと思うなぁ。だったら、普通に考えてここにいるよな。まだいないのも、もてなしの内容か疑問に感じる。

 

 一旦は広い部屋の中央に移動する。何かあったときのために対応しやすい位置だ。さて、何が来る――――

 

「八幡さん、足音です。2人」

「どこか――――」

 

 ――コンコン。

 

 俺の言葉は遮られ、レキの忠告と共に控えめなノックの音が聞こえる。俺らしか喋っておらず、その音は充分届いた。音の方向は俺らが入ってきた扉からだ。やっぱり到着が遅れたの?

 

 そんなことを思いつつ振り向くと、ギギッ――とゆっくり扉は開かれる。扉を開けたのは先ほど案内してくれた女性だ。そして、その後ろから誰かが入って……く…………る。

 

 

「……………………は?」

 

 

 俺の前に現れた人物が予想外すぎて思考が固まる。

 

「……チッ」

 

 と同時にレキの小さな舌打ちが聞こえた。反応からして恐らく予想通りなんだろ……って、うん!? えっ、レキさん、今あなたまさか舌打ちしました? あのロボット・レキと言われているくらい表情が動かないことで有名なレキさんが? うん、気持ちは分かるけど!

 

「――――」

 

 俺の前に現れた人物は、花の模様が刺繍されている紅い――とても紅いチャイナドレスを着ている。横には深いスリットがあり、隙間からは引き締まっている太ももが見える造りだ。

 以前会ったときはある人を模してツインテールの髪型だったが、今日はしっかりと髪を1つにくくっていてポニーテールにしている。

 

 うーん、化粧もしていて普通に可愛いのが困る。

 

「――――」

 

 目の前の人物は俺を視界に入れると、とても明るい笑顔になり、こちらに手をブンブン振ってくる。

 

「マジか……」

 

 俺はその姿を見て頭を抱える。

 

 あー……会いたい人物ってお前だったのか。よくよく考えてみれば、ヤクザとの繋がりがある人物で俺と知り合いと言えば、そりゃ選択肢限られるよな! 納得はしたけど、完全に忘れてたわ。いやでも仕方ないじゃん。まだ時期的にシャバ拝めないかと思っていたんだよなぁ。

 

 現実から目を逸らしたくなる。

 

 

 

「はっっっちま――ん! 久しぶりヨ――――!」

 

 

 

 耳がつんざく程の大声を上げながら、器用にチャイナドレスでこちらにスキップしてくる人物は、俺と3度戦ったことがある。水投げの学校、神戸、そして――暴走する新幹線上で。

 そして、問題は最後の新幹線。俺と戦っていた途中、アクシデントが起こり、ソイツは暴走する新幹線から落ちて死ぬはずだった。しかし、俺が飛び降りて命からがらソイツをどうにか救出した。まぁ、余裕で死にかけたが。

 

 その人物の名前は――――

 

 

「――――猛妹(めいめい)……っ!」

 

 

 中国のヤクザである藍幇に所属しているココ姉妹のうちの1人。新幹線ジャックの首謀者がなぜここにいる……! しかもなんかおめかしして!

 

「会いたかったネ!」

「……それ以上八幡さんに近付くと撃ちますよ」

 

 抱きつこうとする猛妹、それを避ける俺、ドラグノフを構えるレキ。

 

「おいレキ、落ち着け」

「八幡さん退いてください。コイツ殺せません」

 

 

 

 

 

 

 

 帰っていいですか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




前回投稿してから調子乗ってなんと一万文字もすぐに書けたので投稿しました。なんなら書けたのは二日前という
やっぱりある程度構想決まっていると、スラスラと書きやすいよね。まぁ、大半は書きながら展開考えるガバガバ具合という。次回はどうしようか悩んでるので多分時間かかります


感想あると嬉しみです



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