IS〈インフィニット・ストラトス〉~天駆ける空色の燕~   作:狐草つきみ

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第5話 襲撃、三ヵ国合同軍事演習!

 天燕の操縦もそろそろ習熟し、もう自由に飛べるようになったんじゃないかという頃。

 ある日、ふと束さんに開発室まで呼び出された。一体何事かといえば――

 

 

 

 

 

「今度、面白いイベントが開催されるんだって~。だから、襲撃しちゃおう♪」

 

 

 

 

 

 ――というわけである。

 いきなり何が「というわけ」なのかはさて置いて、いきなり襲撃しちゃおうなどとは普通は言わない。そう、普通なら。

 しかしそんな“普通”などという、曖昧であやふやな常識や定義でさえもブレイクするのが束さんなのだと、ここ最近の僕は染々思う。いや、そうに違いない。……とまあ、そうは思いつつも、なんだかんだ僕はそれに従うだけなんだけど。

 

「それで、何処を襲撃するんですか? 飛行にしか慣れてない僕が、何処かを襲撃した所でアッサリ返り討ちだと思いますけど」

「まぁまぁそう自分を卑下しないでよ、そーくん。私の作ったISなら、絶対そーくんを守ってくれるよ!」

 

 自信満々に返されては返す言葉もない。これでは「満面の笑みでそう言われてもな」と愚痴を(こぼ)すこともできやしない。僕はそれに向けて、ISをより上手く扱えるようになるまでだ。

 束さんはひらひらと軽く手を振りつつ、そのまま何処かへ行ってしまった。僕はクスリと軽く笑ってから、外へと向かう。束さんの邪魔をするわけにもいかないし、早速練習開始だね。

 ――練習と言って真っ先にやってきたのは外。

 まずは軽く準備運動をこなしてから、その手に光と共に空幻を呼び出す。

 

「やっぱりこのライフル……えーっと、空幻? に慣れないといけないのか」

 

 僕の身の丈を越えるほどの長大さを持ったそれは、到底生身で持ち上げられる代物ではない。ましてや僕のような貧弱な体型では尚更だ。

 今はISスーツと呼ばれるタンクトップとスパッツを合わせたような形状をした『専用衣装』とでも呼ぶべき装備をまとった状態で、空幻と両腕の装甲のみを展開している。

 それなのにこうして軽々と空幻を持ち上げられているのだから、自分でもこれには驚かされる。

 

「よっ、と。IS自体の補助機能で、こんな重そうなものを軽々と持てるなんてやっぱり凄いなぁ。……にしてもこれ多目的とかってあったけど、何で多目的なんだろう?」

 

 持ち上げながらも、ちょっとした些細な疑問に突き当たって、僕はふと銃身の下部分に幅が広めのスリットが入ってることに気が付く。

 

「もしかして……これ」

 

 もしかしなくとも、かもしれない。

 僕はグリップを起こして銃身とグリップが直線になるように変形させてから、思いっきりトリガーを引いてみた。

 すると突然「ヴォン!」と、ライ○セーバーみたいな音を立てて、青白いビーム刃がスリットから勢いよく吹き出る。

 

「うわっ!? ……あわわわわわわ!」

 

 しかし、あまりに突然の出来事過ぎて、勢いあまって手元を狂わせてしまい、お手玉のように空幻を落としかけてしまう。驚いたのはまだしも、慌てて落としかけたのは危なかったぁ。

 今度こそはと握り直して、高出力を保つビーム刃を思いきって振り切る。

 次の瞬間には振り切った勢いに負け、振り回されてから転けてしまった。そのまま大の字になって倒れ、ボーッと空を眺める。全面展開していない状態じゃ、そりゃ質量に振り回されるか。

 ハイパーセンサーを展開して、ディスプレイをポップアップする。改めて装備の説明欄を見てみると、これが何ていう形態なのかがようやく分かった。

 

「えっと、これ『大剣形態(ソードモード)』っていうのか。僕のサイズからして確かにそうだね」

 

 銃身の長さが約一メートル前後なだけに、かなり大きめに作られている。だから、大剣形態となると大体僕と同じ高さになるわけだね。リーチもあってこっちの威力も高そうだ。

 

「さてお次は……『機関銃形態(マシンガンモード)』ね」

 

 また説明欄を眺めながらそう呟く。名前に“機関銃”って付くぐらいだし、ラ○ボーみたいなこと出来るのかな。いや、乱射は良くないよね。エネルギー食うだろうし。……それはまた別の機会に試そう。

 余談だけど、通常の状態を『長銃形態(ライフルモード)』って言うらしい。連射性を犠牲に威力と射程距離が高く、逆に機関銃形態は威力と射程距離を犠牲に連射性を高めている感じだね。

 

「一長一短、って言うのかな、こういうのって」

 

 こういったものはあまり触るものでもなかったために、装備の性能すら理解していない僕は空しく笑う。うん、今度ちゃんと調べておこうかな。

 結局、ロクな練習もせずに天燕を仕舞ってから、僕は体を起こして研究所の中へ戻ることにしたのだった。我ながらなんとも身勝手なんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 束さん曰く“面白いイベント”の、その開催日。それは奇しくも一ヶ月ぐらい前に、僕がパソコンで見たニュースと同じ日だ。

 なにやら脳裏で嫌な予感がして、僕は天燕を前に恐る恐る束さんに尋ねてみた。おおよその答えは想像している通りなんだろうなぁ、とあらかじめ希望を潰しておきながら。

 

「束さん……今日、僕が行く所って……」

「フランスのブルターニュ半島だよ~♪」

「もしかしなくともフランス、イギリス、ドイツの?」

 

 僕が尋ねると、束さんは大きく頷きながら答えてくれる。

 

「そーくん、今日は妙に察しがいいね! そうだよそうだよその通りだよ~! 今日は襲撃という名目のピクニックに行くのだよ!」

 

 ビシッと僕に向けて指を差す束さんは、随分とまあ楽しそうというか、なんというか。まあ、自分の作ったIS(子供)の晴れ舞台なのだから浮かれもするか。

 ――でも流石に、世の中三ヵ国の合同演習に「ピクニック」などと称して首を突っ込む人はいないと思います。

 

「束さんは高みの見物だから、そーくん頑張ってね~」

 

 そんなツッコミが届く筈もなく、陽気に背中を押されて仕方なく天燕へと乗り込む。これほど乗り気になれないのは不思議だなぁ。でもやるしかないよね。……帰ってこれるかな?

 段々心細くなっていく自分が、とても情けなく思ってくる。だって天燕を信じて帰ってくるしかなさそうだし。僕は深呼吸しながら視界端に映るマップを確認して、目的地までの距離を計測する。

 

「この距離はちょっと無理ありませんか?」

「大丈夫大丈夫、モーマンタイモーマンタイ」

「寧ろ心配になってくるんですが……」

「バッテリーパック積んでるから問題ないよ~。それ、突撃ー!!」

「え? ちょ、束さ――――ッ!?」

 

 溜め息を吐くと、カタパルトのスイッチを何の前触れもなく押されて、僕は構えることすら出来ずに声にもならない悲鳴を上げ、空へと思いっきり投げ出された。空中で転けるだなんて芸当、中々体験出来るもんじゃないね。

 こうなってしまった以上、もう引き返せはしない。そっと体勢を立て直すと、視界端に映るマップを頼りにその方向へ飛び出す。

 ほぼ一直線に飛ぶからか、それとも体を水平に倒してるからか、もしくはその両方か。スピードが高くなり過ぎて、遂には戦闘機以上のスピードで空を走り抜けていった。

 目的地に辿り着くまでには、そんなに時間は掛からなかった。太平洋から中東、中央アジア、東欧を越えて、あっという間に西側諸国ことヨーロッパ真っ只中にやってこれたのだから。それでも一つのバッテリーパックを半分使っただけで、ただ飛ぶだけなら燃費はいいみたい。

 そのまま雲隠れしつつ陽気にフランス西岸、ブルターニュ半島へとやってくると、ハイパーセンサーで軍用ヘリや戦車に軍隊が集まっている箇所を捉えた。ISも見える範囲では三機しか見当たらないけれど、間違いなく他の国家所属機も居ると見受けられる。

 どうやら特に速すぎたというわけでもなく、丁度演習が始まった所みたいだ。パーティーの開始時間にはなんとか間に合ったという所か。

 ぎりぎりまで視界をズームさせて、各国のISパイロットらしき人達が互いに握手しあってているのが見えた。その後は各々の準備へと取り掛かっていったみたいかな。

 見た感じ、どのパイロットも軍人とは到底思えない年齢だ。ましてや少女、世界はとても残酷だと呆れさせられる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ソラが上空でこそこそしているその間、三人の少女がテントの真下でISスーツのまま語らっていた。女が三人寄れば姦しいとはよく言ったものである。

 それは傍から見ればきっと仲の良い(?)少女達の会話に見えるのだろうが、その周囲を見渡せばいくら傍からといえど、ただの会話とは思えないだろう。

 

「まさか、代表候補が一ヶ所に三人も集まるとはね」

 

 そう切り出したのは、この中で一番普通っぽい少女に見え、可愛らしい笑顔を振り撒くフランス代表候補生の「シャルロット・デュノア」。手元には紅茶の入ったティーカップが握られている。

 

「全く以てそうですわね!」

 

 不服そうに不機嫌な声でシャルロットに同調したのは、イギリス代表候補生の「セシリア・オルコット」。彼女はそのままふんぞり返るように椅子へと座り込んだ。なお、紅茶を淹れたのは彼女の待女である。

 

「これから演習が始まる。私語は慎め」

 

 残る一人は二人と特に関わろうとせず、そのに二人へぶっきらぼうに注意したドイツ代表候補生の「ラウラ・ボーデヴィッヒ」。

 何とも対照的な三人だろうか、妙に反りが合っていない。それもお国柄故に無理もないのだろうが、これから演習するとしても一人を除けばあんまりな態度と言えよう。この中では、シャルロットが一番マシ(社交的)だ。

 そこへ伝令役を伝えられた一人の兵士が近寄り、彼の言葉に耳を傾け、一休みも程々にした所で三人は早速、己のISを纏う。橙、蒼、黒、と中々カラフルな三機は決められた定位置に着き、演習開始の合図を待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、ソラはタイミングを見計らいながら、光学迷彩(オプティカル・カモ)を使用したステルス状態で上空にて待機している。そんな時に、ふと束から連絡が入ってきた。

 

『やーやー、そーくん。調子はどおー?』

「特に問題ないですね。強いていうなら今すぐ家に帰りたいです」

『そーくんも男の子なんだから、情けないこといわないの~♪』

 

 束の軽い言葉に気分が空回りしそうな感覚を覚えつつ、それを振り払ってソラは眼下を見つめる。腕部ユニットから手を抜いて、両手で頬を叩いて気を引き締めながら、覚悟を決めて空幻を呼び出す。

 そのまま全身の力を抜く感覚で真っ逆さまに降下しつつ、全身に掛けていたステルスを解除した。

 

「それじゃ、パーティーを楽しんできますよ」

『ほいほーい、ちゃんと束さんが隅から隅まで見てるから、バンバン敵を倒しちゃって~♪』

「出来ればの話ですけど」

 

 今回は、あらかじめ相手のISのスペックは確認済みだ。しかし、実戦となるとどう転ぶかは分からない。シュミレーション通りにいけばいいとソラは願うばかりだが、そう上手くいかないのが世の中なのである。

 

「戦闘開始!」

 

 

 

 

 

 ラウラはふと、ハイパーセンサー上の機影数が一つ増えたのを確認する。しかし、周りを見渡してもそんな機影は見当たらない。ほかの二人も同様に周囲を警戒している様子だ。

 訝しく視界を動かすが、一向に見当たらない。そのことに苛立ちを隠すことができないまま舌打ちしたくなる衝動に駆られる。

 すると、意外なことに突如として真上から反応が出た。

 

「上だとっ!?」

 

 予想外の場所から突如として謎のIS――ソラの天燕――が姿を現し、降下しながらも螺旋を描くように錐揉み回転させ、ラウラ目掛けて突っ込んでくる。

 

「フン、速さは中々だが、動きは赤子同然だな」

 

 だがラウラはこの程度のことで焦りすら見せずに、右腕から慣性停止結界(AIC)を発生させ、天燕へと当てる。その瞬間――

 

「う、動かない?」

「何を思ってのこのことやってきたのかは知らんが、ここで死ねぇッ!!」

 

 天燕の動きがピタリと静止した。その間に、ラウラは自身の専用IS『シュヴァルツェア・レーゲン』の大口径リボルバーカノンで、容赦なく天燕を狙い撃つ。

 天燕が至近距離で食らったダメージは伊達ではなく、上空へ返されるかのように吹き飛ばされる。

 

「ぐうぅぅっ、くっ……」

 

 爆煙とともに攻撃はシールドバリアーでカバー出来たものの、自分への衝撃までは抑えきれない。そのため、ソラに傷は無くとも衝撃による痛みはあった。

 だが、その瞬間だけAICから逃れる隙が生まれ、ソラはその隙を逃さず、強引にラウラから離れる。

 ラウラは舌打ちしたくなる衝動を抑え、再びリボルバーカノンを放とうとするが、その前に蒼い小型兵器が天燕へと迫った。

 

「BT兵器……オルコットか!」

「あら、戦うのは貴女だけじゃないことをお忘れ? わたくしも居ましてよ! ブルー・ティアーズ!」

 

 ラウラの叫び声の後に、セシリアが気付かせるようにキツく言い放った。その若干刺がある言葉に、ラウラはセシリアも巻き込もうかとも考えたがやめておく。自国の恥、ましてや己が慕う教官の恥にはなりたくないからだ。

 その間にも、セシリアの専用IS『ブルー・ティアーズ』から放たれた遠隔機動兵装こと『ビット(BIT)』が、執拗に天燕を追いかける。

 

「しつこいなぁ!」

「中々すばしっこいですわね。……ですが!」

 

 ビットからレーザーが放たれ、一斉に天燕を襲う。それを確認したソラは、瞬時に非固定浮遊部位(アンロックユニット)に装備したシールドを構え、こちらに向かうレーザーを防ぐ。

 

「小癪な!」

「今度は僕からだよ!」

 

 声など互いには届いてすらいないが、それでもソラは空幻を大剣形態で構え、言葉の通りにブルー・ティアーズへと真っ直ぐに突っ込んだ。

 セシリアもまた、敵がそんな大胆な行動に出るとは予想すらできず、一瞬の隙を生み、回避行動が遅れてしまう。

 

「しまっ――」

 

 高出力のビーム刃は、あっさりとブルー・ティアーズのシールドバリアーを貫通した。……が、ビーム刃がセシリアを傷付けることはなく、すぐに「斬られる」と直感して目を固く瞑ったセシリアは、天燕に背中から地面に向けて蹴落とされる結果となった。

 ソラは次にシャルロットへ目を付け、一瞬で距離を詰める。シャルロットも、目の前へ現れた敵に対応するためにバックステップを踏み、アサルトライフル『ヴェント』を構えた。

 

「速さなら私も負けないから!」

「………ッ!」

 

 まさか距離を取られるとは思わなかったソラは、長銃形態に戻した空幻を、ギリギリまでチャージさせてからトリガーを引き絞る。

 シャルロットはそれを少ない挙動で右側へ躱し、さらには右手で持っていたヴェントを、弾倉が許す限り撃ち尽くした。無論、ただで当たってあげるわけもなく、ソラはギリギリを攻めるかのように襲い来る弾幕を避ける。

 その頃ラウラは、シャルロットが敵を抑えている間にリボルバーカノンを構え直し、慎重に(ソラ)へと照準を合わせ始めた。直後にシャルロットへ目配せし、シャルロットもそれに小さく頷く。準備が完了して、合図と共にシャルロットは射程から一気に離れた。

 

「消えろッ!!!」

 

 轟音を大音量で響かせながら、大口径の弾丸が音速を越えて天燕へと迫る。ソラは振り向き様に空幻を大剣形態で構え、弾丸を防ごうと刃を向けた。しかし、弾丸の威力はISのアシストを以てしても防げず、自分を押しきって吹き飛ばした。

 

「がっ……強い……」

 

 流石に一人を倒したといえど一人だけ。二対一は非常に不利でしかない。だがそう簡単に退くわけにもいかない。男の子の意地だといった所か。

 ソラは空幻を握り直し、押される覚悟でラウラへと突っ込む。

 その馬鹿正直かつ安直な行動にラウラは鼻で笑っては、何も構えず突っ立っていた。確実に勝てるという、確固たる“絶対的自信”を持っているからだ。「この程度なら、問題はない」と。

 空幻を勢いよく振りかぶり、ラウラの右手が上がるのを確認してから、ソラは突発的に閃いた作戦に移る。

 

「「そこだッ!」」

 

 同時に声が重なる。

 AICが直線に飛んできた所で、ソラはウイングスラスターのエネルギーを全カットし、機体を自由落下させる。

 見事に寸でAICを躱しつつ機体が滑空し、ラウラの真下辺りへ来た所で、カットしたエネルギーをウイングスラスターへと即座に回す。機体各所のスラスターが一斉に火を噴いて、爆発的推進力で真上へと飛んだ。

 

「なっ……Solche dumm(そんな馬鹿な)!?」

 

 避けられた上に、まさか下を取られるとは思わなかったラウラは、リボルバーカノンを真下へと向けて何発も放つ。

 それを軽々と避けたソラは、空幻を機関銃形態にしてから両手で構え、ラウラへ目掛けてトリガーを精一杯引き絞った。雨霰(あめあられ)の如く、下からレーザーの弾丸がシュヴァルツェア・レーゲンのシールドバリアーを削ぎ落とす。

 判断が遅れてしまい油断したラウラは、突っ込んできたソラのタックルで吹き飛ばされてしまい、リタイアとなる。

 

「その次は必然的に私、かな」

 

 最後に残されたシャルロットは、表面上落ち着きつつも内心は焦りつつあった。セシリア、ラウラと代表候補生二人を追い込むなど、動きがどう見ても初心者の敵に出来る筈がないと考えた。そうなると単純にISの性能に頼っているようにも見える。

 しかし高性能だとしても、ISは第二世代機には見えず第三世代機にも見えない。見たこともない形状で、何処の国かも判別できないことからして、ますます不明としか言いようがなかった。

 

「まあ、私が倒せばいいだけなんだけど!」

 

 シャルロットは自身の愛機『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』を駆って、両手に持っていたヴェントを目にも止まらぬ速さでショットガン『レイン・オブ・サタディ』に切り替えた。

 

「それッ!」

 

 ショットガンの散弾を周囲へ散撒(ばらま)き、加速した状態の敵へと弾薬を気にせず撃ちまくる。手を休めずリロードし、また撃っての繰り返し。やがて遂に弾が切れた所で、再びヴェントへと切り替える。

 

「私の高速切替(ラピッド・スイッチ)でも、あの敵に見切られてるの?」

 

 もうそろそろ後がない。そんな時に、敵が逃げながらも掌に大きめな筒上の何かを手にしていた。

 それが何なのかと思って、よくよくハイパーセンサーで確認してみると、表面にウサギのマークが描かれた缶だった。しかしそれはただの缶ではなく、上部にピンの付いた缶――つまりはグレネード以外の何物でもなかった。

 

「嘘でしょ!?」

「そーれっと」

 

 シャルロットの驚きに対して、ソラは関係なくピンを引き抜いて後方へ投げた。シャルロットは慌てて避けようとするが、そんな暇もなくグレネードが爆発した途端、凄まじい閃光と「キーン!」と響く耳障りな音が鳴った。

 

「す、スタングレネード……っ」

 

 シャルロットは今使われた兵器の名前を呟く。

 ――スタングレネード。非殺傷武器としてはポピュラーかつ有名な軍事兵器の一つ。主に制圧などで使用され、閃光と耳障りな音で相手の視覚と聴覚を奪い、怯ませるものだ。

 周りで固唾を呑んで待機していた軍隊や参加する筈だったISパイロット達、それにシャルロットまでもがスタングレネードの閃光と音に巻き込まれ、ほぼ全てが行動不能になった。

 

「はぁ……はぁ……束さん、もうそろそろ帰投します」

『大分派手に暴れちゃったねぇ~♪』

「そのわりには随分楽しそうですね」

『見てて楽しかったんだよ。ただそ~れ~だ~け~』

 

 空色をしたIS以外その場の全員が倒れ、ある意味地獄絵図の中、ソラはそんな束の言葉に呆れながら、先程言った通りに踵を返して帰投した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、ソラと天燕が立ち去った演習地ではセシリア、ラウラ、シャルロットがそれぞれテントの真下で怪我の治療を受けていた。

 セシリアはぶつけた箇所が悪く、腕を三角巾で吊っており、ラウラはラウラで頭や腕、脚に包帯を巻いていた。残るシャルロットは然程目立つ外傷はなかったが、スタングレネードの影響か、未だに聴覚が利かないでいる。

 

「まさか……このわたくしが……ブルー・ティアーズがっ! この雪辱は、いつか必ず……!」

 

 セシリアは悔しそうに苦虫を噛み潰した苦い顔をして、先程の敵を思い浮かべていた。同じくラウラも悔しげな顔で、苛立たしげに血が滲みそうなほど拳を握り締めていた。

 

「私が、この私が失態を犯すなど……チッ」

 

 握り締めた拳をどこかへ叩き付けることなく空振りさせ、ラウラは舌打ちする。

 対するシャルロットのみ、別段これといった恨みや後悔の念は無かった。……無かったが、寧ろ何故攻めてきたのかが不思議で仕方がなかった。相手はまるでスポーツでもやっていたかのように、最初からこちらを殺す気などは全く無かったのだ。

 シャルロットは次第に戻ってきた聴覚で二人の愚痴を聞いて、考えるのを一旦止めては、少し苦笑いしてしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 打って変わって研究所へと戻ってきたソラは格納庫に天燕を戻す。すると束が駆けつけてきては、いつも通りにソラを抱き締めた。ソラは安堵して束に体重を預け、一息吐く。

 

「束さん、とっても疲れちゃいました」

「えへへ、そーくんはよく頑張ったよ~。流石は束さんの助手だね!」

「もう、このまま寝てもいいですか?」

 

 既に意識が半分しか機能していないソラに、束は微笑みながら頷いた。

 

「私で良ければね」

 

 その言葉が届く前に意識が抜けて眠ったソラを抱き抱え、束はそのまま部屋へと連れていく。もう寝てしまったことに思わず吹いてしまいながらも、束は窓の外を眺めながら呟いた。

 

 

 

 

 

「フフッ、そーくんは私の家族で居てくれれば、それでいいんだから」

 

 

 

 

 

 




ハンドボールをしている時、パスをする際に空中で前傾姿勢になってみて下さい。……ほら、貴方も空中で転けることができます(実証済み)



※注意※よい子は絶対にマネしないで下さい。顔面と膝と脛が犠牲になります。万が一怪我をした場合は自己責任でお願いします。作者は一切の責任を負えませんので、ご了承下さい。

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