IS〈インフィニット・ストラトス〉~天駆ける空色の燕~   作:狐草つきみ

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気が付いたらおおよそ一ヶ月と二十六日も経過していた……。投稿期間が空いて申し訳ありません。
それでは四話目、始まりです!







第4話 練習と装備と練習

 僕はISを手に入れてからと言うものの、繰り返し外で飛ぶ練習をしていた。

 いくら操縦方法が分かった所で、実際に飛べなければ何の意味もないから。だからこその練習……なんだけども、

 

「そーくーん! 無理しないでね~!」

「だ、大丈夫ですよ!」

 

 空中で姿勢を保つのは楽だけど、どうも移動が難しい。この子は少しやんちゃ(ピーキー)なようで、滑空や飛行などは極端に速いみたいだ。それさえ何とかなれば後はどうとでもなるんだけれど、中々それに慣れないのがネックだね。

 こういうのはイメージが密接に関わってくる。基本的に人にとって「空を飛ぶ」という経験は未経験なものだ。飛行機のような鉄の塊に守られて飛ぶのではなく、自身の素肌で感じての場合。だからコツを掴まなければISですら飛ばすことは不可能に近い。だからこそのイメージなのだけど、それがまた難しい。

 

「お願いだから言うことを聞いてってばぁ!」

 

 少しでも気を緩めたら、恐らくその方向へズドンと一直線なんじゃないだろうか。そう思っただけでも身震いが止まらない。

 頭の片隅で考えながら、機体を操作してそっと地面に着地させると、束さんがタオルとスポーツドリンクを持って走ってきた。

 

「やっぱり調整した方が良いよ?」

「だ、大丈夫です! この子に慣れることが、今の僕の目標ですから」

 

 束さんの厚意を無下にしたいわけじゃないけれど、僕は束さんの提案を慌てて却下する。何故かって言えば、ただの男の意地なんだけど。

 しかし束さんは、それを理解している上で調整しようとするので、僕はやっぱり意固地になって頑なに拒否する。

 まだ『一次移行(ファーストシフト)』を終えたばかりなんだけど、それでも完璧とは言い難い。それがISでもあるのだけども。

 ISを格納して直ぐにスーツだけの状態へと戻る。どうやら格納した形態のことを『待機形態』と言うらしく、その時の形状はアクセサリーの形をしているのだとか。因みに僕のは手の甲に空色の装甲が付いた指貫グローブ。防具とかそんな感じにしか見えないとは言わない、言っちゃいけない。

 

「そーくんがもしそれで怪我でもしたら、束さん泣いちゃうぞ~!」

「打撲や骨折なんて怪我の内に入りませんよ………多分」

 

 スポーツドリンクを手渡されて平然とした顔で言うと、束さんは「それは平然と言うことじゃないよ……」と珍しくまともなことを言っていた。束さんらしくもない。まあ、本当に怪我の内に入るかどうかは疑問しかないけれども。

 そんなことよりも、取り敢えず武装が完成する前には、この機体に慣れておかなければならない。なら、小休憩を挟みながら反復練習していこうかな。どこまでやれるか分からないけれど。

 僕がスポーツドリンクのキャップを閉めると、束さんは僕の右手を凝視していた。僕は直ぐに勘付いては、自分の右手を隠す。束さんも僕を逃がすまいと、じりじりと間を詰めるように(にじ)り寄りつつソレを奪う機会を眈々と窺っていた。……きっと端から見れば、それはそれはとてもシュールな光景なんだろうなぁ。

 

「さぁそーくん、その天燕を渡してもらうよ♪」

「嫌です! どうせ天燕を調整するつもりでしょう! 近寄らないでください!」

「いーやーだー! 天燕調整するのー!」

「子供みたいに言わないでください! 束さんは大人でしょう!?」

「子供に子供って言われたー!」

 

 わけの分からない幼稚な言い合いをしつつ、結局最後には取っ組み合いになる。当然、僕なんかが束さんに敵う筈もなく、結局は天燕を取り上げられてしまった。

 天燕を取り上げた束さんは、目にも留まらぬ速さで駆け抜けていき、挙げ句の果てには僕とタオルとスポーツドリンクを置いて、颯爽と家の中へと入っていってしまった。

 あまりの足の速さと、仕事の早さに呆けるしかなかった僕は、慌ててタオルとスポーツドリンクを手に家へと駆けていくのだった。

 

 

 

 束さんを追って開発室へと入ってみると、やっぱりそこに居たっぽい。しかも、あの不思議な形状をした作業椅子に膝を抱えて踞っている。

 僕はどうしようかと思いながら近付くと、束さんが僕の存在に気付いてか、ふと顔を上げた。……あ、目がとろんとしてる。眠いのかな。

 

「束さん、こんなところで寝ちゃダメですよ」

「……そーくんのいけずぅ」

「風邪を引くとは到底思えませんが、でもちゃんとしたベッドで寝ないと取れるものも取れませんよ」

 

 そうやって注意するのも束の間。腕を伸ばして僕の首に巻き付かせては、思いっきり引き寄せられてしまう。全くもってこういう(束さんのような)人は困るよね。人の意思決定関係なく抱いてこようとするんだもん。

 そう愚痴を言う暇もなく、僕はあっさりと束さんの胸に顔を埋める形になった。何故にこうなった。

 

「うー、そーくんの匂いはミントかぁ~♪」

ふぁっへひほふほひおいほ(勝手に僕の匂いを)はははいへふははいほぉー(嗅がないでくださいよぉー)

 

 埋もれたままでなんとか言ってみるも、ほぼと言うか、全く伝わってない。く、苦しい。

 伝わっていなければ当然束さんも理解してないわけで、ましてや束さんが僕を放してくれるとは思えない。目の前が真っ暗なだけに、絶望しか見えないよ。これこそまさに“お先真っ暗”だよね、あはははは………誰が上手いことを言えと。

 藻掻く気力もなく、しばし埋もれていると段々呼吸が困難になってくる。ヤバい、そろそろ限界を迎えそうかもしれない。そのお陰でどんどんと気が遠退いていって、僕は気付く隙もなくそのまま気絶してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 白い天井、白い壁、シンプルなベッドと机と椅子に、あと乱雑に散らばった本。――あぁ、僕の部屋か。

 起き上がると同時に掛け布団から這い出ると、辺り一帯に散らばった本を片付ける。流石に散らばったままなのはマズイよね。

 トントン、と本の端を合わせてから卓上の本棚に納めていく。全てが全てISに関する資料、書籍で、束さんが纏めてくれたISの基礎理論の本もある。……と言うかこの本あれば十分だよねってレベルで、他の書籍はいらなかったんじゃなかろうか。いや、買った以上は仕方ないよね。それに様々な技術があって、これはこれで面白いってのもあるし。

 そこで僕は率直な疑問を口にする。

 

「っとと、束さんは……?」

 

 そりゃあまぁ、開発室にいるんだろうけど、と簡単に予想はつくものの、情景反射と言うかなんと言うか直ぐに反応しちゃう。

 結局、すぐに答えが出て、僕は「ああそうだった」と気付き直してから部屋を出た。目指すは当然、開発室だ。

 相変わらず重たいドアを押し開けて、開発室を見渡してみるとやはり束さんは居た。

 

「束さん、これからハグするの禁止しますよ!」

 

 腰に手を当て、人差し指を指しながら開口一番そう言ってみせると、束さんが滝のように涙を流しながらこちらへ振り向いた。

 それにギョッと一歩退いてから、僕は恐る恐る歩きながらも束さんに近寄る。

 

「そーくんのいけず~! 束さんはこうも“I love you”なのにぃ~!!」

 

 束さんからの開口一番の台詞がそれだった。唖然とするべきか、普段通りだと受け流すべきか。どちらにせよ返答に困る言葉に、僕は苦笑いで返す。

 僕の腰に抱き付いてきては、わんわんと喚く束さんを取り敢えず落ち着かせてから、ハンガーに掛けられた状態の天燕に近付いた。

 もう調整は受けた後みたいだ。触れるだけで何が変わったのか、手に取るように分かる。見た感じ出力系に修正が掛かってるらしいね。エネルギー伝達係数を敢えて落として、余剰分のエネルギーが極力出ないようになってる。

 天燕から離れると、束さんが僕の隣までやって来た。何か言いたげにしている束さんを見ると、ややしかめっ面で悲しそうに眉尻を下げている。

 

「私ね、この子に乗ってそーくんが怪我するなんて嫌だから。それは本当だよ」

「心配しないでくださいよ。僕は怪我なんてしません。ISは、僕達を守ってくれるじゃないですか」

「でも……」

 

 珍しく弱気に言う束さんに、今度は僕から抱き付いた。普段はこんなことしないためか、急な出来事で流石の束さんも思わず動揺している。

 

「僕は……死にません。必ず束さんの下に、生きて帰ってきますから」

 

 そう言われて、束さんが涙を流したのを僕は知らないことにした。これは、僕の決意したことだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、束さんから天燕を返してもらい、実際にテスト飛行してみることにした。

 そうとなれば外へ出て、束さんはホロディスプレイを出して確認を、僕は天燕を展開して宙へ浮く。

 

「前よりか大幅に安定してますね。思うように、とまではいきませんが前よりマシです」

「そう、それなら良かった。慣れたところで装備も読み込まなきゃねー」

 

 簡素な感想を述べてから地面に着く。それに対して束さんは、新たに出現させたホロキーボードで何かを打ち込みながらこちらを見ずにそう言った。

 そこで疑問に思った僕は、間髪入れずに束さんへ尋ねる。

 

「装備、出来てるんですか?」

「うん♪ 何せ束さんの自信作だよ~? そーくんのために扱い易そうなのを作ってみたのよさ!」

(……扱い易そうなもの?)

 

 うーむと悩みつつ、視界に何かのインストール画面が表示され始める。不思議そうに表示を見つめていたら、百パーセントとなった途端、僕の右手に大型のライフルが、両肩に複雑な線が刻まれたシールド状の厚めの板が装備された。

 

「これが装備ですか……?」

 

 隅々まで見ようとあちこちを見回すと、目の前に再び表示が出てくる。

《多目的複合レーザーライフル「空幻(くうげん)」 使用可能

 展開式防護装甲「鬼甲(ききょう)」 使用可能》

 

「これが天燕の……」

 

 誰に言うでもなく呟き、試しにレーザーライフル――空幻のトリガーを引く。――すると、空気を震わすような轟音と共に、空を一直線に突っ切っていった。反動(リコイル)は中々に大きく、代わりに威力は高そうだ。

 僕は手にした“力”を目の前にして、思わず目を輝かせる。だけどこれは、使い方を誤ればただの殺戮兵器になってしまう。……だからせめて踏み外さないようにしなきゃ。僕はそう心に深く誓った。

 

 

 

 

 

「やっぱりもう少し時間が掛かりそうだ。……でも必ず乗りこなしてみせるよ。うん、頑張るよ、天燕」

 

 

 

 

 


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