IS〈インフィニット・ストラトス〉~天駆ける空色の燕~   作:狐草つきみ

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気が付いたら前回の更新から半年以上が経ってるだと……?(絶句
(;0w0)ウソダドンドコドーン!




第7話 過保護が過ぎると外堀を埋められる

 翌日、千冬姉から口頭で、正式にソラがクラス代表となったと伝えられた。しかし、千冬姉が言ったことはそれだけではなかった。

 

「――だが、貴様達のような腑抜けた奴等を全て咲白だけには任せられん。よって補佐にオルコット、貴様が付いてもらう」

「は、はい!」

 

 予想外の展開、とも取れる言葉に俺も皆も驚いた。けれど、今この場で一番驚いてるのはオルコットさん自身だろう。

 ショートホームルームが終わってから、俺と箒はソラの周りに集まる。

 

「良かったな、ソラ。オルコットさんが補佐に付いてくれてさ」

「うん、確かにね。正直、ここのお姉さん方を纏められるだなんてそもそも思ってないし」

 

 眠たげな目を擦りながらも口許を緩めて答えたソラに、俺達は苦笑いする。まぁそうだろうな、千冬姉のことだけでもアレなんだから。

 

「オルコットもオルコットで、大変な役を押し付けられたものだな」

 

 箒がオルコットさんの方を向くと、いつの間にやらソラの机の側に立っていたことに俺が気付く。

 

「………いつの間に」

「三人とも、セシリアと呼んでくださって構わなくてよ。それと、別に大変だとは思いませんわ。一番苦労するのはこの子でしょうから」

 

 オルコットさん、もといセシリアは、ソラの頭を撫でながらそう言った。ソラも気持ち良さそうに撫でられているのを見て、どうやら満更でもないようだ。お前はペットか。

 

「ならばセシリアは、一層頑張ってやらねばな」

 

 胸の下で腕を組ながら箒がそう言う。セシリアも「そうですわね」と微笑みながら答えた。

 やっぱりあの時、ソラとセシリアが試合する時に見えた、因縁のようなものは気の所為だったのか。俺がそう変に勘繰ると、セシリアがふと口を開く。

 

「……まだ、この子を許したわけではありません」

 

 俺の心を読み取るかのように、セシリアはピシャリと言い放った。

 

「あの時の雪辱が晴れたわけでもありません。ですが、相手がこんな子だと知ってしまっては、わたくしも戦意が削がれるというものですわ。……ですから、この子がどんな子なのか、これから見ていく必要があるんですの」

 

 またしても眠っていたソラを見下ろしながらも、セシリアは優しくそう告げた。何があったのかは知らない。でも、気持ちだけは伝わってきた。それがセシリアの意思なんだと。

 

「それじゃあ、俺達でセシリアとソラを補佐してかなきゃな!」

「あら、一夏さんがわたくしを補佐してくださいますの?」

「一夏如きに何ができる。精々力仕事だろう」

 

 箒の厳しい突っ込みに、思わず三人で吹いてしまった。この一週間、周りが女子だらけで不安だとか思っていたが、今の俺にはもう、不安なんて何処にも無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の昼、中庭で一人黙々とパンを齧りながら、何も浮かんでいない空を見上げていた。今日は海もビックリするくらい真っ青だ。

 この空のように何も無いけれど、僕は失ったばかりじゃない。今日ここに僕が在るのは、束さんや千冬先生、いっくんに箒やセシリア、皆のお陰なんだって。

 それなのに一人で昼食なんてね。寂しい奴なんて言うのはご法度です。……まあ、食堂が嫌なわけじゃあないけれど、あそこはどこか居辛いと言うか何と言うか。

 

「やっぱり甘いものは良いねぇ~♪」

 

 記憶を失う前の僕は、甘いもの好きだったのだろうか。しこたま買い込んだあんパンも、気が付けば残るは三つになっていた。

 

「あー、食べ過ぎちゃったかな?」

 

 独りでに呟く。周りは誰も居ないから、誰かに聴かれるなんてことはない。近付かれれば大抵気付くし。

 そもそも、あんパンを三十個近くを一人で食べ切ろうなんて、自分は何をしているんだろう。毎日似たようなものだから今更感があるけれど。

 すると芝生を踏み締める音がして、誰かが近付いてくるのが分かった。しかも、踏む時の音からしてまず女性じゃあない。……と言うことはいっくんかな。

 

「こんな所へどうしたの?」

 

 足音の方向へ顔を向けると、足音の正体が顔を見せる。相手も僕が気付いていることに驚いてるみたいで、目を丸くしていた。

 

「何だ、気付いてたのかよ」

「足音でね。男性と女性とじゃあ、足を踏む時の長さや掛ける体重、歩幅が全く違うからね」

「そんなことまで分かるのか」

 

 いっくんはそう言いながら、僕の隣へ腰掛けた。

 

「相手を見分ける基本だよ?」

「心得ておくよ」

 

 冗談めくように返してくれたいっくんに、僕も笑顔で返す。

 そうは言ったものの、何故自分がそんなことを知っているのかは分からない。けれど昔に、()()()()()()を習っていたんだと思う。それも日常的に。

 いっくんは笑いながら空を見据えては、ふと思い付いたように話し出した。

 

「そういやソラの名前って、この青空から来てるのか?」

「………え?」

 

 唐突にそんなことを尋ねてくる。名前の由来なんてそんなもの、考えもしなかった。あくまで偽名であって、僕の本当の名前じゃないかもしれないからね。でももし、本当に僕の名前が「ソラ」だったとしたら、僕の親は何を思ってそう名付けたんだろう。

 

「そうだね、何を思って、僕に名付けてくれたんだろう」

 

 僕に親兄弟が居るのかすら、今の僕には分からない。調べることも出来るけど、なるべく自分で思い出したい。

 だから特にこれといって行動は起こしていないけれど、きっと何かの拍子に思い出せるんじゃないかな。僕はそう願う。

 しばらく間を置いてから、今度は僕がふと思い出したようにいっくんへと尋ねる。

 

「いっくんはさ、ISに乗れたことって後悔してる?」

「後悔?」

「うん」

 

 するといっくんは、少し悩みつつも困った風に笑いながら答えてくれた。

 

「後悔は……無いな。変なレッテルを貼られた気分だけど、けどその代わりに家族や友達、仲間を守れる力を手にすることが出来たからさ」

「ふーん……そっか」

 

 僕は最後のあんパンを口に放り込みつつ、素っ気なく答える。家族や友達、仲間を守れる力、か。

 

「(……でもその力がいずれ、過ちを作ることもあるんだよ)」

 

 そう心の中で呟いた。何故そう言えたかは、僕には分からないけれど。当の僕は、どうなんだろう。もう二度と“何も失わない”ため、なのかな。

 

「何も失わないため、か」

 

 最早自嘲としか言えない言葉を残して、僕は教室へと戻った。そんな僕を見て、唖然としたままのいっくんを置いて。

 

 

 

 

 

 

 戻ってくると、セシリアが僕を見付けてはすごい速さで僕に近付いてきた。

 

「どどどどったの!?」

「ソラさん! 貴女、何処へ行ってましたの!?」

「ふえええ!?」

 

 わけの分からないままに驚くしか出来ない僕は、顔を僅か数センチまで近付けてきたセシリアから顔を僅かに逸らし、視線だけで箒に助けを求める。

 箒もそれを感じ取ってくれたのか、見きれなくなったように息を吐いては、僕に説明してくれる。

 

「昼休み、お前と一緒に昼食を取りたかったそうなのだが……肝心のお前が何処かへ行方不明になるものだから心配していた。と言うのがセシリアの心情だ」

「あ、ああ、成る程」

 

 箒の分かりやすい説明に、思わず素で返した僕はセシリアに抱き付かれる。あの時(試合)の時の様子は何処へやら、僕への態度が軟化し過ぎてるような。

 

「もう、心配いたしましたのよ!」

「だ、だって、あんパン直ぐに売り切れちゃうから、僕は早めに確保してるだけだよ!」

 

 それを聞いてセシリアは涙目で押し黙ってしまう。「あ、あんパン……」と言いながら顔を引きつらせて笑うのを堪えている箒はさて置いて、どう返したものかと考えていると、丁度いっくんも戻ってきたみたいだ。

 

「お前達こんな所で何してるんだ? 皆の邪魔になるだろう」

 

 いっくんは呑気に爽やかな笑みを浮かべてそう言うと、キッと顔をしかめたセシリアが涙を拭わないままいっくんに言った。

 

「ちょっと一夏さん! 貴方もこの子に言ってさしあげて!」

「何をだよ……」

 

 呆れるように言い返すいっくんなど気にせず、セシリアは続けて驚くべきことを言った。

 

「ソラさん、今後はわたくしの傍を離れないように!」

「えー」

「良いこと?」

「ええー」

 

 それって授業中は物理的に無理だよね。

 

「安心してくださいまし。織斑先生には既に許可を得ていますわ」

「「「えええ!?」」」

 

 流石に最後の言葉にはほかの二人も驚かざるを得ないらしく、僕と一緒になって驚いていた。いくらなんでも過保護じゃない? あれ、でも過保護って言うのかな、これって。

 兎にも角にも驚いて固まったままいると、丁度良いところに千冬先生がやって来た。

 

「千冬先生、セシリアさんが言ってることって本当ですか?」

「いきなり何だ、咲白」

 

 言葉通りいきなりで驚いたのか、やや面倒臭そうな態度で言う千冬先生。

 

「セシリアさんが僕を離さないだのなんだの」

「恋愛沙汰は余所でやれ」

 

 その答えは聞いてませんって。でも様子からしてセシリアの言ってることは本当みたいだし。

 僕はがっくりと肩を落とすと、チャイムが鳴り響いた。僕以外の三人はすぐさま席に戻るけど、僕だけ戻る気がしなかった。よく見れば、僕が座っていた席には別の人が座っている。もう外堀は埋められていた。

 

 

 

「不幸だ……」

 

 

 

 そう呟いてから僕は、千冬先生に同情の眼差しを向けられながらも新しい席に着くしかないのだった。


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