IS〈インフィニット・ストラトス〉~天駆ける空色の燕~   作:狐草つきみ

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お久し振りですね、約一ヶ月以上間を開けての投稿です(笑)
なんとか進路や諸々のゴタゴタが収まったのでようやく投稿できました。
久し振り過ぎて内容を忘れてるかもしれませんが、ようやくIS学園での初バトルです(笑)
それでは、どうぞ







第5話 代表者の証明 ~前編~

  入学から早くも一週間が経過し、その日の放課後には一年一組の生徒全員が第三アリーナへと集まっていた。目的は当然――一夏、空、セシリアの三人のバトル。

 皆、観客席でそれぞれのバトルを楽しみにしており、話題もそれで持ち切りになっていた。

 その頃、クラス担任と副担任である千冬と真耶は、IS格納庫にて、先程届いたばかりの新型ISを見上げていた。そこにはグレーに近い、鈍い白色をした機体が鎮座しており、今も主人となる人物をただひたすらに待ち続けていた。

 

「流石に『初期化(フォーマット)』と『最適化(フィッティング)』は間に合わんか………仕方ない。山田先生、織斑を至急呼んできてくれませんか?」

「はい!」

 

 真耶もまた、待ちに待ったと言わんばかりに深く頷く。千冬の指示通り、早速この機体のパイロットとなる少年、織斑一夏を呼ぶ為に、格納庫からアリーナへと駆けて行った。

 

 

 

 

 

 その間にも一夏は、待合室にて空と箒の二人に改めてレクチャーを受けていた。……しかし、箒も空からレクチャーを受ける形になってしまっている以上、実質空のみがレクチャーしている。

 

「いっくんのISは秘密だとして、まずオルコットさんの死角はあまり無いと思って良い。でも、近付いてしまえばそれが死角になる。……いっくんが全距離攻撃を避けるのは至難の技だけど、狙撃ぐらいだったら避けられる筈だよ」

「空が先じゃないのか?」

「僕はわざと負けるつもりだから気にしないで」

「汚ねぇ!?」

 

 空の思惑を知った一夏は、思わず突っ込んでしまう。そんなレクチャー紛いの雑談をする中、誰だろうか、待合室の戸が数回叩かれた。

 すぐにドアが開けられると、そこには真耶が息を切らしながら佇んでおり、三人はその様子に驚いて呆然としていた。

 

「と、取り敢えず……深呼吸しましょうか?」

「は、はいぃ……すー、はー、すー、はー」

 

 数度の深呼吸を繰り返して、何とか落ち着くことの出来た真耶は、改めてここへ来た目的を話す。

 

「えっとですね、織斑君のISがようやく届きましたので、至急来ていただけますか?」

「……は、はい!」

 

 その言葉に一夏は、一瞬だけ戸惑いつつもしっかりと頷き、歩き出した真耶の後を追い掛ける。空と箒も顔を見合わせてからその後を追い掛け、四人は足早に格納庫へと向かった。

 格納庫へと駆け足で辿り着くと、その場に残っていた千冬が、腕組みをしながら仁王立ちで待っていた。四人が来たことに気が付いたと同時に、真耶へ労いの言葉を掛ける。

 

「山田先生、ありがとうございます。……織斑、流石に時間がない、『初期化』と『最適化』は間に合わん。戦闘中に行え」

「えぇっ!?」

 

 突然言われたその言葉に対して、そんな無茶なと言いたげな顔をした一夏だが、空からも「そうするしかない」と言われて渋々、目の前にあるハンガーを見上げた。

 

「これが俺の……IS」

「名前は『白式』。使い方を誤るなよ」

 

 千冬に促されて、早速白式へと乗り込む。初めてISに触れた時とはまた違う感覚に戸惑うが、一夏は静かに深呼吸して落ち着いた。視界は思ったより鮮明に見渡せ、千冬の表情も事細かに分かった。その顔から心配している様が伺え、一夏は安心させるように言い放った。

 

「行ってくるよ、千冬姉」

「……ああ、頑張ってこい、一夏」

 

 格納庫からアリーナへと直行した一夏は、アリーナにて待ち構えるセシリアの下へと向かう。

 箒と空も、その後を見届けてからアリーナの観客席へと足を運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この感覚、未だに慣れないけど、さっきよりは大分マシかな?

 俺はそう考えながらも、アリーナの観客席を見渡す。そこには丁度ソラと箒が着いたらしく、慌てて最寄りの椅子へと座っていったのが見えた。

 視線を前に戻すと、オルコットさんが待っていたと言わんばかりに話し掛けてくる。

 

「……逃げずに来れたことだけは、褒めて差し上げますわ」

「逃げも隠れもしないさ、正々堂々、真正面からぶつかってやる」

 

 俺は挑発めいた発言をしたオルコットさんに、開放回線(オープンチャンネル)越しで返した。その台詞にオルコットさんにも火が点いたのか、先程の優雅さは何処へやら、口角を上げて情け容赦のない言葉を振りかざしてくる。

 

「良いですわ、惨めなくらいに地へ叩き落として上げましょう。……このわたくし、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズが奏でる、円舞曲(ワルツ)で!」

 

 オルコットさんの言葉を幕切れに、試合が開始した。

 開戦のブザーが鳴ったと同時に、俺は迷いなく真正面から駆け抜ける。その間に武装を確認してみると、()()()()()しかなかった。()()()()()しか。

 

「くっ、近接ブレードだけかよ!」

 

 奇しくも練習の時と変わらない装備に、俺はどう反応したものか困った。ソラが練習時に近接ブレードしか使わせなかったのは、このためだったのか。

 すると頭上や俺の左右を通り過ぎたものに、思わず気を取られてしまう。

 

「まさか、“全距離(オールレンジ)に対応する”ってこういうことか!」

「ブルー・ティアーズ!」

 

 俺の背後を取ったビットが、一斉に俺の背中へとレーザーを発射した。シールドバリアーが代わりに受けてくれるが、同時にシールドエネルギーがごっそりと削られる。だが、その衝撃を活用して一気にオルコットさんとの距離を詰めると、今度はその手に構えたライフルで俺を狙い撃とうとしていた。……だが狙撃なら!

 

Have a nice day(ご機嫌よう)

「……この距離でも、避けれるッ!」

 

 ほぼ間合いが十メートルという距離で、彼女は構わずライフルのトリガーを引いた。それと同時に、俺は左へ思いっきりブーストをかけ、ギリギリでレーザーを躱すことに成功する。

 だが避けられたからと言って、安堵できる訳じゃない。まだ十メートルもあるんだ。

 

「このまま一気に――!?」

「まだですわ!」

 

 突如としてブルー・ティアーズから一基のミサイルが発射される。

 それを予期できなかった俺は、全速力で後退した。しかしミサイル自体の追尾性が高いうえ、周りのビットにも気を配っていると、どうしても目の前のミサイルから意識が削がれてしまう。

 その一瞬の判断が、俺に隙を生んだ。

 

「うわぁぁぁぁぁっ!?」

 

 ミサイルが直撃し、目の前は煙幕に覆われ、俺は爆風の衝撃の痛さに負けかけていた。

 観客席の方からもざわめきが聞こえ、俺が落とされてしまったことに、やっぱりと思う人が大多数のようだ。……しかしそんな時だろうか、胸の奥に呼び掛ける声があった。

 

 

 

(まだ諦めちゃダメだよ)

 

 

 

 その声に突き動かされ、俺の意識が即座に覚醒する。

 

「うお、おぉぉぉぉぉぉお!!」

 

 そうだ、まだ諦めるには早い。まだ始まったばかりだ。だから前へと突き進め。全てを斬り開いて、前へ!

 

 

 

 

 

「―――なぁそうだろ、白式!」

 

 

 

 

 

 眩い輝きと共に俺の体が、白式が呼応する。煙幕を吹き飛ばし、光が収まる頃にはあの鈍い白色の機体色が、真っ新(まっさら)な純白へと変わっていた。

 ハイパーセンサーの表示に《第一形態移行(ファースト・シフト)  完了》の文字が見え、さらに表示が重なる。

 

《雪片弐型 使用可能》

「雪片………弐型?」

 

 その銘を見て俺は驚く。

 今この手に握っている、この白き剣の銘は『雪片弐型』。……奇しくも俺の姉、織斑 千冬が搭乗していた機体『暮桜』の唯一の武器であり、愛刀の銘である『雪片』と被っていた。

 またしても立て続けに表示が表れ、俺はさらに驚く。

 

単一仕様能力(ワンオフアビリティー)『零落白夜』 使用可能》

 

(……これなら行ける!)

 そう確信して、真っ直ぐにオルコットさんを見つめては、そのまま一直線に突っ切っていった。

 オルコットさんも俺が真正面から来るのを見て、ビットを四方へと飛ばす。それすら構わず、襲い掛かるビットを片っ端から叩き切って突っ切った。

 

「この力があれば……! 友達を、仲間を、家族を、アイツをッ! ――おぉぉぉぉぉぉおお!!」

 

 下段へと構えた雪片から、自然とその刀身の隙間から粒子が漏れ出す。やがて刀身が展開し、中から蒼白い粒子で出来たエネルギー刃が形成される。――そう、これこそが『零落白夜』。姉と同じ“力”。

 俺は零落白夜を発動した状態で、全力でオルコットさんへと突撃し、降り翳した雪片弐型を降ろそうとした。その途端、

 

「………あれ?」

 

 フッと粒子が消え、ウイングスラスターからも光が消える。ふと何が起こったのか理解出来なかったが、それも直ぐに分かった。理由は簡単だ。

 

「そんな馬鹿なぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 

 

 

 真っ逆さまに落ちたから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「格好いいけど無様に」とか言ったら失礼だけど、オルコットさん対いっくんの試合は、見事いっくんが負けてオルコットさんの勝利となった。不戦勝としか言いようがないけれど。

 しかしそんなことになったお陰で、相手はさらにヒートアップしている。どうしよう、僕もう逃げようかな?

 そんな時だろうか、後ろから不意に声を掛けられる。

 

「貴女の実力、試させて頂きますわ」

 

 声を掛けたオルコットさんの台詞に、僕は目を瞑りながら返した。

 

「試すほどでもないと思いますけれど。……今のオルコットさんに敵う気もしませんし」

「あら、織斑先生から合格を貰ったと言われるほどの実力者かどうか、小手調べするだけですわよ」

 

 先程のいっくんとの試合と違って、オルコットさんは落ち着いた態度で接してきた。それはそれで好都合として、僕はオルコットさんに別れを告げ、待合室へと足を運ぶ。

 待合室へ行くと、何故だか箒と千冬先生が居た。何故、彼女らがここに居るのか。僕が不思議そうに首を傾げると、千冬先生から話し始める。

 

「お前はISをどうするのか、と思ってな」

「ソラは一夏と違って、専用機を持っておらんだろう?」

 

 千冬先生の言葉に続いて、箒もそう言った。思わず目を丸くしてしまう。

 言われた言葉の意味を理解して納得したが、その言葉に僕は静かに首を横へ振る。

 

「僕にも大事な()()が居るので心配ないですよ」

 

 そう言ってはにかむような顔をして、右手の指貫グローブを触ると、仄かに天燕も返事をしてくれたように感じる。

 やがて準備が完了したと同時に、千冬先生と箒はそれぞれ待合室を後にして、僕は改めて試合に臨む。……本当はわざと負ける予定だったけど、こうなりゃとことんやってやる。

 

 

 

 

 

 

「僕だって、ISの操縦者だ」

 

 

 

 


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