転移したら300年前の世界でした   作:マルベリー

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近況報告

 

アイリンと名付けたペンギンのユニークモンスターは海の覇者だった。

天敵であるはずのアザラシやシャチの魔物すら彼女を避けて泳ぐって、一体何をどうしたらそうなったの? あれか、昔のヒイロみたいに所構わず暴れまわったのか? 似た者同士かな?

 

お陰で『シャングリ・ラ』と呼ばれることになった島だけでなく、海まで手中に収めてしまった。海獣たちがアイリンに恐れをなして、こぞって私の庇護下に入りたがったためだ。

前述のアザラシやシャチだけでなく、クラーケンやシーサーペントなんかもだ。

 

流石、ユニークモンスターなだけあるよね。

ペンギンっていうと可愛らしげなイメージだけど、最初に会った時点で三メートルは優にあったし、名付けた結果冠なんかの装飾が増えてTHE女王って感じになって見た目だけでもとても強そうだし、おまけに群れの子たちまで巨大化した。私の癒しはどこだ。人魚もアザラシもカモメも見てて癒されるかって聞かれたら微妙だしなぁ。やはりもふもふが正義よ。

 

ちなみにアイリンもグラヴやヒイロ同様に『人化』を覚えた。藍色の髪と瞳、白い肌、黄金の冠……ふわもこな衣装を与えてみたら、もうとてつもなく似合う。ウェルサやグラヴとはまた違った方向の美人。女王の気品と強者の覇気が上手い具合に共存していた。

 

やっぱりこの世界じゃ強ければ強いほど見目も良くなるみたいだ。本編後のリムルが美の女神扱いされるのも納得だね。

 

 

さて、話を変えよう。

島の開拓は順調に進んでいる。人間も魔人も魔獣も種族の壁を越え、一丸となって励んでくれてるから、私の仕事は方々を回って鼓舞したり意見を聞いたりすることくらいなんだよね。優秀な配下を持てて幸せだよ。

 

といっても別に暇を持て余していた訳じゃない。

希望者に甲斐甲斐しく魔法を教えてあげたり、剣術なんかも少し。

今のところどっかと戦争する気はないけど、こっちにその気がなくても襲われるかもだし、戦闘要員の育成は重要だ。

その点、うちは人間以外は全員元からそれなりに戦えるから助かってる。ヒイロの名付け子である鬼人ハナダなんか、アイリンと並んで幹部級の実力者だった。本人は「幹部の椅子はこんな老いぼれには勿体ないでしょう」とか謙遜してたけど、すごいものはすごい。息子の若君にも期待してる。なにか成果をあげたら名前をあげるね。

 

配下の教育はやりがいあるし、徐々に出来上がっていく街を城から眺めるのは楽しい。

と言う訳で、しばらく島に籠る旨を友人たちに挨拶して回ることにした。

 

最初に向かったのは封印の洞窟。

ヴェルドラは少しつまらなそうだった。封印されてる現状に飽き始めていて、私が来なくなると暇で仕方がないと言う。

 

 

 

 

「大丈夫よ、もう二度と来ないっていう訳じゃないから。次に会う頃にはきっとその封印も解けて自由になってるんじゃないかな? そしたらもっと楽しいだろうね」

 

 

(むぅ……しかし、勇者の封印が経年劣化で解けるとは思えんぞ?)

 

 

 

 

ヴェルドラの言う通りだ。経年劣化じゃ封印は解けない。

ユニークスキルの中でも理外に程近い『無限牢獄』から逃れるのに必要なのは時間ではない。より上位の権能……究極能力だ。

ま、そこら辺はあと数十年もすれば身をもって知るでしょう。

また会おうと約束して、封印の洞窟を後にした。

 

 

次に向かったのはお子様妖精ラミリスのところ。

私と海獣たちとの心暖まる交流の話をしてあげたところ、見てみたい! と言うのでさくっとアイリンを召喚。

 

 

 

 

「へえ、これがペンギンね! 海を泳ぐ鳥なんて面白い!」

 

 

「は、母上様? この童は一体……?」

 

 

「この妖精はラミリス。私の友達で魔王の一柱よ。ラミリス、この子は私の名付け子のアイリン。可愛いでしょう?」

 

 

「うん! いいなぁ~、アタシも配下欲しい!」

 

 

「配下ならそのうち出来るでしょ。あなた、何だかんだで面倒見いいし」

 

 

「ホント!? アンタが言うなら信じるからねっ!?」

 

 

「はいはい」

 

 

 

 

ラミリスの配下になるのはベレッタに樹妖精に竜王たち。早く出会えるといいね。

それじゃ、また数十年くらいあとに。

 

呼び出したついでにアイリンと魚をとって食べるなどして楽しんでから、意を決して向かったのは氷土の大陸。

適当に飛んだら宮殿から離れた場所に出てしまったのだが、即座に迎えが来た。ギィに仕える悪魔公(デーモンロード)、ミザリーとヒラリーだ。

同質の美しい声で挨拶してきた二人に案内され、最上階のテラスに。そこにはついこの間会ったばかりのギィと、白氷竜ヴェルザードが待っていた。

 

……って、ヴェルザード? なぜわざわざここに?

ヴェルダナーヴァとは友達だけど、彼の妹であるヴェルザードやヴェルグリンドとはあんまり関わりがなかったんだよね。彼女たちの相棒であるギィやルドラとは友達だから、何だかんだで知り合いではあるけども。

 

いったい何の気紛れだろうと思っていたら、話題はヴェルドラについてだった。

 

 

 

 

「弟に会いに行ったそうね? 封印されてから少し経ったけれど、どんな様子だったかしら?」

 

 

「ああ……暇そうにしてたわ。前よりは丸くなったんじゃないかしら。あと……魔素が垂れ流し状態になっていたから、あのまま放っておくとおよそ300年ほどで消滅するわね」

 

 

「そう。てっきり、封印を解くためにあの子に会いに行ってるのだと思っていたのだけど。どうやら違うようね」

 

 

 

 

そりゃね。私が解かなくてもあと数十年もすればリムルがどうにかしてくれるし、むしろそうでなければならない。やろうと思えば出来るけど、やる理由がない。

 

ヴェルドラの話題はここで終わった。

わざわざ様子を尋ねる程度には気にしてるわりに、消滅云々に関してはスルーなんだ。竜種の家族愛? 姉弟愛? は元人間の私にはよく分からない。

まあ消滅しても復活するしね。自我は違うから同存在の別人だけど。ヴェルドラは書籍では一度討伐されたことがあるって書いてあったな。こっちではどうだか知らないけど。

 

ギィとはこの間会ったばかりだし、さらっと世間話をして終わった。

無人島を開拓してるって言ったら、「やっと腰を落ち着ける気になったかよ」とか何とか言われたな。レオンだけでなくギィにまで気にされてるとか、アウトローにも程があったか。なんかすみませんね。

 

そういえば、ミリムは……あの子は今頃どこにいるのだろう。前回会ったときはさらっと自己紹介だけして終わってしまったので、改めて話がしたいとミリムの城を訪ねてみたら、運良く会うことができた。

 

 

 

 

「おお、キキョウではないか! ワタシに会いに来てくれたのか? 嬉しいぞ!」

 

 

「こんにちは、ミリム。この間は忙しなかったし、改めて話がしたいと思って。今いいかな?」

 

 

「もちろんなのだ!」

 

 

 

 

可愛い。この一言に尽きる。

自分で子供を生む気は欠片もないが、子供は可愛いと思う。年齢だけならたぶん私よりミリムの方が上だけどさ。大切なのは心の有り様だよね。

 

何だかんだと話をしていたら時間なんてあっという間に過ぎてしまうもので。

あんまりうちを開ける訳にはいかないし、涙をのんでお別れした。また遊びにくるね。

 

 

で。一番最後にやって来たのがレオンの居城。

ぶっちゃけレオンとだけはかなりまめに連絡をとっているので、近況報告の必要はあんまりないんだけど。これから数十年引きこもりますってことを『思念伝達』するのはなんか違うよね。

 

と言うわけでわざわざ出向いてきたの。

しばらく島に籠るから、何かあったら『思念伝達』するか直接会いに来てね。よろしく。

え? 無茶なんてしないよっ! 私が無茶しなきゃいけないような状況だったらここまで会いに来れてない。うちの配下は優秀なんだ。

 

 

さてと。そのうち起こる天魔大戦を生き抜くために、今のうちから準備しておかないとね。

 






次話辺りから本編の時間軸に近くなります。たぶん。
他者視点を入れるなら今のうちなので、何かリクエストありましたら感想で。書けたら書きます。

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