暗い。性欲値→0
「ヤトノカミ様、後は私達にお任せください。」
体調を崩して寝込んだラキュースの護衛に、シャドウ・デーモン、エイトエッジ・アサシンを各一体つけた。
身の回りの世話は、セバスが教育したメイドが来てくれた。
「護衛は任せる。あと、メイドはえーっと……ツアレ、ツアレニーニャだったか?」
「あ、はい、そうです。」
金髪のメイドが、不安な藍色の目でこちらを見ている。
朝まで続いた時間外労働の眠気を抑えるために、蛇へ戻っていた。
彼女が不安な目を送るのは、異形の姿による影響だろう。
下劣な娼館で血反吐に塗れて働き、傷だらけだった顔はすっかり完治していた。
仄かに紅の差す頬と大きめの瞳は、健康状態の良さを物語っている。
「世話をかけてすまない、セバスと一緒に居たかっただろう?」
声にからかう響きが混じる。
「あ、い、いえ。ら、ラキュース様はお任せください。」
手をぱたぱたと胸の辺りで振っている。
それでも姿勢良く立っている姿は、メイドに相応しかった。
ユリとペストーニャの厳しい研修の成果だった。
セバスについて言及され、頬が紅潮する。
「明日ですが、セバス様が他のメイド達を連れていらっしゃるそうです。」
「それはよかった。ツアレも嬉しいのだろう?」
「はい…………あ!いえ!そ、そ、そんな事は、ラキュース様はお任せください!」
あわあわと手をばたばたさせる。動揺しているのか、先ほどと同じことを繰り返している。
「……そうか。じゃあ俺の嫁をよろしく頼む、ツアレ」
蛇神は不安を押し殺し、丁寧に頭を下げた。
「はい、行ってらっしゃいませ。」
両手を前に組み、深いお辞儀をする。
「護衛はツアレも守れよ、彼女はナザリックの所有物だからな。」
「お任せください。」
天井からエイトエッジ・アサシンの声が聞こえた。
この日は時間外労働が無い事だけはわかっていた。
◆
執務室でラナー、ザナック、レェブン候と打合せに入る。
水晶フレームの眼鏡をかけて渡された書類に目を通すヤトは、前日と同一人物とは思えなかった。
見た目は人から蛇に変わっているのだが、瞳に理知的な光が宿っていた。
気の抜けたところが無く、真面目に話を聞いている。
「順繰りに育てるとどのくらいかかる?」
「絶対とは言えませんが、大規模の実験を行った上で六年とみております。」
「ふむ、それまで食料供給はどれほど低下する?」
「理論上は30%低下します。」
「レェブン候の領地も同様か?」
急遽呼び出されたレェブン候に話を振る。
「いえ、私の領地のみで考えると、10%程度でしょう。ただ、不足した食料を王都へ回すと、やはり30%かと思われます。」
眼鏡をかけた大蛇に羊皮紙を渡す。
書類に目を通し終えたヤトは、眼鏡を外して話を始めた。
「時間が掛かり過ぎる。これでは話にならん。早急に対応しなければ、餓死する者もいよう。」
「ですが、他に方法は」
「早急にアンデッドを利用した大規模農場を展開する。労働力はこちらで用意するから、そちらは周知徹底を頼む。」
「……恐れながら申し上げます、正気ですか?」
「領内の民が怯えるので、あまり気は進みませんが。」
ザナックとレェブン候が難色を示した。
「なんだ、まだ魔導王の力が信じられないか。初めから説明するぞ」
ナザリックにはPOPモンスターと呼ばれる、下級アンデッドのスケルトンが自動的に湧き出て来る。
そのスケルトンを利用して、空いている土地に農地を開墾する。
アンデッドの労働力は24時間休みなし、賃金なし、命令違反なしといいことづくめだ。
スラム街の現状を知っているヤトは、そこで腐っている人間を指揮者に使おうとしていた。
魔導国になり平和とはいえ、明るい場所から零れ落ちた者に居場所など存在しない。
この街でなくてもまともに食っていけず、犯罪者か死ぬかの選択しかない。
スラムで腐った者が新たな犯罪組織を形成となれば、壊滅する手間が面倒だった。
役に立たなければ別の場所に回し、どこへ行っても駄目な者は、最終的にはアンデッドの種にでもすればいい。
産業廃棄物が多すぎて人材不足になったとしても、カルネ村や蜥蜴人集落から人手を回せば済む。
最終的にはナザリックも魔導国も損はしないのだから。
「簡易的な試算によると、試験的な開墾により支配地域の自給率が200%以上になるだろう。」
「……しかし」
「やってから考えようじゃないか、ザナック第二王子殿。魔導王はカルネAOGにて、試験運用の準備を始めているぞ。それともザナックから魔導王に進言できるか?」
「……無理です、ヤトノカミ様」
神に近いアインズに何かを言うなど、そちらの方が恐ろしかった。
「わかればよろしい。では今回の資料をアインズさんに届けるから、貰っていくぞ。」
資料をアイテムボックスへと収納した。
「……それから、私は王子ではありません」
それとなく責任から逃げようとする彼には応じなかった。
「ラナーはどう思う?」
「素晴らしいです。生産する食料の種類ですが、小麦などの穀物は気候に弱いので、安価で気候に強い野菜は如何でしょうか。」
「ラキュース……は休みだったな。アインズさんは小麦と相場が高い野菜から生産せよと言われている」
「大丈夫ですか?」
声は不安そうだが、ラナーの表情に変化はない。
人外の力をすんなりと受け入れていた。
その彼女を見て、レェブン候は安心した。
聡明な彼女が受け入れる策であれば、自らの領地で行っても問題はないだろうと踏む。
「気候はこちらで操作できる。小麦と野菜を生産する準備をしてくれ。魔導王は部下と共にスケルトンの準備をしている。」
「畏まりました、ではすぐに取り掛かりましょう。」
「ラナー……」
ザナックは政策を受け入れてなかった。
「ザナック王子、よろしく頼むよ。これからの王都政策の長として務めるのはザナックなんだぞ。食料以外にもやる事は山積みだろう?」
「そ、そうなのですか?ご遠慮したいのですが。」
「政策長として頑張ってくれ。」
「いや、しかし」
「時にヤトノカミ様。本日、奥方様は如何なさったのですか?」
レェブン候はザナックの泣き言を遮る。
不満そうに睨んでいたが、気にした様子はない。
「もしやご懐妊では?」
「……そんなに早くわからないだろう。レェブン候は女の子を作ろうと頑張っていると聞いたが、具体的に何をやっているんだ?」
「そうですね……実際に女児を生んだ者から話を聞いて食べ物を変えたり、行為に及ぶ日程を変えたりはしています」
「そうか、男側の体力も影響があると読んだことがある。レェブン候も体力をつける必要があるかもしれないぞ。」
「ほう、それは初耳ですな。貴重な知識をありがとうございます。早速、帰って実践いたしましょう。」
「成功したら教えてくれ。魔導王から出産祝いの魔法を授けて貰おう。」
「感謝いたします。首尾よく行けば、必ずご報告を致しましょう。」
この二人だけが、本心から楽しく話をしていた。
子煩悩のレェブン候と、子作りに興味のあるヤトの相性はとてもよかった。
家族計画の話で盛り上がる二人に、置いてけぼりを食らったザナックは、密かにラナーへ愚痴をこぼす。
「ラナー、私は王都の政策長などやりたくないのだが……」
「お兄様、それはなぜでしょう。御給金も高いですし、戦争や内紛の心配もありません。何が不満なのですか?」
「機嫌を損ねたら殺されるのだろう?」
「あからさまな敵対や、妻であるラキュースを
「おまえ……そんな他人事みたいに」
「他人事です。それでは農産物の指示を出してまいります。」
「お、おいー!勘弁してくれよー!」
振り返りもせずにラナーは部屋を後にした。
「あ、ザナック王子。」
「は、はイ!?」
愚痴を零していた後ろめたさで、声が裏返る。
「王都にある娼館の数と従業員数を調べて欲しい。その中でえげつない下劣なものがあれば、騎士を連れて襲撃する。」
「はい……頑張って調べます……」
肩を落としてこれ以上の頼まれごとを避けるために、執務室を後にした。
後で聞いたメイドの話によると、しばらく家族計画について話していたらしい。
◆
アインズは執務室にてデミウルゴスの報告を受けていた。
「つきましては羊皮紙の安定供給の方法を模索する必要があるかと。」
「そうか……金貨を使って製造ができないからな。この前のトードマンはどうだ?」
「イボが多すぎて使用不能です。時間を掛ければ可能かもしれませんが、手間がかかり効率が悪うございます。」
「……何か考えるべきか」
「はい、私はニンゲ――」
「アインズさん、書類持ってきましたよ。」
デミウルゴスの
どこかの聖なる王国が命拾いしたなど、誰にもわからなかった。
「おかえり、ヤト。デミウルゴス、羊皮紙の件は後回しにしよう。まずは金貨の安定供給から始める」
「はい、畏まりました。それではアインズ様。ヤトノカミ様、これで失礼します。」
「よろしく頼むよ。デミウルゴス。」
「ヤト、円卓に移動しよう。」
◆
二人は円卓の間で、この日の情報を交換した。
「これが農作物に関する書類、これが開拓可能な領地、んでこれが必要な自給率ですね。」
アイテムボックスから順々に書類を取り出していく。
眼鏡をかけた骸骨と蛇の姿は、非常に不可解だった。
一通り目を通し終わったアインズは、眼鏡を外す。
「これなら早急に対応すれば問題ないな。だが、スラム街の労働力を使う必要ないんじゃないか?」
「そうですか?」
「アンデッドの管轄までアンデッドにさせれば済むだろう。」
「人間がユグドラシル金貨に両替できない以上、何かに使わないと勿体ないかと。何より魔導国の評判があがり、人も増えるでしょう。そういえば、肉の両替価値はどうでした?」
「肉は味に関係なく肉だな。野菜や穀物の方がまとまって両替できるから効率がいい。魔導国が
「なら牧場でも作らせますかね。肉の供給はそちらで、金貨獲得の農作物はこちらに回させましょう。人手不足になる可能性がありますね、やはりスラムに光を当てるのは早めにした方がいいかな。」
若干茶化したアインズの冗談に、ヤトは答えなかった。
「……アンデッドがいるのに人間を使う意味が今一つわからん。現地金貨を消費してまで雇う価値があるのか?」
「可哀想じゃないですか。ただなんとなく生まれて、何も出来ずに死ぬのは。」
「……まあな」
自分たちが暮らしていた世界が思い出される。
「幸いなことに土地は沢山ありますから、魔導国の人口を増やさないとどうしようもないですよ。税も儲からないし、ユグドラシル金貨稼ぎも効率がいいですから。」
「殺した貴族の領地はどうなったっけ?」
「跡取り問題で揉めている領地が多いです。後継者が決まった領地は支配してくれと文が届きました。予定より早いですが、まぁ計画に変更無くアンデッド農場を進めましょう。この分だと自給率300%も夢じゃ」
「……何かあったのか? この前と別人だぞ……誰だお前は……」
真面目なヤトにちょっと引いていた。
先日、アインズの足の下で悶えていた蛇と、同一蛇には見えなかった。
理由には心当たりがあり、すぐに気が付いた。
「ああ……ナニがあったのか」
「セクハラは困りますね。」
「お前が言うな。」
「今日に限りそれはありません。」
「……まあね」
「アルベドとの仲はどうするんですか?」
「……」
書類をアイテムボックスに仕舞い、逃げ出す準備を始めた。
「また逃げようとしていますね。アルベドに言いつけますよ。」
「勘弁してくれよ、俺には性欲が――」
「その話なんですが、俺の仮説を聞いてください。」
「ん?」
アインズには性欲が人間時の18%しか存在しない。
それでもアルベドと婚姻も悪くないなと密かに考えており、それはヤトに見透かされていた。
羞恥により精神の沈静化を図るアインズに構うことなく、ヤトは仮説を話し続ける。
「これってエロゲープレイ中の考えに似てません?」
「……やったことないから知らないよ」
「ゲームクリアの為に興味ないキャラや嫌いなキャラも攻略します。下らない性行為の描写や画像まで集めます。ゲームクリアはヒロイン全ての情報収集です。ここまではOKですか?」
ヤトには遊んだ経験があった。
「あ、ああ。」
「5人のヒロインが攻略可能で、その中でお気に入りのヒロインもいるでしょう。アインズさんの無関心具合はそれに近いのではないかと思うんです。」
「飛躍し過ぎじゃないか?俺の体じゃ何もできないぞ。」
「その一線引いている感じが、画面の内外で分かれている感覚に似ていますよ。プレイ中もその程度の感覚しかありませんから」
実際にラキュースに対してその程度の感覚で接していた、ヤトならではの仮説だった。
「……そうなのか……な?」
「ペロロンチーノさんがいたらもっと詳しく教えてくれたんですけどね。」
大蛇は寂しそうに言った。
「つまり、アルベドと結婚しろと?」
「そちらも提案がありまして、考え方を変えてはどうでしょうか?」
「今度は何だ……」
「アインズさんはコレクター欲が激しいですよね。」
「それは合っている。」
コレクションを見るだけで時間を費やす日もあった。
その性格により、ギルドに誰もいなくなっても充分に時間が潰せたのだ。
「誰かの顔・体・心全ての反応を集めると思ってはどうですか?」
「はあ?」
怒っている返答ではなく、心の底から不思議そうだった。
アインズの顎は下に降りたまま上がっていない。
「笑顔、泣き顔、怒り顔、悲しむ顔、やきもち、独占欲、性欲、恍惚とした顔、浮気して殺意に塗れる顔とかーアレの時の反応とかー。エロゲのCG収集率を100%にするようなもんでしょう。」
「そんな無茶な。」
「悪くないと思いますけどね。何より気に入ったコレクションは愛でたくありませんか?」
「……それは認める」
「アルベドに人間だと打ち明けてみては如何でしょう?即、攻略完了ですよ。面倒な好感度なんか関係なしに。」
「……危険すぎる、駄目だ」
「それでアルベドが拒否反応を示すならそれまでです。ラキュースは受け入れましたよ。」
「彼女は人間だろう。異形種の俺とはまた考え方が」
「あっれぇー?異形は異形なりに愛せばいいだけだ!って俺に言ったのは誰でしたっけぇー?」
殺戮に明け暮れるヤトを止めるために、必死で考えた台詞を引き合いに出された。
冷静なヤトの頭は、少しだけ冴えていた。
「異形のアルベドが異形になったアインズさんを、愛する事も否定しちゃうんですかぁー?」
「……」
自分で言った手前、何も言い返せない。
「アインズさんにも幸せになって貰いたいんですよね。じゃないと俺だけ楽しんでるみたいで悪いじゃないスか。気になって行為に集中できませんよ。」
砕けた感じのヤトに戻った。
行為に集中できないと言った箇所は、真っ赤な嘘なのだが。
「いや、だからそれは」
「俺だけやりたい放題やっていいなら、妾を何人も作って楽しみますけどそれでいいんですか?アルベドにも手を出すかもしれません。」
「……露骨な挑発をするんじゃない」
「じゃあ楽しんでる振りだけでもして下さいよ。イビルアイも会いたがってますよ。ご丁寧に最初から正妻候補が二人もいますよ!」
大蛇の口元は歪んでいた。
ハーレムルートと繰り返し叫ぶ彼を見て、ため息を吐いた。
「……イビルアイは知らん。だがアルベドの件は考慮する」
(皆と同様に)愛する者だと言い放ってから、彼女の顔をまともに見ていない。
興味が無いわけでもないのだが、手を出すのは躊躇われた。
何よりそのための“道具”も、欲求も無いのだ。
「約束ですよ、本当に考慮してくださいね。」
「ああ、わかったよ。前向きに検討はする。」
その後、お互いの情報交換を行った上で、二人は持ち場に別れた。
アインズは内務が終わってから、とてもいい匂いのするベッドに転がり、冷静に悩み続けた。
◆
王都は月に雲がかかり、朧月が弱弱しい光で都を照らしていた。
貴賓室の一室では、この日も若い二人の逢瀬が行われている。
だがこの日は、いつもの甘い時間ではなかった。
「クライム、もうここには来ないで下さい。」
「なっなぜですか?私はラナー様を護衛するためにここにいます。それをしない私に、なんの価値もありません!」
「迷惑です。」
「私が何かしたのであれば謝ります。お許しください、ラナー様。」
クライムは跪き頭を限界まで下げる。
「自覚は……ないのですね。報われない恋をするつもりはありません。好きな人に女として見られないのであれば、二度と会えなくても結構です」
痛ましい顔をする彼女は、とても傷ついていると彼に教えた。
「……護衛の私にはその言葉だけで十分です。所詮は孤児出身なのです」
「一人の女である今の私に、過去の身分など関係ありません。ですが……クライムはそんな下らない身分制度が重要なのですね」
抑えていたと思われる涙が、堰を切って流れ始める。
「ラナー……様?」
大粒の涙を流しながら微笑むラナーに、それ以上何も言えなかった。
次から次へと押し寄せる罪悪感が、クライムの若い心を苛む。
「私を苛む、愛するクライムを捨てて、別の殿方を探します。」
「ラナー様……自暴自棄になるのは」
「きっとどこかに私だけを見てくれる人がいます。クライムの様に身分に拘り、好きな人の肩も抱けない人とは、違う殿方が――」
優しく責めるのを忘れなかった。
「……申し訳……ありません。ですが、それだけは受け入れられません」
「どうして……どうして貴方は……私を苦しめるのでしょう……どれほど恋い焦がれても……クライムの目に私はただの王女、仕える主人としか映らないというのに……私に何の恨みが……あるのでしょう……うぅ」
「ラナー様!」
嗚咽が混じる彼女を見て、クライムは駆け寄る。
彼女の肩を抱く甲斐性は無い。
手を取り、強く握るので精一杯だった。
「……離して」
「申し訳ありません。私がはっきりしなかったからです。」
「……何をですか?」
「ラナー様、私は一人の男として、貴方に恋をしています。生涯の忠誠を誓う事をお許しください。」
目を輝かせて少しズレた事を言う愛くるしい彼に、ラナーは笑みを必死で抑えた。
今、横に裂けた笑みを浮かべたら、全てご破算なのだ。
あぁ……可愛いクライム……その瞳に私だけを映していればいい……背中を二度と見なくて済めばいいだけなの。
幽閉するのはどのタイミングだろう。他の女を瞳に映す必要はない、私だけ幸せにすればいい。
今は涙を流す事に集中しなければ、演技だと気付かれると全て水泡に帰す。まずは首輪から始めようか。
「クライム…忠誠など誓う必要はありません。」
「ラナー様?」
「永遠の愛を誓って下さい。誰も見ないで私だけ幸せにして下さい。」
「……何の取りえもない私を……なぜですか?」
声が震えていた。
恐れ多い初恋の成就に、緊張と歓喜が入り乱れる。
「愛する事に理由など必要ありません。私、ラナーは、クライムを愛しています。」
「……」
「まだ……そうやって……私を苦しめるのですね……お願いです……私を愛していないのであれば……出て行って……そして二度と顔を出さないで……下さい」
「ラナー様……全て私の不徳が致すところです。重ねて不敬を申し上げます……私にはラナー様が必要です」
まぁ、現段階ではこの辺が落としどころか……。罪悪感をもう少し溜めなければ、幽閉はできないだろう。
金の首輪をすぐに発注しよう。それまでは皮の首輪でも嵌めておけばよい。
「クライム、これを付けて下さい。」
黒革の首輪を取り出した。
「………れは……首輪ですか?」
「ヤトノカミ様が住んでいた場所では、ちょうかーと呼ぶそうです。」
「首輪に見えるのですが……」
「お聞きした話によると、永遠の愛を誓う時に使う場合もあるそうです。」
都合よく言い換えた。
彼女が事前に聞いた話にそこまでの情報は無かった。
確信もなかったが、クライムを納得させる効果はあった。
「そう……なのですか?」
「はい、今は言葉にしなくて構いません。殿方は行動で示すべきではありませんか?」
美しく微笑む彼女には、反論させない凄みがある。
「ラキュースもヤトノカミ様とあんなに派手に婚礼式典を行いました。恥を気にする人は幸せになれないと分かりました。クライム、貴方はどちらですか?相手の心に応えて二人とも幸せになりますか?自分の心を優先してどちらも不幸になりますか?」
眩しい彼女の笑顔に、クライムは徐々に押し切られていく。
涙はまだ目に溜まっている彼女に、反論などできなかった。
何よりも、そこまで想われていると分かり、単純に嬉しかった。
「……わかりました」
可愛い……可愛い……私だけのクライム……もっと……もっと……もっと時間を掛けてあなたを調教する。
今日は先を急ぎ過ぎた。時間を掛けて、罪悪感を蓄積させよう。愛に溺れたら目をキラキラさせたまま、私だけのものになるのだから。
ラナー魔女の調教は今日も順調に進んでいた。
彼女の目的はクライムを首輪で繋いで済む話ではなかった。
キラキラと輝く目を維持したまま、子犬のような彼を囲いたい。
洗脳で彼が変わる可能性が否定できない以上、指示通りに動く彼では物足りなかった。
一見して後ろ暗い欲望に浸っているように思える。
しかし、彼女が調教により満たされなければ、王都近辺の政治に影響が出ただろう。
時間外に行われる大切な公共事業は、ゆっくりと進んでいった。
ガゼフ、ブレインを初め王宮で稽古に励む騎士達は、皮の首輪を付けたクライムに何の進言もできない。
どんな形であれ、幸せそうな彼に水を差すことができなかった。
アルベドとヤトの友好度→1d20 →7 現在7 上限50 あと3回
イビルアイとアルベドのレースは、まだ横並びです。
現状、どちらも有利・不利はありません。
アルベドの次回友好度が、10以下だと色々やばいです。
内政の食料自給率%は原作5巻を参考にしています。
次回
こきこきこきゅーとす
意味がわからん…。