スレイン法国の大神殿内にて催された定例会議は、和やかとは言えない雰囲気だった。
近隣国家であるリ・エスティーゼ王国が歴史から消え、アインズ・ウール・ゴウン魔導国として生まれ変わったのだ。
それ自体に問題があるわけではなく、重要なのは件の国王、魔導王が六大神の一柱であるスルシャーナと瓜二つだったことである。
王都滞在中の神官、偵察に出した者からの報告によると、建国式典で現れたアンデッドは魔導王だけではなく、デスナイト4体を支配し、後ろから
ふざけた冗談だと思われるのも無理はない。
デスナイトも
内容が常軌を逸しており、魔導国で起きた派手な出来事の裏を必死で読もうとする彼らは、不毛な会議をしばらく続けていた。
「しかし、密偵がそのような嘘をつくのかね。彼の神が再臨なされたのか?」
「死の神たるスルシャーナ様は、おぞましい八欲王に弑されてしまっている。まず間違いなく別の存在であろう。」
「王国の馬鹿どもが国力の向上どころか、国そのものをアンデッドに明け渡してしまうとは。」
「では二百年ぶりに来たのか?」
「だが婚礼式典とは何なのだ?」
忌み嫌うアンデッドが支配しているというだけであれば、反対意見も無く戦争となっただろう。
彼らがプレイヤーである可能性が高く、特別に悩む理由である。
王都領内を警戒し、監視を複数送り込んでいた。
情報の正確性は極めて高く、それ故にプレイヤーが出現した事実に頭を悩ませていた。
なぜ腐敗しきった王国に出現するのか、と。
噂を聞きつけて行動を始める者もいた。
スルシャーナ様の再臨だと崇め奉り、あろうことか魔導国へ下ろうとする。
密かにスルシャーナ神への信仰を捧げてきた信者からすれば、他国であっても神が召す国へ、行かぬ理由など存在しない。
「何れにしても、プレイヤーである可能性は高い。彼女を投入するべきか。」
「だが、竜王に発覚してしまえば、評議国と戦争の口火になる。」
「傾城傾国の使用を考慮に入れてはどうだ。」
「しかしながら魔導王や配下の力が未知数である以上、不安が大きい。」
「そもそも、婚礼式典を行った眠れる英雄もプレイヤーなのか?では王国に出現したという救国の英雄モモンも同様にプレイヤーなのか?魔導王とはどんな関係なのだ?」
「一体、何が起きているのだ。これら全てが何かの情報戦略であり、秘密裏に我らへの侵略が進められているのではないのか?」
一連の出来事に裏が無いと知ったら、八つ当たりに近い恨みを募らせるだろう。
結論の出ない会議は、そのまましばらく続いた。
◆
漆黒聖典の隊長が廊下を歩いていると、壁にもたれ掛かる少女が目に入る。
「まだ続いてるの?」
「このまま夜まで続くでしょうね。」
「あなたはどう思う?」
唇が吊り上がり、血に塗れたような笑顔を形作っていた。
「魔導王がスルシャーナ様の件ですか?」
マジックアイテムを外した幼い顔つきの隊長は、頭髪が銀と黒に分かれた少女に答える。
エルフとの混血により、耳が中ほどから切り落とされている。
「スルシャーナ様であれば、遅かれ早かれこちらに訪れるでしょう。」
「偽物だったら討伐ね。私に行かせてよ、スルシャーナ様を騙るなんて、むかつく。」
素直に不満げな表情であれば可愛らしい顔立ちだったろう。
血に塗れたかの笑顔を、どう判断してもいいのか迷った。
「騙ってはいませんよ。同じ種族だったのでは?」
「意外と冷めてるのね。かわいそうなスルシャーナ様……ところで、あなたいつ結婚するの?」
「唐突に話題が変わりましたね……相手がいないんですよ」
「若いからしょうがないか。」
「あなたこそご結婚をされないのですか?関係ありませんが、魔導国では二人の英雄が結婚したと聞いています。」
あまり突っ込まれても面倒なので、話題を強引にすり替えた。
「英雄ねえ……私に勝てる男がいたら結婚してもいいわ。どんな不細工でも、性格が捻じ曲がっていても、人間じゃなくても構わない。子供作らないと勿体ないし」
少女は自らの下腹部を、優しく撫でまわしていた。
彼女の手が円を一回描くごとに、表情は穏やかなものに変わっていった。
「……そうですね」
「はぁ……たまには暴れたいなー」
飽きて気分転換にルビキューをかちゃかちゃと弄り始めた彼女に、魔導国の英雄が人間ではないという噂は黙っていた。
魔導王だけでなく英雄まで人外と知ったら、単身で突っ込み兼ねなかった。
◆
帝都王宮、若き皇帝ジルクニフが主席魔法詠唱者のフールーダと密談をしていた。
「どう思う、じい。」
「……俄かには信じがたいですな」
新興国家である魔導国の王がアンデッドであること。
国政に関わる友人が以前に帝国闘技場で荒稼ぎをした、犯罪組織“八本指”のボスであること。
以上、2点の情報は帝国に出回っていた。
八本指のボスという点は思い込みと偏見による誤解なのだが、誰もそれを訂正できるものはいない。
半端な誤解と半端な真実は、彼らを更に迷走させる。
「何なのだ、犯罪組織頭領の婚礼式典も執り行ったというのは。婚約者はアダマンタイト級冒険者のリーダーで王国貴族の令嬢というじゃないか。支離滅裂だぞ。国王が恐ろしく優しいアンデッドというが、何か思い当たらないか?知性の高いアンデッドは
優秀な若き皇帝は、いつもより混乱していた。
「ジ……陛下」
「今は二人きりだ、ジルでよいぞ、じい。」
「ジル、落ち着いて下さい。仮に
主席魔法詠唱者である自らをもってしても、飼い慣らせないアンデッドを複数支配しているなど、何かの間違いだろうとしか考えなかった。
報告を受けたアンデッドの特徴が、魔法省の奥に捕らえているデスナイトと酷似していても、信じられる筈がない。
「アンデッドという情報が虚偽ではないかという事か。」
少しだけ落ち着いたジルは、後頭部に手を当てる。
熱暴走により、頭頂部の温度が上がっていた。
「婚礼式典も、諸国や敵対国を騙す隠れ蓑やもしれません。」
「列を成すアンデッドも、幻術を勘違いしたのか。怪しげなマジックアイテムを使う犯罪組織だ、アイテムで人心を洗脳する可能性は高いな。」
若き皇帝は闘技場で損害を出された件が尾を引いており、彼らへの恨みは完治していなかった。
その影響もあり、事実を一切受け入れていない。
闘技場ではアイテムなど使っていないのだが、他の手段を知らなかった。
「帝国としての対応はどのようになさるおつもりですか?」
「彼らの戦力がまるで不明だ。それまでは戦争はおろか、国交なども恐ろしくて取れん。奇妙なマジックアイテムで外交官を洗脳されると一大事だからな。」
「腐敗した王国が自らを食い潰すとは、皮肉なものですな」
「ふむ……その腐敗貴族は誰に殺されたのだ?」
「腐敗貴族にあくまで罰を与えた蛇、に殺されたと噂ですな。」
「下らないな。人ではない存在だと前面に出し、奴らは何を隠しているのだ。」
帝国の頭脳である二人は、過度な猜疑心により事実を把握できなかった。
彼らが見下している一般的な愚か者であれば、聞いた話をそのまま受け入れ真実に到達しただろう。
国の未来を重んじる彼らが真実へ到達するのは、目の前まで危機が迫った時なのだ。
支配者の二人が敵意を持って彼らの前に立った場合、それでは遅すぎる。
だが、ナザリックと王国領地の内政に忙しい二人には、帝国などは遠方の興味が無い一国家だった。
その間、ジルクニフ皇帝の不信感は募り続けるが、ナザリック側には関係も興味もなく、知った事ではなかった。
「じい、イジャニーヤに連絡を取れ。魔導王と英雄の調査、可能であればその場で暗殺だ。首尾よく行けば、混乱に乗じて戦争を仕掛けるぞ。」
今まで長い時間をかけて国力を削いだ成果が、王が代わり回復しないで焦っていた。
「お任せを、依頼は貴族の名で?」
「勿論だ。絶対に我々が背後にいると悟らせるな。」
「すぐに手配を致しましょう。」
「それから、魔導国の者は出入りを許すな。門番に厳命せよ。」
「そちらもすぐに指示を致しましょう。」
次の戦略を悩む皇帝を残し、フールーダは部屋を後にした。
◆
魔導国、城塞都市エ・ランテルにて、イビルアイがティアを引き連れて歩いていた。
「イビルアイ、女の子がいる。あまりタイプじゃない。」
「ん?」
肩を落として歩く赤髪の冒険者が目に入った。
「そこの冒険者殿、すまないがモモン殿……いや、黄金の輝き亭はどこだ?」
「あ……はい。そこを真っすぐ進んで、突き当りを右です」
ティアは次の女の子を探しに消えた。
「感謝する。」
「あの……モモン様に何か?」
「ああ、個人的な……いや、同じアダマンタイトで顔見知りなのでな、近くを通ったので顔を出しに来た」
素直にモモンに会いに来たとは言えなかった。
「ふえー……蒼の薔薇様ですか、凄いなー……そこまで強ければ、あの人のチームに入れたのに」
「む、なんだ?冒険者に想い人がいるのか?」
数秒前に名前が出たモモンだとは気づかなかった。
「私なんか、弱すぎて足手まといにしかならないです……」
ここしばらく拠点にしているエ・ランテルでモモンの姿が見えず、ブリタは元気が無かった。
「少しは元気だせ、冒険者がそれじゃ依頼も来ないぞ。」
「……はい」
小さなアダマンタイト級赤ずきんは、小走りで駆けていった。
「強くなりたいなぁ……」
ブリタは人知れず呟いた。
“黄金の輝き亭”にてナーベは待機を続けている。
この日も口を半開きにして目を黒い穴に変えようとしていたが、小さな赤と蒼の珍客があった。
「何か?」
表情を変えて寛ぐところを邪魔され、不愉快そうに眉をひそめる。
「久しぶりだなナーベ嬢、その……モモン殿はどちらに?」
「可愛い、ここで寝泊まりしていい?」
「やはりナザリックのメイド殿ではないのか?顔が瓜二つで声まで同じなのだが?」
「男嫌いなら、女の子の魅力を教える。」
「……」
うっかりアインズがモモンに話しておこうと言ってしまい、猪突猛進中のイビルアイは本気にしてエ・ランテルまで乗り込んできた。
ティアは面白そうだからという理由で、ついてきただけだった。
彼女の“蒼の薔薇”はリーダーが新婚で休暇中であり、八本指も消えた今となっては基本的に皆が自由行動なのだ。
「モモンさんは依頼に出ています。寝泊まりは許可できません、早々に出て行ってください。」
取り付く島もない言い方だった。
通常の者であればここで引いただろう。
「ナーベ嬢、アインズ様の許可は得ているから待たせて貰っても?」
「私も待ちたい。いや、一緒に居たい。」
「ティア!話がこじれるだろう!お前は帰れ!」
「イビルアイだけずるい。」
「いや、早々に出てい」
ナーベの言葉は、楽しくじゃれ合う彼女達に届かない。
「ずるいも何も、私は不純な動機で来ていない。」
「本当は愛しのモモン様に会いに来た、素直じゃない。」
「違うと言っているだろう!」
「……」
対応に困り果てたナーベは、喧嘩する二人の目を盗みアインズに連絡したが、向こうも手が離せず“逃げろ”とだけ指示をされる。
「あ、待ってくれ、ナーベ嬢!」
部屋から逃げ出したのはいいが、イビルアイとナーベのレベルに大きな差はなく、追ってくる彼女と距離がなかなか離せない。
やむなく、鼻提灯を出して涎を垂らしながら、昼寝をしているハムスケの下に転移にて潜った。
「くっ、逃げられたああ!」
「問題ない、部屋で待てばいい。」
「し……しかし、二人の……二人……二人の……部屋……?」
「イビルアイ?」
モモンとナーベの仲睦まじい姿を妄想してしまい、勝手にへこんで肩を落とした。
「ナーベ、お前は私のパートナーだ、私生活でもパートナーになってくれないか?」
「あぁ……嬉しいです、モモン様。私の全てを捧げます」
お姫様抱っこするモモン、嬉しそうに抱かれるナーベが、妄想となってイビルアイの脳裏に浮かぶ。
「ティナ、帰ろう……」
ラキュースとヤトの姿を見て以来、何か妄想するときは常にお姫様抱っこだった。
ティアは不思議そうな顔をして、イビルアイの後を追った。
「イビルアイ。急に元気がなくなった。当たる前から砕けるのはよくない。」
「そうか……?」
「当たって砕けたら、妾でもよし。」
真剣な眼差しでイビルアイを元気づけているが、内心は全然真面目ではなかった。
「そうだよな……二人で同じ部屋を借りるのだから……いや、妾が一人くらいいてもいいだろう! 次は仮面を外して一人で来よう!」
イビルアイは拳を握り、再戦に望みをかけた。
◆
魔導国王宮の貴賓室では、若い二人の逢瀬が行われている。
クライムに抱き着くラナー元王女は、与えられた私室で調教を開始していた。
「クライム、この国は魔導王陛下にお任せして、私を守って下さい。」
「はい、これからも精進し――」
「必要ありません。護衛は陛下の部下に任せて、貴方は傍を離れないで……お願い」
真綿で首を絞める彼女の調教は、事情を知る者が見れば引いただろう。
知らない者からは微笑ましかった。
「ラナー………様。」
「ラナーと呼んでください。今だけ……今だけで構いません……お願いします」
「ラナー。」
「ありがとう、クライム。その言葉だけで、私は不安から解き放たれます。」
目を潤ませて、肩を震わせ上目遣いでクライムを見上げる。
並みの男なら一撃で堕ちる美しさだった。
だが、忠誠と恋慕を併用するクライムは、揺らぎながらも彼女の肩を抱けなかった。
肩を抱いてくれてもよかったのに。
非常に不満だったが、恋する乙女としての演技を絶やさない。
「クライム、貴方は私だけを見ていて下さい。」
「はい。」
首に回した真綿に、ゆっくりと力を込め始める。
「はっきりと言葉にして下さい。私の言葉を繰り返して。」
「私はラナーさ――」
「ラナー」
口調は優しいが、歯向かえない弱さを出す。
彼女に様々な感情を抱くクライムは、そのまま付け込まれていく。
「私はラナーだけを見ています。」
「私だけを守って下さい。」
「ラナーだけを守ります。」
「私だけを愛して下さい。」
「ラナーだけをあい………え?」
ここでようやく我に返った。
過程を急ぎ過ぎた彼女は、調教展開に解れが出た。
「チッ……どうしたのですか、クライム。」
「いえ……ええ!? いえ、愛などと恐れ多いです! 私のような孤児が、王女であるラナー様に!」
もう少し進められると思ったが、残念。まあいい、時間はたくさんあるのだから。
「残念です。それから私はもう王女ではありませんよ。先ほどの言葉も本気ですからね、クライム。また不安な時は、傍にいて下さい。」
「はい、ラナー様。今夜はこれで失礼します。」
可愛い子犬の彼は、顔を真っ赤にしてラナーの私室を後にした。
「ガゼフとブレインが生き残ったのが痛い。彼らが死亡すれば可愛いクライムの心の拠り所が減り、私の言葉も心の深くまで浸透したのだが。まぁいい、明日からヤトノカミ氏の内政を手伝い、夜はクライムの調教なのだ。時間があれば、それだけ確実性が増す。本当に魔導王には感謝をしよう。」
口を細長く横に伸ばすラナーの顔を見れば、クライムの恋も瞬間冷却されただろう。
窓から差し込む月明りに照らされ、黄金に輝く彼女は魔女の表情をしている。
マジックアイテムを借りて彼を洗脳すれば早いのだが、現時点で彼女にそれを渡す者はいない。
何より彼女は十分に楽しんでいた。
自分好みの子犬に育てられるのだから。
次の調教方法を算段しながら、ベッドに入った。
捨て駒に使う密偵→《1騎士 2ワーカー 3イジャニーヤ 4貴族》1d4→3
三回目のみ有効と思ったら、三回とも3でした。
試しにその後で5回ほど振ったら、3はそれ以降一回も出てません。
ダイスの神…恐るべし。
確定事項
以前に行ったダイス結果によりティアとティナは攻略不可。
性癖は脳の構造に問題がある一説を有効とし、修正不可。
両名を攻略する場合、好みのタイプとくっ付けてそれに混ざるしか不可。
現状それも考慮していないので不可。
姉で我慢してください。顔は同じです。