モモンガさん、世界征服しないってよ   作:用具 操十雄

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内政編
国外出張


「はい、あなた。」

「夜だから、もう寝ようか。」

「今度は抱いて下さい……ね?」

「とんでもない事をさらりと言うなよ……」

 

新婚の二人は仲良くベッドに入った。

装備を気にして手は出さなかった。

 

 

はやく来いと呼んでいるのは、誰の声なのだろう。

闇へ光明が差し、ナザリックの風景が見えてくる。

 

ヤトとラキュースは食堂にいた。

二人並んで椅子に座り、向かいに座っている者に説教をされていた。

 

「ユグドラシルの世界、一つぐらい征服しようぜと言ったのを忘れたか、蛇公(ヤト)。」

「だって、帰ってくんのかどうかも知りませんでしたし……」

「問答無用。結婚していちゃいちゃちゅっちゅして、お前の異世界ライフは終わりかい。」

「言ってて恥ずかしくないッスか?」

「俺に恥など無い。」

「……はい、すみません」

 

落ち込む夫を心配した妻が、見るに見かねて進言する。

「あの、るし★ふぁー様、どうか御許し頂けないでしょうか。」

「お黙りっ!」

「はっはい!申し訳ありません!」

「ちょっと、俺の嫁に」

 

「あぁ、嘆かわしい!レメトゲンゴーレムに襲われていた時は、なんて面白いと思ったが、世界征服を考えもしないとは。」

よよよ、と嘆きらしき声を上げて目に指をあてていたが、あからさまな嘘泣きだった。

 

「もう勘弁してくださいよ!なんでこんなに説教されてんスか!しかも夫婦そろって!」

 

 

 ラキュースを連れて逃げ出そうと入口を確認すると、悪魔と聖騎士が口論しながら入ってきた。

 

「なぜ世界征服しちゃいけないんですかね、たっち・みーさん。」

「……ふぅ、ウルベルトさん。国を統治している者が、迂闊に世界征服というのはどうでしょうか」

「自警団なんて退屈でしょう。」

「種族の壁を超えて平和を守る事の、どこがいけませんか?」

 

二人はお互いに敬語であったが、仲良く話しているとは思えなかった。

両者の間には激しい火花が散っている。

 

「ギルド、アインズ・ウール・ゴウンは悪ですよ、なぜ正義を掲げるんですか?」

「正義に拘るのではなく、平和を乱す必要が無いと言っているのですが?」

「軍師・錬金術師・レベル上限の異形種41人、大量の守護者、(シモベ)とゴーレム・ダメ押しでワールドアイテムまで揃えながら、雁首揃えて自警団ですか。」

「何か問題が?」

見つめ合い動かない二人は、今にも絶望のオーラと英雄のオーラがぶつかり合いそうだ。

 

「流石はウルベルトさん。世界征服に邪魔な竜王を滅ぼしましょう。いや、先に竜王を洗脳して敵対国を滅ぼすのはどうですか?」

「ぷにっと萌えさん、策士ですなぁ。」

 ぬーぼーとぷにっと萌えが喧嘩に混ざってきた。

るし★ふぁーが混ざらなかった事で、静かな喧嘩は収束を見せ始める。

 

「ぬーぼーさん、ぷにっと萌えさん、話がわかりますね。」

「……いや、ですから自警団を」

「とりあえず、冒険いきましょうよ。この世界にも固い金属があるかもしれません。」

「ぬーぼーさん、今は彼を止めないと大変なことに」

 

バラエティ豊富な異形種達は、世界征服をどうするかで楽しく喧嘩しながら、しばらく盛り上がっていた。

混ざりたいなぁと横目で見ていたが、諦めて説教が止まらないるし★ふぁーに向き直る。

 

 

ヤトの後方ではアインズ改めモモンガと、ペロロンチーノが歓談していた。

「モモンガさん、メンバーの大多数の姿が見えませんね。」

「そうですね、知っている範囲だと、タブラさんはアルベドを挑発しに行ってます。設定改変の事後経過を観察とかって。長い設定が生かされてるか気になるんだそうで。」

 

「さすが、設定魔ですね。挑発して殺されなきゃいいですけど。」

真なる無(ギンヌンガガプ)は没収してあるので、殺されはしないでしょう。ばりあぶる・たりすまんさんもついて行きましたから。そういえばブルー・プラネットさんがスーラータンさんと外の散歩に出ましたよ。しばらく帰ってこないでしょうね」

 

「ブルー・プラネットさん、外に行っちゃったんですね。外泊コースか。」

「はは、そうかもしれません。他には、あまのまひとつさんは有志によるナザリックの維持費研究会を開いてます。あとはー源次郎さんが死獣天朱雀さんと財宝チェックを。武人建御雷さんはコキュートスと立ち合いです。観戦に弐式炎雷さんとナーベラルが出向いてます。」

 

「モモンガさん、よく把握してますね。」

「でも他のメンバーはナザリック内で行方不明ですよ。」

「みんなやりたい放題じゃないですか。」

「人の事言えませんよ……ペロロンチーノさん」

 

 首から巨大ネックレスのように、シャルティアをぶら下げていた。

シャルティアも嬉しそうに、彼の首に両手を回している。

 

「モモンガさん、結婚はしないんですか?」

「しません。相手もいませんので、アンデッドですから性欲もありませんよ。」

 

「アルベドはモモンガさんを愛していると聞きましたよー?」

「……気のせいですよ。ペロロンチーノさんはこちらで嫁さが――」

シャルティアが悲しそうにこちらを見ていた。

言いかけた言葉を区切り、別の言葉に変える。

 

「シャルティアという嫁がいるから必要ありませんね。」

「はい!でありんす!」

嬉しそうに笑っていた。

 

「シャルティア、駄目じゃないか。お前も女の子と遊べないぞ。」

「でもぉ……」

愛しの創造主を独占したい乙女心だった。

 

「ははっ、仕方のない奴だな。」

ペロロンチーノに頭を撫でられ、気持ちよさそうに目を閉じておでこを突き出していた。

「えへへー……」

吸血鬼を束ねる真祖ではなく、ただの少女がそこにいた。

 

 モモンガの視界に桃色の粘体生物が入ってくる。

「いちゃつくな、弟。」

「あ、茶釜さん。」

「姉ちゃん、アウラとマーレはどうした。」

「……あれが、薔薇の花嫁か」

ペロロンチーノと目を合わさず、ラキュースを見ていた。

 

「無視すんなよ。まさか食べちゃったのか、物理的にではなく比喩的に。」

「黙れ、弟、本当に黙れ。」

武器を構えた女性らしき生物は、今にも襲い掛かりそうだった。

 

「ちょっ武器構えんなよ、シャルティアに当たるだろ。」

「はいはい、姉弟喧嘩で武器構えるの止めようね。ギルマス特権使うよ?」

「モモンガお兄ちゃん、ごめんね。」

 

ピンク色の肉棒に見える粘体生物は、器用に両手で拝む。

少女に似せた幼い声であっても、見た目は卑猥な姿だった。

「茶釜さん、相変わらずですね。」

モモンガは嬉しそうだった。

 

 

 廊下を慌ただしく走る音が聞こえ、餡ころもっちもちとやまいこが飛び込んでくる。

後方からペストーニャとユリが静かに追走していた。

 

「おお、いたいた!ちょっと花嫁、こっちきてよ!」

「あ!ちょっと、餡ころさん!」

突然入室してきた餡ころもっちもちは、畏まって座っているラキュースの腕を取る。

 

「ヤト公、奥様を借りるね。やまいこちゃんが話聞きたいって」

「あ、ボクは別にいいけ……」

「他の薔薇ちゃんも第六階層に呼び出してるから、むさっ苦しい食堂からさっさと逃げるよっ!」

「……け……けどー!」

「あ」

 

餡ころもっちもちはやまいことラキュースの手を引いて食堂を飛び出していった。

強く引っ張ったせいで、引っ張られる二人の体が宙に浮く。

人間を辞めたやまいこはそれなりに重いはずなのだが、余程強くひっぱったのだろうか。

 

「あー!待ってよ、餡ちゃん!」

ぶくぶく茶釜もそれに続いて走っていく。

 

「嫁も行っちゃいましたし……そろそろ勘弁してもらえませんか、るし★ふぁーさん」

「お前ばかり結婚してずるいぞ!」

「んなこと知りませんよ!より取り見取り掴み取りなんで、そこいら辺から拾ってきて下さい!」

「ほう、なかなか言うではないか。」

「誰ですか、そのキャラ……」

 

どうやっても終わりそうにない説教に、真剣に頭を悩ませていた。

ここまで悩んだのは異世界に転移して以来、初めてではないだろうか。

 

「るし★ふぁーさん。ヤト公だって金稼いだり変な感情値に苦しんだり大変だったんだから、その辺にしてはどうかな。」

「音改さん、折角遊んでいるのに」

 

「ヘロヘロさんを初めとするメイド担当三人と有志の集いが、ハーレム体験をしながら最終決戦兵器(新しいメイド服)を作る!とか言って遊んでたよ。」

「なにぃ!? 恐怖公連れて突っ込んでくる!」

るし★ふぁーはヤトを放って、飛び出して行った。

 

「……はぁ、久しぶりに疲れました」

「よかったね、蛇くん。それじゃあ私もあまのまひとつさんの、ナザリック維持費研究会に混ざってくるね。」

「感謝します、音改さん。」

疲れた彼は大きな欠伸をして、喧嘩していた最強職二人へ目をやる。

 

「あれ?たっちさんとウルベルトさん達がいなくなってる。」

 

振り返りモモンガとペロロンチーノを見たが、そこにも誰もいなかった。

視界を切り替える度に人が消えていく。

 

人だけではなく物質までが、視界を切り替えては徐々に薄れていった。

全てが消え去り、何も見えない暗黒の闇に立ち尽くす。

 

「夢か……」

闇から何かが吼える声が聞こえる。

何を伝えようとしているかまではわからなかった。

ただ、聞いてはいけない気がした。

 

「俺の原風景……なのか?」

 仲間を探さなければならない焦燥感を覚えながら、意識は再び闇に落ちた。

「今の俺に大切なのは……ラキュース……だよ……」

 

 

飛び起きたら自室のベッドの上だった。

とても楽しい夢だった。

 

「……ラキュース」

隣で静かに寝息を立てる、大切な彼女を失う不安に駆られる。

なぜそう思ったかは分らない。

 

「はぁ……今日から魔導国の公務員かー」

誤魔化すように呟いたが、暗い気分は晴れなかった。

 

目を閉じて、再び眠り始める。

微睡(まどろみ)の中、この世界で初めて夢を見たことに気が付いたが、眠りに落ちる彼にはどうでもよかった。

 

 

 

「という夢を見たんですよ。」

「そうなんだ……羨ましいな」

 

「あ、そっか。眠りとは無縁でしたね…なんかすいません。」

「いや、気にしなくていい。それで思い出したけど、ツアーにも会いに行かないと。」

 

「挨拶にラキュースを連れて行ってもいいですか?」

「ふむ、評議国とは関係を崩すと、大陸全土を巻き込んだ地獄の戦争が始まりそうだからな。平和のアピールに連れていこうか」

 

「ありがとう、アインズさん。すぐに伝えてきます。」

無垢なる白雪(ヴァージン・スノー)に着替えているラキュースを呼びに行った。

 

 

 

評議国領内の北の山は、緑が生い茂る美しい山だった。

珍しい紫色の花に囲まれた頂上の広場に、太陽光を浴びて銀色の鱗を輝かせる竜王が、猫が丸く眠る体勢で目を閉じている。

 

竜の財宝に対する知覚能力により、鼻先に生じた空気の流れで、彼の意識は覚醒した。

頭を起こしこちらを見る彼の姿は、白金の竜王そのものだった。

 

「やあ、モモンガ。王国が消えて魔導国になったみたいだけど、君たちがやったんだろう?あまり派手な真似は避けて欲しいな。」

口調は彼らの派手な行いを咎めていた。

 

「申し訳ない、建国という形になった以上、平和な国にする。それでも、仲間を探す事に変わりはない。」

「なるべく世界を汚さないでくれよ、君たちの力は危険なのだから。」

「気を付けよう、ツアー。」

アインズの人柄を知っているツアーは、それ以上追求しなかった。

 

 

「初めまして、ツアー。」

「前に話をした私の友人を連れてきた」

「……」

ラキュースは伝説の竜王など初めて見たため、口を開けて固まっている。

 

「君がそうか、やはり異形種なんだね。」

簡単にお互いの自己紹介と、これまでの経緯を詳しく説明した。

 

 

七彩の竜王(ブライトネス・ドラゴンロード)のように人間などとの間に子を作る竜王もいるから、そこまで珍しくはないよ。」

「なんだそうなのか、心配して損した。子を作る……って俺にも子供が作れるのか……? 龍と蛇は同じ爬虫類だから……でも人型と蛇でできる子供に違いがあるか……ん? って事はどういうことだ? 双方の姿で生まれる子に差があるのか? 竜王も人型になれたのか?」

「あなた、落ち着いて。」

途中から独り言になっていた。

ヤトはラキュースに任せ、アインズは本題に入る。

 

 

「ツアー、今日は魔導国と評議国で同盟の相談にも来たのだが。」

「同盟か……私が永久議員の一人とはいえ、皆がどこまで納得するかわからないよ。私の他に6名の竜王が永久議員だからね。それ以外に各亜人種族から評議員が選出されるから、過半数を納得させられるかどうか」

 

「スレイン法国の対策完了後は、不可侵条約に変えても構わん。もし法国と我々が戦争になったら、そちらにも影響がでるだろう。」

「モモンガは魔法詠唱者だからね。ユグドラシルの魔法で暴れ回ったら、評議国だけではなく世界全体に影響が起きかねないよ。」

 

「法国への対応中だけでも友好関係を結んで欲しい。そちらも彼らに思う所があるだろう?」

「正直なところ、お互いに嫌悪し合っている部分はあるね。同胞を殺された亜人には、法国を憎んでる者もいるよ」

 

「頼むよ、ツアー。異形種同士、仲良く遊ぼうじゃないか。蛇神も竜王も同じ爬虫類だろ?」

瞑想から復帰したヤトが茶々を入れる。

「ヤト、失礼よ。」

「邪魔するな、ヤト。」

「……君の友人は変な奴だな、モモンガ」

真面目なアインズと比べ、落差と温度差が激しかった。

 

 

「以前にお願いした仲間の情報は何か入ったか?」

恥ずかしいので話題を切り替えた。

「いや、そちらは集まっていないよ。大陸の西側である場合は、難しいかもしれないね。」

「そうか……」

 

 

「法国の状況はどうかな?」

「いや、目新しい情報はない。彼らの顔は判明しているが、どうも何かを隠している節がみえるのだ。」

「そうなのかい?」

「ああ、何か分かったらその場ですぐ連絡をしよう。」

 

 

 二人の会話が一段落ついたところで、ヤトが再び混ざり始める。

「ツアー、一つだけお願いがあるんだけど、聞いて貰えるか。」

「どうしたんだい、ヤト。」

「背中に乗せて飛んで欲しい。」

「……馬鹿蛇」

呆れて片手を顔に当てた。

 

「すまない、私はこの場所から離れられないんだ。」

竜王の表情に変化はない。

変化があってもヤトと同じ爬虫類の表情は、彼らに判別できない。

「そうか……ごめん、ラキュース」

「竜王様に失礼ですよ。私は気にしていませんから、元気出して下さい。」

大蛇は頭を垂れて、露骨に落ち込んでいた。

 

「そこまで落ち込まなくてもいいじゃないか。」

「一度でいいから、竜の背中に乗って飛んでみたかったんだけど。ダメかな? その……彼女に見せたくて」

「……」

「……」

ラキュースの沈黙はさておき、アインズの沈黙は自分が乗りたい事を彼女のせいにしていると見破っていた。

 竜王の姿を目にしたアインズも、ちょっと乗ってみたかった。

 

 

「すまない、個人的な理由ではないんだよ。八欲王のギルド武器を守っているから、ここから動けなくてね。」

「プレイヤーのギルド武器か?それこちらで預かろうか?難攻不落のナザリック地下大墳墓で。」

「それはまずいよ」

「ヤト、よけいなこ――」

同時に咎めようとした二人は、勢いづいたヤトに押し切られる。

 

ナザリック(ウチ)の伝説を聞いてくれよ。ユグドラシル時代に、ツアーが警戒するプレイヤー1,500人の侵攻を受けて、モモンガさんが最終的に全員倒したんだよ!凄いだろ!」

 

興奮して赤い目を光らせながら、自慢話をはじめた。

蛇でありながら、親に一日の出来事を自慢する少年に見える。

ラキュースは子供みたいな伴侶の姿に、黙って見守っていた。

 

 

「1,500人……」

ツアーの理解を超えた話だったので、彼も少なからず動揺をしていた。

 

「預かって必要ならすぐに返すから、背中に乗せて下さい。」

頭を地面に近づけているのは、土下座しているつもりなのだろうか。

「ヤト、もう止せ。」

アインズは迂闊な情報を漏らしたことは咎めない。

彼の話や夢の話を聞いたため、昔を思い出していた。

 

「だって、ハネムーンも無いし。ツアーも武器を守り続けて空を飛んでないんじゃないか?」

「あなた、もう止めて下さい。竜王様が困っています。」

「はぁ……ツアー、友人が馬鹿で無礼で申し訳ない」

 

 

ヤトは首を上げて竜王を見つめる。

ヤトは説教を受ける準備ができていた。

夢の中で食らったるし★ふぁーの説教に比べれば、誰の説教も大した問題に思えなかった。

 

「君の願いを聞き届けよう。その代わり、必要があればすぐに返してくれよ。」

 誰も予想しない返事が返ってくる。

アインズの自慢話、馬鹿っぽい願いをする大蛇、彼を喜んで見ている女性が、厳しい彼の警戒心を緩めた。

 

「は?」

「え?」

「君達を全面的に信用したわけじゃないが、迂闊に敵対したり、この世界を汚すタイプには見えないからね。それに……久しく空を飛んでいないのは本当だよ」

ツアーは立ち上がり、翼を広げ飛翔する姿に胸を昂らせる。

 

「翼を広げたのは久しぶりだ。」

「おお、流石は竜王(ドラゴンロード)だ。」

感嘆の声が誇らしかった。

 

「どちらにせよ、このままでは評議国に顔を出せないからね。プレイヤー二人に任せてみるのも悪くないかもしれない。」

「ツアー……異形種が暮らす評議国を見てみたい。案内を頼みたいのだが、私も背中に乗せてくれるか?」

「もちろんだよ、モモンガ。」

 

竜王の口元が歪んだが、穏やかに笑ったように見えた。

爬虫類は表情が難しいが、笑う時は口元を歪めるらしい。

彼の笑顔は、蛇神の笑顔に似ていた。

 

 

「ツアー、そういえばイビルアイがアインズさんの化けたモモンにご執心なのだが。」

「インベルンのお嬢かい?人の恋路を私に聞かれても困るのだが。」

「……余計な事を言わないでくれ」

「アインズ様、イビルアイは真剣です。思いに応えてあげて下さい。アルベド様にもです。」

「……」

人知れず精神の沈静化を図っていた。

 

「モモンガはモテるんだね。彼女にも久しく会っていないから、友人を連れて魔導国に遊びに行ってもいいかな?」

「アインズさんがいなくても、俺は王都にいるからいつでも歓迎する。竜の姿で来てくれるとわかりやすい。」

「お待ちしておりますわ、竜王様。」

 

 

「ありがとう、お嬢にもよろしく伝えて欲しいな。」

「必ず伝えるよ!ツアーがモモン様との恋愛相談に乗ってくれるって!」

「まぁ、素晴らしいですわ!竜王様、イビルアイを宜しくお願いします。」

夫婦になった二人の息はぴったりだった。

 

「おまえら……」

アインズは再度精神の沈静化を図りながら不満を漏らした。

 

アイテムボックスに八欲王のギルド武器をしまう。

 

 

竜王の背中に乗った三人は、楽しみで仕方が無かった。

 ヤトはラキュースの体に尾を巻きつけ、落ちないように庇う。

アインズは楽しい内心を悟られまいと、頑張って堪えていた。

 

 

「ああ、本当に久しぶりだ……空の支配者になり、翼を広げたのは何年ぶりなのか。自分が竜王だったと、忘れていたよ」

天高く飛翔する竜王の背中から見る地上は、魔法で飛び上がるのとは違う。

自分たちまでが空の支配者になった気分だった。

 

「ありがとう、ツアー!」

ヤトの感動する声は、風に紛れて聞こえなかった。

白金の竜王は三人の感情を背中に受け、満足げに口元を歪めた。

 

 

 

 

「ここがアーグランド評議国だよ。」

竜王が着地する用途を加味して作られた、首都中央の広場に降り立った。

評議国は異形種というより、亜人種で溢れていた。

 

殺伐とした雰囲気は一切なく、以前の王都よりも平和に見える。

人間も住んでいるが数が少なく、冒険者組合はあるが所属する冒険者に人間はいないと、後で教わった。

 

 永久議員を見つけた亜人種が、広場に集まってくる。

「つあ、ツァインドルクス=ヴァイシオン様!今日は何故首都へ!?」

 広場にいたエルフの男性が、驚いて駆け寄ってきた。

 

「気にしないでくれ、今日は私の友人に評議国を案内するんだ。」

「そ、そうですか。失礼いたしました。」

 

 異形のこちらには興味なさそうに、丁寧に頭を下げ去っていった。

その様子を見ていた他の亜人種たちも、持ち場に戻っていく。

「さあ、行こう。」

 

 

食料・物資・魔法体系などは基本的に同じで、亜人か人間かの違いに思える。

ツアーの案内で散策をしていたが、オーバーロードは珍しいらしく、トロールらしき者が絡もうと近寄ってきたが、永久議員である白金の竜王を見つけて引き下がっていった。

 

オーバーロードはスケルトンに見えるので、無理もない。

ヤトはナーガと判断され、さして珍しくもないので街に溶け込んでいた。

 

珍しい食料と酒を楽しそうに買い物(ショッピング)する彼を、アインズとラキュースはため息を吐いて眺めていた。

「この林檎紫色だ、こっちが緑色、でこっちは顔がついてる……噛みつかれた!」

「はぁ……」

「はぁ……」

「……二人とも大変だね」

ドワーフの酒屋店主と、笑いながら酒の試飲をしている彼を見て、二人の苦労が想像できた。

 

 

「ツアー、今日は無理を聞いてくれてありがとう。我々の故郷の酒を土産に持ってきたよ。」

「これはニホンシュといって、この世界では手に入らない酒だ。口に合うかはわからんが、他の永久議員と飲んでくれ。」

アイテムボックスから、酒樽を幾つか取り出す。

 

「ありがとう、大事に飲ませてもらうよ。ヤト、蒼の薔薇の奥さんを大切にしなよ。」

「竜王様、本日はありがとうございました。心より感謝致しますわ。」

転移ゲートに吸い込まれていくアインズ達と別れたツアーは、土産の酒を大切に抱えて議会へ向かった。

 

「さて、久しぶりに会う他の永久議員(ドラゴン・ロード)たちはなんて言うかな。」

 

 

「あれ?なんでラキュースが蒼の薔薇って知ってるんだろう?」

「私は話してませんわ。」

「それもそうだな……次会ったら聞いておいてくれ」

 

 

 

 

翌日、ツアーからの結果報告を受け、アインズは執務室で今後の展開を描く。

評議国の永久議員は、プレイヤーに対しての悪印象が強く、同盟はできなかった。

 

 

「評議国とお互いに我関せずとなれば御の字だな。亜人の冒険者に興味があったのだが……仕方がない、魔導国で亜人の冒険者を作るか。だが、他の竜王に反対されたとは、ツアーより強くて発言力の強い竜王がいる可能性も考慮が必要か。皇帝(カイザー)ドラゴンなどはいないだろうが、迂闊に敵対は出来ないな」

 

日本酒というこの世界では珍しい酒をもってしても、他の竜王が持つプレイヤーの悪印象は崩せなかった。

結果として評議国と魔導国は、国家同盟ではなく見て見ぬ関係となる。

 

余談だが、日本酒は竜王達の口を唸らせることはできなかった。

長く生きている彼らは刺激を求めており、この世界の酒類と比べて大人しい日本酒では情緒も刺激も足りなかった。

 

「ツアーは法国に対して協力者の立場は変わらない。国交の必要がないのなら、ヤトには王都で政治を学ばせようか。」

こうして、ヤトは内情把握・内政の勉強のために、王都に釘付けになる事が執務室で密かに決まった。

 

 

アインズは今後の展望を、執務室にて楽しく思い悩む。

同時刻、バーにてヤトとラキュースがアルベドを交え、何かを相談していた。

 

彼がそれを知るのは、訪れた危機が去った時である。

 

 

 

 

 






「はい
「よる
「こん
「とん

しん
そう








偶数でおいていく1d20→9
偶数でリグリッドがいる→15
奇数でギルド武器を守っていると発覚→5

番外席次の情報破片→1d% →70% 外れ あと1回

1d4→3日本酒 補正10%
同盟成功率→60% 外れ、同盟できません。


アルベド設定
大口ゴリラは登場しません。参考資料、アニメのエンディング。
アルベドはタブラ・スマラグディナ様に作られた、三姉妹の次女でお淑やかで絶世の美女です。
彼女が弱気で大人しいのは、恋のライバル(シャルティア)がいないためです。
正規ヒロイン(ヒドイン)として突っ走りたくても、愛するアインズに見向きもされず苦しんでいます。
左の側頭部上方に、アインズに買って貰った、小さな向日葵の髪飾りを付けています(独自)
くふくふ笑っても、綺麗な方のアルベドなので許して下さい。

一部補足
シャルティアは11話目の王都へ向かう馬車の中で、ペロロンチーノさんの嫁になれと言われて本気にしています。
毎夜毎夜、愛しい創造主へ嫁ぐための花嫁修業が続いています。
アインズ様に初めてを捧げると、ペロロンチーノさんが悲しむと思い、ちょっと身を引いています。

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