モモンガさん、世界征服しないってよ   作:用具 操十雄

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蛇薔薇婚姻譚

 

 ヤトは大欠伸をして体を起こした。見慣れない部屋に、自分が結婚予定の相手の家に転がり込んだと思い出す。慣れない家の構造におっかなびっくりだが、炊事場に行くとラキュースが嗤いかけてくれた。

 

「おはよう、ヤト」

 

 朝から寝ぼけた青年に声を掛ける女性は、愛される喜びに満ちていた。ヤトは彼女の装備品が乙女(純潔)仕様という話を聞いてしまい手が出せず、半端に眠れない夜を過ごした。

 

 そうは言ってもすぐに眠りに落ちた。

 

「おはようございます、ラキュースさん」

「はぁ?」

 

 夫婦になる予定にも拘らず余所余所しい彼を、ラキュースは本気で睨んでいた。意を汲み、観念して言い直した。

 

「……おはよう、ラキュース」

「はい、あなた」

 

 嬉しそうに微笑んだ。

 

「あなたって言うけどな……純潔のままで若妻なのか? 本当にそれでいいのか?」

 

 軽い皮肉を無視された彼は、装備品についてアインズに相談しようと検討する。もそもそと出されたパンを齧っていたところに、蒼の薔薇が現れた。

 

「あら、みんな、おはよう」

「おはよう」

「よう、旦那」

「よかったな、ラキュースの婿殿」

「旦那、薔薇に入る?」

「……」

 

 ティアだけが眉毛をハの字にしてしかめっ面をしていた。

 

「ティナ、なぜ」

「ティア」

 

 ご機嫌斜めのティアではなく、ティナが訂正してくれた。

 

「て……ティア、なぜ怒っているのかな」

「鬼旦那。ナザリックにはいつ行ける?」

 

 さりげなく自分が鬼になっていた。

 

「あー……そのー……荒れてた時に自室を滅茶苦茶に破壊したから、修理が終わるまで追い出されたんだよ」

 

 ティアはご機嫌はよりいっそう斜めになった。

 

「放っておけ、その内機嫌も治るだろう。それより、ヤト殿はやはりぷれいやーだったのだな」

「そうだよ。ナザリックに呼んだ時に話そうと」

「モ、モモン殿もぷれいやーなのか?」

「あー……」

 

 仮面でわからないが恐らく鼻息が荒いであろうイビルアイを、どう誤魔化そうかと思っていたら、ガガーランが助けてくれた。

 

「旦那、同じ家で寝泊まりしたってのは、やることやったのかい?」

「……装備でバレるから自重している」

「手は出そうとした?」

「手しか握ってないッス」

「みんなその辺にしなさい」

 

 手を出してほしかったラキュースが、頬を引きつらせて止めていた。何も出来ないので、大人しく別々に眠りましたとは言えなかった。

 

「ふん、これを機に冒険者を引退したらどうだ? 骨抜きのアダマンタイト級など聞いたことがない」

「おだまり、おチビちゃん」

 

 楽しそうに喧嘩する二人を、寝ぼけた虚ろな瞳で眺めていると、ティアが背後に迫っていた。

 

「鬼旦那、しばらく護衛する」

「なぜ?」

「メイドに会えるかも」

「……今度プレアデスを呼んでやるから勘弁してくれ」

 

 それでもかなり不満そうだった。

 

「あ……そうだ。反国王派の若い馬鹿貴族を殺し損ねた。アイツ、ラキュースの事を」

「私のために怒ってくれたの?」

「あ……うん」

 

 しばらく抱き着こうとする彼女を、ティナやイビルアイを盾にして避け続けた。

 

 一度許可すると、そのまま一日張りついていそうだった。

 

 

 

 

「で、あるからしてー領地内の食料自給率が――」

「ツマンネー……」

「何か仰いましたかね、ヤトノカミ様」

「すいません、独り言です……」

 

 ザナック第二王子の王族研修を、執務室で退屈そうに聞かされた。

 

 内政とはいえ、素人の彼に必要な事は勉強のみである。離れようとしないラキュースはラナーに任せ、王宮執務室でザナックの授業を一日受ける羽目になった。

 

 さほど長くない人生で、およそここまで退屈したことはない。アインズがナザリックの執務室でご機嫌などとは、ヤトが知る由もない。

 

「ふぅ、なんて気楽なんだ。蛇公(ヤト)に授業を受けさせて報告だけ聞けばいいなんて。魔導王の俺が授業をうけられないからな、威厳が壊れる。しかし、あんな成り行きの演説でも貴族の心を掴むとは。俺も捨てたもんじゃないな」

 

 デミウルゴスがいなくても上手くいったことで、アインズは顎に指をあてて浮かれた。

 

 ザナックの容赦のない授業と、挨拶に訪れる貴族の相手をして、精神疲労困憊の彼は蛇に戻っていた。訪れる貴族は全員が「魔導王様にはいつ会えますか」とオウムのように繰り返し聞いてくるので、誤魔化すのが大変だった。彼はナザリックで違う内政に従事していますとも言えず、建国式典で会えるでしょうと同じ言い訳を重ね続けた。

 

 赤い宝石に似た目が、疲れてバッテンマークになりそうだった。この姿で王宮を出歩くと、衛兵やメイドの視線が突き刺さり、そちらの視線にも疲れていた。

 

「あら、あなた。終わったの?」

「あい……」

「では出かけましょう」

「……どこに?」

「楽しい所へ」

 

 彼女を長い背中に乗せて、落ちないように気を使いながら、案内された場所へ移動した。

 

 

 

 

 大きな屋敷の応接間で、貴族の中年夫婦が二人を待っていた。

 

 金髪で口ひげを生やした気難しそうな男性と、おっとりしながらもどこか影のある女性、二人ともラキュースに似ており血の繋がりを感じさせた。

 

 彼女の顔は父親似らしい。

 

「お久しぶりです、お父様、お母様」

「……初めまして、ヤトノカミです」

 

 ラキュースの父はぶすっとした表情だった。

 

 久しぶりに一人娘が魔獣を連れて帰宅したと思ったら、魔獣ではなく婿だったのだから無理もない。

 

「私が心から愛する人です。結婚しますのでご報告に」

 

 「俺プロポーズしたっけ?」と疑問符を浮かべる彼の内心に興味はなかった。知っていたとしても、ここに来ていた。

 

「どうかよろしくお願いします」

「ふざけるな! 噂によると貴族を惨殺したのだろう。ラキュースが殺されたらどうする!」

「……すいません」

 

 大蛇の姿で器用に椅子に座り、申し訳なさそうに頭を下げている彼に父親が言い放った。彼の言う通り、殺そうとした過去がある。ラキュースは嬉しそうに彼の腕に手を回していた。

 

「まぁまぁ、少し落ち着いでください」

 

 ラキュースの母が宥めた。

 

「ちなみに人の姿にもなれます」

「聞いてないっ!」

「…すいません」

 

 見るに見かねた母親がこちらに問いかける。

 

「ラキュース、本当に彼が好きなのね?」

「はい、彼がいないと生きていけません」

「魔獣が働いて家族を養えるかっ!」

「俺、魔獣だったのか……」

「お仕事は何をしている方なのかしら」

「もうすぐこの国はリ・エスティーゼ王国ではなく、アインズ・ウール・ゴウン魔導国に変わります。新たな国を統治する方の一人です」

「なんだとぉ!?」

 

 驚き方が弟のアズスと同じだなと、口を半開きにして知性の欠片も感じない顔で見ていた。今後の身の振り方を検討しているあたり、やはり王国貴族なのだ。惨劇の場に出席していなかったことは奇跡とも言えた。

 

 義理の母になる女性の、強い視線が気になった。

 

「……あの……娘さんを僕に下さい」

「やかましい! 持っていけ!」

「そ、そうですか……ありがとうございます」

「ヤトノカミ様、でしたか?」

 

 件の義母が話しかけてきた。

 

「……はい」

「不幸にしたら、どんな手段をとっても殺しますわよ」

 

 暗い影のある笑顔だった。

 

 彼女の影は母親譲りらしい。

 

「娘を必ず幸せにして下さい」

「はい、それだけは今お約束します」

「ありがとう、お母様!」

 

 そっぽを向いた男性は、呟くように言った。

 

「たまには家にも顔を出せ、孫の顔は見れるのか……?」

「……私にも分かりかねますが、出来たら顔を出します」

「お父様……ありがとう!」

 

 後日、ラキュースの叔父であるアズスは、兄夫婦の邸宅にいた。

 

「王族と婚姻関係を結んだ事になるのだろうか」

「兄者、ラキュースの幸せを願ってはどうかね」

「それは大丈夫だろう、幸せそうだったからな。お前も彼を知っているのだろう?」

「う、うむ、そうなのだが……」

 

 強くて怪しい冒険者と思っていたが、異形種だったとは知らない。アズスは、不安な内心を見破られないよう、発言に気を付けていた。

 

「今度会いに行ってみるか、仲睦まじい二人に」

 

 

 

 

 この日の精神疲労が限界だった彼は、人型でテーブルに突っ伏していた。

 

「あなたもさっきみたいに困った顔するのね」

「いきなりは勘弁してくれ、心の準備というものが」

「話は変わるのだけれど、今日は毛布を焦がしました。同じベッドで寝てください」

「………消し炭じゃないか。どうしてこうなった」

 

 余す所なく黒くなった毛布を摘んだ。明らかに作為的になされており、ラキュースの腹黒さを垣間見た気がした。

 

「装備の件があるから、手は出さないけどいいのかな」

「今は一緒に眠れれば構いませんわ」

 

 そう言った癖に、手を繋いで、腕を絡めて、足を絡めて、体を密着させてきたので堪ったものではなかった。大蛇で寝ると角が刺さらないか不安なので、人型になるしかないのだ。

 

 シルクの柔肌とふかふかした体の部位が、人の体を通して直接伝わり、煩悩を焦がし始める。

 

 人型の体で意識が眠りに落ちる寸前に、性欲の数値が上昇したのを見た気がした。

 

 

 

 

 アインズは王都へ滞在する準備をしていた。

 

「ふむ……そろそろ内務をパンドラあたりに任せて、魔導王として仕事をするか。蛇公(あいつ)も飽きて逃げ出す段取りを始める頃だろう。のんびりとこの姿で散策でもするか」

 

 彼は間が悪かった。

 

 

 翌朝、ラキュースより遅く目覚めた彼は、自分の精神状態が変化していると気付く。鼻歌交じりで何かを作っている彼女に、今は触れたくて仕方がない。

 

 ピンクの唇が清楚でありながら、色気を感じて艶めかしかった。

 

「おはよう、ラキュース」

「おは……んん!」

 

 振りむいて朝の挨拶をしようとしたが、頭を掴まれ口を塞がれた。

 

「ん……」

 

 二人とも脳が溶けそうだった。彼女は目を閉じ、彼の背中に腕を回した。腰に手を当て、引き寄せる力を強める。心の中で相手の名前を強く呼び合った。

 

 影が一つになるほど密着した二人を、呼び鈴が邪魔をする。

 

 あと少し遅ければ、止まらずに最後まで行っただろう。

 

「……邪魔が入った……続きはまた後で」

「……はい、あなた」

 

 顔を真っ赤にして蕩けた顔をしている彼女と、名残惜しそうに体を離して玄関に向かった。

 

 扉を開くと、いつものアインズが立っていた。

 

「なんだ、アインズさんか」

「なんだとは何だ。今日は魔導王として、二人の婚礼挨拶回りに行くぞ」

「唐突ですね。内政はいいんですか?」

「言っただろう、婚礼に合わせて魔導国になる。これも内政の一つだと思え」

「えぇー……明日でもいいんじゃ……」

「ラナーには言ってある。二人ともさっさと支度をしなさい」

 

 この世界に来てから最も落胆している彼を、とても不思議そうに尋ねた。

 

「どうかしたのか……?」

「いえ……別に……」

 

 猫背で哀愁を漂わせながら、家の中に戻っていった。

 

 正直なところ、帰って欲しかった。

 

 二人とも支度にとても時間が掛かり、アインズは退屈そうに雲を見上げていた。

 

 そのせいで、ヤトのやる気は無かった。

 

 

 

 

「メンドクセ」

「さっさと決めろ、この馬鹿蛇!」

「ま、魔導王陛下、落ち着いてください」

 

 レェブン侯とザナックは、喧嘩する二人に困り果てていた。

 

 建国式典として二人の婚礼式典を執り行う予定なのだが、(セピア)色の難色を見せるヤトにアインズが苛立っているのだ。加えてヤトのやる気が欠片も感じられず、経過時間の割に話は進んでいなかった。

 

「婚礼なんてひっそりとやればいいじゃないスか。ナザリックでも同じことしなければならないのに。もう式無しでいいよ、式無し!」

「そういう問題ではないだろう、この蛇公が」

「自分が結婚すればいいじゃないですか、この骸骨が」

「なんだとこの野郎!」

「なんスか!」

「ひぃ、お……おお……お怒りをお鎮め下さい!」

 

 うっかり出してしまった絶望のオーラに怯えるザナックとは対照的に、レェブン侯は静かに逃げ出そうと、正確には家族の待つ我が家に帰ろうとしていた。ここ最近、可愛い我が子の顔を見ていない。

 

「アルベドはどうしたんですかねー、設定改変したくせに責任とらないという、ふてえ野郎もいると聞きましたが」

「おまえだって拗ねて婚約者殺そうとしただろ! リア充なら最後まで押し通れ!」

「リア充じゃありませんって。まぁ、今でこそリア充ですけどー。アインズさんもヘタレなんじゃないですか?」

「むかつ……余計なお世話だ! ラキュースに何かあるとすぐ泣きつきやがって! 愛されたいなら初めからそう言え!」

「泣きつ……いやいや、泣きついてないでしょう。大体、アルベドの設定改変する程に愛を欲したのは、俺よりアインズさんの方じゃあないですかぁ?」

「うるさい!」

 

 痛い所を突かれたアインズは、恥ずかしさで声を荒げる。

 

 あながち否定もできなかった。

 

「アインズさんのハーレムルート作りますか、全ての女はアインズさんのモノ的な大陸にしましょう! ペロロンチーノさんがいたらきっとそうしますよ!」

「……はぁ」

 

 言いたい放題言われてむかっ腹が立っていたアインズは、沈静化されてため息を零した。

 

「疲れるな……。今は、AOGの指輪(リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン)で婚約しておけ。式典は控えめにしてやるから」

「わかりましたよ……すればいいんでしょう、すれば」

 

 ヤトは頭を押さえ小さなため息を吐いた。

 

「ため息つきたいのはこっちのほうだ!」

「もう吐いたじゃないスか!」

 

 二人がその気になれば、会話は故意に堂々巡りを続ける。飽きてしまったレェブン侯は、一足先にお暇しようとザナックに声をかけた。

 

「ザナック王子、私は家族の下に帰りますので、後をお願いします」

「ええっ? レェブン侯! それは酷過ぎる!」

 

 言い終わる前に彼の姿は消えていた。

 

 第二子を女の子にするために、あの手この手を考え、日夜特訓をしているとの噂だった。

 

「あのー、まだ終わらないのでしょうか?」

 

 ラナー王女と魔女談義が終わったラキュースが、不安そうな顔で応接室を訪れた。

 

「ラキュース、ちょうどよかった。ホラ、この蛇公、さっさとしろ」

「いや、家に帰ってからで」

「ラキュース、人目など気にせずに大事な話があるそうだ」

「はい、なんでしょうか、あなた」

 

 嬉しそうに微笑む彼女を前に、何も言えなくなった。

 

「あー…これはAOGの指輪(リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン)という」

 

 金色に輝く指輪を摘んで見せた。

 

「はい」

「本当は選ばれた至高の41人にしか装備できない特別な指輪で、これがあればナザリック内の転移が――」

「さっさと本題に入れ!」

「結婚して下さい」

「はい、喜んで! 指に嵌めて下さい」

 

 新婦は満面の笑みだったが、新郎の表情はさっぱりわからなかった。体を伸ばしきって跪いたと思われる大蛇は、舌をちょろちょろと出し入れしながら、新婦の薬指に指輪を嵌めた。

 

「ありがとう、あなた」

「……うん」

「次は愛していると言――」

「その先は帰ってからやれ、このバカップル。さっさと王国を魔導国に変えてくれよ、頼むから。内政が一ミリも進まないだろ」

「……はぁい」

「……はーい」

 

 二人の世界に入れなくてラキュースは不満そうだったが、ヤトは一安心していた。疲れたアインズは、神に等しい絶対の支配者ではなく、振り回されて困る王様に見えた。

 

 日夜稽古に明け暮れるガゼフ・ブレイン以下、騎士やメイドがみたら、国の行く末に不安を覚えただろう。

 

 

 

 

 改めてナザリックを訪れたラキュースは、アインズの命で宝物殿へ飛ばされた。

 

 煌びやかな明かりの下で、ラキュースはドレスを楽しそうに選んでいた。二択でここまで悩むのも珍しいと、ヤトは退屈していた。

 

「はぁ、二着しかないのにまだ悩むのか……」

「あら、私はお借りしたアイテムの効果でまだまだ元気ですわ」

「……そうだろうよ」

 

 どちらも蛇と薔薇の刺繍が入れられており、似たようなウェディングドレスに見えた。

 

 二着のドレス間を行ったり来たりで、パンドラが何か煽るたびに時間が延長している。暇疲れしたヤトが人化して眠っても、気にせずパンドラと選び続けていた。

 

「ラキュース姫様! こちらの刺繍は薔薇の上で眠る蛇でございます、蛇のデザインはウロボロスをイメージしております。そしてこちらは花に絡みつき薔薇を守る大蛇です、ヒュギエイアの杯を参考にしたものにございます」

「まぁ、情緒的ですわ。どちらも捨てがたい程に素敵です」

「お褒め頂き、このパンドラズ・アクター、光栄の極み! 姫様の笑顔こそ、ナザリックの将来を照らす太陽となりましょう!」

 

 軍帽を掴み、腰を屈め、片手を後方に突き出した。

 

「パンドラ様。顔に右手を当てた方がよろしいのではありませんか?」

「これは失礼しました。我が創造主であるアインズ様が、動きを控えめにせよとのお達しで、本来であればこの格好でございます」

 

 跪き右手を後方に伸ばし、左手で顔を全て覆った。

 

「素晴らしいです! 私にもご教授ください!」

「流石はお妃様でございます。支配者としての振る舞いの一頁に、書き加えては如何でございましょうか。お世継ぎができたら、御検討を」

 

 帽子の鍔を左手で掴み、右手の人差し指を突き出していた。

 

「はい! 喜んで! 私の右手にも闇の呪いがありまして、動きを決める時は」

 

 アクセルを全開まで踏み壊した二人は、ヤトが眠った事に気付いたかどうかも怪しかった。子供が生まれたら闇の呪い(中二病)が決まると知らずに、座って壁にもたれながら気持ちよく眠り続けた。

 

 

 

 

 建国式典当日、王都の領地内のあちこちから国民が集まった。

 

 税や貴族の横暴に苦しむ国が無くなり、新たな国に生まれ変わるのだ。新国王、魔導王がアンデッドである事と、国政を手伝う友人が大蛇という情報は各地へ回っていた。だが、誰もそれを恐れる者はいない。

 

 ”慈悲深くも恐ろしいアンデッド”という情報は、国民による伝言ゲームにて取り違えられ、”恐ろしく優しいアンデッド”にすり替わった。”反国王派貴族を惨殺した悪魔のような蛇”は、“腐敗貴族にあくまで罰を与えた蛇”に取り違えられていた。

 

 腐敗貴族が消えて領主が消えた領内は平和になったことが大いに影響している。建国式典で英雄の婚礼式典まで共に行うのであれば、参加することに意義がある。好印象な思い込みと勘違いで、予定した人数よりも多くの国民が集まった。

 

 優しくて強い存在が国を統治してくれると思い、新国王の国政に期待と関心を寄せ、新たな魔導国の主導者達を一目見ようと王都を尋ねる。王国貴族の令嬢で最高位冒険者のリーダーと大蛇の婚礼式典も加わり、祝う以外にすることが無い一日だ。

 

 商売っ気のある露店商人達は、稼ぎ時とばかりに商売に精を出していた。

 

 群衆が見つめる中、城門が開き、彼の集団が姿を見せる。

 

 絶世の美女が護衛として前を歩いていた。

 

 人間では無い異形の美しさに、男女問わず見惚れてしまい、歓声は束の間の静寂へと変わった。

 

 後方から、悍ましいアンデッドであるデスナイト4体が輿を担ぐ。そこに坐した死の支配者(オーバーロード)を見た者は、直感する。あれこそが、アインズ・ウール・ゴウン魔導王であると。

 

 死を具現化した恐ろしい姿に、息を飲み死の恐怖が這い寄った。

 

 短時間の極度な緊張は、後方からきた二人によって霧散した。

 

 魂食い(ソウルイーター)に跨ったタキシード姿で恥ずかしそうな青年、嬉しそうにお姫様として抱かれる純白のドレスを着た女性。婚礼ドレスには、蒼い薔薇に巻き付く、碧がかった鱗の蛇が縫われていた。

 

 花の茎に巻き付く蛇は、大切な花に誰も近づけまいと、威嚇して薔薇の花を守っていた。

 

 アインズにより小康状態になった歓声は、二人の幸せそうな姿により間欠泉の如く再び噴き上がった。

 

「蛇の姿じゃ馬なんか乗れないよな……」

「私にはどちらも同じ、愛する人です」

 

 口付けしようとしたラキュースの唇は、首を振って躱される。

 

 その様子を見ていた彼女の両親とアズスは、離れた場所で喜んでいた。

 

「まぁ、あの娘ったらあんなに幸せそうに」

「兄者、ラキュースの晴れ姿はどうだ」

「ぐすっ……」

「兄者……今日は久しぶりに兄弟で酒でも飲もう」

 

 元気のない兄の肩に、アズスは手を置いて慰めた。

 

 すぐ隣を、酒を持ったブレインとガゼフが歩いていた。

 

「あんなベタベタして仕方ない奴だな」

「惨劇が起きた国とは思えんな」

「貴族しか知らないからな。ところで、元陛下はどうしたんだ?」

「ラナー様と二人で出歩いている」

 

 戦士長は穏やかな老年王族を思い出す。

 

「今の方が余程、尽くし甲斐がある」

「違いないな」

 

 露店で買った酒で乾杯をした。

 

 すぐ後ろを、イビルアイとティアが走り抜けていった。

 

「綺麗……」

「モモン様は来ていないのか?」

 

 イビルアイは周囲をキョロキョロと探しており、ティアはアルベドに合わせて蟹歩きをしている。そちらを視界に留め、ティナは別の件で危機感を抱いた。

 

「あのアンデッド、魂食い(ソウルイーター)

「王様が作ったんだとよ。二人とも幸せそうだから、いいんじゃねぇの……って……おい、ティナ! あそこに童貞らしき少年がいるぞ!」

「捕まえよう」

 

 こちらの二人も落ち着きがなくなった。

 

 

 

 輿に坐すアインズに、遥か彼方の暗黒星から冒涜的な嫌悪すべき触手が、今まさに伸ばされようとしている映像が浮かぶ。

 

「なんだ……?」

 

 振り返ると二人の明るく幸せそうな姿が目に入り、刹那に湧き上がった不安・焦燥・恐怖、影を差した白昼夢は虚空に掻き消えた。

 

「気のせいか……」

 

 アインズの視線に気づいた二人は、恥ずかしそうにこちらに手を振っていた。

 

 幸せそうな友人の顔をみると、水を差す存在など近寄れそうもなかった。

 

 この日、魔導国の建国と共に一組の夫婦が誕生し、全ての国民がそれを祝った。

 

 

 

 

 式典を無事に終え、ナザリック地下大墳墓の玉座の間にて、いつかの通りに守護者、僕各員が集められていた。

 

 以前と決定的に違う箇所として、ラキュースと王都で暮らすメイド数名が後方で跪いている。ラキュースは無垢な白雪(ヴァージン・スノー)を装備していた。

 

「皆、よく集まってくれた。改めて礼を言う」

「至高の御身のためとあらば、我ら僕は従う事こそが喜びにございます」

 

 応対が簡潔なデミウルゴスが、代表して返事をする。

 

「ヤトノカミが復帰をした。改めて彼の話を聞いて貰いたい」

 

 ヤトは玉座の前に這って行き、守護者達に向き直る。

 

「すまない、大切なナザリックに属する全ての者に、下らない手間を掛けさせたことを許してほしい」

 

 大蛇はすまなそうに頭を下げた。

 

「ナザリックに属する者に至高の御方であらせられるヤトノカミ様を、不敬にも責める者がございましょうか。此度の貴い御身を犠牲にした建国、感服致しました」

「デミウルゴス……」

 

 「暴れただけじゃん」という内心は、見透かされていなそうだ。

 

「我らには至高なる蛇神、ヤトノカミ様が必要にございます。全てを超越した叡智と魔力を持つアインズ様、そして生命力に溢れ、時として躊躇いなく御身を犠牲にするヤトノカミ様、御二方により我らの栄光も不変のものとなるでしょう」

「アルベド……」

 

 必要なのはアインズさんを攻略するためだとわかっていた。

 

「おぉ……これはもしや、ヤトノカミ様が41本の柱に返り咲く宣誓なのでしょうか。あれから幾度となく、その叡智に触れ、白鳥のように優雅でありながら目に見えぬ成果を上げ続け、更には事前打ち合わせも無くアインズ様と美しい連携を取り、魔導国を建国する手腕。まさに至高の御身に相応しき実績。それに加え、呪われし薔薇の姫君まで妃に迎えるとは。絶対者たるアインズ様に、最も近き御方でございます」

「パンドラ……」

 

(おい、呪われし姫ってなんだよ。聞いてないぞ!)

 

 後ろのラキュースを見たが、新婚は目で会話ができない。意味ありげに笑う彼女に、こちらの意図は通じていないのは明らかだった。

 

「すまなかった。私は至高の存在として恥ずかしくない振る舞いが出来ていたのだろうか。アインズに統べられる支配者の一柱として、相応しいのだろうか?」

 

「ヤトノカミ様!」

 

 守護者だけでなく僕たちが声を上げ、彼の名を称える。

 

「ありがとう、感謝と共に諸君らの忠義に応えよう」

 

 右手で大鎌を高く掲げた。

 

「私はナザリック地下大墳墓、至高の41人が一柱ヤトノカミ! ナザリックに属する全ての者よ! アインズ・ウール・ゴウンの名のもとに、未来永劫語り継がれる神話を作れ! それでも我らの悲願は、揺るぎはしない! ナザリック地下大墳墓の完全復活のために、至高の41人を必ず見つけ出せ!」

 

 一際、大きな声で叫んだ。呼応する守護者達の声は、玉座の間に轟いた。

 

「アインズ・ウール・ゴウン魔導国万歳!」

「アインズ・ウール・ゴウン魔導国万歳!」

 

 ヤトの号令に合わせ、皆が敬愛する君主の作り上げた国を称えた。

 

 ラキュースは見ている光景に胸を高鳴らせ、最愛の人が迷いを振り切って扇動する姿に感動の涙を流した。自分などがそれに相応しい女性かと不安が過るが、今は悩んで泣く時ではない。

 

 目を見開いて、少しも見逃すまいとヤトの姿を見ていた。

 

 大切な伴侶の姿に見惚れ、そして自分に思い悩むのは、二人の時にすればいいのだ。彼女は夢見た世界に、確かに存在していた。

 

「御苦労、ヤトノカミよ。さて、知っている者もいると思うが、彼は人間の娘と婚姻を結んだ。後ろにいる女性がそうだ」

 

 一同の視線が彼女に集まる。

 

呼ばれて立ち上がるラキュースは、異形種の視線に気を抜いたら気絶しそうだった。支配者である夫に恥をかかせるわけにいかず、涙と震える足を必死で堪えた。

 

「皆さま、初めまして。私はラキュース・アルベイン・デイル・アインドラと申します。不束者ですが、粗相のないように御指導を宜しくお願い致します」

 

 短い挨拶にも拘らず、それが彼女の限界だった。

 

 多量の異形種で溢れるこの場に、緊張をしないはずがない。伝説級、神話級、あるいは見聞きした事も無い存在で、玉座の間は溢れている。

 

 力が抜けて誤魔化すように跪いたが、既に皆の視線はアインズに戻っていた。

 

「御苦労。くれぐれも丁重に扱うように。彼女に何かあればヤトノカミは至高の41人ではなく、憎悪と殺意の化け物に変わると理解せよ。他にセバスが王都で獲得した人間のメイド達がいるが、不要な手出しは許さん。では、各自更なる忠義に励み、我らの意に応えるがいい」

 

 アインズが消えたのを確認し、ヤトとラキュースは連れ立って玉座の間を後にする。

 

 装備品の相談をするために、宝物殿に移動した。

 

 残された彼らに解散の指示は出されておらず、各々が好き勝手に世間話を始めた。

 

「お……お姉ちゃん! ご寵愛で、ご婚姻で、お妃さまだって! ぼ……ぼくも……僕もアインズ様に――」

 

 マーレが珍しく興奮していた。

 

「マーレ、あんた何言ってんのよ。」

 

 黒い波動を立ち上らせ、髪を揺らしたアルベドが、暴走しつつある少年に近寄る。

 

「マーレ、安心しなさい、男の子はご寵愛を授からないわ。」

「で、でも、図書館の本に少年愛や男の娘についての薄い本が――」

「マーレ、今はアインズ様の性的嗜好について話す時間ではないのだよ」

 

 デミウルゴスの声で言葉は止まったが、興奮は冷めてなさそうだ。

 

「その通り! 建国式典は終わりましたが、ナザリックの婚礼式典は終わっておりません。崇高なる蛇神と薔薇の姫君を盛大に祝いましょう!」

 

 パンドラはオペラ口調でデミウルゴスに続いた。

 

「フム、来客ハ呼ブノカ?」

「ナザリック内でやるのでありんすか?」

「新しいメイド達の教育状況を確認するのには良い機会ですね」

 

 皆がしばらく楽しそうに話していたが、アルベドだけは違った。

 

 至高の御方からのご寵愛を受け、婚姻まで行った彼女に、立場も種族も想い人も違えど、それを超えた激しい嫉妬の炎を燃やしていた。

 

 アインズに振り向いてもらえず、自己を貶めつつある彼女独自の嫉妬だ。

 

 

 

 

 二人きりになってから、ヤトは開口一番に聞いた。

 

「ラキュース、呪われし姫ってなんだ? まさか、以前に倒した悪魔に呪いでも……解除しなきゃだめじゃないか」

「……心配しないで」

 

 羞恥で顔が紅潮し、熱くなるのを感じた。

 

「心配するに決まってるだろ! どこにどんな呪いを掛けられてるんだ? 早く言わないと、手遅れになったらどうする」

 

 こんな時に限って、本当に優しく、真剣な目で心配するヤトが恨めしかった。どの口が言えるのか、妄想を口にして楽しんで(中二病になりきって)いましたなどと。

 

「呪われしじゃなく、拾われしといったのを聞き間違ったのよ」

「俺はそんなに阿呆なのか……いやいや、嘘つくな。そんなに隠すってのは、深刻なんじゃないのか? 痛くないのか?」

「ウルサイナァ……本当に大丈夫。私の体を隅々まで調べればわかりますわ、あ・な・た」

「……そーですね」

 

 彼が真実を聞いたのは数日後で、彼女は顔を真っ赤にしていた。

 

 夫婦として絆を深めるためには、中二病への深い理解が必要だった。

 

 

 

 

 後日、ナザリックでは大広間にて内々に婚礼式典が行われていた。

 

 来客として当初の予定通り、“蒼の薔薇”が招かれる。他にも人を呼ぶかと案も出たが、ナザリックの性質は人間蔑視の上、食料として見る者も多い。過度な来客は却下された。

 

「おめでとう、ヤト、ラキュース」

「ありがとう、アインズさん」

 

 先日の衣装に身を包んだ二人は、会場を挨拶に回り歩く。

 

「本日はこのような場を設けて頂き、ありがとうございます、アインズ・ウール・ゴウン魔導王様」

「長いからアインズでいい。好きに飲み食いしてくれ」

「はい、ありがとうございます」

「ヤトは明日から王都とナザリックの内政を手伝うように」

「……ハネムーンは無しか」

 

 挨拶は順不同で、セバスが人間メイドの指示を出す傍ら、新婚へ挨拶にきた。

 

「おめでとうございます、ヤトノカミ様、ラキュース様」

「セバス様、ありがとうございます。顔は合わせていたのに、ゆっくりお話しできませんでしたね」

「ラキュース、セバスは竜人なんだよ。彼にも真の姿がある」

「それは素敵ですわ! 機会があればお見せください!」

 

 目が宝石箱のように輝いていた。

 

「機会があれば、お見せ致しましょう」

 

 セバスも大人の対応として、優しく微笑んだ。

 

 彼に続き、アルベドが訪れる。さっさと挨拶など終わらせ、本題に入りたかったのだ。

 

「おめでとうございます、ヤトノカミ様、ラキュース」

 

 アルベドは、人間に敬称をつける事に激しい抵抗があった。それが至高の41人の細君であれば、難色を示すのも無理はない。

 

「アルベド様、ありがとうございます」

「ありがとう。アインズさんの攻略に知恵を貸してやるよ。彼もアルベドには思う所があるみたいだからな」

「本当で……ございますか……?」

「欲しいのは髪飾りじゃなく、彼の愛だろう? 協力してやる」

「畏まりました。お待ちしております」

 

 アルベドは裏に何の策略もなく微笑んだ。

 

 食欲を露わにするヤトの口に、フォークで食べ物を突っ込んでいると、周囲の温度が低くなり、コキュートスが興奮気味に現れた。

 

「オ妃殿、御子ノ武術教育ハ、ジイニオ任セヲ!」

 

 いつもより声が大きく、鼻息も荒かった。口元から冷たい呼気を、機関車のように吐き出して室温を下げていた。

 

「コキュートス、気が早いよ」

「うふふ、是非お願いします」

「ノリがいいな」

「オ妃殿! 必ズヤ、ジイガ強キ武人ニ教育シテミセマスゾ!」

 

 両腕を上げて何かを叫び、物理的にも、精神的にも遠くに行ってしまった。見送る視界の端で、軍靴の音が近づいてくる。

 

「薔薇の姫様! おめでとうございます!」

「パンドラ、ありがとう」

「パンドラ様、今度、宝物殿に遊びに行きますわ」

「え? なんで?」

「内緒」

「ヤトノカミ様! 彼女のの――」

「農作物の両替でご相談なのですわ!」

 

 呪いと言われ闇ラキュース(中二病)の話を蒸し返されたくなかったので、必死で遮った。

 

「ふーん……」

 

 ヤトは不満そうだった。

 

 次に挨拶回りへと移行し、部屋の片隅で小さくなっているシャルティアを見つけた。何かを悩んでいるようで、人間を娶ったことに抵抗があるかもしれないと心配になった。

 

「シャルティア、どうした?」

「シャルティア様、宜しくお願いします」

「奥方様には手出しいたしんせん。けれど、お仲間には手出ししてもよろしいでありんすか?」

「私は歓迎、今からでも可」

 

 いつのまにかティアが隣にいた。

 

「ティア。お願いだからやめて」

「ヴァンパイア……なのか?」

 

 仮面を外したイビルアイが、シャルティアを見て興味深そうに近寄ってきた。

 

「おやぁ、可愛らしい吸血鬼でありんす、一緒に楽しみませんかぇ?」

「え?」

「シャルティア、ペロロンチーノさんに言いつけるぞ。浮気したと勘違いする言い方で」

「あぅ……すみませんでありんす」

 

 なんとか興奮するシャルティアを撃退できたが、ティアは未練たらしく後を追いかけまわしていた。誤ってティアが吸血鬼に変えられてしまうと、今後が非常に面倒になりそうだった。

 

 マーレが男子と知ったガガーランが、隅の方で物騒な話をしていた。

 

「よう、童貞か?」

「え? あ、あの……その……どーていってなんですか?」

 

 不思議そうに聞き返す。

 

「ガガーラン! マーレ様になんて事を!」

「頼む、マーレにだけはやめてくれ……」

「男?」

 

 厄介なティナまで混ざってきた。二人がいる場所にマーレは非常に危険だ。マーレの性教育が進んで暴走するか、二人が肉塊になる未来しか浮かばない。

 

「ティナ、男の子だけど絶対に手を出すなよ」

「匂い嗅いでもいい?」

 

 興奮する箇所は同じで、やはり双子だ。

 

「……マーレ、匂い嗅がせてやってくれないか?」

「ど、どこの臭いでしょうか?」

「髪で我慢してくれ、ティナ」

「我慢する。いいにおひ」

 

 困り眉のマーレに、しばらく貼りついていた。

 

 待機するナーベラルに、イビルアイが首を傾げて問う。

 

「何か?」

「ナーベ嬢に似ているのだが」

「……知りません」

「瓜二つなのだが、違うのか…?」

 

 いっそ暴露してしまおうかと思ったが、アインズが口に人差し指を当てていたので、そのまま無視を続けた。

 

 ハンバーガーをほお張ろうとしたアウラの隣に、シャルティアに振られたティアが目を輝かせて座っていた。

 

「なに? 何か用?」

「……女の子の匂い」

「女だよ、それが何?」

「匂い嗅いでもいい?」

「いやだよ、近寄るな」

 

 早歩きの追いかけっこが、相手を変えて再開していた。

 

 取り残されたハンバーガーに、どことなく哀愁を感じた。

 

「ティア! アウラ様に失礼な真似しないで!」

 

 婚礼ドレスのラキュースも、妙な追いかけっこに混ざってしまった。

 

 ヤトは放って食事を始めた。視界の端でアインズとイビルアイが話している。

 

「あのぅ……アインズ様」

「どうした、イビルアイ」

「声がモモン様に似ているのですが、御同郷か、ご家族なのでしょうか?」

「……気のせいだろう。意外とよくある声だと思うが」

 

 事前に考えていた言い訳だったので、精神の動揺は起きなかった。

 

「……そうですか。モモン様に会えないのはなぜでしょうか」

「……伝えておく」

「ありがとうございます、アインズ様!」

 

 イビルアイは小走りで去っていった。

 

「……やれやれ、何が興味あるのやら」

 

 下手に会えない時間が多いため、心の幼い彼女が純粋で可憐な恋心を募らせているなどと、アインズには知る由もない。

 

 花嫁は百合の花(ティア)を追いかけて、席を外していた。ヤトはタキシードを汚さないように食事をする。デミウルゴスが酒瓶を持ってお酌しに来てくれた。

 

「ヤトノカミ様、この度はご婚姻おめでとうございます」

「ありがとう、デミウルゴス」

「ご進言がございますが、聞いて頂けますか?」

「うん、なんだ?」

「我が創造主にして、魔法職最強のウルベルト・アレイン・オードル様は、るし★ふぁー様と共に世界征服を企んでおりました。ならば、その御方に創造された私が世界征服を狙わなくてもいいのでしょうか」

「うーん……」

 

 返答に困る質問だ。世界征服に興味はないが、彼がそうしたいのだ。

 

「デミウルゴス、世界征服ではなく、大事なことは彼らを見つけることだろう」

 

 イビルアイを追っ払ったアインズが、こちらに混ざってきた。

 

「では、何時かウルベルト様が戻られた時に、アインズ様も――」

「デミウルゴス、駄目じゃないか」

「はっ、しかし……」

 

 暴走されては困るので、一呼吸おいてはっきりと答えた。

 

 舞い上がっている彼が、名前を間違ったのも無理は無かった。

 

 

「モモンガさん、世界征服しないってよ」

 

 

 




次回予告 新章と言う名の本番突入(章の名前未定)
真っ先に外交に行く国 →評議国

解説補足
とあるアンデッド限定アイテム(完全なる狂騒)に似た、精神作用対策無効化にするアイテムは二度と出てきません。

蛇公(ヤト)は建国編1話から彼女が好きでした。《月が綺麗(I love you)な夜だった》と書いてあります。原題:月明かりに《愛したと知る》


待機守護者性別→15
自室でモモンの呼び名→2

会談で皇帝国にツッコミ→15 失敗

ヤト→ラキュースの好感度ダイス  1回目 19 2回目 19 3回目 19 合計50超、円満必須
最短の好感度上昇度。意味不明なゾロ目、花と蛇の相性抜群

王国頭指針→8 ザナック第二王子

奇数で転んだときに舌を出す →9 帝国でとあるイベントが確定。
蒼の薔薇、誰と話す?→2 ガガーラン 下ネタに触れて終わり。


王都領内の支配率《1全部 2王都 3王都とレェブン、エ・ランテル 4王都と殺した貴族の領地、カルネAOG》
情報収集率対応→ 3 王都とレェブン侯領地、エ・ランテルは完全に支配下に入り、王国内の情報は70%に引き上げ。


夫婦ダイス1回目→17 合計35 残り6回
1d20偶数でアインズの邪魔が入る→8
1d20偶数で至高の41人に返り咲く→2 演説
パンドラ口を滑らせる→11 成功
装備品完成→1d4→4日後
アルベドの憎悪値減少→1d20 →17  憎悪値7、残り1回

夫婦関係
猪の様に突っ込んで来る彼女に対し、避ける・ぶつかる・巻き付く・衝撃を殺して受け止める、をランダムに行う蛇のヤトは案外相性が良い、ぶつかった場合は‟即”喧嘩。故意に怒らせない限り平和

地獄を通って仲間を探す→成功
素直に頑張り仲間を探す→失敗

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