デミウルゴスは王都奪取に向け独自に暗躍しており、パンドラとアルベドの報告を順番に受けていた。
「カルネ村へ密に食糧提供は無事に済んだか?」
「勿論でございます! 私が旅の行商人を装い、余った食料を押し付ける形で置いてまいりました」
パンドラはとても気合いの入った敬礼をしていた。智将にしては理由に無理があった。
「パンドラズ・アクター……理由が強引すぎないか?」
「いえ、問題ありません。彼らは快く受け入れておりました」
敬礼のまま微動だにしない。
(渡してくれば構わんと指示出したからな……どうせ王都が手に入ったら起点にするからいいか)
カルネ村の住人も馬鹿ではない。何らかの援助があれば、それは誰の意思など考えなくても分かる。王都を奪取するまで残り1ヶ月、その後の起点となるカルネ村は、順調にアインズの信者となっていた。
報告を終えて出ていくパンドラと入れ替わりに、アルベドが優雅に歩いてきた。
「アインズ様。情報の精査の方、全て完了致しました」
「ご苦労だったな、アルベド。王都の情報はどうだ?」
「はい、図書では情報が限られております。人間を複数名、拉致してはいかがでしょうか?」
「王宮に出入りをする貴族を攫うか。腐敗した貴族など、消えても困らんだろう」
「ありがとうございます……時に、アインズ様」
「何だ?」
「ヤトノカミ様が人間の娘にご寵愛を授けたと、噂が広まっておりますが、本当でございましょうか?」
「……本当だ」
そこまで噂が回っているのかとアインズは頭を悩ませた。
「アインズ様……なぜ私にご寵愛を授けて頂けないのでしょうか? 私に何か落ち度がございますか? 仰って頂ければすぐに直します。おね――」
「ただいまー……」
執務室のドアが開き、雲が陰った暗い顔で、服装の変わったヤトが入って来た。
アルベドの美しい金色の瞳は、邪魔された怒りで紅に染まった。顔があと僅かでも近づいていれば、歯ぎしりまで聞こえた。詰め寄る彼女の苦悩など知らず、アインズはほっと胸を撫で下ろす。
「あ、アルベド。どうしたの?」
「いえ、なんでもありません。失礼します、アインズ様」
作られた微笑みを浮かべ、足早に出て行った。
「……なぜなのですか。モモンガ様」
アルベドは自室で、シルクのシーツに包りベッドへ突っ伏している。
「彼は下等な人間如きにご寵愛などと戯れをしているのに、愛しい貴方はなぜ振り向いて頂けないのですか」
愛するように設定された唯一の存在はアルベドだけだ。そして、何一つとして設定された項目が報われていない彼女の苦悩は重くて深い。
「この苦しみでさえ貴方の意志なのでしょうか……」
月の明かりが彼女の美しい肌を照らしていたが、明るい輝きはそこにない。
「……うっ……うっ」
小さな嗚咽は堪えきれずに口から洩れるが、誰かに聞かれることは無い。
刺繍で編んだアインズの人形達が、虚しく見守っていた。
◆
「楽しかったか? エロゲが現実になった感想は?」
「うーん……」
「暗いな。何かあったのか?」
「ええ……まぁ……」
「重症だな」
「アインズさん。俺は人間辞めたので、心は消えたと思ってました」
「うん?」
「だけど……えー、ラキュースに……そ……えーっと」
再び暗い記憶が浮上し、思考能力が低下した。
尋常ではない友人の変化に、アインズは落ち着いた声で問いかける。
「時間が掛かっても構わない。全部、聞くから」
「……愚痴を、聞いてください」
ヤトはここで初めて、自身の奥底に追いやった負の感情・記憶を静かに淡々と吐露した。
現実に捨てた母親。
ナザリックを捨てた自分がここにいる罪悪感。
己の中に残っている”モモンガ”に対する罪の意識。
そして、変容した自らの難解な感情と心情。
彼が自覚しているのはその5点だ。
特に、ナザリックの支配者として転移したからこそ、感じている苦悩もある。簡単な言葉で解決できるようなものではない。
「なるほど、共感できる所はある」
罪悪感は心配し過ぎではと思ったが、彼と同様に考えたくない事はアインズにもある。
変容した自らの難解な感情と心情も、苦悩は無いが理解はできる。
更に、他の
大切な”部下”に見限られ裏切られる可能性。
守護者・僕、残された”友人”、ヤトの寿命。
アインズも不安を払しょくするために、他のプレイヤー情報を集めたかった。
どちらにせよ、二人にはナザリック地下大墳墓以外に残っていないのだ。だが、同時にアインズはそれらの事態を許容もしていた。彼は沈静化と種族独特の睡眠・飲食不要により、冷静に考える時間が誰よりも多い。
もっとも最悪な事態は、心構えと覚悟のないときにヤトが死ぬことだ。唐突に一人ぼっちになる事態だけは避けたかった。
「今後、自らの力で変えるしかないな」
「はい……人間だったら、感極まって涙くらい流したんでしょうね」
改めて人間を辞めたことが痛感される。
「いいよ、流さなくて。男の涙に興味ない」
「酷いなぁ、真面目な場面ですよ」
暗い気分を飛ばすように、多少無理して笑い合った。
初めて互いの心を知る親友になれたと思った。
「はー……少し落ち着きました。自分の内面とはゆっくり向き合いますよ。戦闘中に動揺したら大変な事になってたんで」
「そうしてくれ。今は二人しかいないのだからな」
「で、ラキュースを攻略してきたんですけど」
ヤトは包み隠さず、彼女に対する心が不明であることを告白した。
「愛……とか」
「笑いも怒りも悲しみもないのに、愛は残っていると?」
「ヤトのアバターは日本古来の神性、“夜刀神”がモデルだな。」
夜刀神とは日本古来の神性、蛇神だ。
群棲する蛇体で、姿を見た一族は滅んでしまうと伝承が残されている、祟り神の一種だ。出現モンスターまでアバターに選べるユグドラシルとはいえ、秀でた部分は多少の素早さである蛇神を選ぶ者は少なかった。比較的すぐ取得できるので、職業を多く取得する者は選択するが、それでも珍しい部類になる。より強くて使い勝手のいいアバターは吐いて捨てる程あるのだ。
何よりも使い勝手のいいのは人間のアバターで、プレイヤー狩りの対象となるのは異形種だ。自然と多いのは人間アバターばかりとなる。
もっとも、彼のアバターが夜刀神かは定かではない。
「ええ、そーでしょうね、額に刀入るし。アバターに合わせて名前変えました。誰かと被る覚悟で」
「日本神話系に限った話ではないが、異形と人間が恋をして結婚する話は多い。例えば、神・雪女・天女・人魚・龍・鮫・鶴・狐・蜘蛛、珍しいのが水」
「はい」
「確か……大蛇の話は複数あったな。つまり異形種でも、人間に思いを抱く場合もある。日本のアバターなら自然な事じゃないのか?」
おとぎ話の蛇女房、蛇婿などを思い出した。この世界にも人と結ばれた異形種はいるが、アインズにその情報は入っていなかった。
「……なるほど」
「つまり、ラキュースに惚れたんだよ、本気で。異形は異形なりの愛で」
アインズは嬉しそうに人差し指を伸ばして、ヤトを指さした。
しばしの静寂が訪れる。
ヤトからすると嫌な記憶に振り回されて動揺していただけで、愛も何もないのではと頭を過った。異形の心を持つ彼が、恋の甘い痺れを味わうのは不可能なのだ。
本来、蛇は冷血生物であり、感情や感傷などとは無縁の生物である。
彼らの威嚇行動は敵に対する憎悪によるもので、致死量の毒を注入することに躊躇いがない。自分たち以外の種族など、食物消費効率面で考えると、何の興味もない。人間から異形になった自分はどうなのだろうかと、再び彼の頭は考えを巡らせる。
(これは愛なのか? 執着なのか? それとも愛執なのか? ……まさか……食欲……)
考えても答えは出ない、また答えが出たところで大した違いがあるようにも思えない。
既に彼の中でラキュースは特別な”女性”だ。
ヤトのため息で会話が再開する。
「異類婚姻譚でしたっけ……? だいたいこの体は感情が複雑で分かりにくいんですよね。祟り神ですし、とんだ化け物ですね」
「祟らなければいいだろう」
「そうなんですけど。ふーむ……初めて人を好きになり、心の反応に戸惑っていたのか。これは初恋って事になるんですかね? ヤることやれば満足するとか」
神性であったとしても蛇は蛇であり、ご丁寧に祟り神という付録まである。どこまでその思いが続くのかという点に、不安があるのも無理はない。何かそれ以外に知らない事実があると、これまでの仮説が全て崩壊してしまう。
「はぁー……そんな事は知らん。だが、友人の恋人は丁重に持成さないといけないな」
髑髏は顎を下ろして笑った。
「そういえば、四日後に来るそうです」
「食事のメニューを考えないといけないな。宴の準備も必要か」
「晩餐会にはたこ焼きを希望します。一度、食べてみたかったんですよねー、たこ焼き」
まだしこりは残り感情面は不安あるが、気になる女性を自宅に招く事で浮かれていた。
彼にとってこの世界は、ゲームの延長では無くなっていた。いつものヤトに戻り、口にはニヤついた笑みが浮かんでいた。
「ふむ、ちょっと料理長の所へ行くか。」
◆
主に一般メイドとプレアデスが利用する従業員食堂は、夕食で賑わっていた。
そこへ二人の支配者が転移する。
沈黙のあと、一般メイド全員が食事を中断しこちらに駆け寄ってきた。
「よ、ようこそ食堂へ!」
「あー……ごめんな。料理長と話に来ただけなんだ。食事を続けてくれ」
「その通りだ。我々に構わず食事を続けよ。料理長、時間はあるか?」
「はい、何なりとお申し付けください。ヤトノカミ様は何か召し上がりますか?」
バーのマスターに似たキノコ頭の料理長がエプロンで手を拭きながら走る。
「うん、何でもいいから適当に」
料理長は手早くオムレツを作ってくれた。馬鹿みたいに美味しかったので、ヤトは会話に集中できなかった。食べ終わるのを待ち、来賓をもてなす料理について楽しそうに話を始めた。
メイド達の視線など、熱中している彼らの眼中になかった。
「たこ焼き食べたい、料理長。」
「その料理であれば作る事は可能ですが、おもてなしの料理はコースがよいのでは?」
「料理長に任せると、コース内容はどうなるのだ?」
「ドラゴンステーキを
二人とも、料理長のフランス語が理解できなかった。
「いつも食ってるステーキはドラゴンだったのか……」
「ツアーには絶対に言うなよ?」
「お時間はありますか? たこ焼きの試作品をお作り致しましょう」
離れて声の聞こえない所で、一般メイド達が密かに噂する。
「誰かお客様を招かれるのかしら?」
「しい。静かに」
「ヤトノカミ様がご寵愛を授けたという方ね」
「御二方とも、楽しそうですぅ」
当然ながら、この情報は即日ナザリック全域に広まった。
「俺に心があるならアインズさんにもありますよね。なら行けますよ、ハーレムルート」
「遠慮する。感情の抑制もそうだが、ナザリックの仲間以外に特別な感情はない」
「完全なる狂騒でも使います?」
「支配者ロールに影響が出る」
◆
料理長と晩餐についての打ち合わせを終えた二人は、宝物殿に移動していた。
「という訳で、四日後に来賓が来る」
「畏まりましたっ!」
パンドラは凛々しく敬礼をする。
「よろしく頼むぞ、パンドラズ・アクター。宝物殿の案内はしないが、お前も来賓に挨拶をするのだ」
「お任せください! んーアインズ様っ!」
先ほどよりも更に気合の入った敬礼だ。
体を一周させた事で、それが窺える。
「ともかく……四日後、よろしく頼むぞ」
精神の沈静化を図るアインズ。
ヤトは面白そうに二人を見ていた。
二人が去った後、パンドラは独白する。
「ヤトノカミ様がご寵愛を授けたという方で間違いありませんね。これはもしや、婚礼の儀ではありませんか? おぉ……なんと素晴らしい事でしょうか……純白のドレスを作成いたしましょう!」
パンドラはタブラ・スマラグディナの姿に変わり、ちまちまと内職を始めた。
「どの御方で編むドレスが一番美しいのか、完成品を比較してみましょう。刺繍は“花と蛇”などいいですね。忙しくなってしまいました!」
参謀三人の中で比較的ゆとりのある彼の姿は、なぜか数日間ほど誰にも目撃されなかった。
見たことない花嫁のドレスに、刺繍を編んでいるなど夢にも思わない。
◆
「楽しいッスね!次はどこに行きます? 基本的におもてなしはロイヤルスイートで殆ど済みますけど」
「駄目だ、全員に話しておかないと。何かのミスで遭遇して戦闘になると面倒だ」
「そうですね。来賓第一号を皆殺しにしちゃったら困っちゃいますし」
「お前は愛しい人が死ぬから余計に困るだろう」
「蘇生があるから大丈夫じゃないスか?」
「気楽だな……所詮は蛇か」
四階層と八階層を除き、全ての守護者達へ話をして回った。シャルティアは若い女性達と聞いて、期待で更に胸を膨らませた。ガガーランを見たら怒り出しそうな不安を二人は感じた。
デミウルゴスは王都に出張中のため不在で、第八階層は飛ばされた。
アウラとマーレは興味なさそうだったが、支配者の命令は嬉しそうだった。 マーレは婚約について聞きたそうだったが、アウラに差し止められた。婚約はアインズが以前に与えた指輪の件で、却って都合がよかった。
コキュートスは何かを想像して騒ぎながら、心身ともに遠くへ行ってしまった。
彼の自宅を守る雪女郎達へ声を掛け、その場を後にした。
◆
各守護者へ説明が終わった二人は、相談しながら廊下を歩いていた。
「楽しみだな、どんな顔をするか。アウラとマーレとは子供が好きそうだから相性いいかもしれない。性別が逆だとしれば驚くだろうな。風呂は入浴の作法を説明しておかないと。ネイルサロンって女性向けだよな……付き添って見に行こうかな。異形が多くて引かなければいいが、大墳墓と言っても引かなかったから大丈夫だろう。ついでにレベルアップの検証もするか……寝室は同じ部屋にしちゃおうかな」
途中からヤトの独り言と化していた。
「何か不穏な事を考えていないか?」
「あ、アルベドだ」
廊下の反対側からアルベドが歩いてくる。
「アルベド、四日後に来賓が来る。歓迎の準備をしてもらいたい」
「……畏まりました」
「ちょっとアインズさん、待ってて。アルベドに個人的に頼んだ事があったんで。」
不穏な気配を感じたヤトは、彼女をアインズから引き離す。
「アルベド、何かあっただろ?」
「いえ、何もございませんわ。」
「アインズ・ウール・ゴウン攻略は進んでないな?」
ヤトは少々浮かれていた。
「……攻略というのはご寵愛という事でございますか?」
「当たり前だろ。なんか暗いよ」
「ヤトノカミ様に申し上げる事はございません」
アルベドは微笑んでこそいるが、笑うことのできないヤトには作り笑いだとすぐにわかった。
「今夜、バーに来い」
「何故でしょうか」
「アインズ様とアルベドの幸せの為に相談に乗るから」
大事な友人の幸せを模索するにちょうどいい機会であり、アルベドをぶつけて彼の動向を探りたかった。
何より楽しそうだ。
来客まで時間があり、眠くなったら蛇に戻ればいい。
「畏まりました」
素っ気ない返事だったが、先ほどの作り笑いよりも嬉しそうだ。顔にも希望の光が差し込んだように見える。
「どうしたんだ?」
「あ、ちょっとアルベドに個人的に頼んだことを」
「何を頼んだんだよ……」
「媚薬」
口から出任せが下手だった。
アインズから全力の蹴りを入れられ、アルベドに命令を破棄するように伝え、二人は円卓の間へ移動した。
「改めてナザリックを回ると、本当に自慢したくなるな」
「ええ、本当ですね。楽しみじゃないですか」
「俺も楽しみだよ。彼女達には神話の領域だろうからな」
「ところで、イビルアイがモモン様にご執心なんですけど」
「ふーん」
「興味なさそうッスね」
「無い」
「モモンがプレイヤーかと疑ってましたよ。俺が寝てる間に何かしました?」
「してないよ、何も」
インベルンと呼んだ自覚がなく、思い当たる節もない。
「じゃあなんで疑ってるんだろう。非常に興味があるみたいですが」
「身に覚えがないが、放っておいても大丈夫だろう」
「また嫉妬マスク被るんですよね?」
「ヤトも蛇にはならないだろう?」
「そうスね」
「ナザリックで夜這いしないでくれよ?」
「……まぁ性欲は安定してますから」
自信はなかった。
「そうか、ならいいのだが。」
アインズも一抹の不安は消せなかった。
「プレアデス達をログハウスに待機させた方がいいだろうな」
「そうですね。今は無人ですから」
「防衛システムの構築も考えないと。索敵に関しても」
「そうですよね」
「念のため彼女達に監視や確認の使者がついてないかも調べよう。途中で法国に洗脳されないとも限らないからな」
「慎重すぎませんか?」
「これくらいは普通だと思うが」
「えーと……まだ数日あるんで、息抜きして来たらどうですか?」
「どこに?」
「外に」
アインズは顎に指をあてて考えた。
「息抜きか……息抜き……うーん。行きたい場所は思いつかないが」
「冷静に考えると俺がこんな感じだったじゃないスか。アインズさんも異世界をもっと楽しんでいいと思いますよ。法国と遭遇してもモモンガ玉があれば安全ですし」
「……一理ある」
「どこ行きたいか考えといてください。俺はバーに酒を飲みに行きます」
「明日は早めに起きろよ。俺はアルベドの書類を読むから」
「はい、了解ッス」
ヤトが出ていったあと、書類を読む休憩に、どこか行きたい場所がないか考えた。
(行きたい場所……か。仲間を探しに行きたいところだが。あいつが遊び回った王都でも散策しに行くか。八本指は奴隷、セバスもいる、英雄モモンで行けば安全だろう」
息抜きの外出も悪くないなと、アインズはその気になって散策の予定を立て始めた。
◆
バーのカウンターで、アルベドが赤い液体を飲んでいた。
「待ったか、アルベド」
「恐れながら先に飲み物を頂いています」
「マスター、俺にも。琥珀色で甘めの酒ってある?」
王都でガゼフ達と飲んだ琥珀色の酒が思い出したが、出された酒は品質で凌駕していた。
「ブランデーです。チョコレートをどうぞ」
「ありがとう」
吹っ切れたヤトは落ち着いていた。
「アルベド、アインズさんに息抜きの外出を提言しといた」
ショットグラスを口につけ、チョコレートを口に含む。
「またもや……お出かけになられるのですか?」
アルベドを中心に空気がささくれ立つのを、バーのマスターである副料理長は感じた。危険な二人とマスター以外に人影はない。誰かが同席していれば、彼女の棘がある雰囲気に注意をしただろう。
「アインズ様はナザリックにて我らの上に君臨さえして頂ければ」
「最後まで聞け。俺がアルベドを連れて行くように明日、言うから」
「……え?」
刺々しい空気はすぐに消えた。
「わかりやすく言うと、アインズさんとデートしてこい」
「くふふふ…あら、私としたことが失礼しました」
「今はまだ顔を見られるとまずいから、鎧を着ていけよ。二人きりで好きに見てくるといい」
「畏まりました、ヤトノカミ様。感謝いたしますわ」
心から微笑んだ。
(なかなかやるじゃないの)
浮かれながらも挑発的な姿勢を崩さないアルベドの内心は知らなくても、絶対の忠誠を尽くさない彼女と話すのは楽しかった。険悪でも親密でもない部下と、親睦を深める気分に近い。
「押しの強い女は引かれるからな、何があってもそこだけは気を付けろよ」
「くふー! 畏まりましたわ、ヤトノカミ様! 必ずやご期待に応えてみせます!」
彼女の取り繕った顔はここで決壊した。何一つとして実を結んでいなかった彼女の愛にも、初めて小さな光明が見えた。
「アインズさんの好きな所、10個以上言えるか?」
「勿論です! 10と言わず50でも100でも!」
「それで飯が食べられるか?」
「当然です! 10合でも20合でも、カレーまでも!」
(カレーってなんだ……?)
「子供は何人欲しいんだ?」
「何人でも構いません! 内務と並行して家事も育児もこなし、完璧な妻を演じてみせますわ!」
「アインズ様に子供が作れなかったらどうする?」
「何の問題がございましょうか! 私はこの愛に生涯を捧げます!」
「結局、彼に何をしてほしいんだ?」
「ただ愛し愛されていたいだけです。それだけでここは楽園のように、いえそれ以上ですわ! くふふふ!」
ヤトは面白がって悪戯にアルベドを刺激し続け、アインズに対する想いを楽しそうに聞き続けた。手をぱたぱたと上下に振って
”モモンガ”を愛していると設定された彼女が、“アインズ”と名を変えた彼に抱く感情を問いたかったが、水を差したくなかったので頭の隅に投げ捨てた。
アインズの事を楽しそうに話す間、ラキュースを忘れる。
重要なのは自分の幸せよりも、大事な親友の幸せだ。自分一人で幸せになりたいのなら、ナザリックは初めから必要ない。
大墳墓の平和な夜は更けていった。
◆
翌朝、ナザリック正門でモモンとアルベドが、よく似た
「じゃ、行ってらっしゃい」
「なぜ……アルベドがいるのだ?」
「アインズ様、護衛でございますわ。私にお任せください」
「冒険者向けの雑貨屋に、モモンとなったアインズ様のお皿が売っているぞ」
「くふー! ありがとうございます! ナザリック全軍を挙げて、買い占めてみせましょう」
「……お前ら、なんか仲良くなってないか?」
鎧の下で恨めし気にこちらを見ているアインズを無視した。
アインズは観念して転移ゲートの中へ吸い込まれていった。
「朝飯食べてから昼寝でもしよう。あと三日か……あぁ楽しみだ、早く来ないかなぁ。結婚して王都とナザリックを行き来しながら、平和に暮らすのも悪くないか。この世界の人間もゴミばかりじゃなさそうだし、あー……笑えたら楽しそうに笑ってんだけどなぁ」
試しに笑い声をあげてみたが、虚しくなったので止めた。
この時の彼は、これまで失望の連続だった王都へ、霞んで揺らめく蜃気楼に似た期待を寄せていた。
目覚め→3日後
ヤトに攻略済と説明→する
ヤトの好感度ロール(ラキ)→19 残り4回
ラキュースの護衛→4 イビルアイ。
イビルアイ→ヤトの好感度ゲージ使用不能
服装 → 2 ガラハッド・ウーフー
ヤトへ憎悪値、上限3回
ヤトと友好度→上限4回 20を引いたら1回減ります。
憎悪が0にならないと友好度はあがりません。
憎悪値減少 1d20 →16 現在24 残り2回
シナリオ、アルベド→3 デート