モモンガさん、世界征服しないってよ   作:用具 操十雄

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蛇に足無し、薔薇に棘有り

 

 

 貴族のレェブン候から秘密裏に頼みたい依頼があると、ナーベラルを訪ねたのは2日前のこと。

 

 これがデミウルゴスの想定していた件であれば、冒険者の”漆黒”は王都へ駆り出され、8本指の掃討作戦に協力する。アインズは訪れる貴族への対応を練り、満を持してエ・ランテルへ飛んだ。

 

 ナーベの話の通り、王女勅命により秘密裏に派遣された貴族はレェブン候と名乗った。

 

 彼の話によると、犯罪組織”八本指”の現行拠点が全て判明したが、王都を八角形状に囲んでいる重要拠点を少ない人数で襲撃しても、他拠点の幹部が雲隠れしては意味が無い。警備部門の精鋭部隊、”六腕”最強の男もまだ行方を眩ませている。

 

 そこで王国の強者を集め、八か所の同時攻撃をかけたいので協力を願いたい、と。

 

 全てはデミウルゴスの奸計通りに進んでいた。

 

 指示を出したのが自分だとすっかり忘れる程、期日通りの鮮やかな手並みだった。

 

 話を聞いたモモンは2つ返事で応じた。

 

「素晴らしい作戦です。我々、”漆黒”もご協力しましょう」

「そうして貰えると助かる。これで彼らと繋がる貴族も大人しくなるだろう」

 

 レェブン候は影の差した陰気な笑みを浮かべた。蛇の友人よりも、彼の方が本物の蛇により近い笑みだ。

 

「これから支度をして出発します。現地の組合に行けばよろしいのですね?」

「私と一緒の馬車に乗ってくれても構わないが」

「いえいえ、貴族の方と同じ馬車に乗る訳にはいきません。我々は別の方法で伺います」

 

 礼節を弁えたモモンの態度に、レェブン候は少しだけ表情を緩ませた。裏工作や欲深さとは無縁の人間だと悟り、貴族としての上から目線を止め、警戒も緩めた。

 

 陰気な笑顔は消え去り、控えめな笑顔になった。

 

「これで私も子供と過ごせる時間が増える。個人的には君にも感謝しているよ」

「意外ですね。子煩悩なのですか?」

 

 彼に抱いた蛇の印象が早くも崩れていった。

 

「ああ、子供が生まれた時に私の指を必死で握っている姿をみて、感動のあまり涙が止まらなくてな」

「男の子ですか?」

「ああ、そうだが?」

「二人目は女の子だといいですね。私の友人は女の子が生まれまして、大層な猫可愛がりでした。男親は女の子だと更に可愛いと話しておりましたので」

「そうか、それはいいことを聞いた。今後の参考にさせて頂こう」

 

 レェブン候は嬉しそうに笑った。子供は一人でも賑やかだが、二人に増えたと想像すれば楽しさも2倍になると、白昼夢のように想像した。

 

「王国が派閥に分かれてなければ、もっと一緒に過ごせたでしょう。残念ですね」

「その通りだよ。貴族の派閥が揉めてなければ私は領地で静かに暮らせたものを」

「これで過ごせる時間が増えるといいですね」

「腐敗貴族を一網打尽にして、反王派閥の力を削げるからな。そのためにも宜しく頼む、モモン殿」

 

 レェブン候は立ち上がって、モモンの手を取り固く握手を交わした。

 

 貴族と冒険者というよりは、貴族と握手を交わす貴族に見えた。

 

 

 

 

 レェブン侯がモモンの宿を訪れた同時刻、王都では組合の使者がヤト達の宿を訪れた。

 

「ヤトノカミ様、組合から出頭依頼が来ております。名指しで頼みたい依頼があるとか」

「デミウルゴスの成果が上がった? わかった、すぐに行くか」

「畏まりました」

 

 冒険者組合に行くとすぐに応接間に通され、組合長が待っていた。説明されたのは8本指に関することで、デミウルゴスの想定から少しも外れていなかった。予定調和の話は退屈で、時おり欠伸を交えるヤトを組合長は眉をひそめて見た。

 

 しかし、今の彼らは善人だ。それくらいは目をつぶらなければならない。

 

「ご要望の通り、私達も八本指の拠点殲滅作戦にご協力します」

「ありがとう、ヤトノカミ殿、セバス殿。二人には細々した金額の安い人助けを大量にこなしてもらっているので、こちらも心苦しいのだが……」

「いえ、当然のことですから。私達の所属するナザリックは人助けが大好きなのです。これで世話になっている王都の方々のお役に立てるなら喜ばしい限りです」

 

 アインズが聞いたら、よくここまで嘘を吐けるものだとケチを付けた。

 

「これからも王都で活躍してくれるとありがたいのだが、どうかね」

「残念ですが、私達は今回の作戦が終わったらナザリックへ帰還しなければなりません」

「それは残念だよ……二人の行動でどれほどの住民が助けられたか。今や組合だけではなく、王都中で評判だというのに。なんとかこの街に住んでは貰えないだろうか……」

 

 組合長はヤトと出会った当初、散々に怯えさせられた件は水に流していた。いい加減な態度に反し、聞こえてくる名声は勧善懲悪に偏っている。ここ最近の二人は安い報酬で人々の為に尽くす、困っている人を無償で助けるなどの善行を続け、順調に評判を上げていた。

 

 ヤトの支配者たる態度には制限時間があり、飽きてくると少しずつくだけた。今となってはこれまでの善行で覆い隠され、気さくな態度が好きな男だと都合よく解釈ができた。

 

「また少ししたら、こちらへ帰ってくる予定です。二度と帰らないわけではありませんので、心配はいらないスよ」

「明日の夜、エ・ランテルのアダマンタイト級、漆黒が到着する。君たちのナザリックは二日後の正午に組合まで来てくれれば問題ない」

「ところで俺はいつ頃、アダマンタイトになれるのですかね?」

「……その件だがね。蒼の薔薇のアインドラ様からの伝言があるのだが、読み上げてもいいか?」

「ラキュースさんのことですよね? どうぞ、読んでください」

 

 恋文(ラブレター)かと思って期待したが、内容を聞くにつれてヤトは怪訝な顔になった。

 

「八本指から強奪した白金貨の内、400枚は被害者に還元するので持ってくるように。伝言を無視し続けた件は絶対に許しません。不誠実で無責任な方は、アダマンタイトに昇級することはできません。特に、ヤトは集合時間の一時間前に来なさい。……だそうだ」

「……」

 

 文章だけで彼女のご立腹は、理解できた。

 

「大そうお怒りのご様子だが、彼女に何かしたのか?」

「えー……とー……伝言? って何でしょう」

「私に聞かれても困る」

「セバス、彼女はなぜこんなに怒っているんだ?」

「私は存じ上げません。我々が気づかぬところで彼女に何か無礼をしてしまったのでしょうか」

 

 破棄をした大量のチラシや案内状に紛れていたと、彼らが知る由もない。ヤトの運が悪かったのは、ラキュースの伝言は予想以上に早く届けられ、新しい書類から読み進めたヤトが廃棄した古い束に伝言が含まれていたことだ。

 

 自覚が無いのだから反省のしようもない。

 

「心当たりがないな。宿に来れば会えたのに、伝言など残すか? まぁ早く来いっていうなら金貨もって早くいけばいいだろ」

「白金貨はすぐに手配いたしましょう」

「組合長、また来ます」

 

 軽く頭だけ下げ、受付嬢達に見送られながら二人は組合を出た。

 

 二人が出ていったあと、組合長はラキュースの怒りを思い出し鳥肌が立った。関係ない組合長の目から見ても、彼女は空気を震わせて明確に怒っていた。並みの冒険者なら震えあがる迫力だ。

 

「アインドラ様があそこまで怒ったのは見たことがない……二日後の顔合わせが無事に済むと良いのだが」

 

 組合を出てから程なくして、アインズから《伝言(メッセージ)》が入り、ヤトとセバスはナザリックへ呼び出された。

 

 

 

 

 円卓の間、アインズはモモンのまま、ヤトも人化の術を解かぬままに打ち合わせに入った。ヤトは久しく蛇の姿に戻っていないが、いっそこのまま人間として暮らしてもいいかと思っていた。

 

「さて、いよいよ本番だ。一応、注意しておこう。絶対にアインズと呼ぶなよ?」

「わかってますよー。それより他の準備は?」

 

 軽く流すヤトを見て、余計に不安を積もらせた。

 

「そちらは先ほど指示を出した。開始前には臨戦態勢に入るだろう」

「なら問題ないスね。久しぶりに全力で暴れられますよ」

「油断するなよ? 敵は本当に強いからダメージ覚悟だ」

「弱かったら楽しくないデス」

「大丈夫か……? 宿で睡眠をとっておけよ。大事な時に動けなくなったら困る」

「ええ、すぐ帰って寝ますよ。そういえば、白金貨400枚を八本指の被害者に充てるそうなので持っていきますね」

「わかった。好きに持っていくといい」

「他に何か変わった事はありました?」

 

 特にないだろうと、適当に投げかけた質問だったが、予想を大きく超えた返答が聞こえた

 

「この前、ツアーがここに来た」

「ええー? またそんな俺に内緒で楽しそうな……」

「評議国の北の山にいるから二人で来てくれと」

「……決闘か何かですか?」

「違うよ。彼は漆黒聖典の件で手を組むから、ヤトにも会ってみたいそうだ。さきはどうなるかわからんが、共通の敵がいる以上、敵対の目はないだろう」

「いいですね。ドラゴンの背中に一度乗ってみたかったんですよ」

 

 モモンも予想していない間抜けな返答に、呆れが出てしまう。

 

「わかってますよ。そこまで馬鹿じゃありませんから」

「そうかな……馬鹿じゃなく阿呆ではないのか?」

「否定はしませんよ。楽しむためには阿呆になれと思いますから」

「はいはい」

 

 仮面から覗くヤトの口元が歪んだ。

 

「これが終わったら蒼の薔薇も呼んで、不動の地位を手に入れるわけですからね。前哨戦は気合い入れて頑張りましょう。冒険者たちには地獄の釜の底でしょうけど」

「ああ、まったくだ。俺も久しぶりに外で忙しい。本当に楽しいな」

「モモさんが喜んでいる……おお、なんて神々しい」

 

 遠い目で過去の風景を浮かべようとしたのだが、ふざけた返事で掻き消えた。

 

「馬鹿にしているな……? ちょっとは昔の感傷に浸らせてくれ」

「バレましたか。駄目ですよ。これからもっと楽しくなるんですから」

「はあ……。ヤトと二人になってからため息が増えた気がする。他の奴にもそう言われない?」

 

 少なくともラキュースはそう思っているが、ヤトの目の届かぬ場所だ。彼女の気持ちまで察するには至らない。

 

「言われないス。人格者で通ってますから」

「……本当は嫌われ者なんじゃないのか?」

「えー……そうかな……それは結構、傷つきますけど」

 

 想像して少しだけ暗くなった。

 

「るし★ふぁー並みにふざけた奴が?」

「あの人は飽きるまで真面目にやり込み過ぎるふざけた人ですよ。俺は面倒くさがりでふざける人なんで、全く違うんスよね」

「まあ、その辺の話をすると長くなりそうだから、終わったらゆっくりしよう」

「あと、盗賊の用心棒はガゼフの友達らしいんで手を出さないでください。作戦に参加する可能性が高いと思いますんで」

「ガゼフの友達だったのか」

 

 それ以上、興味はなかった。今となってはブレインの顔さえ覚えていない。武技を使える人材は確保を終えており、そちらは用済みだ。

 

「それじゃ、王都に帰ります。また二日後に」

「ああ、気を付けろよ」

 

 ヤトは仮眠を取るべく王都へ帰還した。

 

 アインズはイビルアイが13英雄であること、ツアーにインベルンのお嬢ちゃんと呼ばれていることを伝えそびれた。思い出したところで慌てて伝えるべきことでもなく、終わってから伝えようとアインズもエ・ランテルへ向かった。

 

 

 

 

 ヤトは睡眠で時間調整を行い、作戦決行日の時間通りに目を覚ました。セバスは起き上がった彼の寝癖を直し、ジャケットの毛玉を取り、身支度を整えてから折り目よいお辞儀をした。

 

「一時間前に来いって言ってたから……もう出かけるか」

「畏まりました。参りましょう」

 

 指定された時間通りに組合に到着し、セバスを外に待たせて組合に入った。久しぶりに二人で会うので、怒っていると知りながらも気分は浮かれた。

 

 先に応接間に通され、憮然とした表情のラキュースにいつも通りの軽さで話しかけた。

 

「あ、どーも。ラキュースさん、お久しぶり」

「……」

 

 この時、”蒼の薔薇”の会談から13日が経過していた。

 

 ラキュースの耳に、彼の噂、特に善行の話はあちこちから回ってきた。依然として、彼女の伝言は読まれておらず、夜になって訪れる可能性のある彼を待って寝不足の日もあったが、結局、今日まで会うことは無かった。

 

 彼女は個人的に腹立たしかった。

 

 怒りの正体は”失望”だ。

 

 冒険者に憧れて家を飛び出した彼女を待っていたのは、理想と程遠い地味で暗い依頼の連続だ。自らが英雄級(アダマンタイト級)と呼ばれる日常で、本物の”英雄(ヒーロー)”、”救世主(セイヴァー)”、”義賊(ダークヒーロー)”へ思いは募っていった。

 

 夢見る少女の夢に果てはなく、隠れて理想像の演技をしていたし、夢や妄想を記録紙(ラキュースノート)に書き写した。

 

 王都に湧いた謎の多いヤトの存在は、彼女の心に少なからず期待をもたらす。

 

 しかし、いざふたを開けて見れば、杜撰でいい加減な彼の態度は失望に充分、値した。幼い少年が、地面へ唾を吐く憧れのヒーローを見た心境に似ている。謎の多い彼への希望、いい加減な彼への失望、相反する心情がぶつかり、怒りが表面に浮上してきていた。

 

 彼女は笑顔で怒るのではなく、素直な怒り顔でやや低い声を出した。

 

「……白金貨はお持ちになりましたか?」

「はいはい、どうぞ。きっちり中に入ってますよ」

「どうも……」

 

 ラキュースは彼の反応を見ていた。

 

「何か、私にいうことはありませんか?」

 

 手提げ袋を受け取り、努めて静かに暗く問いかける。二人の雰囲気は、喧嘩が始まる前の恋人に似ていた。

 

「あーと……伝言って誰に頼みました? 俺は見てませんよ」

「ええ、あれから一度もお会いしておりませんものね」

 

 今までみた中で最も濃い影の差した笑顔だ。反省の無い態度に、すぐ謝るなら許してやろうかと思っていた彼女の怒りは増していく。

 

「いや、ちょっと待ってくださいよ。避けてたわけじゃ――」

「なぜ連絡を頂けなかったのですか!?」

 

 自分で思っている以上に大きな声だった。ラキュースは口に手を当てて外に声が漏れていないか心配するが、手遅れだ。怒号は組合の応接間外に漏れ、近くを通りかかった受付嬢の耳にも入った。

 

「ねえ、ヤバくない?」

「痴話喧嘩でしょ? 放っておきましょうよ」

「興味あるからお茶でも持って行こうかしら」

「あら、いい考えね。くじで決める? ダイスで決める?」

 

 ダイスで選抜された受付嬢は、喜々としてお茶の支度を始めた。

 

 改めて応接間で、ヤトは言い訳を並べた。

 

「そりゃあ確かに連絡してませんけど。でも家も知りませんし、ガゼフ邸に泊まったり、人を助けるのでも忙しかったです」

「それでも連絡の取りようは――」

「蒼の薔薇の方々を宿で見なかったんですよね。ラキュースさんが部屋まで来てくれれば早かったのに」

 

 ガゼフ邸に連泊したのは最初の数日間で、その後は宿にいた。彼も真剣に心配していなかった。

 

「ですが――」

「どうすれば機嫌直してくれますか? お願いします、許して下さい」

 

 両手を合わせ、拝む姿勢を取った。8本指の掃討戦だというのに、相も変わらず緊張感のない彼は自信を感じさせ、苛立ちながらも嫌いになれなかった。

 

「……ここまで無視されて、正直言うと許す気にならないのですが」

「お願いします! そこを何とか。また太陽みたいに笑ってください。光合成しないと死んでしまいます」

 

 懇願する声に、お道化た雰囲気が混じる。「死ね!」と言いたいところだが、強い理性で押し留めた。反応が無い彼女をみて、ヤトは仮面を外して真面目な表情になった。

 

「これが終わったらもう一度会談しませんか? 今度はナザリックで。次は途中で逃げませんから、お願いします。この通りです」

 

 立ち上がって謝罪のお辞儀をする。内心では反省をまるでしておらず、美しい女性とのディベートを楽しんでいる。ラキュースが素直に許すと言えないのも、体全体から滲み出る不誠実さを感じているからだ。

 

「本当に……約束してくれますか?」

「その前に二人きりでお会いしてもいいですよ。もう逃げも隠れもしませんからお願いします。アインドラお嬢様。家族ぐるみの付き合いじゃないですか」

「誤解を招く言い方は……って、やはり反省していませんね?」

「あ、お願いなんでも一つだけきくって言いましたよね。なんなら命じて貰っても」

「はぁー……疲れてきました。貴方と真面目に話している自分が馬鹿みたいです。大体、私はいい加減な人はだいきら――」

「お茶をお持ち致しましたぁー」

 

 ノックもせずにドアを開け放つ受付嬢で、二人は時間が止まったように静かになる。ラキュースの口は「あ」の形に開いたままだった。事務的に二つのお茶を出し、ヤトを一瞥する。

 

「ヤトノカミ様、女性の扱いはセバス様を見習っては如何でしょうか。ご指導を願い出てみるのも手です。美しい女性を悲しませる男性は、人の上に立つには難しいですわ。失礼致します」

 

 固まっている南方出身の男に皮肉をたっぷりと言い放ち、返事も待たずに出て行ってしまった。

 

 彼女はお盆を持って走り去り、他の受付嬢が覗く給湯室へ駆けこんだ。

 

「やっぱり痴話喧嘩みたい」

「あの二人、“そういう関係”なのかしら?」

「浮気?」

「うーん……構ってくれないから怒っていると見た」

「釣った魚に餌を与えなかったのね」

「アダマンタイトとオリハルコンの交際なんて、どこかの英雄譚みたいね」

「大して格好良くないのに、どうやって口説いたのかしら」

「あの女の人、王国貴族でしょ? 私達にはわからない上の方でやりとりがあったのかも」

「依頼はセバス様に任せてばかりだもの。お嫁さん探しにでも来たんじゃないの?」

「お嫁さんかぁ……私も口説いてくれないかしら。セバス様とか、セバス様とか」

「セバス様も未婚って言ってたわ。私も口説かれたいー!」

「でも、あの二人どうなるのかしら。別れてどちらかが王都を出て行っちゃったら、組合長も頭が痛くなるわね」

「セバス様だけ王都に残ってくれれば、どちらでも構わないけどね」

 

 人の色恋沙汰より甘いゴシップは無い。

 

 ラキュースの機先を制した受付嬢達は、修羅場と化しているだろう応接間を想像し、楽しそうに笑っていた。

 

 

 

 

 受付嬢が出ていった応接間に、出鼻をくじかれたラキュースと、上手くまとまりそうな流れを破壊されたヤト。二人の間にはしばらくの静寂が流れた。

 

 埒が明かず、ラキュースが咳払いで会話を再開する。

 

「コホン、どこまで話しましたか」

「えーと……そのーラキュースさんは俺が大好きのくだりまで」

「そんなことは言っていません。いい加減にしなさい。だいたい……ラナーや仲間にも恋仲と疑われてしまって、誰が貴方みたいな不誠実な人なんか選ぶものですか!」

 

(え? そうだったの?)

 

 彼にとっては意外な内容だったが、それ以上に声を荒げて怒っている彼女に見惚れた。

 

「あ、そう……ですかね。俺はラキュースさんが好きですよ」

 

 あながち嘘ではないが、彼女の膨らんだ怒りを破裂させた。

 

「そうやって会話を乱すところが大嫌いです! 本当に嫌いです! 顔も見たくありません! 一緒に居たくないので時間まで失礼します!」

 

 本気で怒っている彼女をそのままにしたら、後々まで拙くなる気がした。

 

 彼女の手を取ろうとして伸ばした手は、避けられて空を切る。

 

「ちょっと待ってくだ――」

「触らないで!」

「さいよー……」

 

 消え入りそうな返事は虚しく空中に消えた。全力で閉じられた扉の残響音が室内に残り続け、鼓膜が痛くなる静寂が体の周囲を覆った。

 

「フラれた……」

 

 怒っている彼女の顔は乱れても美しかった。

 

 思い出すと温かいスープを飲んだように胸が暖かくなった。彼女の激情を真正面からぶつけられ、感情の起伏が消滅した心の砂漠が一瞬だけ潤った。

 

「不思議な感覚だ。本気で怒られたというのに。なんだろう、乾いた喉が一瞬だけ潤った感覚は。作戦終わったら機嫌直してくれるかな。今回は本気で頑張った方がいいかもしれない。だが、あそこまで怒っている状態がなんとかなるのか? 最悪な結果は二度と話してもらえないこと……か? 本当に最悪なのか? それはそれで……」

 

 応接間に一人残された彼は仮面を付け直し、ブツブツと今後の展開を考慮しながら悩み続けていた。

 

 受付嬢が来なければよかったとは思っていなかった。

 

 彼女が来なければ、ラキュースの怒った表情も見られず、心が一瞬でも満たされる事もなかった。

 

 

 

 





29日にカットされた会話、一部抜粋

「上手くいけば愛しのラキュースも手に入るんじゃないの?」
「愛しのって……別に愛しくないですよ。性欲が……ゴニョゴニョ」
「それは是非とも私にお聞かせ願いたいですね。ナザリックの将来という意味において」
「デミウルゴス……」


寝坊する。→19  時間通り
20以外でお茶を持っていく。→10 受付嬢襲来
奇数で手を掴める。→空振り

善行イベント→1 ファンブル

受付嬢の好感度推移
ダイス発生→1d% 90% 成功
好感度ロール回数 →1d4 →3
+セバス 1d20→6 + 4 + 17→現在 76
-ヤト -14 + -20 + -7→現在 -56


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