モモンガさん、世界征服しないってよ   作:用具 操十雄

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藪をつついて蛇が驚く

 

 プレイヤーの二人は、現実世界で同じ職種の経験がある。営業マンとは、話ができれば務まる仕事だが、実績を出さなければならない。職業柄、話しが長くなる。

 

 その理論通り、話が長くなった夜更かしが祟り、ヤトは昼を過ぎても起きる気配がなかった。朝帰りをしたセバスは、眠ったままの主を置いてはいけず、昼間は依頼に出なかった。

 

 生真面目な彼らしい判断だった。

 

 夕刻になってもヤトは起きなかったが、部屋にノックの音が響く。

 

「はい、どちらさまでしょうか」

 

 ドアを開くとラキュースとガガーランが立っていた。

 

「これは皆さま。ご機嫌麗しゅうございます」

八本指の各拠点調査に協力をした一件で、セバスは彼女達と面識があった。ガガーランは軽く手を上げ、ラキュースはお辞儀をした。

 

「よっ、セバスさん」

「セバスさん、先日はありがとうございました。無事にオリハルコンまで昇格したと聞いています」

 

 推薦をしたラキュースは、自分の見る目が間違っていなかったと喜んでいた。

 

「皆さまに推薦を頂いた御蔭でございます。ところで、今日は如何なさいましたか?」

「今日はヤトノカミさんと会う約束なのですが、彼は何を?」

 

 ラキュースは前日の件により、”様” ”殿”付けで呼ぶ気を失っていた。それが正しい判断だったとこの場で知る。

 

「それは困りましたね。まだ主は眠っております」

「おいおい、もう夜だぜ。何時から寝てるんだよ」

「私にもわかりかねます。朝、戻った時には既に床についておりました。少々お待ちください、様子を見て参ります」

 

 セバスは部屋の中に戻っていった。

 

「ヤトノカミ様。お休みのところ申し訳ありません。蒼の薔薇の方々がお越しになっております」

「ん……あー……もう、そんな時間か……」

 

 前日の夜更かしの影響で、頭の動きがとても鈍かった。緩慢な動作で起き上がってベッドに腰かけ、寝ぼけた顔・髪で薄いシャツのままで出て行こうとする。セバスは慌て、必死で止めた。彼の意中の相手が扉で待っているというのに、あまりに酷い顔だ。

 

「行かないとー……眠い……」

「お待ちください。彼女達は下でお待ち頂きますので、寝癖を直すところから開始いたしましょう」

「……寝癖、直すの好きだね。別にそれはいいんじゃない?」

「いけません。麗しい御婦人方との会談です。ヤト様はナザリックの一柱なのです。支配者に相応しき御姿でなければなりません」

「じゃあ声だけかけて来ようか」

「あ、お待ちください!」

 

 せめて顔くらいは洗ってほしかった。

 

 仮面を付けず、寝ぼけた表情以外の形容が出来ない緩んだ顔で、二人の前に立ち、自然とラキュースが失望する。

 

「……今、何時だと思っているのですか?」

「すみません。昨日は朝まで話し合いがあったので」

 

 謝罪をしているが、どこまで心が籠っているのかわからなかった。

 

「……貴方という人は本当に……はぁ」

 

 ラキュースは彼と会ってからため息が増えたことに悩んでいた。

 

「おいおい、頼むぜ。今日の主役なんだからよっ」

 

 ガガーランは彼の肩を叩いた。《上位物理無効化Ⅲ》により何の感触もなかった。不思議そうに、彼を叩いた手を眺めていた。彼は意に介してない。

 

「申し訳ないです」

 

 後ろから櫛を持ってセバスが迫る。

 

「ヤトノカミ様、こちらへお越しください」

「お酒飲んで待っててくださいよ、この部屋につけてくらはい」

「今日は洗いざらい、吐いていただきますからそのつもりで」

「はーい………ふぁーあ」

 

 最後の欠伸で全部、台無しだ。せめて立ち去るまで堪えてほしかったので、ラキュースは眉をひそめた。

 

「ラキュース様、ガガーラン様、下で少々お待ちください」

 

 ドアが閉められた。

 

 ラキュースが動こうとしたが、ガガーランは掌を見て悩んでいた。

 

「ガガーラン、どうしたの?」

「ん……いや、変な感触がしたからよ。ま、後で聞けばいいか」

 

 二人は酒場に向かった。

 

 

 

 

 主役を連れずに戻ってきて、お酒を飲み始めたガガーランに、イビルアイは文句を言う。

 

「なぜあいつは来ないんだ?」

「寝坊したってよ」

「ふん、そんなところだろうな。その程度の奴だ、王国から追放した方がいい」

 

 イビルアイの当たりは強く、恨みも深い。

 

「まだ恨んでいる」

「いいじゃねえか。酒は奢って貰ってんだからよ」

 

 豪快に笑い、お酒を飲み干す。

 

「鬼ボスどこいった?」

「応接間を取ってくれと頼みにいったぜ」

「下らん。早く帰りたいものだな」

 

 彼女の怒りはまるで収まっていなかった。

 

「おお、来たぞ。今夜の主役が」

 

 会談をすっぽかしそうになった優男は、執事を連れてのろのろと階段を下りてきた。

 

 仮面をしていないので、緩んだ顔が剥き出しだ。誰の目から見ても、まだ寝ぼけていそうだった。

 

「こんにちは。えーと、こちらの二人は初めましてですかね」

「どーも。ティア。セバさん、おひさ」

「どーも、ティナ。よろしく」

「よろしくお願いします」

 

 顔に興味がないと書いてある双子は、形式的に頭を下げた。

 

 セバスも礼儀正しくお辞儀をしている。

 

「この前の時にいたんだけどよ、テーブルに座ったままだったんでな」

「あーそうスか。よろしくお願いします。あとイビルアイさんも久しぶり」

「……」

 

 彼の仮面を見て、少年だと思われていたあの時が思い出され、怒りを新たにした。

 

「今日は顔合わせみてえなもんだ。八本指の件も聞きてえからな」

「みんな、準備ができたそうよ。こちらへ」

「あ、お酒が……」

「ヤトノカミ様、参りましょう」

「あ、うん……」

 

 喉が渇いていた。

 

 

 

 

 応接間にて、”ナザリック”と向かい合って“蒼の薔薇”という配置で席についた。

 

「自己紹介は必要ないわね。早速、始めましょう」

 

 ラキュースがまとめた聞きたい報告は以下の通りだ。

 

 八本指とどんな話をしたのか。

 帝国で何があったのか。

 彼らのボスは誰だったか。

 六腕と一緒でなぜ無事だったのか。

 

 どれから答えるにしても、ヤトには説明することが多すぎた。

 

「……えーとまず八本指の賭場であ……潜入した話からですね」

 

 八本指はナザリックの支配下に入ってますと言えず、虚偽を交え誤魔化しながら説明する。文字に起こすとあちこちで矛盾が起きる話だった。

 

「で、六腕は四腕となってます。ボスの顔は覚えてないス」

「ちょっと待って、なぜ二人も殺害して無事なんですか?」

「あいつらってアダマンタイト級に強いんじゃねえのか?」

 

 ラキュースとガガーランはツッコミの様に早く反応する。

 

「簡単ですよ。俺がそれを超えるくらいに強いんで」

「……」

 

 不審気な彼女達の視線により、沈黙が流れた。

 

 ヤトは強さに関して嘘は言っていない。セバスの無言の肯定が、彼女たちを安心させた。いい加減でやる気のないヤトはともかく、セバスは信用に足る。

 

「えーと……まとめると彼らの白金貨1,100枚を6,000枚に増やしてから、帝国に目を付けられ帰ってきて……」

「六腕と戦って二人殺して逃げ帰り、ボスの顔を覚えずに金は全て奪ったぁ?」

「ふざけるな! そんな事ができるものか!」

 

 苛立ちながら黙って聞いていたイビルアイは、声を荒げてテーブルを叩きながら立ち上がる。

 

「本当なんだから仕方ないですよ」

「イビルアイ、落ち着く」

「宿で暴れたらこっちも困る」

 

 ガガーランが出鼻をくじこうと言葉を発した。

 

「ちょっと教えてもらいてえんだけど、いいかい?」

「はい」

「さっき軽く肩を叩いただろ。霧に手を突っ込んだみてえな感触だったんだが、変わったマジックアイテムでも持ってんのか?」

 

 ガガーランは彼の特殊な行動が、マジックアイテムによるものと推測していた。

 

「あー、レベルの弱い攻撃は無効化されるんです。」

「無効化? れべるを知っているのか?」

 

 イビルアイが食いついた。

 

「レベルって……一般的には知らないんですか?」

「ほう…詳しく知っているなら興味深いな。ところでヤトノカミ殿、私を少年と間違っていたのはなぜだ?」

 

 イビルアイが態度を反転させ、大人しい口調に正した。

 

「その声が性別不明の歪んだ声だったから」

「……なるほど。次は無効化というものに興味がある。ちょっと試してもよいか?」

「どーぞ、じゃあこっちへ」

「おいおい」

「気にしないでいいですよ」

 

 二人は何も置いていない部屋の端に移動した。

 

 イビルアイはヤトに軽く拳をぶつける。

 

 ぽすっぽすっと自転車のタイヤに空気を入れるような音がした。

 

「本当に無効化されているな。まるで手ごたえを感じない。霧に手を突っ込んでいるみたいだ」

「この前のアイテムボックスといい、不思議な物を使えるのですね。黒粉畑を焼いたときも、何かのアイテムですか?」

「……まぁ、それなりに」

「?」

 

 実は大蛇ですと、言えたら楽だった。

 

「無効化は解除すんのもできます」

「解除してみてくれないか?」

「ああ、はいはい。どうぞ」

「感謝する」

 

 イビルアイは助走をつけようと後ずさった。

 

「ん? なぜ後退していく」

 

 彼女はゆっくりとこちらに走ってくる。速度は徐々に上がっていき、途中で飛び上がって蹴りの体勢を取る。左足を折り畳みながら右足を突き出して、ヤトへ向かって空中を進んでいく。

 

 渾身のライダーキックだが、そんな言葉を彼女が知る由もない。

 

 特撮好きなヤトは、小柄でありながら綺麗な姿勢(フォーム)で向かってくる彼女に見惚れた。

 

「綺麗なライダーキ……ぐう」

 

 《上位物理無効化Ⅲ》を解除したことは、もう忘れていた。無防備な彼の鳩尾、人体の中心部に怒りを込めた蹴りが入れられ、ヤトは後ろへ倒れた。小柄な彼女の小さな足は、まるで一本の槍だった。

 

「いってー……うーん……」

 

 痛みはなかなか治まってくれず、床を転がり回った。

 

 セバスは目の前の光景が理解できず、反応もできなかった。

 

 依頼に協力した際に打ち合わせた時の彼女は、こんな暴挙にでるタイプではなかった。慎重で冷静、レベルは50前後で魔法詠唱者、仲間を大事に思っている。二人ともまさか攻撃されるとは考えておらず、加えて無防備に急所への一撃を受けたヤトの衝撃は大きかった。

 

「覚えておけ! 私は女だ! この無礼者!」

 

 仁王立ちになってヤトを指さし叫ぶ彼女の声は、転がり回るヤトの耳に入らなかった。

 

「イビルアイ!何てことをするの!」

 

 ラキュースが慌てて駆け寄り、《治療(ヒール)》をかけてくれた。

 

 手の中に柔らかい光が宿り、転がる黒マグロを優しく照らした。

 

「やりすぎ。逃げた方がいい」

「治ったら殺される」

「理屈じゃないんだろうぜ。でも確かに逃げたほうがいいかもな」

「誰が逃げるかっ」

 

 緩んだ空気の彼女達は想像していなかった。

 

 穏やかで優しい人格者の執事が、自らの主と敵対した場合、全員の命を一瞬で奪う力と残酷さを持っているのだと。

 

「イビルアイ様、私の主に敵意を持って接する行為がどのような意味を持つか、お分かりですか」

 

 セバスの体から強烈な殺気が溢れる。

 

 復讐が成功させて落ち着いたイビルアイは、身の危険を感じて後ろに下がった。

 

 強烈な殺気を放ちながら、セバスは迷っていた。

 

 至高の41人の一柱であり、身を粉にして忠義を尽くす主の一人に攻撃など、考えるまでもなく言語道断だ。たとえ、自ら至高の41人を降りたと話していても、ヤトノカミは支配者だ。カルマ値が悪に寄っている者であれば、即座に殺戮に興じた。

 

 しかし、セバスは創造主に似て、甘いほどの善人だ。

 

 彼女の性格を知っており、反撃に迷いはあるが、ナザリックの執事として見過ごす訳にもいかなかった。彼は戦闘態勢を取り、少し腰を落として中段に構えた。

 

「私の主に無礼を働いたものを、このままにする訳には参りません」

 

 攻撃するつもりはなかったが、全力の殺気は絶やさなかった。それが極めて善なる執事としての、セバスの選択だった。本物の殺気で、彼女達も事態の深刻さを把握する。

 

「待ったあ! 待ってくれセバスさん! 謝らせるから許してくれ!」

 

 ガガーランが両手を前に出し、間に立ち塞がる。

 

「セバスさん! 私も謝ります、許してください! 傷は私が治します!」

 

 治癒魔法をかけながらラキュースもフォローする。

 

「あ……あ……その……」

 

 当事者のイビルアイは大量の殺気を直に浴びて、子猫のように震えていた。手こそ出してこないが、セバスの殺気に手加減はない。クライムが震えあがり、心臓の鼓動が自発的に止まろうとするよりも強い殺気を、イビルアイはその身に受けた。

 

「イビルアイ様、私は貴方が軽率に敵対する方ではないと信じております。ですが、ナザリック地下大墳墓に君臨する至高の41人が一柱、ヤトノカミ様。神に等しき御方に無礼を働く狼藉者を、見過ごすことはできません」

 

 セバスはうっかり大事な情報を簡単に漏らした。

 

 件のヤトは床に仰向けで静かに横たわっている。

 

「あ……ご、ごめんなさい」

 

 イビルアイの仮面から弱弱しい謝罪が漏れる。穏やかで優しい執事が竜王に変わり、伝説のヴァンパイア”国堕とし”が子猫になった心境だ。

 

「イビルアイ、早く逃げて。時間稼ぐ」

「多分、すぐにやられる。少しでも遠くへ」

 

 いつの間にかティアとティナも、ガガーランの両脇でクナイを構えていた。冷静な双子の忍者も冷や汗を掻いている。動かない執事の強い眼光は、必ず殺す意思が宿っていた。

 

「くそっ! あんたとはヤりたくねえんだよ!」

 

 ガガーランも戦鎚を構えた。

 

「お願いだからみんな止めてぇ! あなたからも何か言って!」

 

 応接間にラキュースの絶叫が響く。

 

 気絶していたわけではないので、声は聞こえていた。仮面の隙間から見える、黒いタイツを履いたラキュースの太ももが眩しかった。

 

「セバス、そこまで」

 

 その一言で場が沈黙する。

 

 彼は痛みが落ち着いてから、ラキュースのそれしか見えていなかった。

 

 セバスは殺気を止め、構えを解いたので、三人は安心して気を抜く。

 

 一触即発に見えた空気は緩んだものの、誰も何と言えばいいのか分からなかった。強烈な殺意を浴び続けたイビルアイは、立つ力を失って床にへたり込む。

 

「ああ、よかった」

「俺なら心配は――」

「あなたじゃありません」

「ちょっとは心配して下さいよ」

「黙りなさい! イビルアイ、大丈夫?」

 

 ラキュースは躊躇いなく離れ、へたり込んでいる仲間に駆け寄っていった。

 

「ちぇ……はあーあ、残念っと」

 

 のそのそと立ち上がった。攻撃は予想以上に痛く感じたが、彼の心は痛みを受けた喜びに満ちていた。アインズがカルネ村防衛戦にて、天使の一撃を受けて笑っていたときと同様、初めてのダメージを堪能した。

 

「ここに来て一番、痛かったかも。これが痛みか」

「ヤトノカミ様、よろしいのですか」

「別にいいよ。ちょっと大げさに脅かし過ぎじゃない?」

「その通りでございます。流石はヤトノカミ様。蒼の薔薇の皆様、大変に失礼を致しました」

 

 深いお辞儀で詫びを述べた。

 

(……さっきまで殺すつもりだったじゃないかぁ)

 

 イビルアイはラキュースに肩を借りながら心中で呟く。

 

「……はぁ、よかった。ではとりあえず、みんな座りましょう」

「ところでなぜ俺はライダーキック食らったんだ?」

 

 先ほどのイビルアイの言葉は、悶絶していた彼の脳に届いていなかった。彼だけが最初から、気の抜けた雰囲気のままだった。

 

 この一件によって話は混迷し続け、何一つとして進まなかった。なぜイビルアイに蹴られたのか不明なヤトは、楽しそうに話を混ぜ返した。彼にとっては、痛みを受けた楽しい思い出だが、イビルアイには苦い思い出になった。

 

 ラキュースが仕切り直すまで、皆の口数が減り続ける状況が続いた。

 

「なるほど、つまり少年扱いをされていることに怒っていたというわけですね、少年」

「ヤト! お願いだからこれ以上蒸し返さないで!」

 

 既に“さん”付けすらされなくなっていた。五回以上も仕切り直しをさせられたラキュースは、前日と同様にとても疲れていた。

 

「仮面のせいで間違ったんですよ。他の人は彼女の仮面の下を見たことは?」

「ある」

「いいにおひ」

「仲間だからな、それくらいはあるぜ」

「じゃあ、大丈夫か。俺はアンデッドだって知ってんぞ」

「なんと、そうなのですか?」

 

 セバスは気付いていなかった。

 

 アンデッドの気配は、アイテムにより消されていた。

 

 みんなが安心して話を弾ませると思ったが、全員が黙り込んでしまった。今度の沈黙は重苦しかった。

 

「あれ……? なんでみんな黙るの?」

「誰か話した?」

「あんた、なんで知ってんだ?」

「なんでって……ちょっと特別なスキルを」

「スキルって何? 武技?」

「えぇ……うーん、なんていえばいいんだろう。スキルはスキルだよ」

「武技とは違う、特殊な技や技術でございます」

 

 セバスが丁寧に補足をする。

 

 彼がいなければ更なる混乱を生んだ。

 

「無効化もアイテムボックスも、何かと特殊なことが多いですね」

「体温を感知するスキルだから、探知できない存在はアンデッドです。原始的なスキルだから気配を消してもわかります。体温があれば全て感知するから面倒なんですけどね」

 

 先陣で雑魚を蹴散らしながら、ボスまで一番乗りに賭けていた彼には相応しいスキルだった。

 

「まさか……そ、その、ヤト殿。一つ聞きたいのだが、あなたはぷれいやーなのか?」

「……」

 

(やっべー……なんでこいつがそれを知ってんだ)

 

 無言で悩み始めた黒髪黒目の男から冷や汗が出た。

 

(やばい……これはアインズさんに怒られる。否定しないと、既に悩んでいるのが肯定だ。いや、まだ誤魔化せる……か? 無理じゃね? それよりこれはどっちが正解だ?ばらすのがいいのか?バラすのがいいのか?最悪は殺すのも想定に……ああ、でもナザリックに招く事もできなくなるし、アインズさんもツアーという奴に話したって。じゃあいっその事、プレイヤーとバラしてしまっても)

 

 長い、本当に長い沈黙の間、ヤトは長考した。恐らく、この世界にきてここまで悩んだことはなかった。しかし、知性が低い彼は、悩んだ時間の割に簡素な答えを出した。

 

(押し通す……)

 

 ヤトはわざとらしく手を差し出した。

 

「イビルアイ、プレイヤーを知っていますか?」

「え?」

「プレイヤーというのがどれくらい強いのか興味がありまして、イビルアイはプレイヤーと会ったことは?」

「あ、ああ……ある。かなり昔の話だが」

「そうですか。ところで仮面は取らないのですか? 今は何歳? 本当に女性なのか確認したいが」

 

 別の質問攻めにして誤魔化す、いい加減な策だ。

 

「あ、仮面はその、種族がバレてしまうから」

「何を言うんだ! その仮面の下が醜いアンデッドであったとしても、そんなことで責めたりする者はここにいません!」

 

 日本語さえ怪しい男は、立ち上がって右手を無造作に突き出し、パンドラのオーバーアクションの真似をした。不安による冷や汗がテーブルクロスに滴らないかを心配した。

 

「イビルアイ、大切な仲間はその程度の存在ですか? それともこの私が、セバスの主人であるこの私が、その程度の小物に見えると! ……言うのですか?」

 

 帽子を被っていれば完璧だった。

 

 急に動きが大きくなった彼に、皆が注目し、イビルアイは激しく動揺していた。

 

「い、いや、そのぅ……違う、違うんです。これは……」

「ならば素顔を晒し、顔を見せて下さい。誰もあなたを責めたりなどしません。」

差し出した手を強く握る。

「ぁ、はい……わかり、ました」

 

 ヤトは飛び上がりたいくらい嬉しかった。これなら誤魔化せると踏んだからだ。仮面を被ったイビルアイの素顔は美しい金髪の少女だった。

 

「ヴァンパイアか、思ったより可愛らしいじゃないスか。フードも取ってください」

 

 腐り落ちた顔面が現れる覚悟をしていたので、とんだ拍子抜けだ。

 

「え……あ、そ、そうか?」

 

 彼女は褒められて嬉しそうだ。金髪のサラサラな髪、紅の瞳、口元から覗く牙、とても可憐な吸血鬼(ヴァンパイア)だった。もっとも、子供が守備範囲外のヤトが、強い興味を惹かれることもなかった。

 

「それならこ……淑女と分かるから、間違えなかったでしたよ」

「そうか? いや、これでも昔はくにおと……」

「イビルアイ、だめ」

「話し過ぎは良くない」

 

 ティアとティナに話を止められる。

 

「おう、ヤトさんよ。今度はそちらの事も教えてくれよ。」

 

 二人の意思を察したガガーランが援護射撃を打つ。

 

「欲しい物はラキューさ――」

「黙りなさい」

「さ? ラキューさってなんだ?」

「いいから、そろそろナザリックのことを教えてください」

 

 強引に話を勧めようとするラキュースに、双子はイビルアイとは違う面白そうな匂いを嗅ぎ取った。

 

「鬼リーダー、何かあった?」

「そうそう、ラキュースさんの」

「黙りなさい!」

 

 自分たちリーダーが発した突然の大声に、仲間は一歩引く。

 

「えぇー……すんません。えっと……教えてって言われてもラキュースさんに話した以上の話はないッス。地下10階層からなる広大で美しい神殿。酒を飲むバー、美味しい食堂、地下なのに夜空が見える円形闘技場、溶岩が煮えたぎる火山、吹雪で凍り付く雪山、広いお風呂とか」

 

 セバスは頷いているが、他の全員が意味を理解していない。

 

「意味がわからない」

「何それ、神話の話?」

「すまねえが、さっぱり理解が出来ねえ」

「言葉通りの物が存在すると思えば大丈夫。全て本当にあります」

 

 詳しく説明する気はなかった。あまりに長くなるうえ、先ほど勢いで覆い隠したプレイヤーの話までしなければならない。運悪く、イビルアイは先ほどうやむやにした質問を思い出していた。

 

「あ、ヤトノカミ殿。先ほどのぷれいやーか否かの質問に答えてもら――」

「おお! そうだった! 俺の主であり友人、ナザリックの王が君達を来賓として招きたいそうです」

 

 慌てて話題を逸らす。

 

「よろしいのですか?」

「見てみたい」

「私の質問にこた――」

「な、何人来ても大丈夫ですよ! 仮に100人連れてきても! とりあえず蒼の薔薇の方々は来ればいい。暇な時を教えてくれれば話を通す。案内しますよ、なんなら泊まっていっても大丈夫! 広いお風呂で戦いの疲れを癒して下さい。入浴の作法にはお気を付けて」

「可愛い女の子いる?」

「メイドは全員が美人だ。でも手を出すと王様に怒られるよ」

 

 冗談だと思い、さらりとティアがレズビアンである件を聞き流した。

 

「残念……美女なら見るだけでいい。匂いは嗅ぎたい」

「なぜ私を無視す――」

「匂いくらい好きなだけ嗅がせるから! 全員が絶世の美女らしいんで! いつでもいいから日程を!」

「……」

 

 イビルアイは度重なる無視に諦めてしまった。

 

「じゃ、そういうことで、もう遅いからまた今度! セバス、戻って寝る。俺はもう眠い!」

「ちょっと! まだ話が終わっ――」

「大丈夫です!俺はここで泊まってますんで、何かあれば部屋に!」

 

 声の残響を残し、風のように走り去っていった。扉を開いて出ていく姿さえ見えず、忽然と消えたヤトに皆が唖然とした。ヤトはヤトで、アインズに一刻も早く相談したかった。

 

 彼のように精神の沈静化で臨機応変、かつ冷静な対処ができない体を恨んだ。

 

 とても困っていた。

 

「なんなの……八本指の今後の話はできなかったじゃない」

「まったくわからん。何かを隠しているのか?」

「セバさん。しこうの41人って何?」

 

 ティナが不思議そうに尋ねる。

 

「あと彼の名前はヤト? ヤトノカミ? どっちなのですか?」

 

「順にお答えします。ナザリック地下大墳墓は41人の神に等しい力を持った、尊き御方々によって創造されました。神に等しい至高の41人の一柱こ――」

「危ないな! 余計な事言わずに早く来い!」

 

 風のように出ていったヤトが、風の如く戻り、再び風になって出ていった。誇らしげに話していたセバスの口が止まった。

 

「申し訳ありません、今日はここまでに致しましょう。蒼の薔薇の皆様、御方の名はヤトノカミ様です。それでは、これにて失礼いたします」

 

 既に姿の見えない主人の後に続いた。

 

 

 

 

「なんなの……?」

「最後の方は私を無視し続けたぞ。やはり彼はぷれいやーと考えるべきだ」

「ぷれいやー?」

「十三英雄や六大神、八欲王などの神に等しき力をもった存在だ。”ゆぐどらしる”という場所からこちらへ来る者がそうだ」

「でもよ、南方の血が入ってるぜ。そっちの出身なんじゃねえの?」

「可能性の話だ。もし、ぷれいやーだとすると非常にまずい……彼は少し変わっているが」

「あんな変な人が神様なのかしら?」

 

 執拗にお皿の一件で馬鹿にし続ける、変な仮面を思い浮かべる。

 

「イビルアイ、神様蹴飛ばした。ライダーキックって何?」

「うっ……い、いや、ライダーキックは私も知らん。今度会ったら本気で謝っておく」

「セバス様にもね」

「う……うん」

 

 ヤトよりも、セバスの殺気の方が強烈に残っていた。イビルアイは頭を垂れた。

 

「今日は疑問が増えただけ。何者か余計に分からなくなった」

「本当だな。結局はなんだっつうんだ? あいつは神様か?」

「美女……早く行きたい……。鬼リーダー、すぐ行こう。まだ起きているはず」

「落ち着け。でまかせかもしれないからな」

「そうよ。まだ安心はできないわ。隠し事があるのは殿方には……ん、怪しいものね」

「鬼リーダー、どうした? 装備品変える?」

 

 中途半端に聞くことで、却ってわからなくなる場合がある。聞きたいことは山のようだったが、半端に聞いたことで天まで伸びるバベルの塔になっていた。ティア以外の四人は得た情報を精査し、次に何を聞くべきかを深夜までまとめ続けていた。

 

「美女が一杯……」

 

 

 彼女達は何もわかっていないが、それはヤトも同様だ。

 

 5人の職業すら理解しておらず、イビルアイのちょっとした情報だけを得た。蒼の薔薇がヤトの言葉を信じ、本当に部屋に来ても困るので、アインズの言葉通りナザリックへ逃げ帰った。

 

 アインズとデミウルゴスを交えながら、今後の戦略を練ったが、朝まで続く長い会議となってしまった。

 

 帰ってきたヤトは、前日と同様に夕方まで眠り続けた。

 

 

 





寝起き→寝過ごしました。
地雷踏む→60% 外れ クリティカル確率Down
→ファンブルなし クリティカル率40%
→当たり


ラキュース好感度 1d20→6→ 現在41
最後のダイス9以上で悲恋回避。


ラキュースでも性欲値が上がる+10 現在30 上限50


イビルアイの好感度ゲージ出現 ただし条件は下記の通り
ヤト 2d8 まだダイス不可
アインズ 1d10 まだダイス不可
モモン 1d20 出会って機会があれば可能


好感度
女性50で恋愛関係イベント。
50→相手の短所を知らずに、長所だけみて関心を寄せている状態。
100→相手の清濁・表裏、全てを受け入れた状態。

女性側の好感度が50を超えた段階で男側の好感度ゲージが出現
ナザリック勢は初期値100(アインズ・モモン・鈴木悟のみ)

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