モモンガさん、世界征服しないってよ   作:用具 操十雄

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13日目 城塞都市エ・ランテル

 

 

 ナザリックで内務をこなしている途中、ナーベから連絡が入った。冒険者組合からモモンに来てほしいと使者が来たらしく、切りの良いところで内務はアルベドに引き継いだ。

 

 エ・ランテルに戻ったモモンはナーベと共に冒険者組合へ向かった。

 

 冒険者組合に到着してすぐ、二人は打ち合わせ用の応接間に通された。

 

「盗賊団の調査……ですか?」

 

 用事があったのはエ・ランテルの冒険者組合長であるアインザックだ。彼は自分の髭を撫でながら、かねてより周辺で被害を出している盗賊団の調査をしてほしいと頼んだ。

 

「その通りだ。他の冒険者と組んで当たってもらいたい」

「他の冒険者とは?」

(アイアン)の冒険者だ。もうすぐここに着くと思うが」

 

 ノックで心構えをさせることなく、いきなりドアが開かれた。男女六人の冒険者たちが、一様に不安な顔で立っていた。先頭の赤髪の女性には見覚えがあった。

 

「し、失礼します! モモンさ、さん! 先日は大変、も、申し訳ありませんでしたあ!」

 

 赤髪は深く頭を下げた。彼女は初日にいちゃもんをつけてポーションを掠め取ったブリタという女性だ。後輩だった新米モモンが、自分たちを大きく飛び越えて高みに行ってしまったので萎縮していた。特に、直接、無礼を働いたブリタの萎縮は他の比ではなかった。

 

「そんなに畏まらないでも構いませんよ。同じ任務に当たる仲間ですから」

 

 他の冒険者から安堵の息が漏れた。ブリタからポーションの一件を聞き、半ば強引に奪い取った件が尾を引いていないか不安だったのだ。これで将来有望な冒険者と友好関係を構築し、新たな依頼で共闘できると安堵し、全員はそれぞれが適当に座った。

 

 鉄級の冒険者にはチームを組んでいない者もいる。様々な冒険者たちと出会い、自分に必要な、あるいは欠けている箇所を見つけ、それを補う相手と組むことができるからだ。

 

 皆が席に着いたのを確認し、アインザックは咳払してから説明を再開した

 

「話を続けよう。王都からの協力要請で、犯罪組織を摘発することが決まった。そこで、関与している可能性があるもの。これから関与しそうなものへ事前に手を回して領内の浄化をしてほしい」

 

 依頼内容は二つ。

 

 アジトを襲撃して、彼らを捕まえる。

 アジトに拉致されている女性を助ける。

 

 理想は殲滅だが、相手の数が多いので最優先すべき内容ではない。王都で行われる作戦の影響を考え、しばらく身動きができない程度に痛めつけてくれれば問題ない。余力があれば盗品も回収してきてほしいと説明してくれた。

 

「なるほど。他のミスリル冒険者は出払っているのですね」

「君たちしかいないというのも理由の一つだが、私は君に期待しているよ、モモンくん。君ならば必ずやこの依頼を――」

「ありがとうございます。具体的にはどのような作戦で行うのですか?」

「ん、うむ……ブリタくん」

「は、はい! で、では、及ばずながらこのブリタが、説明をさせて、え、と、いただきます!」

 

 ご飯でも食べるのかと、聞きたくなるくらい変な間を入れた。

 

 畏まっているブリタの話によると、モモンとナーベが盗賊のアジトの見張りを急襲。馬車1台を入り口につけ、モモンのチーム“漆黒”が先陣を切る。突撃したモモンが盗賊を引き付けている間、拉致されている女性達を助ける班、外から帰ってくる盗賊の捕縛をする班の二手に分かれるという。

 

「なるべく多くの賊を生かして捕らえたいのだがな。相手に凄腕の用心棒がいる情報が入っている。不測の事態に備え、充分な注意をしてくれたまえ。できれば、全員が無事に帰還してほしい」

「お話はわかりました。今回、撤退はないと思ってください。ブリタさんの提案した内容で行きましょう」

 

 モモンの落ち着いた声が応接間に流れた。ナーベは澄ました顔で話を聞いている。彼女がこの顔をしているときは、興味がないときだ。

 

 一見して、モモン一人に負担が大きいように思えるが、盗品を着服し、アンデッドの素材の死体を攫うのに都合が良かった。ブリタもそれ相応にモモンの実力を評価しているようで、やっかみや裏工作の意図は見受けられない。

 

「それで、盗賊は”塩招く剣団”でしたか?」

「いや、”死を撒く剣団”だ。帝国との戦争では傭兵部隊となるのだが、平常時は盗賊で生計を立てている。ごろつきの集団だな」

 

 ブリタが書類を見ながら補足する。

 

「え、と、数は80人前後で、エ・ランテルにも拠点があります。普段は盗賊の拠点の方にしか居ません」

「エ・ランテルの拠点は大丈夫ですか?」

「そこは有事のみ利用する拠点のようだ。誰も居ないのは彼らが確認をしてきている」

「内容はわかりました、ありがとうございます。アインザック組合長、ブリタさん。一つ提案があるのですが」

「は、はい! なんでも言ってください!」

「どうしたのかね、モモンくん」

「馬車を二台にしてもらえませんか?」

 

 モモンは依頼内容を、盗賊の殲滅に変更した。

 

 鎧のスリットに赤い光が宿っていた。

 

 

 

 

 盗賊討伐の即席部隊は、夜を待って森の中に潜伏した。レンジャーの探索で付近に人影は発見できず、洞窟内に居ると思われた。洞窟を改良したねぐらの入口に見張りが二名、武装して立っていた。装備品は下級品で、強さもたかが知れている。

 

「皆さん、私達が彼らを倒してから、速やかに馬車を入口へ」

「はい! わかりましたあ!」

「ブリタ! 声がでかい!」

「ご、ごめんなさい……」

 

 仲間に怒られて恥ずかしそうに俯いた。初めての依頼ではないはずだが、何に緊張しているのか不明な彼女が、モモンの懸案事項となっていた。

 

「……後のこと、よろしくお願いします。いくぞ、ナーベ」

「はい、モモンさ……ん。《飛行(フライ)》」

 

 舞い上がる二人をブリタは目で追う。姿が見えなくなっても、いつまでもそちらを見ていた。

 

「はあ、凄いなあモモンさん」

「ほら、俺たちもさっさと行こうぜ。英雄に迷惑かけちゃまずいぞ」

 

 他の冒険者もブリタと大差なく、モモンの立ち居振る舞いに親しみと尊敬の念を抑えられない。自信に溢れる彼は頼もしさを感じ、周囲が認める英雄になりつつあった。入口の上空で魔法を解除し、モモンとナーベは入口に落下する。

 

「ナーベ、やれ」

「《龍雷(ドラゴン・ライトニング)》!」

 

 放たれた雷撃により、見張り何らかの行動を起こす前に消し炭となった。肉の焼ける匂いが辺りに立ち込めたが、人肉の匂いだとは誰も思わないはずだ。

 

「やはり余裕だな、これは。ナーベ、お前は後から冒険者たちを引率しろ。私は盗賊相手に剣の練習をする。取り逃がした賊の始末も頼む」

「畏まりました、モモン様」

「ハムスケも連れてくればよかったな。あいつは動物の勘が鋭い」

「いえ。あのようなペットなど、自宅待機が相応しいかと思われます」

「そうか?」

 

 所詮は獣だと侮り、ナーベのハムスケに対する当たりは強い。また、それは的確に的を射ており、ハムスケはモモンが出掛けたとき、鼻提灯を膨らませて居眠りをしていた。

 

「では、私は先に行く」

「御武運を、モモン様」

 

 洞窟を改造したアジトだったが、中は意外と広かった。モモンが両手で剣を振り回しても問題が無い程度に天井は高く、部屋数もかなり多かった。

 

「なんだあこの野郎!」

「食らえ!」

「死ねええ!」

 

 思い思いに襲い掛かってくる下っ端へ、首に一撃を加え、一人一人を丁寧に気絶させながら奥へ進んでいった。殺してしまえば楽なのだが、組合は情報を欲しがるだろうと思い、最初のうちは誰も殺さなかった。

 

「ふう、もう半分くらいは倒しただろう。あとは殺してしまうか」

 

 虫けら(人間)に対するモモンの心の機微など知らない盗賊は、これまでと同様に襲い掛かる。誰も殺されていないので、命まで取らない相手だと舐めていた。同時に斬りかかった数名は、大剣の一撃で真っ二つに惨殺された。拠点のアジトへ断末魔の叫びが木霊し、洞窟内は恐怖と赤色に染まっていった。

 

「よお」

 

 震えながら怯える盗賊を押しのけ、奥から青い髪の剣士が現れた。彼の腰には刀が差してある。刀が珍しい武器だとはいえ、ヤトの物と比べると出来が悪く、データ量も低そうだった。

 

「お前ら下がっていいぜ」

「あ、あとは頼んます! ブレインさん!」

 

 怯えた盗賊は奥へ逃げていった。ブレインとモモンは鉄火場で対峙し、無言で互いの実力に探りを入れ合った。

 

「……噂の凄腕用心棒か?」

「用心棒は俺しかいないからな、そうなんだろうぜ」

「一つ聞きたいのだが、いいか?」

「なんだ?」

「君はガゼフ・ストロノーフより強いのか?」

 

 その言葉で相手の雰囲気が変わった。死合い前の張りつめた表情で、殺気の込めた視線でアインズを射抜いた。戦士として成長したいという希望を満たせそうな相手に、漆黒の全身鎧内部で肋骨が躍った。

 

「奴とは因縁がある。昔だが互角の戦いを行った。その時は油断で敗れたがな」

「今は違うと?」

「ああ、俺は強くなった。剣の稽古しかしていない」

「それは楽しみだ」

「ブレイン・アングラウスだ」

 

 ブレインは腰を落とし、抜刀の瞬間が最速と言われる居合の体勢になった。

 

(ほう、居合か。刀で居合を習得しているとは……楽しみだ)

 

 新たな技、詰まれる経験値、武技の取得者との出会いに期待した。

 

「冒険者モモンだ。行くぞ、ブレイン・アングラウス」

「《領域展開》」

 

 ブレインの周囲に何かが広まったのを感じた。居合の切っ先が届く範囲の攻撃と予測できたが、モモンは構わずに踏み込んだ。

 

「馬鹿が! 領域と神閃の複合、虎落笛(もがりぶえ)!」

 

 人の目では知覚できないほど早く、刃はモモンの首を狙った。

 

 油断はしていなかった。

 

 タイミングも最高だった。

 

 刀は大型の剣であっさり受け流されていた。

 

「なっ……!」

「ふむ、目を狙うかと思ったが……まぁいい、上手く受け流せたようだな。全身鎧に対し、居合はどうしても狙う場所が限定されてしまう。私には通じないぞ」

 

 全身鎧(フルプレート)の彼に対抗するための狙い場所など、初めから限られていた。モモンは大剣の片方を背中に掛け直し、残った一本を両手持ちに変える。定石(セオリー)から外れ、腕や足を狙っておけば当たった可能性が高かった。

 

「さあ、全力でかかってこい!」

 

 最大にして最強の技を破られ、全力も何もない。滝のような汗を流し、ブレインは改めて武技を使った。

 

「《四光連斬》!」

「この技は原理がよくわからんな」

 

 四つの斬撃の同時攻撃がくる。防ぎ方がよくわからず、モモンは剣を適当に振ったが、鎧に斬撃の衝撃を受けた。魔法で作った鎧に傷が入った。初めの技に比べて切れが悪かったが、命中しただけで感心した。

 

(鎧に傷をつけたか……武技使いは欲しかったから、こいつは持って帰るとしよう)

 

 ブレインにとっては非常に物騒な話だ。

 

「これも通じないのか……ふふっ、ああああ!」

 

 がむしゃらに刀を振り、斬りかかってくる。

 

 モモンは適当にいなしながら、他の武技を使うのを待っていた。アインズは魔法詠唱者で、戦士としてのレベルにブレインと大差があるわけではない。単純な力だけならアインズに軍配があがることに加え、不死者(アンデッド)のアインズと、自慢の技をたやすく破られたブレインでは、既に勝敗は決していた。ブレインはがむしゃらに斬りかかりながら、勝負を投げ出しつつあった。

 

 遂に力尽き、肩で息をしてモモンを睨んだ。

 

「はあ……はあ、はあ」

「どうした? もう終わりか? こないならこちらから行くぞ」

 

 モモンが一歩前に出ただけで、死の恐怖が接近したのがわかる。漆黒の全身鎧の冒険者は、暗黒を身にまとう髑髏の死に神に変わっていた。

 

 限界まで瞳孔が揺れ、ブレインは洞窟の奥へ逃げ出した。

 

「うわあああ!」

「あ……」

 

(また逃げられた……ここで逃がしたらまた文句を言われてしまうな。まあ、洞窟なんて行き止まりなんだから、奥まで行けば居るだろう)

 

 抜け道があるとは予想していなかった。こなすべき内務もあるので、武技の練習時間もすぐにとれない。そこまで必死で追いかけるような気にはならなかった。

 

「モモン様、何か問題が?」

 

 洞窟の散策を始めていたナーベが、ブレインの悲鳴を聞いて駆けつけた。

 

「ああ、ナーベか。特に問題はない。私はこれから奥へ追撃に入る。各部屋を確認し、冒険者達が来る前に盗品、財宝の回収だ」

「はっ、畏まりました」

「盗賊が残っていたら殺しても構わん。女性がいたら冒険者に渡せ」

「お気をつけて、モモン様」

 

 ブレインが逃げ込んだ奥の部屋で、盗賊の頭領が生き残った仲間を集めて立て籠もっていた。

 

「うわあああ!」

「ブ、ブレインさん!?」

 

 逃げていくブレインが盗賊たちの横をすり抜け、奥の抜け道へ消えていった。武器を掴んでこそいたが、彼の姿を見る限り逃げ出したと見るのが自然だ。高い金を払った用心棒が逃げ、頭領は怒りを露わにした。

 

「あぁの役立たずがぁ! 全員弓を構えろ! 誰かきたら構わず打て!」

「うわ!」

 

 入口の方から誰かの叫び声と何かを引き潰したような音が聞こえた。盗賊達に緊張が走り、誰かが唾を飲む音が妙に大きく聞こえた。やがて、奥から黒の全身鎧(フルプレート)が現れる。

 

「盗賊諸君、投降すれば命は助けよう」

 

 二本の大剣を構えたまま呼びかけたが、殺気立った盗賊は聞く耳を持っていない。賊たちは命を拾う最後の機会をあっさりと捨てた。

 

「撃てぇ! 全員、撃て! 矢を絶やすなああ!」

 

 頭領の絶叫と共に全てのボウガンから矢が放たれたが、対象に刺さることなく地面に落ちていった。

 

「な、なんだこいつは!」

 

 モモンは手近な盗賊から順々に切断し、頭領の前に立った。

 

「お前が頭領か? 先ほど逃げていった男はどこだ?」

「お、お、奥の逃げ道から逃げてったぞ」

「なに?」

 

 頭領を柄で殴って気絶させ、モモンは慌てて奥へ進だ。風が通り抜ける抜け穴があり、奥に夜の森が見えた。

 

「逃げ道があったのか……まあいい。次がいるだろう」

 

 追うのも面倒だったので、来た道を戻った。この世界に自分たちを脅かす存在が発見できず、彼の警戒心はねじを緩めていた。

 

 

 

 

「モモン様! ありがとうございました。あなたのお蔭で一人の犠牲者も出さずに女性たちを助けられました!」

 

 任務を終えてからというもの、ブリタは様付けになった。彼女は他の面々と共に深く頭を下げ、馬車を出発させる準備をしていた。盗品はモモンに全て回収され、一部の盗賊の死体までありがたく頂戴していたが、盗品の量までは情報がないので気付かれなかった。

 

 モモンは誰よりも得をして上機嫌で、ブリタを恩着せがましく労った。

 

「同じ冒険者ですから、困った時は助け合いましょう。またよろしくお願いします」

「はい! ありがとうございます!」

 

 彼女はおとぎ話の英雄でも見るような目で見上げていた。数日前にいちゃもんを付けた時と同一人物とは思えなかった。

 

「私はもう少しここに残り、戻ってくる盗賊を片付け、アジト内に隠し部屋が無いかを調べます。組合まで馬車の護衛はお願いします、ブリタさん」

 

 その気取らない態度に、ブリタは更に好感度を上げた。

 

「はい! お任せください」

「モモン殿、後は宜しくおねがいします」

 

 その場を去る冒険者と馬車を見送った。

 

「ナーベ。改めて洞窟の中を調べ、隠し部屋の確認をしてくるのだ。残っている死体も回収せよ」

「畏まりました、モモン様」

 

 モモンはナーベに託し、夜空を見上げて物思いに耽った。

 

 依頼の背景として、ヤトが絡んでいる八本指とやらの任務がある。こちらが終われば、名声の高い順に王都へ派遣される可能性が高い。そうなれば、ヤトと落ち合ってこれまでの情報交換に都合がよく、八本指の所持している貴重な装備品や財宝も手に入る。過程は予想と違うが、ナザリックの維持費へ大いに貢献できるはずだ。

 

「武技使いには逃げられたが、八本指がいるならそっちでも……」

「グルルルル」

「ん?」

 

 物思いにふけるモモンに、獰猛な野獣の息遣いが聞こえた。カメレオンに近い顔をした魔獣が、近くの木陰からこちらを窺っていた。

 

「ギガント・バジリスクか? なぜこんなところに」

 

 漆黒の剣が、モンスターは部位を持ち帰ると金になるのだと教えてくれた。このまま放っておいても、遅かれ早かれ魔獣の討伐依頼は舞い込んでくる。ここで討伐して部位を持ち帰っても、順番が変わるだけで過程は同じだ。

 

「先に討伐しておくか」

 

 モモンは背中のグレートソードを構え、魔獣に向かって駆け出した。石化睨みを無効化し、鋭利な爪を避け、首に連続して斬撃を叩きこむ。裂傷が頸動脈まで到達し、大量の血を周囲にまき散らしながら、ギガント・バジリスクはあっけなく絶命した。

 

「さて、どの部位を持ちかえればいいんだ? 無難に頭部だけ持って帰るか」

 

 モモンがマグロの解体よろしく、剣を首に刺し込んでグリグリと弄っていたとき、背後から怒号が聞こえた。

 

「貴様ぁ! よくも私のバジリスクを!」

「?」

 

 先だって圧殺した、クレマンティーヌによく似た男が立っていた。更に後ろから、長髪で長槍を持った男性が駆け寄る。

 

「クアイエッセ、少し落ち着かないか」

「隊長! ですが、数が少ないバジリスクを!」

「すまない、どなたかは知らないが、我々を見なかったことにしてもらえないだろうか」

「私は構わないが、彼はよろしいのか?」

 

 クアイエッセと呼ばれた男は、青筋を立てて怒っている。形相を見る限り、怒りはしばらく冷める気配がない。

 

「……すまない、こちらで宥めておく」

「隊長! 2体しかいない貴重なバジリスクだったんですよ!」

「気持ちはわかるが落ち着くんだ。我々の任務は神命を全うすることだ」

「しかし……」

 

(凄く怒っているな)

 

 冷静に二人を見ていると、後ろから数名の人影が出てきた。セーラー服を着た女子高生、黒く豪勢なローブを着た老人、巨大な大盾を両手に抱えた大男、それぞれが類を見ない特別な装備品をしていたが、他の誰よりも目立っていたのはチャイナドレスを着た老婆だ。ドレスの純白と相対し、皺だらけの顔が出来の悪い抽象画のように気分を害した。

 

(うわぁ……趣味なのか? 誰も止めないのか?) 

 

 スレイン法国の最強部隊、漆黒聖典だと知らず、アインズは侮っていた。と、いうよりは老婆のドレスが目に毒で、盗賊と無関係ならさっさと立ち去って欲しかった。本来ならば危険な遭遇も、情報量の少ない現状で彼らが漆黒聖典だと気付かない。

 

「たいちょー。早く行こうよー。クアイエッセなんか放っておいてさー」

「なんだと!」

「少しは落ち着きなされ、わしらは戦争に行くわけじゃあるまい」

「そうですわぁー。はやくさきにいきたいのですー」

 

(バラエティ豊富な人材だな、ナザリック程じゃないが)

 

 誤解を招いても面倒なのでモモンは改めて名乗った。

 

「私は冒険者モモンだ。盗賊の討伐で拉致されていた女性たちを助け、外に出ていた盗賊たちが戻ってこないか警戒をしている。君たちは盗賊ではないよな?」

「そうか、それは任務中に邪魔をして申し訳なかった。私達は盗賊ではない。申し遅れたが、私がこの部隊の隊長だ」

 

 ここでナーベが戻ってきた。事態が把握できないが、敵かもしれないとモモンの前に飛び出て構えた。自然とバジリスクの死体を足蹴にし、クアイエッセの険が深まった。

 

「下がれ、ナーベ。彼らは敵ではない」

「……畏まりました」

 

 こちらを睨みつけている男へ、それ以上に強く睨み返しながらモモンの後ろに移動した。

 

「すまないが、私達は公言できない極秘任務の途中だ。詳しい話ができなくて申し訳ないが、互いに見なかったことにしていただけないだろうか」

「訳ありのようだな。わかった、このことは忘れるとしよう。道中、気を付けてくれ」

「そちらも、モモン殿」

 

 彼らはそのまま去っていった。クアイエッセだけはいつまでもモモンを睨みつけ、怒ったナーベが殺気を込めて睨み返していた。

 

(どこの国かは知らんが、大したものだ)

 

 彼らの装備品は、この世界じゃ見たことのないような一級品だ。それ相応の地位にある冒険者か、どこかの国家の隠匿されば部隊の可能性もあった。

 

(例えばスレイン法国とかな。それならユグドラシルのワールドアイテムのような………ワールドアイテム……だと?)

 

 気楽に考えていたモモンは、顎に手を当て真剣に考え出した。

 

(まさか、あの老婆のドレスは……そんな……彼らはプレイヤーか? あれがアバターだとすると、バラエティ豊富なのも理解できる……どれほど不気味な格好をしようと、所詮はゲーム内だ)

 

 常識的に考えれば、余程の特殊な理由がない限り、チャイナドレスは老婆が着る類ではない。特殊な効果がないか、薄気味悪い外装を趣味としている者でなければ、年老いてからドレスを着ようと思わない。カイレが聞いたら激怒しそうなほど、ぼろくそに評価していた。その結果、プレイヤーとしての疑惑は短時間で雪だるま式に膨張した。

 

 モモンは急いで《伝言(メッセージ)》を飛ばし、アルベドへ連絡した。

 

《はい、アインズ様》

《アルベドか。ニグレドに監視をさせたい者が居る。現在、私の居る場所から北の方へ進んでいく集団を監視させろ。彼らはプレイヤー、あるいは装備がワールドアイテムの可能性がある。絶対に気付かれぬよう、彼らを探れ》

 

 最も警戒すべきアイテムは、あっけないほど簡単にアインズへ把握された。

 

 自分たちに監視がつけられたと知らず、漆黒聖典は歩きながら雑談をしていた。

 

「彼らは何者か、見えたか?」

「いえ、何も見えていません。というか、冒険者なんか見る必要ありましたの?」

「……いや、その通りだな」

「それよりあの女の子、美人でしたね、隊長。上から結婚しろって言われてるとか?」

「考えているが、気が乗らなくてね。そのうちいい出会いがあるだろう。さあ、雑談はこの辺にして、周囲の警戒を再開しよう」

「俺のギガント・バジリスクがぁ……」

 

 立ち去った漆黒聖典と入れ違いに、白銀の全身鎧(フルプレート)が付近を通過した。

 

 本来であれば邂逅は避けられず、交戦もまた避けられなかった。

 

 モモンがギガント・バジリスクを屠った影響で、彼らのコースは着実に逸れていた。

 

 白銀の全身鎧(フルプレート)は、周囲を警戒しながらスレイン法国の方向へ歩いていった。

 

 

 






ブリタ好感度→4回の合計50以上でイベント →19
ブリタ好感度→10 → 29
ブレインの情報→ 1d% →40% ダイス成功

漆黒聖典、白銀→1d% 漆黒→90% 白銀→20%
漆黒聖典はダイス成功。白銀はダイス失敗。
漆黒聖典にアンデッドだと気付かれる→失敗


隊長のナーベへの興味→0%
ナーベの魔法位階に気付く→0%
世界級所持に気付く→90% 成功
漆黒聖典と白銀遭遇→30% 失敗
スレイン法国の情報収集→1 現在21%



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