モモンガさん、世界征服しないってよ   作:用具 操十雄

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10日目 王都リ・エスティーゼ

 

 

 目を覚ましたヤトは、図書館に本を盗みに行こうと勝手に予定を立てた。護衛のセバスを体よく出払わせるには、資金稼ぎの依頼に付けるしかない。組合まで同行し、1日で終わりそうな商人の護衛の依頼につけ、護衛がいなくなった異邦人は羽を伸ばそうと町へ繰り出した。

 

(どうせ夜に侵入する予定だし、この街には大した危険もない)

 

 未知の戦力に対する警戒など頭には無い。早い話、舐めていた。浮かれ気分の彼は、シャドウ・デーモンが影にいなければスキップしていた。

 

 通りすがりに肉の臭いが鼻をくすぐり、仮面をずらして確認する。串に刺さった肉が、肉汁を垂れ流して炭火で焼かれ、食欲を程よく刺激した。子供のようにそわそわと、買うか他を見るべきかと迷った。

 

「ナザリックのヤトで間違いないかね?」

 

 誰かの声が聞こえた。昨日の件のようにアンデッドがいると困るため、一応は仮面をズラして目視した。恐らくは戦士職であろう年配の男性が一人だ。金髪の髪を短く刈り揃え、赤を基調にした鎧を装備する中年男性は、ガゼフより弱そうで興味をそそられない。口から出る返答も素っ気ない。

 

「はぁ、間違いです」

「む……仮面の男だと聞いているが」

「あらら、じゃあ間違いないです」

「……王都の武器屋失踪事件について出頭命令が出ている。私と一緒に組合まできてくれないか」

 

(ああ、その件か……ツマンネー)

 

 調査を依頼された中級以上の冒険者だと、想像に難くない。特に動揺することもなく、相手を上から下まで眺めた。逃げるのは簡単だ。

 

「同じ冒険者も捕まえなければいけないなんて大変ですね」

 

 ある種のイベント発生を見過ごすこともなく同行するつもりであったが、素直に付いていくのも癪だなとひねた考えを巡らせ、良い策が閃く。

 

「大人しく付いていきますんで、串焼き奢って下さい」

「……君は自分の立場が分かっているのか?」

「分かってます。貴方は私を連れていきたい、私は串焼きが食べたい。相互利益は一致しています。とりあえず買ってくださいよ」

 

 人化の術を使用していれば、食べ物は普通に食べられるのは実験済みだ。実験をしていなければ、蛇の姿と同様に丸呑みしてしまい、喉に突っかかったって不審がられた。

 

 安心して串焼きを指さし、面妖な仮面の男は肉を催促した。

 

「とりあえず、そのふざけた仮面をとりたまえ」

「仕方ないな……」

 

 仮面を外すと、黒髪黒目の容姿が目を引いた。

 

「おや? 南方の出身者だったのか」

「偉そうな物言いは無駄な軋轢を生みますよ、名無しの冒険者さん」

「余計なお世話だ。詳しい話は組合で聞くから、さっさと歩きなさい」

 

 手慣れた動作で、ヤトの手首に手錠らしき物を付けたが、何度やっても外れてしまい、冒険者は困り果てた。盗賊が鍵を外してすり抜けるのは理にかなっているが、数秒たりとも拘束できないと言うのは理にかなっていない。まるで手枷が拘束を拒否をしているようだ。

 

「……どうやって抜けたのかね」

「早く肉を」

「そうはいかん。形式上、拘束しなければ」

「買ってくれないならこちらにも考えがありますよ」

 

 被疑者は大きく息を吸い込んだ。力ずくで逃げるつもりかと、武装した冒険者は身構える。予想は遥か彼方へ飛んでいき、怪しい異国人は地団駄を踏んで叫んだ。

 

「串焼きー! 串焼き買ってぇ! パパー! お腹空いたー!」

 

 大きな声で叫んでいる姿は、叫んでいる本人も恥ずかしいが、それを気にしなければ十分な嫌がらせが可能だ。回りの視線を集め続け、耐えきれなくなった男は観念する。

 

「わかった、わかった! 買ってくるからそこにいたまえ」

 

 堂々とした振る舞いを崩さず、串焼きを入手した。なぜ二つあるのか不明だった。

 

「二つもいりませんよ?」

「いや、私も食べるのだ」

「ふーん……あなたはどうやらいい人のようだ。冒険者組合でいいんですね」

 

 串焼きを1本受け取り、男と並んで歩き出す。

 

(思った通りだ。肉が安くて噛み切れないが、これはこれでいい。けど、あんまり大量には食べられないな……)

 

 安物で喜ぶのも変な話だが、嬉しそうに肉を食べながら歩いていた。現実社会では安い肉であっても、見ることさえできず、口にするのは飼料のような固形食(タブレット)だ。当たり前のように口から食事をしているのが楽しかった。

 

 隣を歩く男の装備は、近くで見るとなかなかの値打ち物に見え、育ちが良い人間特有の落ち着いた知性のある顔をしている。食べ方は口元を汚さないよう、綺麗に食べていた。目つきの鋭さは、冒険者としての経験故だ。

 

「若い時はモテたんじゃありません?」

「いや、それなりだ」

 

 男はニッと笑う。

 

「ところでお名前を聞いても?」

「ああ、申し遅れたな。私はアズス・アインドラ。冒険者チーム朱の雫の者だ」

 

(またアダマンタイト級か……)

 

 ヤトは若干の警戒と多くの疲労を浮かべる。

 

 彼はアンデッドでないことは確かだった。

 

 

 

 

 冒険者組合に着くと、応接間で組合長が待ち構えていた。

 

「君に聞きたいのは、2番街の武器屋失踪についてだ。先日、唐突に武器屋が失踪し、店の商品が一通り消え失せていた。次の日、君がその武器屋の品物を売っているのが目撃されているのだが、何か知っているのではないか?」

 

 組合長は疑惑を隠すことなく視線で貫き、ヤトは「あちゃー」と額に手を当てたくなった。武器を売っているところを目撃されると反論が難しいが、素直に私がやりましたとも言えない。知らないと答えたが、疑惑の視線は変わらない。死体は既にナザリックへ送っており、奪った金貨も十分に消費している。

 

「知らないと言われても、我々には君しか辿る糸がない。知っていることはなんでもいいから話してくれ。我々もわかりませんでしたと、依頼者へ報告ができないのだよ。一般の依頼者じゃないからね」

 

 公共機関から冒険者組合へ入った依頼は、店一軒消えた非常事態を受け、それなりの実力者、つまりアダマンタイト級へ依頼されていた。これまで店一軒分消えた事件は、犯罪組織内の内輪揉め、あるいは敵対者への制裁が主であり、下位冒険者に犯罪組織”八本指”の相手は荷が重い。

 

 アダマンタイト級冒険者“朱の雫”に所属しているアズス・アインドラは違う依頼に出発する予定だったが、火急の依頼に引き留められたと聞く。

 

 結果、失踪した武器屋の商品を、周辺の武器屋、質屋に売りに来た彼が、共通の人物としてやり玉にあげられる。アインズの説教を思い出し、何が何でも認めるわけにはいかない。ナザリックにて十分な説教を受けてから日にちもさほど立っておらず、一般メイドの件で十分に怒られたのは記憶に新しかった。彼の説教以上に嫌なことは存在しない。

 

 一瞬、皆殺しにして闇から闇に葬ろうかと思ったが、そちらの方が余計な足がつきそうだ。管理職と上位冒険者が消えれば、程度の低い街であっても大騒ぎになってしまう。

 

「仕方ないですねぇ」

 

 一部の情報だけ話して納得してもらえないかと、ヤトは用心棒を雇って襲撃してきた武器屋のことを話した。

 

「と、いうわけでこちらは被害者なんです」

 

 話し終わった時に、組合長がお茶を落とした。カップは砕け、お茶が床に水溜りを作った。

 

「申し訳ない。おーい、新しい物を持ってきてくれ」

 

 若い女性がお茶を下げていった。

 

「しかしだねぇ……その話を信じても信じなくても、現に君は武器を転売しているじゃないか」

「ちょっと脅したらくれたんですよ。私には必要ないから他の武器屋にリサイクルをお願いしましたよ。店を畳む頃合いかもしれないと言ってましたし、金貨は支払いましたよ?」

「だが、そんな話をその、信じるわけにはだな、組合としてはいかんのだよ……」

 

 組合長の歯切れは悪くなる。

 

(なんだ? なんか様子が変だぞ、体調でも悪いのか?)

 

 部屋の入り口付近で待機しているアズスが口を開いた。

 

「もう自白しているようなものだと思うのだが。組合長、なぜ捕まえないのですか?」

「いや、その……実はもう隣の部屋から《睡眠(スリープ)》の魔法をかけているのだが」

「そうなの?」

 

 どうやら先ほどのお茶を落としたのが合図だったらしいが、《上位魔法無効化Ⅲ》を前になんの効果もなく、疑わしき青年は涼しい顔だ。

 

「君になぜ通じないのか不明だが、話が通じる相手だから、こうして事情聴取を続けている」

「素直ですね」

「君は私の手枷もすり抜けたな。一体、何者だ?」

「ナザリックのヤトです」

「それは最初に聞いた」

 

 アズスは深いため息を吐く。

 

「そんじゃ、こうしませんか? 店主が逃げた以上、被害者は居ない、荷物を懇意にしてた私に預けて田舎に帰りましたと、依頼主さんに報告を」

「確かにそれでも辻褄は合うのだが……」

「組合長、犯罪者の可能性が濃厚なものに従う気か? 奴らの手先だったらどうする」

 

 苛立たし気に話すアズスを、もっと怒らせてみたくなった。ヤトは少しゾクゾクしてくる。人間らしい感情が欠落した彼は、補完しようと感情を当てられたかったのだが、彼が自覚することはない。

 

「まあまあハナズズさん」

「アズスだ! 気安く呼ぶなっ!」

「ブッ……クク……」

 

 素直な反応に思わず吹き出した。それも怒りの炎に油を注ぐ高位の一環であり、ヤトが心の底から笑うことはない。今の彼は、笑わぬ大蛇の化身だ。

 

「ゴホン、失礼。先生、飽きたから帰っていいですか?」

「ふざけるな!」

 

 想定通りに返してくれるアズスに至上の喜びを感じ、心が満たされていく。

 

「じゃ、あなたの家にお邪魔してもいいですか? 身内に美少女がいれば紹介を」

「来るな! いい加減にしろ!」

「ア、アインドラ殿、落ち着いてくれ」

「組合長がお困りですよ」

「糞が! この野郎! 馬鹿にするのも大概にしろ!」

 

 徐々に顔が赤くなっていく。

 

「朱の雫の朱は顔色ですかね? 真っ赤ですよ、顔が。ねえ、組合長?」

「私を巻き込まないでくれ……」

「無礼者が、切り捨ててやる! 私と立ち会え!」

「お断りします、そんな剣では私に傷1つつけられませんよ。試してみますか?」

 

 熱を帯びて暑苦しいアズスに対し、南方の異国人は涼しい顔で返答する。

 

「糞がぁ! 死ね! この腐れ外道!」

 

 斬りかかろうとしたようだが、体を張った組合長に止められていた。

 

「ま、待ってくれ! 組合を破壊するつもりか!」

「……くっ」

 

 怒りの炎は燃えていたが、義理のある組合長を前に表層だけの落ち着きを取り戻す。

 

「1つ聞きたいのだが、君はアダマンタイト級の冒険者より強いのか? その自信はどこから……」

「えぇ、もちろん。強さがわかったところで、銅から昇進をさせてもらえたりしませんかね?」

「それは出来ないよ、他の冒険者たちの手前もある。彼らが可哀想だからね」

「……むぅ」

 

 組合長が諭すように言い、ヤトは黙った。

 

「、ところでこの後どうするんですか?」

「冒険者には身元引受人がない。厄介事に関わりたい者はいない。一晩くらい檻に入ってもらうだろうが、何か君に責任があれば冒険者の地位をはく奪する」

「このまま冒険者を永久追放してやりたいわ!」

「落ち着いてください、ハナズズさん」

「アズスだ! この糞野郎、どこまで馬鹿にすれば気が済むんだ!」

 

 王国貴族であるアインドラ家出身、冒険者から尊敬の目で見られるアダマンタイト級冒険者と思えない取り乱しようである。

 

「無限に広がる大宇宙のように」

 

 他に面白い言い回しが思いつかず、これを機に怒らせるのも飽きてしまった。この流れに身を任せると檻に入る羽目になる。逃げだすのは造作もないが、アインズに説教を食らいかねない。事態は思ったより切迫していた。

 

「組合長、この馬鹿は何を言っているんだ?」

「南方の言い回しなのではないでしょうか」

「そろそろ真面目に話しましょうか。ではこうしませんか? あなたの依頼でも、知り合いの依頼でもなんでも構いませんので、私が無料で解決してきますよ」

「犯罪者の疑いがある者に、任せられるわけないだろう」

「では担保として全財産をお預けします、部下もお預けしましょう。それでいかがですか?」

「逃げない保証がどこにある?」

 

 馬鹿にしたような笑いを浮かべるアズスに、少し苛立った。ナザリック外の者は総じて弱者へ分類され、そんな彼に話が通じないのが面倒だった。

 

「特にはありません、これ以上交渉ができないなら私は普通に入口から帰ります。この街には私を止められるものはいないんで」

「本気で殺そうとしてもかな?」

「構いませんが、何か?」

 

 空気がささくれ立ち、組合長は逃げ出したそうにドアを見ている。

 

「私も抵抗します。その結果、最高位冒険者が一人死んだとしても知りません。平然と明日もここに来て、依頼を受けます。無理なら力ずくで受けます。組合が壊滅しても知ったこっちゃない」

 

 やれやれと両手を肩まで上げ、大袈裟にため息を吐いた。

 

「貴様、やはり……」

「くどい」

 

 少し脅すつもりで大きな声を出したが、組合長にしか効果が出ず、アズスは平然としている。

 

「お願いです。信じてくださいよ、約束は必ず守る。どのような無理難題であっても」

「……では聞くが、同じ日に離れた三か所の村の畑を焼き払えるか? 距離はかなり離れている。移動するだけでも半日以上かかるが、そのような真似、人間にできるはずが――」

「できますよ。場所を教えてください」

「は?」

「面倒くせぇなこのハゲ。早く言わねえならぶっ殺すぞ。それともアダマンタイト級はみんながこんなに馬鹿なのか? ゴリラ並みの馬鹿であれと、最高位冒険者の条件に書いてあんのか?」

 

 脅し文句を言い過ぎて暗黒色の波動、絶望のオーラを漏らしかけた。何とか発動だけは抑え込めたが、発動してもいないのに組合長は椅子から転げ落ち、アズスはこちらを品定めするように頭から眺めた。

 

「すまない、もう一度聞かせてくれ」

「できますよ、場所を教えて貰えれば即座に」

「どうやって?」

「地図で示した場所に転移できるマジックアイテムを持ってます。とある筋からもらったんですけど、便利ですよー」

 

 魔道具(マジック・アイテム)は万能だと聞いている。人間ではないことを誤魔化すのに、これ以上の理由はない。現に、アズスは納得をしたように思える。

 

「さっさと終わらせて私の実力に折り紙をつけてください」

「君は、八本指とは関係ないのだな?」

「何それ? タコですか?」

 

 組合長はまだ怯え、言葉が出てこない。

 

「よし、わかった。組合長、応接間を貸してくれ。それから、この客人になにか飲み物を。そしてさきほどの非礼を詫びよう、申し訳なかった」

「うむ、気にしないで下さい。理解を超えた強者はいつの世も理解はされませんし、それも慣れておりますので」

 

 ふてぶてしい返事をして、出ていくアズスの後に続いた。

 

 ささくれだった空気にあちこちを刺され、組合長はしばらく動けなかった。

 

 

 

 

 組合長不在の応接間で冷たい果実汁を飲み、アズスから話を聞く。身構えていた割に、彼が出した条件は大したものではなかった。

 

 ここ最近、王都で薬物が蔓延し、腐敗貴族を勢力内に取り込む犯罪組織”八本指”がばら撒いている。生産所、つまり薬物の栽培場所が判明したので、これを壊滅したい。本来は別のチームを3組に分けて、一斉に行う手筈になっていたが、そちらの準備は今しばらくかかる。薬物の汚染領域は小さな子供まで及んでいるので、悠長に構えている間がなくなった。別の冒険者チームが大急ぎで準備をしている。

 

 朱の雫は依頼が入っていたため、本来は関与せずに任せる予定だったが、ヤトの一件でアズスは王都に残っているので、時間が合えば手伝う予定だった。第三王女勅命の非正規依頼であることは伏せ、それが今夜とだけ伝えた。

 

「王都の闇、掃討作戦というわけですな」

 

 気軽に答えているが、内心は不愉快だ。薬物を子供に売るメリットは、安価で依存させていき、購入できなくなったところで組織に招き入れるという方法が取りやすい。薬欲しさに、進んで犯罪行為に加担をしてくれる。脅して動かすより、裏切り・情報漏洩のリスクが少ない。王都で感じ続けていた不快感や苛立ちは、そっくりそのまま犯罪組織へ向けられた。

 

「報酬は必要ないです」

「報酬なんか払わんよ、未だに君は疑惑の者だ」

「あ、そうでしたね。それより確認作業は誰が?」

「他の冒険者チームと合わせて、該当する村の付近に潜伏する。もちろん私も行く。君が失敗した場合、我らが手を出す必要があるからな」

 

(アダマンタイトって、沢山いるんだな……)

 

 他のチームが昨日出会った“蒼の薔薇”とは結び付かなかった。

 

「村の中に居る人はどうすれば?」

「なるべく殺さないで欲しい。中には犯罪行為に加担している意識のない、善良な村人も居るんだ」

「私を昇進させてほしいのですが」

「そのような要求は、成功させてから言ってくれ」

「そッスね……」

 

 肩を落として落胆していた。先ほど超越者の態度を取っていた者とは思えない振る舞いだ。

 

「だが、こんなに無茶な依頼を成功させるのであれば私が保証しよう。なぁ組合長?」

「え? ああ、そうですね、はい」

 

 快復してドアの辺りでこちらを窺っていた組合長は、いきなり話を振られて目が泳いでいた。該当人物は柄の悪さと態度の悪さが目立ち、皆の見本となる上位冒険者には、正直なところ昇進させたくなかった。

 

「ついでに私の姪にも保証させよう」

「姪?」

「冒険者のチームリーダーをしているお転婆娘だ。身内びいきだが、とても美人だぞ?」

 

 「はっはっは」と愉快そうに笑った。

 

 その様子にガガーランとガゼフ・ストロノーフを思い浮かべる。アズスもたくましい部類に入るので期待できない。なんとなく出会った人物の親族が美人など、あまりに都合が良すぎて考えられなかった。

 

 同じ金髪で戦士という点で、ガガーランが娘という可能性も捨てきれない。迂闊な返事をして無駄な縁談を結んでしまうと、やりたい火遊びを阻害されそうで、様々な理由で最悪だった。

 

 ガガーランは女性かどうか怪しい、イビルアイは存在そのものが怪しい、アズスも典型的脳筋であり、アダマンタイト級冒険者に対して好印象は消えていた。

 

(碌な奴が居ないな……いや、何かしらの問題が無いとアダマンタイト級にはなれないのか?)

 

「期待しないでおきます……できればご遠慮したい」

 

 虚ろな目をした暗い返事だった。楽しそうな最高位冒険者に対しての期待は、薄められた果実酒のように何の味もしなくなっていた。

 

「む、そうか? 残念だな、とても美人なのだが」

「へー」

「本当だぞ?」

「ふーん」

「……ところで何か用意するものはあるかね?」

「別に。作戦開始時間は?」

「私達は村の近くで潜伏するため、すぐに他のチームと合流する。君も準備が出来たらすぐに出て欲しい」

 

 秘密裏に行われる作戦は、決行まで時間がかかると情報が漏れてしまう。そのために即時実行なのだ。

 

「いや、私は部下を待ってから出発します」

「それで間に合うのか?」

「ええ、まあ」

「では、村の場所を書いた地図をこちらに届けさせる」

「組合長、執事のセバスが戻ってきたらこちらへ呼んでください。私はここで昼寝していてもいいですか?」

「え!? 寝るんですか?」

「疑い深い人間が出歩くのは不味いでしょ」

「い、いえ、そうではなく、準備はよろしいので?」

「問題ありません。眠気が無いときにしか使えないマジックアイテムなんで」

 

 理由は本当に出任せだ。

 

 人に化けているため、睡眠による行動麻痺を避けようと仮眠に入った。組合が黙認している依頼の話を組合でされ、待合所に利用され、挙句の果てに仮眠所に使うなど言語道断だが、先ほどの恐怖を思い出して黙認した。

 

 黙認するのが今さら増えても大したことはないだろうと、組合長は強引に自分を納得させた。

 

「道中、気を付けてな」

 

 アズスは手を振り、冒険者組合を後にした。

 

「今夜中に全て仕上げておきますねー」

 

 返事はおざなりだった。

 

 

 




出会う相手
1d6→4朱の雫

アズス・アインドラの人物像推察

ラキュは顔だけ父親似。母親か叔父の影響が強いお転婆娘。そもそも異性の親に似ないと美人にならない。ラキュを男性化して特徴を反転させるとアズス。
貴族の次男、家督相続のプレッシャーとは無縁。
ラキの年齢が19-20という事から、40代前半-中頃。金髪、戦士を思わせる顔、頑固。
ラキが憧れていた事から冒険者としての活動期間は長く、立ち振る舞いも堂々。
アダマンタイト級になって拍車がかかり、誰からも信頼され、一目置かれることに慣れている。



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