モモンガさん、世界征服しないってよ   作:用具 操十雄

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天国行き片道切符

 

 「どんな人間でも、何かの役に立つものさ」

 

                  ――――Edward Theodore Gein

 

 

 ともあれ人間化したヤトがこうして竜王国の玉座でふんぞり返っている経緯は、(ひとえ)にデミウルゴスの入れ知恵が故であった。彼は一国家の最高権威である女王陛下に対し、彼女以上に態度も口調も偉そうだった。この世界を支配する超上位者としての立ち位置は、足元が見えないほど高い。雲の上から地を這う人間に、神託を告げる御神言を投げ落とした。

 

 幼女王は無理矢理に正座させられ、神命が頭上から降り注ぐ。こじんまりとした彼女に、言葉は見えないたん瘤を大量に作った。宰相は女王の隣で静かに佇む。顔に自分は関係ありませんと書いてあった。女王も指摘せず、何よりも長時間の正座で足が痺れてそれどころではない。人の玉座に勝手に座る、黒髪黒目の男は立ち上がった。

 

「以上、よろしく頼む」

「……つ、つまり助けてくれるのか?」

「まとめると、属国になれってことだ」

「……短すぎる」

 

 説明された経緯は長かったが、目的は簡潔で短い。曾祖父の許可は得たと、ヤトは属国化を迫った。既に前線の砦はビーストマンに破壊され、敵の大侵攻も近いと言われ、状況は差し迫っていた。駄目押しに、断ればビーストマンを王都へ手引きすると脅され、反論は出てこない。

 

「……それにしても属国はちょっと――」

「そうか、なら仕方ないな」

「よいのか!?」

 

 ヤトは顔を半分だけ女王に向け、片目だけ見開いて少女を見た。闇を一滴だけ落とした黒目に心まで覗かれる。

 

「滅ぼされる相手くらい選ばせてやろう。俺が率いる魔導国正規軍とビーストマンのどっちに殺されたい? 両方から同時に攻め込まれるっていう選択肢もあるが」

「……」

 

 黒髪黒目に黒衣の不良青年(チンピラ)は、食い散らかされた鶏の肋骨でも見る目だ。興味は少しも浮かんでいなかった。黒い瞳が一瞬、赤く光った。脅しの効果は十分だった。

 

「私の体を好き――」

「いらんわボケ」

 

 交渉の余地はない。手段と目的を模索して人間に執着していたヤトではない。目の前にいるのは邪神の顕現、黒衣の男だ。冗談を交えて和やかに歓談する空気ではない。

 

 女王に逃げ場は残されていなかった。体を売れと言った宰相の、不要な入れ知恵を悔いた。隣人に向けた恨みがましい目は簡単にいなされた。

 

 ヤトは正座する少女の前にしゃがみ込む。顎を指で掴み、顔を上げさせた。

 

「女王、お前は前に言ったよな? 幸せの押しつけだと」

「あ、うぅ……言ったかな」

「勘違いしてるみたいだから教えておく。魔導国で人間は貴重な資源だ。アンデッドを使役して農作業に従事させ、税を納めさせる資源。死体はアンデッドに変え、別の人間に使役させる。お前たちが刃向かうなら、俺たちは竜王国を手に入れる。俺たちのやり方でな」

 

 それは死体でも構わないということだ。見た目が子供であっても、女王の知性は決して低くない。彼の言いたいことを十二分に察した。肩に手を当てられ、少し低めの体温が伝わる。今の幼女には冷や水と変わらない。首が落ちる覚悟を決めた。

 

「頼む、私だけにしてくれないか。どんな目に遭っても構わな――」

「皆殺しだ」

 

 宰相は涼しい愛想笑いを浮かべていたが、頬に冷や汗が流れた。家族を連れて逃げ出す段取りを考えていた。ヤトが立ち上がり、幼女の体がビクッと跳ねた。彼は再び玉座に戻る。黒衣の男の黒い靴がコツコツと鳴った。女王には十三階段へ案内する死神の足音に聞こえた。

 

 「ふぅー」と玉座にふんぞり返った男の吐息が聞こえた。まだ帰るつもりはないらしかった。女王は土壇場で足掻き始めた。

 

「頼む、国民に非はない。私の首だけで勘弁してくれないか」

「まあ、落ち着けよ。皆殺しにするのは簡単なんだが、俺たちもそこまで鬼畜じゃない。お前たちにも選択肢をやるよ」

「しぇ……しぇんたくし?」

 

 派手に噛んだが、女王の羞恥を以て男の表情が緩んだ。

 

「噛み噛みだなオイ。明日の朝、国民を王都に集めろ。今回の大侵攻に関しては、俺たちが助けてやるよ。奴らには借りもある。だが、それなりの報酬をもらうぞ。前払いで」

「……それなりの報酬?」

「手持ちの財宝だけで勘弁してやるよ。国民を避難させる準備をしろ。転移魔法で一気に安全な場所に移動させる。それから、子供たちは別口で馬車に乗せろ」

「そんな転移魔法が、本当にあるのか?」

「だから俺たちの王は大魔法使いで――」

 

 それから一時間余り、魔導王が使用できる魔法の威力を懇々と説明された。魔導王について話すヤトは実に饒舌で、表情も嬉しそうだった。正座の延長で血管の通行止めも延長した。説明が終わる頃には、長時間停滞した血管で足が悲鳴を上げていた。

 

 女王の心は折れ、国民の命には代えられないと国の財宝を明け渡さざるを得なかった。

 右から左へ国宝が流れ、得体の知れない空中の闇へ吸い込まれていった。男は価値も測らずに国宝をせしめ、晴れやかな顔が憎らしさを誘った。足の痺れは未だに続いていた。

 

「毎度ありい。それじゃまた明日よろしくな」

「……約束だぞ。ビーストマンを退けると」

「はいはい、またなドラ公。ああ、そうだ、それからな」

 

 ヤトは女王の前に立つ。痺れを堪えて体をプルプルと震わせ、必死で立ち上がる様子が生まれたての小鹿に似ていた。彼の口角は大きく歪む。

 

「魔導国は種族問わず全てを受け容れる。だが、差し伸べた手を振り払うのなら、屍を拾って資源に利用するぞ。人間は実に利用価値が高いんだよ。皮を剥いで羊皮紙、食人種に肉を分け与え、最後はアンデッドの素材にする。そして魔導国の人間のために利用されていく。お前のひい爺さんも言ってたが、命の循環だ」

「……チッ」

 

 小さな舌打ちは黙殺された。

 

「人間ってのはあちこちの種族から大人気なんだよな。人間を辞めた俺からの忠告だ。悪いこと言わないから、諦めて服従しておけよ。それが一番幸せな選択肢だと思うぞ、人間にとってはな。お前のプライドで国民を死なせてもしょうがないだろ」

 

 外道は物騒な言葉を残して去った。すれ違いざま、「ごめんな」と小声で呟いていたが意味は分からなかった。

 

 チンピラが出ていったのを確認してから宰相が安堵の息を吐く。小鹿(バンビ)は宰相に詰め寄った。

 

「ぉぉ……おい! 状況が悪くなってるじゃないか! 敵対勢力に魔導国とやらも加わってるぞ!」

「いえ、改善しております。渡した財宝は国宝の半分に該当しますが、竜王国の血を流さずに今回の敵部隊を殲滅していただけるのです。敵対勢力ではなく協力関係、取引先に近い関係と成りますが、何か問題がありますか?」

「お前……前向きだな」

「後ろを向いては歩けませんよ、陛下」

 

 宰相は懐からハンカチを取り出して冷や汗を拭いた。顔には冷ややかな笑みが浮かんでいた。心を痛めつけられた女王の溜飲は下がっていないが、気分は少しだけ前を向いた。

 

「陛下、此度の侵攻が止まったのを確認し、魔導国へ行きましょう。選ぶべき二択をお教えします」

「……なんじゃい」

 

 素直に属国になっておけばと、女王は悔いていた。

 

「一つ、魔導王に直談判し、竜王国の同盟を依頼、あるいは属国条件の擦り合わせ。二つ、蛇殿の妾になるべく、艶っぽい下着で夜這い。個人的には二つ目がよろしいかと思われます。面白いですし、属国化する必要がありません。こちらから頻繁にご機嫌伺いに出向く必要もありません。敵の侵攻に際し、陛下はベッドに横たわって救世主の到来を待てばいいのです」

「……お前、いま面白いと言わなかったか」

「竜王国の現地妻といったところでしょうか。竜王国に蛇殿専用の後宮(ハーレム)を作るのも一つの手ですね。綺麗どころを集めておけば、後宮を守るためにビーストマンを退けていただけるかと。何しろ、私たちは魔導王公の情報が少ない。魔導王の人物像が不明な現状、知性と理性が柔らかそうな蛇殿を陥落し――」

「もうよい! お前も出て行け!」

「陛下、個人的な感情はお捨ていただけると助かります。全ては民のため、女性受けの悪いその体は今この時こそ有効活用すべ――」

「今は一人にしてくれええ!」

 

 玉座の間に幼女の嘆きが響き渡った。容姿の幼い女王は考える時間を欲した。冷静に考えれば、属国となるべきであり、女王と宰相も承知している。彼の話を信じれば、曾祖父の竜王も許可しているのだ。しかし、これまで守り続けた曾祖父の栄誉を、七彩の竜王(ブライトネス・ドラゴンロード)の栄光を自分の代で汚して良いものかと悩む。

 竜王の曾祖父はさておき、今は亡き人間の両親と祖父母が何と言うかは考えたくなかった。選択肢はないが、踏み出す覚悟が必要だった。頭蓋をかち割る後悔が待つと知らず、女王陛下は時間を苦悩に消費した。

 

 デミウルゴスの準備は順調に整っていた。

 

 現地のデミウルゴスは、走って戻ったヤトの労をねぎらう。

 

「お帰りなさいませ、ヤトノカミ様。首尾はいかがでしたか」

「ああ、自信ないけど指示通り上手くいったと思う。最近、知性の高い奴が羨ましくなってきた。あの場で属国化されても困るけどな。獣どもに借りを返してやらないといけないから」

「常に優先すべきは結果でございます。私もお役に立てて光栄です。お酒と肴をご用意してありますので、こちらへどうぞ」

「……そこまでしなくても」

 

 足が勝手に付いていったが、部下をこき使っているようで申し訳なかった。草原には、ビーチチェアと小さなテーブル、さほど日差しが強くないのに日除けパラソルが設置してあった。テーブルに色とりどりの酒瓶が並べられている。

 酒瓶の隣で、ざるに大量の卵が積み上げられていた。

 

「……なんだこれ?」

「ゆで卵です」

「俺はゆで卵が大好物だったんだな」

「……失礼しました」

 

 ざるは下げられ、優雅な草原に妙な間が流れた。

 

 ヤトは椅子に寝そべり、琥珀色の液体で満たされたコップが差し出された。ご丁寧に緑色のストローが刺してあった。「ちゅー」と音を立て、ストローの色が変わった。酒をストローで飲む自分が馬鹿馬鹿しく感じる。

 

「ナーベとソリュは?」

「先ほど、牧舎を破壊したそうです。攫った子供の人数は五人だそうです」

 

 何かの乾物を口に突っ込むと、心地よい香ばしさが口の中に広がった。デミウルゴスの言葉と乾物を咀嚼し、疑問が浮かんでくる。

 

「五人? ちょっと少なくないか? 俺が見たときはもっといたけど。ソリュシャンが食べ過ぎたんじゃないだろうな……」

「その可能性もありますが、現地に骨が散乱していたと。奴らが食したと判断するのが自然でしょう。劣等種の彼らは新たな家畜の入手を見込み、精を付けようと食べてしまったのではないでしょうか」

 

 見上げると、デミウルゴスはニヒルに笑って佇んでいる。意味ありげに頷いていたが、その意味は分からない。あるいは意味など無いのかもしれない。ヤトは気にしないことにした。

 

 「ふーん」ストローが口に刺さっているのでそれ以外の言葉が出てこない。デミウルゴスは話を続けた。

 

「マーレとコキュートスは武装するためにナザリックへ戻りました。じきに恐怖公を連れて戻るでしょう。久しぶりにコキュートスが本気の武装をするそうです」

 

 カランと小気味よい氷の音が鳴り、グラスは空になった。空いたグラスを手渡した。

 

「次は強いのにしてくれ」

「畏まりました」

 

 デミウルゴスは背を向け、かちゃかちゃとガラスをぶつけ合う音を出す。

 

「マーレとコキュートスが戻り次第、私は駒を取ってまいります。彼らの働きに期待しましょう」

「見てるだけってのも退屈だな」

「退屈を紛らわせる玩具でもご用意いたしましょうか」

 

 デミウルゴスはその身が震えるのを堪えた。彼の予想において、ヤトは作戦をどこかで破棄する公算が高い。いつも彼はそうだ、アインズの想定通りに動かない。デミウルゴスの想定とは大きく逸れた行動をする。そうやって得る結果は、常にデミウルゴスの見通せる範疇を超えていた。邪神のもたらす結末は予想ができない。ここでそれを提言するのは間違いだと知っている。しかし、愉悦が込み上げるのは仕方ない。背筋を心地よい悪寒が走った。

 

(もしや、アインズ様がこちらの状況を把握し、合わせていただけると想定をしていらっしゃるのでしょうか。あるいは、ヤトノカミ様が単身で何らかの成果を――)

 

 デミウルゴスは考えを巡らせ、酒を作る手が止まっていた。ヤトが午後の日差しに当てられ、うつらうつらと船を漕ぎ始めたと気付き、慌てて酒を作った。

 

「こちらを」

「ん……んん」

 

 酒がなみなみと入ったショットグラスが顔の前に差し出され、子供のように目を擦りながら受け取った。水面は平静を保ち、デミウルゴスの所作が気になった。

 

「なんか香りが強いな。なんて酒だ?」

「エストニア。スピリタスを超えるアルコール度数98%だそうです。バーのマスターからでございます」

「ほぼ100だな」

「火にご注意ください。呼気に火がつきます」

 

 ヤトは無警戒に酒をあおった。

 

「コハッ!」

 

 喉で爆弾が破裂したような痛みでむせ返った。喉は激しく灼け、両目が白黒に明滅した。痛みしか感じず、味はわからなかった。並の人間ならこのまま卒倒していることだろう。焼き尽くされた喉は声帯を焦がし、言葉が出なくなってしまった。ヤトは酸欠気味の金魚よろしく口の開閉を繰り返す。

 

「……申し訳ございません」

 

 スーツの悪魔は回復薬を振りかけてくれた。

 

「……休憩に飲むのは普通の酒がいいな」

「畏まりました。肝に銘じておきます」

 

 昼寝するつもりだったが、喉は大そう痛かった。いつもはすぐに訪れる眠気も、今日に限っては歩みが遅い。焦がされて痛む喉は一休み(ブレイクタイム)を所望していた。

 

「何か食いたいな……」

「ゆで卵、召し上がりますか?」

 

 ヤトは頷いた。ざるに盛られたゆで卵は一つ残らず食べられた。マーレとコキュートスが恐怖公を連れてくるのと入れ替えに、デミウルゴスは仕事に取り掛かった。

 

「コキュートスは結婚とか……いや、NPCって繁殖できるのかな」

「知恵ナキコノ身デハ分カリカネマス」

「我輩は眷属がいるので興味ありませぬ」

「そ、そうなんだ」

 

 恐怖公には聞いていなかった。彼は無限に繁殖が出来そうな容姿だ。

 

「マーレは?」

「あ、はい、その……僕はぁ……アインズ様と」

「ふーん……………え? 今なんつった?」

 

 卑猥な形状が基本の桃色粘着物質生命体が、体色を赤くして怒る絵が浮かんだ。彼女は誰に説教をするだろう。暴走するマーレ、はっきりしないアインズ、止めなかったヤト、あるいは弟に八つ当たりのどれを選ぶだろうか。

 悩みの途中でナーベラルとソリュシャンが戻る。後に遺恨を残しそうな問題はどこかに放り投げられた。

 

「お帰り」

「遅くなって申し訳ありません。ご所望の通りに、会話が可能な子供は全て魔導国へ送りました」

「獣も牧舎の周辺に巣食うものを全て焼き払って参りました」

「……そんなこと頼んだっけ?」

 

 ナーベラルの表情は晴れやかだった。

 

「明日の正午、天気が晴れれば彼らは侵攻を開始するそうです」

「そ、そうか。ありがとう、ナーベ」

「いえ、光栄でございます」

「ナザリック内の紋章旗の交換も、プレアデスと一般メイド総出で行っております。明日には全ての旗が髑髏の紋章に変わるでしょう」

「ああ、それはなるべく急ぎな。アルベドに何か言われたら俺に言われたと伝えてくれ」

「アルベド様は外出中だそうです。明日まで戻らないとか」

「ふーん……」

 

 良き友人ではあったが、彼女を自由行動させて不祥事が起きないかと心配になる。タブラ・スマラグディナが精魂を込めて作ったであろう彼女は、他に類を見ない魔女だ。自分と同様に、何をしでかすかわからない。ヤトは自身を棚に上げていた。

 

「まあいいか……コキュートス、マーレ、恐怖公。黒い国境線を張ってきてくれ。ゴキブリを無限召喚し、明日にここに呼び出される竜王国民の退路を断たないとな」

「おお、素晴らしい。すぐに取り掛かりましょうぞ」

「盟友ヨ、私ノ肩ニ乗レ」

「コー……コキュートス様、それはお止めください」

 

 ナーベラルが苦言を呈した。穏やかで控えめな口調だったが、これまで見たこともない凄い皺が眉間に寄っていた。コキュートスが怯む。

 

「ス、スマヌ」

「?」

 

 不思議そうなヤトと小首を傾げたマーレの視線がぶつかった。ナーベラルからすればコキュートスの肩は自分の座る場所であり、変なものを乗せてほしくなかった。恐怖公の女性受けはすこぶる悪い。

 

「気にすることはありませんぞ。我輩もたまには外の散策に出たかったのです。時間は明日の正午まであります。ゆっくり致しましょう」

「申シ訳ナイ……」

「いいですとも!」

 

 首を傾げるマーレは蟲人たちの後に続いた。

 

「ナーベラル?」

「いえ、なんでもございません」

「そう? ……本当に?」

 

 二人の美女を背後にはべらせ、ヤトはデミウルゴスが書いてくれた演説台詞を暗記し始めた。ソリュシャンとナーベラルの髪は、午後の日差しを受けて艶めかしく輝いた。

 

 

 

 

 黄金と称されるだけあって、金髪は日差しを受けて眩い輝きを見せた。向かい合って談笑する魔女の黒髪も、これまた優越がつけがたい。黒髪は艶々と黒曜石の輝きを放っていた。

 闇を呑み込むヤトの黒髪と違い、アルベドの髪は黒く美しい。黄金と黒曜石、ラナーとアルベドは紅茶と茶菓子を挟んで談笑していた。

 

「話は変わるのだけど、あなたのお兄さんはどうしたのかしら?」

「彼は駒です。あんな低い知性を持つ兄でも、国政には使えます。腐っても王族ですから」

「そう。そのときは調教を頼むわね。肝心の彼はどうかしら」

「順調ですわ、アルベド様。知識の目覚ましい進歩は若さがなせる業でしょうか」

「そう。順調ね」

「はい、順調です」

「ふふっ」

「うふふ」

 

 心が異形の姫君と、生い立ちと性格が異形の姫君は似たようにころころと笑った。

 噂好きのメイドが興味津々とばかりに聞き耳を立てようと部屋へ近寄ったが、扉の前で待機するクライムを見て何事もなかったかのように通過していった。クライムの首には黄金の首輪が嵌められていた。同時刻、王宮の会議室でわかりやすい三名が打ち合わせを行っていた。

 

「先生、やはり教師が足らないと思います。帝国の魔法学院から何名か引き抜けませんか?」

 

 ジエットの問いかけに、フールーダは答えない。無視をしたのではなく、そもそも聞いてすらいない。彼の心は私情で燃えていた。アルシェはなぜ自分が師匠に睨まれるのか理解できず、困惑した表情を浮かべた。かつての師弟が再会を果たし、和やかな打ち合わせとなるはずだった。フールーダ老はアルシェに険のある視線を向け、午後の一時はどことなく殺伐とした空気を感じさせる。

 

「先生? どうかしましたか?」

「……アルシェ」

「……はい」

「御方の魔力を感じて嘔吐するなど、恥を知りなさい。お前が不甲斐ないために、閣下は私に魔力の片鱗をお見せいただけなかった」

「……」

「あまつさえ閣下の住処へ招かれながら、何の成果もあげられぬとは情けない。それでも我が愛弟子か!」

 

 自分が愛弟子だったとは初耳だ。彼女も吐きたくて吐いたわけではない。「お前だけずるいぞ!」とアルシェには翻訳されて聞こえた。だからと言って、嫉妬される謂れはない。

 

 かつては雲の上の存在だったフールーダも、今や七つの大罪に名を連ねる嫉妬に焼かれた老人に過ぎない。実力は格上だが、人格は怪しかった。ジエットにも見透かされ、二人の若人は冷静に話を促す。

 

「先生、その話は先ほど聞きました。話を進めてもいいですか? 今後の行動を決めるよう、王女様から言われておりますので」

「先生、学校建設で実績を上げなければ、私たちの立場も危ういです」

 

 ジエットは冷静で、アルシェは冷めていた。フールーダは自分が無力な老人になったようで、人知れずいじけた。

 

「それで、教師の確保が重要で」

「ジエット、教える科目は決まった?」

「あ、はい、お嬢様」

「お嬢様は止めて。私はもう貴族じゃないから」

「ですが――」

「アルシェ」

 

 かつてのラナーとクライムに酷似していた。唾を呑む音が骨を伝わって体の内側に響いた。

 

「あ、あ、アルシェ……」

「うん。なに?」

「科目は教師の確保過程を見て考えようと思います。途中報告をラナー王女様へ届け、そこで意見を聞こうかと」

 

 そっぽを向いて自分を慰めるフールーダを傍らに置き、ジエット主導で順調に話が進んだ。

 

「まず最初に、建設に従事していただく人員を募集します。そちらは私が行いますので、おじょっ……アルシェさ――んは今日明日に冒険者組合へ打診をお願いします」

「わかった」

「先生は帝国に戻り、教師の引き抜きをお願いしたいのですが……」

「断る。レイ将軍にばかり美味しいところを取られてたまるものか。私は魔導国に残る」

「そうですよね……。先生は魔導国周辺を探索し、何かを教えられる実力を持った人材発掘をお願いします。アルシェお嬢様は冒険者かワーカーの繋がりで、非常勤講師として魔物の生態を教えるに相応しい方の探索を。そちらは急ぎませんので、近日中にお願いします。次に、校内で使用する用具ですが――」

 

 ジエットの知識は豊富だ。図書館に引き籠って勉強に明け暮れた不健康な彼は、気が付けば十分な知識を備えていた。前線に立つ力こそないが、知識は確実に向上していた。

 母親と自分を人知を超越した剛力で地の底から拾い上げた大蛇へ、少しでも報いるために。

 

 打ち合わせを終え、書類をまとめながらジエットは最後の案件を提案する。

 

「最後に、ラナー王女様から噴水広場の銅像が壊れたので、何か新しい像の案を出してほしいと頼まれたのですが、何かございますか?」

「噴水広場?」

「はい、蛇様が法国のスパイと戦闘した影響で巻き添えを食らい、水の女神像が粉砕されたとか」

「ジエット、ここはアインズ・ウール・ゴウン魔導国の王都だ。銅像を作るのであればアインズ・ウール・ゴウン様以外にあるまいよ」

「そ、そうでしょうか……私は蛇様のお姿を」

「ならん! 黄金の閣下像を作るのだ。資金は帝国から援助させよう。そうと決まれば早速に使者を向かわせ――」

「勝手に話は進められませんよ!」

 

 ジエットは自分を助けてくれたヤトへ感謝していた。今日の自分がいるのはヤトと偶然に出会ったからにすぎない。勉強して家に帰ると、元気な母親が料理を作って待っていた。稀にネメルが同席することもある。何気ない平和な生活は、彼をとても満足させていた。

 

 フールーダはアインズに心酔して絶対服従を誓っている。しかし、図書館で本を盗まれた件、闘技場で大損害を出されながら小馬鹿にされた過去から蛇に対する拭えない悪感情が芽生えていた。互いの意見は対立し、平行線の議論がなされた。

 

 「ちょっといい?」アルシェが発言するべく挙手をした。

 

「おじょ……アルシェさん、何かありますか?」

「二つでは駄目?」

「い、いえ、しかし予算が」

「お一人だけ作るのは失礼だと思う」

 

 アルシェの中で骸骨と蛇への思いは温度差があった。ヤトにはジエットと同様に感謝しており、アインズには恋慕の想いを寄せている。三者三様に立場と感情が違っていた。

 

「王女様にお聞きして」

「う、わかりました」

 

 将来有望な若者は反論もなく受け入れた。いかに知性が上がろうと、ジエットの使用人根性はなかなか抜けない。アルシェは書類をまとめて立ち上がった。

 

「ジエット、他には何かある?」

「あ、いえ。今日は終わりです」

「私は仕事に戻る。何かあれば呼んで。組合には今日中に顔を出しておくから」

 

 魔導国で過ごす彼女は多忙だ。日銭を稼ぐワーカーの仕事に加え、学校建設の打ち合わせ、妹たちの世話、アインズに見てもらうために装飾品・化粧道具・ドレスの物色。 

 一つを除いて日々こなすべき業務であった。

 

 学校関連で報酬は貰っていたが、”フォーサイト”を抜けることもできない。人数が減った彼らは冒険での死亡率が高くなってしまう。発展途上の魔導国でワーカーと冒険者の仕事は豊富にあった。二人の妹もアルシェの帰りを待っている。アルシェとの仲を親密にしようとするジエットの心情に、思いを巡らせる時間は皆無だ。

 

「あ、あの、おじょ……あ、アルシェさん」

「なに?」

「よよ、よろしければこ、このあと食事でも」

「ごめん、忙しい。ネメルを誘ってあげて。彼女も次は同席すればいい」

「あ、いえ、でも」

「仲間が待ってるから」

 

 言い終わる前に彼女は退室した。ジエットの言葉は彼の心情通りに残響する。

 

「お嬢様……」

 

 立派なひげを蓄えたフールーダの口からため息が漏れた。

 

「ふむ、若きことは良いものだな」

 

 前途有望な若人の役に立とうと、少しだけ心を締め上げた。

 

 

 

 

 誰かの声が聞こえたが彼は応じなかった。

 

 もう何も見たくはない。

 

 自我を封印された操り人形の生は、皮肉にも仇敵であった冒険者チーム”蒼の薔薇”に解放された。自分の邪魔ばかりしていた彼女らに、今は絶大な感謝をしていた。

 

 海洋を漂う海月になった気分を味わい、人生の終わりを味わっていた幾日目。

 誰かに体を掴まれ、意識はどこかへ飛ばされた。

 

「いい加減に起きたまえ。御方の前だ、これ以上の無礼は許さない」

 

 聞き覚えのある声に全身が総毛立った。

 忘れたくても忘れられない、知性と悪意に満ちた、眼鏡をかけた悪魔の声。

 見開こうとした瞼は接着されたように開かなかった。

 

「あ、ああっと、ちょっと待ってください……ボス! ボス! ねえ起きてよぉ!」

「殴れ! 殴って起こすんだ! 早くしろぉ!」

 

 騒々しい男女の声。聞き覚えがあり、親しみのある懐かしい部下の声。

 続いて頭部に打撃が加えられた。不快に感じて目を開こうとするも、瞼がくっついて開かない。

 

「おおおきいいいいろおおおお!」

 

 頭から水を浴びせられ、乾いた体はようやく動いた。目を開くとエドストレームが泣いていた。かつてのボスを心配してではなく、悪魔の心変わりを恐れていた。気が変わった彼らの指先一つで、元居た地獄へ叩き落とされたくはない。

 

「起きたぁ! 起きました!」

「あああぁぁ……よかったぁ……」

 

 彼を囲む三人の部下は座り込んだ。サキュロントは喜びの余り、両目が潤沢に濡れていた。恐れているのは死ではない。地獄のような生だ。皆一様に安心して脱力した。

 

 少し離れた場所で、顔に傷のある男が法衣を纏った部下に殴られていた。

 悪魔は意識を取り戻した彼を見て口角を歪めた。

 

「やれやれ、ようやく起きましたか。蘇生してから随分と時間が経っていますがね」

 

 悪魔の背後ではヤトが椅子に寝そべり、美女をはべらせていた。こちらも忘れられない憎き仇敵だ。自分たちをこのような目に遭わせた元凶、デイバーノックを一瞬で滅ぼした怪物。

 

「ヤトノカミ様、目を覚ましたようです」

「ん、陽光聖典はまだだめか?」

「はい、あちらは今しばらくかと。やはり死亡時期の差が影響しているのかもしれません」

「宗教家のくせに情けない奴らだ……とりあえず、六腕は休憩させといてくれ。彼らに飯と酒を」

 

 ヤトは彼らに目もくれず、書類から顔を上げずに答えた。六腕を見ることはなく、それ以上に興味を示すことはなかった。悪魔がゼロに歩み寄る。恐怖の記憶が徐々に思い出され、剥き出しの頭皮が縮こまった。

 

「六腕、君たちはあちらで食事をしたまえ。酒と料理は好きに食べていい」

「……っぁ……っ」

「怯える必要はない。今はゆっくりと休憩しておきなさい。あちらが目覚めたら説明を行おう」

 

 隣の法国民は未だ目を覚まさなかった。

 

 エドストレーム、サキュロントに両腕を支えられ、少し離れた場所に設置された野外テーブルセットに腰かけた。マルムヴィストが顔を覗き込む。

 

「ボス、大丈夫か?」

「サキュロント、酒持ってきてちょうだい」

「あ、ああ、そうだな」

 

 六腕最弱の彼は足早に酒を持ってきた。ナザリック産の酒はゼロの体に染み込み、声帯は命の水を浴びて活動を再開した。

 

「ふーっ……旨い」

「よかった。私たちのことわかる?」

「当たり前だ」

「ボスゥゥ!」

 

 抱き着こうとしたサキュロントは殴られて後ろに倒れた。

 

「状況を教えろ。なぜ俺たちは生き返った」

「う、うん。それがね、詳しく教えてくれないの」

「はあ?」

「あ、でも、私たちに仕事を頼みたいって言ってたわ」

「ビーストマンだよ」

 

 サキュロントが鼻を押さえて起き上り、会話に混ざった。指の間から鼻血が垂れていた。

 

「さっき盗み聞きしたんだけど、あそこの法国と俺たちでビーストマンと戦争するって」

「ふざけやがって……」

 

 ゼロの体が怒りで震えたが、エドストレームが口を開くまでの短い時間だった。震えはすぐに止まった。

 

「で、でもさ、ボス。あいつらに勝てる?」

「……」

 

 酷い目にあわされた過去が走馬灯のように浮かんだ。その反応で皆が押し黙る。彼らは人間ではなく、強さも人知を超越している。この世界にいていい存在ではない。

 八本指で現役だった頃、欲望に委ねて弱者を食い漁ったように、今度は自分たちが骨の髄までしゃぶりつくされているだけのことだ。

 

 計り知れない絶望に、いっそ死んだままにしてほしかった。

 

「ペシュリアンとデイバーノックはどうした」

「ペシュリアンは生きてるらしいぜ。デイバーノックはアンデッドだから放っておけって話してた」

「……糞が」

 

 このまま異形種どもに殴りかかれば死ねるかもしれない。その方が楽な選択肢である気がしていた。今や、死は希望だった。

 

「ボス、せっかく用意してくれたんだから、飯食わない?」

「サキュロント、あんたねぇ。この状況でよくそんなことが」

「……悪いんだけどよぉ、俺はこの中で一番弱いんだよ。どうせ明日になれば獣か奴らに殺されるんだから、今のうちにやりたいことやっておくわ」

「おい、待てよ!」

 

 マルムヴィストの制止も効果がなかった。周囲に並べられたテーブルの上、立食形式に並べられた見事な料理の数々。多種多様な色彩の酒瓶の山。サキュロントは初めて見る料理を物珍しそうに物色し始めた。諦めという名の魔物に殺された彼は開き直っていた。

 

「いい、好きにさせてやれ。奴の言うことももっともだ」

「ボス?」

「明日に殺されるならその方がいい。生き地獄に比べれば死は救いだ」

「……」

「……」

 

 六腕の中で、ゼロの拷問は特に苛烈を極めた。実力の強いものほど耐久力が強く、与えられる実験も酸鼻を極めた。自我を封印されていたとはいえ、ゼロの惨状を目の当たりにしていたエドストレームとマルムヴィストにかける言葉はない。

 

「俺も腹が減ったな……」

 

 サキュロントは離れた場所で食事を堪能していた。嗅いだことのない食べ物の匂いで食欲が刺激された。

 

「マルムヴィスト、肩を貸してくれ」

「?」

「せっかく蘇生されたんだ。飯を食おう。死ぬのはその後でも構わん」

「やっぱりボスはそうでなくっちゃね!」

 

 エドストレームの掌が背中を叩いた。

 

「買い被るな」

 

 久方ぶりに俗界で再会した彼らは、犯罪組織の武闘勢力だった過去を忘れたように、食事と酒を楽しんだ。

 

 彼らの声が届かない場所で、食事に釣られている彼らをナーベラルが睨んでいた。隣のソリュシャンが彼女の眉間に寄せられた皺を見つける。

 

「ナーベちゃん、どうかしたの? お腹でも痛い?」

「……違う。下劣な人間ども、ナザリックの食事をさも当然のように食して」

 

 仰向けに寝そべっていたヤトの首がナーベラルへ向いた。

 

「そんなに怒るなよ。あいつらは明日の作戦に使う大切な駒だ。どんな人間でも何かの役には立つさ」

「はっ。申し訳ありません」

「ヤトノカミ様。どうして彼らでなければいけないのでしょう。人間を使ってビーストマンと戦争をするであれば、魔導国から人を呼んだ方がよろしいのではありませんか? ガゼフ、ブレインなどはビーストマンを何匹相手にしても負けない猛者ではありませんか」

「うーん……」

「ガゼフとブレインって誰?」

「ナーベラル……」

 

 ソリュシャンは不甲斐ない姉にため息を吐いた。

 

(ええと、デミウルゴスは何て言ってたっけ。たしかオペラの条件で人間は醜いって……)

 

「つ、つまりだな、その、今回の作戦は――」

 

 デミウルゴスの立案した作戦の目的は、竜王国民の啓蒙だ。前提としてヤトとデミウルゴスが掲げたのは、【人間は愚かで醜く悪しき種族である】という共通思想だ。

 

 ビーストマンを挑発して大戦争を起こしたとしても、魔導国、つまりナザリックの武力で解決するのは容易い。簡単に助けられた竜王国は、次回も同様にこちらに頼る。

 それ相応の報酬を要求して言いなりになるので悪いことではないが、属国とするに何も考えない甘ったれた人間は用途が薄く、害悪を招く可能性があった。

 

 すぐに人間牧場は犯罪に手を染めた者、時間を無駄に浪費する浮浪者になった者で満員御礼となり、魔導国の一部から悲鳴が絶えないだろう。羊皮紙の生産は豊かになるが、農産物の生産効率は上がらない。アインズの意向は維持費を農作物で賄うことである。

 

 行き詰った状況を避けるべく、デミウルゴスは《条件付け(オペラント)》を用いた。

 

 その結果、最重要なのはこちらの用意した人材が苦戦を強いられることである。魔導国の強者は、ソリュシャンの想像通りにビーストマンが完敗する。ブレイン、ガゼフとその部下、蒼の薔薇などの冒険者、レイ将軍、フールーダ、武王やワーカーなどの帝国勢を戦争に導入してしまえば、個として秀でた強者のいないビーストマンの敗北は明白だ。万が一、投入した人材が戦死すれば魔導国に損害が出てしまうリスクもあった。

 

 魔導国が一切の損失を出さない、尚且つ適度に苦戦する人選に相応しいと提案したのは、体を資源として有効活用された陽光聖典と六腕だった。デミウルゴスは彼らの体を隅から隅まで分析しており、特別に強い個体のいないビーストマンを相手取って戦争するには適正な存在だった。

 

 そうして人間側は苦戦を強いられる。

 兵隊の数で見ればビーストマンに軍配が上がり、六腕や陽光聖典の戦力を考えれば徐々に押し切られていく。そこで竜王国の国民に武器を与え、自らの手で平和を勝ち取るべく武器を取るならよし。

 

 目覚めずに滅びるのなら、ヤトを始めとしたナザリック勢はこの場を撤退する。魔導国に、与えられるだけの役立たずは必要ない。人間が足りなくなれば別の人間国家へ出向けばいい。近郊にはまだ聖王国と都市国家連合が健在だ。竜王国は滅亡して歴史の表舞台から消え、魔導国はアンデッドの素材資源として大量の死体を入手する。

 

 あるいは、状況を打破すべく武器を取って戦い、魔導国側の力を貸し与えて此度の戦争に勝利させる。必ず最後の大詰めは魔導国側が戦争にけりをつけなければならない。

 ビーストマンを退けようと武器をとった彼らを称賛し、死者は全て蘇生し、同盟国となった竜王国へ食料や武器を大量に贈る。魔導国という強力な後ろ盾を得て、自力で平和を勝ち取った彼らは次に戦争が起きても武器を取って前線で戦う。

 

 彼らの行動はカルネ村の農民たちが証明していた。魔導国の加護という【餌】を欲する彼らは、自発的に行動をしなければ魔導国に見放される【罰】が訪れる。

 

 デミウルゴスはこれを条件付け(オペラント)と言った。本来、繰り返し条件付けを重ねがけしなければならないが、それでは手間と時間がかかってしまう。デミウルゴスは彼らを痛めつける策を提案した。

 

 次の戦争で彼らは魔導国の協力を頼むだろう。これを静観して人間の数が減るまで助力を控え、追い込まれてから介入する。その際、犠牲者の死体はすべて蘇生させる。

 敵を退けた魔導国は同盟を解除し、弱さに呆れ果てたとでも理由をつけて竜王国を見放すと宣言。自力で戦うことに目覚めた人間は、後ろ盾無しに仇敵と戦う無謀さを味わい、魔導国へ下る。属国とならなくても、所詮はプレイヤーの血も引いていない並みの人間だ。ビーストマン相手に苦戦を強いられ、犠牲者の蘇生もされずに弱っていく。

 

 国民がどれほど絶望に暮れても、魔導国の知ったことではない。亡命する者は受け容れ、啓蒙されない愚者は棄民と断定して破棄する。魔導国は死体さえ回収できれば構わない。

 

 折を見て放置した箱庭を訪れ、人心が弱っていくのを女王に突きつけ、改めて属国化を提案する。そこで魔導国の支配を受け容れなければ竜王国は滅び、魔導国は大量の資源(死体)と財宝を入手する。空いた領地は魔導国の所有物となる。

 

 どちらに転んでも魔導国が得をして竜王国は損失を出し、最悪は滅亡するだろう。

 

 デミウルゴスは条件を急激に強化することで、レバーを下げる回数を最短の二回で済ませたのだ。スキナーが聞いたら咽び泣きそうな荒業である。加虐嗜好に溢れたデミウルゴスらしい策だった。

 

 ここまで詳しくなされたデミウルゴスの作戦を、ヤトがどこまで理解しているのか怪しい。それでも彼なりの解釈でナーベラルとソリュシャンに説明した。

 

「だそうだ」

「素晴らしいですわ。流石はヤトノカミ様です」

「プランクトンも何かの役に立つのですね」

「まーな」

 

(俺も暴れたいんだけど……最後の詰めは参加しようかな)

 

 雑用をしていたコキュートスとマーレが戻ってきた。黒い影を引き摺っており、ヤトは思わず椅子から立ち上がった。

 

「ただいま戻りました」

「恐怖公ノ眷属ハ、戦場ヲ囲ムヨウニ配置致シマシタ」

「おお、ヤトノカミ様。この恐怖公、創造してくださったるし★ふぁー様の名に恥じぬ働きを致しましたぞ。見ての通り、黒い国境線が引かれております」

「わ、わかったわかった。わかったから、全員、足に付着した眷属を野に返しなさい。それまで近寄るな」

 

 ナザリックの同胞である恐怖公の眷属を、なぜ嫌がるのか守護者級の三名は理解できなかった。後ろを振り返ると、ナーベラルとソリュシャンが遠くに逃げていた。

 

 

 

 

「サキュロント、なに食ってるんだ?」

「エビチリ」

「ボス、酒のおかわりは?」

「自分でやる。エドストレームも今のうちに食っておけ。確かに飯も酒も旨い」

 

 四名は和やかに食事を続けた。過去、悪魔が思いつく限りの人体実験用モルモットにされたと思わせない、緩やかな空気だった。体は栄養を欲しており、幾らでも食えた。何より酒も料理も美味かった。

 

 

 

 

「各員傾聴」

 

 全員が彼の声を待ち望んでいた。耳は枯渇した泉のように、彼の声で潤うのを待っている。信仰という大義は、濁流となって自信を呑み込んだ。かつて、自分は神の崇拝に陶酔していた。確かな信仰に抱かれているのが心地よかった。

 

「獲物は檻に入った」

 

 王国最強の戦士、ガゼフ・ストロノーフ暗殺作戦を、信仰と世界平和という大義名分に殉ずる行動だと思っていた。大義のため、自分はいかなる汚れ仕事をこなそうと構わない。

 異形種に脅かされている人間の未来に繋がると信じていた。

 

 あらゆるものを犠牲にすることを厭わず、あの得体の知れない悪魔どもと遭遇するまで、己の神こそが真の神であると信じていた。

 

 宙を漂っていた体は巨大な手に掴まれたように、急速度でどこかに運ばれていった。

 

 意識は未だ過去の栄光を上映していた。

 

「汝らの――」

 

 顔面に殴打されたような鈍痛が走る。鈍い痛みは骨の髄まで響いた。

 

「信仰を――」

 

 痛みは徐々に増していき、その数も増えていた。

 

「紙に捧げよ」

 

 記憶に刻まれた自分の声、”神”のイントネーションが変わった。痛みは無視できないものになっていた。

 

「何事だっ!」

 

 自分ではそう叫んだつもりだったが、大声を上げた達成感はない。陽光聖典隊長、ニグン・グリッド・ルーインは重たい瞼を開けた。耳は掠れた己の声を拾った。

 

「っだ……」

「隊長! 隊長!」

「よ、よかった! 意識を取り戻しました! これで我々は助かるんですよね!?」

 

 法衣を纏った部下は、上司に対する容赦ない殴打を止めた。眼鏡をかけた悪魔は少しだけ残念そうだった。

 

「仕方がない。君たちの命は助けよう。あちらで休憩していたまえ。御方が後で指示を出すまで、体力を回復させなさい」

 

 未だニグンの体調は万全ではない。部下の肩を借りて運ばれていくのを確認し、デミウルゴスは休憩しているヤトへ向かった。邪神の顕現は部下が書いてくれた演説の台本を必死で暗記していた。

 

「ヤトノカミ様。全員、無事に蘇生を終えました。そろそろいかがでございましょうか」

「……もうそんな時間か?」

「いえ、時間は一晩ありますが、意識がはっきりする前に行った方がよろしいでしょう」

「……うん……そう、なんだけどねえ」

 

 返事は上の空だ。ヤトの視線は書類から動かない。会話の合間にブツブツと何かを呟いている。彼の人生において、大人数の前で演説したのは過去二回、ナザリックの玉座にて至高の41人を降りると叫んだとき、そしてラキュースとの婚姻を宣誓したときである。

 人数も質も比較にならない低さだが、彼らは竜王国を籠絡する駒として死力を尽くしてもらわなければならない。ヤトの望み通り、実績を上げるのに重要な一手だ。

 

 ヤトは体を起こし、大欠伸をした。

 

「ま、何とかなるだろ。よし、やろう」

 

 作戦の全容を把握しているのはデミウルゴスだけだ。他の僕はこれから起きることの成り行きに心躍らせた。

 

 

 スレイン法国特殊部隊陽光聖典、残存勢力90名。蘇生を拒否した者はおらず、彼らは全員が揃っていた。元リ・エスティーゼ王国の犯罪組織内、警備部門を担当していた最強戦士が4名。彼らの配下である脆弱な盗賊は、実力の低さに蘇生を保留されていた。

 

 全員が集められ、立ったままでヤトに視線を集約した。デミウルゴスが言霊で跪かせようとしたが、ヤトはそれを制した。配下の将が見守る中、黒髪黒目の男、邪神の顕現は彼らの前に出た。

 

「陽光聖典。お前たちは神の名を利用して何の罪もない村人を惨殺した。六腕は私利私欲に走り、弱者を思いのままに犯し、略奪して殺した。相違ないか?」

 

 反論はない。あろうはずもない。どれほどの惨たらしい最期を遂げたか、記憶の蜃気楼が物語っていた。

 

「諸君らの体はもう用済みだ。最後の仕事に、竜王国の民の前でビーストマンと戦え。勝てば望みの物を与えよう」

 

 素直に受け入れているようには見えなかった。ニグンとゼロは憎々しい視線を送っていた。反応を受け、ヤトの口角が歪む。瞳が見開かれ双方の上官を映した。

 

「人間は人間同士でも争い、殺し合い、傷つけあう。永遠に同じことを繰り返す。これはお前たちの行動が招いた結果だ。何か反論はあるか?」

「両名、発言を許可する」

 

 デミウルゴスの声が蛇の脇を通り抜けていった。先に口を開いたのはニグン。宗教家としての矜持がゼロの一歩前に出た。

 

「化け物め……貴様らの奴隷になるくらいなら、死んだほうがマシだ」

「宗教の犬か、お前は。スレイン法国は魔導国の属国となった。詳しい話は後で部下から聞け。お前の守る信仰と国は消えた」

「は?」

 

 説明は特になされておらず、ニグンの動きは止まる。次にゼロが反発した。

 

「俺たちを散々に弄んでおきながら、まだ何かさせようというのか。俺たちが素直にそれを聞くと?」

 

 ゼロは怒りで震えていた。自殺志願者の彼は、ヤトに殴りかかってもおかしくはない。

 今の彼は、死こそ望むところだった。

 

「ゼロ、ニグン。お前たちの咎は断罪された。異形種に人体実験されたおぞましい記憶を以て、罪は浄化される。人は報いを受けなければならない」

「糞食らえ」

 

 スキンヘッドの彼は唾を吐き捨てた。ヤトの背後から殺気が漏れた。コキュートスとナーベラルは直情的な殺意を向けていた。ヤトは慌てて話を続けた。

 

「まあ、聞け。全てはゲームだ。これは異形種が治める国、魔導国が竜王国に仕掛けるゲーム。お前たちは魔導国側の駒として働いてもらいたい」

「ふざけるなっ!」

「首尾よく君らが生き残れば、褒美をくれてやろう。それ以後、俺たちはお前らへ一切の関与をしない。魔導国で生きるもよし、他国へ亡命するもよし。報酬を受け取ってから好きに生きろ」

 

 怒りで震えるゼロを、部下の三名が静かに宥めた。

 

「ボス、今は静かに」

「話を聞こうよ、ね?」

「俺、死にたくねえよぉ」

「これ以上、この化け物に付き合いきれるか! なぜ俺がこんな目に遭わなければならないんだっ!」

 

 ヤトはため息を吐いた。黒い瞳は急速に興味を失っていき、六腕は身の危険が迫るのを感じた。次に、法国が消えた事実に愕然としている陽光聖典へ顔を向けた。

 

「お前はどうだ。何か欲しいものはあるのか?」

「ほ、法国の神官長様は……何ゆえ、属国に」

「お前らの崇める六大神が俺たちと同じプレイヤーと知ったからだろうな。お前たちが崇めている神とやらは、別世界の人間。俺と同じだ。平和が約束されたから諦めたんだろ」

「馬鹿な……異形種に支配され、信仰は、聖典はどこに……」

 

 言葉ほど内心は深手を負っていなかった。最高位天使を造作もなく殺したアインズの魔力が思い出される。神と同種の上位者であれば、あれほどの魔力を持っているのも理解できる。堅硬な信仰は揺らいでいたが、唯一にして最重要な問題は彼らが異形種である点だ。

 

 そこは到底受け入れられなかった。

 

「神よ……我らになぜこのような試練をお与えに」

 

 陽光聖典は宗教の本拠地、スレイン法国が歴史から消えたと知り、全員が跪いて天に祈りをささげた。ニグンを始めとした部下は全員が絶望した。ヤトの黒目がゆっくりと閉じていき、周囲は静寂の支配下に置かれた。

 

 青年の瞼がゆっくりと開かれた。

 

「下らん」

 

 全員の注意が向けられる。

 

「人間とは実に醜いな。自分の行いを棚に上げ、なぜ自分がこんな目に遭うのかと叫ぶ。存在しない神とやらに頼る。陽光聖典、六腕、お前たちのいた国は存在しない。お前たちに生きていく居場所なんか存在しない! ゴミがゴミのままで死にたいなら今すぐ! 俺がぁ! 殺してやるよぉぉぉぉ!」

 

 ヤトは大蛇の姿に変わった。人間の体が総毛立ち、死の恐怖が背後から這い寄った。

 大蛇の口からは黒い瘴気が吐き出され、人間の肺を汚染する。苛立ったヤトは台本は破棄したが、デミウルゴスに笑みが浮かんでいた。邪神となったヤトがどうするのか、成り行きを嬉しそうに見守った。

 

「陽光聖典。お前らは存在しない神に縋り、何の価値もない信仰を捧げた。偶像の神を信じ、名を利用して人間を殺しまわるのは気分がよかっただろう。自分が正しいと思っている殺人鬼どもが」

「い、あ、う……」

「ゼロ、お前は王国に巣くって国を駄目にした。かつて弱肉強食の強者として弱者を貪ったお前が、今度は異形の化け物にモルモットにされた気分はどうだ。今度は人間を辞めて人間を食らう怪物にでも変えてやろうか。手始めの餌はお前の部下たちだ」

「くっ…………悪魔め」

「悪魔じゃない。俺は邪神だ。人間なんかに興味はないが、その体は人間に対して利用価値が高い。皮を剥ぎ、内臓を食らい、アンデッドに変えて有効に活用してやろう」

「か、神よ……」

「黙れ、神はいない」

「……殺せ」

「弱者は死ぬ権利さえ与えられない」

「神よ……」

「うるせえ!」

 

 ニグンとゼロの胸倉が掴まれ、宙に持ち上げられた。既に抵抗する気力は失われていた。足を脱力させ、人形のようにぶら下がった。大蛇の腕を掴む力も残っていなかった。

 

「いいか。よく聞けよ、クズ野郎ども! お前たちはそれ相応のことをしてきた。いかなる理由があっても、人を殺せば殺される。大人数を殺せば拷問され、死ぬことも許されない生き地獄が待っている。これがお前たちの報いだ!」

 

 二人はそれぞれの部下へ放り投げられた。

 

「お前たちは人間だ。異形種にいいように弄ばれたお前らが、人間として生きるには獣相手に戦うしかない。俺たちに一矢報いるには獣人相手に勝利を挙げるしかない! 望みの対価を勝ち取り、踏み躙られた尊厳を取り戻すしかないんだ!」

 

 大蛇は大鎌を高く掲げた。

 

「下らん大義名分は必要ない。お前たちは人間として深い傷を負い、命を捨てる覚悟で獣と戦え! 人間として未来を得るため、それ以外に道は無い! 生きるためにはそれしかもう道は無い!」

 

「あ、あのぅ……本当に何でも叶えてくれますか?」

 

 一人の魔法詠唱者が挙手にて問う。

 

「約束してやる。アイテム、金、女、地位、魔法、何でも言え」

 

 六腕の紅一点、エドストレームが挙手をした。

 

「あ、あのぅ……八本指を再興するって言えば、やってくれますか?」

「八本指を復活させても、俺たちが手を出さない保証はしないが、再興するなら幹部を蘇生してやる。再興に必要な金も用意してやる。どうせそれ相応の組織を作る予定だったからな」

「……話がうますぎる」

「命を懸けて獣と戦う報酬だ。死んだら蘇生しないからな」

 

 エドストレームは何かの希望を見ていた。マルムヴィストとサキュロントは、エドストレームと目で合図をしていた。

 

「どうだ、素晴らしいだろう。人間の魂を懸けた戦いを、元人間の俺に見せろ。道を切り開く人間の苦痛を俺に見せろ。獣に殺されずに生き残れば勝ちだ」

 

 誰の返事もなかった。デミウルゴスは眼鏡を正す時間だけ待ち、返事の催促をした。

 

「お前たち、御方へ返事をなさい。粛清しますよ」

「うぅ……うぅうぅぅ……うおおおおお!」

 

 ゼロが咆哮を上げて立ち上がった。

 

「俺の願いはお前たちの一掃だ!」

「結構だ。俺たちはその願いを叶えないが、お前を強くしてやる。何度でも地獄に突き落とされ、何度でも這いあがれ」

「黙れっ! 命ある限り、何度でも戦ってやる!」

 

 法国の由緒ある特殊部隊が王国のちんけな犯罪組織に負けてたまるかと、ニグンも立ち上がった。

 

「悍ましい化け物共。だが、私は感謝する。我らは再び、信仰という栄光の中で戦うことができる。大義を掲げて死ぬことができる!」

「上等だ。最強クラスの異形種と共存しながら、どこまで宗教を信じ通せるかやってみろ」

「黙れっ! 信仰と愛は最後まで残る! いや、最後まで貫いてみせる!」

「おお、精々頑張るんだな。ちんけな人間が人間なりに、ちっぽけなプライドを守るために」

 

 小馬鹿にされ、ニグンとゼロはわかっていながら露骨な挑発に乗った。

 

「私は戦う! 信仰という大義を掲げ、人間が平和に暮らす世の礎となってみせる!」

「俺は戦う! いつかお前の心臓に闘鬼ゼロの剛拳を突き込んでやる!」

 

《うぉおおおおおおおおおおおお!》

 

 陽光聖典、六腕、全員がゼロとニグンに呼応した。万雷の咆哮を以て立ち上がり、その手に未来を掴むために決起した。デミウルゴスの耳打ち(メッセージ)は必要なく、予定通りに彼らは立ち上った。崇高な宗教家の魔法詠唱者と堂々とした犯罪組織の筆頭戦士を、ヤトは満足げに眺めた。

 

「それでいい。弱小種族の人間は最後まで戦い、未来を掴み取れ。どれほど困難な未来でもな」

 

 ヤトは自分に言い聞かせるように呟いた。

 

 大蛇の口は特別に大きく歪んだ。

 

 

「諸君。ようこそ、地獄へ」

 

 

 

 

 




天国=ヴァルハラ=最高神オーディンにより、戦場で勇敢に戦って死んだ兵士を招かれる大広間



11巻までで得た知識により解説


蘇生魔法とは

原作の蘇生魔法は、体を抜けた魂は現世に留まらずに大きな魂と一つになる。蘇生魔法が発動時、肉体に入っていた魂をそこから引っこ抜いて、新たに作成された肉体に突っ込む。
使用する魂が本人のものであり、輪廻転生とは少し違うのが原作。この物語は訳あって完全輪廻転生を採用。解説は少し先の話で虹色がします。


記憶とは

11巻アインズさんの台詞より引用
「脳にある記憶ではなく、もっとなにか根源的な記憶にアクセス(略」
 記憶とは世界記憶(アカシックレコードorアカシャ年代記)にアクセスしていると判断。自動的に、あらゆる知識が蓄えられている図書館は存在する。これ、伏線です。虹色さんには想定できませんので先に言っておきます。


世界の原理

オーバーロードにおける転移後の世界は、魔法的常識によって支配されている。(書籍11巻より)
つまり、科学的常識のある世界と共存は不可能。大いなる魔力の源泉が存在し、魔法詠唱者はそれを感じ取り、神と呼ぶ(書籍7巻より)※アインズさんは無色透明なる力の塊と判断
この時点で時系列の違うリアル(現実世界の過去か未来)、地球から遠く離れた宇宙の彼方、リアルに被さる並行世界(パラレルワールド)の可能性は皆無。
魂だけゲーム世界に吸い込まれたという可能性は勝手に否定(ユグドラシルのサービス終了)

原作の推論
 リアルと異世界は交わることない平行線。ギルドメンバーの帰還する可能性は存在しない。ただし、既に別の場所に転移している可能性は存在するが、少数(一人ないし二人)である可能性が濃厚

ヒント
 アインズさんは単独転移しても主観的幸福(閉鎖的幸福→それなりに充実した生活)は手に入るが、客観的幸福(誰の目から見ても幸福)は入手不可能
 理由は彼の性格とNPC及び現地人との関係性や興味・関心、思い込みと勘違いの強さ。
 くがねちゃん様がアインズさんを嫌っている理由もそこにあるのではないかと推測。
 この物語のアインズさんは、魔導国編(76話)までの経緯で知性を少し上げ、支配者として少し成長して部下に厳しくなっています(特にヤトへ対して)。
 ギルドメンバーと同時転移で人類救済ルートと言いますが、救済とは何なのか。何を以て救済なのか。救済の形もメンバーの数だけ存在するでしょう。

 それと、北欧神話の近親相姦率と浮気率の高さは無視します。


――次回予告――

「ユリ姉。上の階の旗、替えてきたっす」
「ユリ姉様ぁ。下の旗も交換終わりましたよぉ」
「お疲れ様。こっちも終わったから、休憩しましょう」
「ナーちゃんとソーちゃん、上手くやってるっすかねぇ」
「どうかしらね……あの二人には謝らないと」
「もう気にしてないと思いますわぁ」
「そうだといいんだけど……」
「あっちも明日は忙しいみたいっすね。下界は晴れっすか?」
「ルプー。ユリ姉様はぁ、気象予報士じゃないわぁ」
「明日の天気は……」

次回、「晴れときどき血の雨、所により闇と光と虹」

「気象予報士だったっす!」
「流石はお姉様ぁ。特技が殴打じゃなかったのねぇ」
「さっき天気予報の書類が落ちてたのを見たのよ」
「でもどういう天気っすか?」
「……さあ?」
「流石はお姉様ぁ。脳みそが筋肉でできてるのねぇ」



※※※※警告※※※※
次話、えげつない表現が一部で破裂します。
胸糞展開、残酷描写が一部ですが過多です。
作者は自分が残酷だと思うこと、気分が悪くなりそうなことを一部に全て盛り込みます。
ご理解の上、先にお進みください。

◆◆閲覧注意◆◆
とでも書いておきますね


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