モモンガさん、世界征服しないってよ   作:用具 操十雄

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舞台設定
かわいそうなスルシャーナ様


 

 

 むかしむかし、六人の神様がこの世界に現れました。

 

 五人は人間のお姿をしていましたが、一人はスルシャーナ様という骸骨でした。

 

 六人の神様は魔物たちに苛められていた人間達を、魔法という力で助けてくれました。

 

 やがて、人間達は六人の神様に助けられ、大陸に人間達の国を作ります。

 

 人間達は六人の神様を六大神と呼んで崇め、信仰を捧げました。

 

 五人の神様は人間と子供を作り、寿命を全うして天に召されました。

 

 骸骨であるスルシャーナ様は、他の神様たちが天に還られた後も、仲間の子供達、孫達を見守り、慈愛に満ちた目で人間達を見守って下さいました。

 

 文化が発展し、知恵を付けた愚かな人間達が、スルシャーナ様を恐怖して排他的な目を向けても、その慈愛は変わりませんでした。

 

 スルシャーナ様は人間達の生活を邪魔しないよう、六大神がお住まいになられていた住処へお帰りになられました。

 

 いつしか百年の歳月が流れ、恐るべき八人がこの世界に顕現しました。

 

 彼らは八欲王と呼ばれ、偉い人しか使う事が出来なかった魔法を、位階魔法という名前を付け、一人でも多くの人間が使えるようにしました。

 

 魔法で力を付けた愚かな人間達の国は、争いが絶えない国に変わっていきます。

 

 これを悲観したスルシャーナ様は、大切な仲間の子孫を守るため、八欲王と話しに行きました。

 

 醜い八欲王たちは話など聞かず、攻撃を仕掛けます。

 

 殺されても何度となく復活を遂げていたスルシャーナ様は、いつしか姿が見えなくなってしまいました。

 

 その後、スルシャーナ様の拠点に住んでいた神々は、神様の死に激昂し、各地を暴れまわる魔人となってしまいます。

 

 この世界の変化と、友達の死に心を痛めた白金の竜王は、他の竜王を集め話し合いをしました。

 

 多くの竜王が八欲王の行動に怒り狂い、部下や他の魔物たちを集めて八欲王に戦争を仕掛けます。

 

 これが種族全てを巻き込んだ大抗争の始まりでした。

 

 

 スルシャーナ様と仲の良かった白金の竜王は、戦いを仕掛ける竜王達を止めましたが、怒りで我を忘れた彼らは聞く耳を持ちません。

 

 何日も何十日も続いた大戦争で、多くの犠牲がでました。

 

 しかし、殺されても蘇る八欲王の前に、竜王達は一人、また一人と倒れていきます。

 

 戦争に勝った八欲王たちは、やがて大陸の支配者となったのです。

 

 ですが、繁栄は長く続きませんでした。

 

 醜い強欲を剥き出しにした彼らは、互いの宝を奪い合うために争います。

 

 遂にその闘争も終わりを迎え、愚かな八欲王は一人だけになりました。

 

 白金の竜王は六大神の子孫達と協力し、残された八欲王に戦いを挑みます。

 

 依然として強い力を持つ八欲王でしたが、消耗した彼に勝ち目は無く、最後は白金の竜王が始原の魔法で八欲王を滅ぼしました。

 

 八欲王が住んでいた浮遊都市は、都市内の魔人を刺激しないようにそのまま放棄されました。

 

 六大神の子孫は白金の竜王と協定を結び、スレイン法国を建国します。

 

 こうして六大神の子孫と八欲王の子孫を含む人類で、大陸が分かれたのです。

 

 各地を暴れまわっていた魔人たちは、神の力を受け継いだ者と十三英雄によって倒され、この世界に平和が訪れたのです。

 

 

 

 

 

 頭髪と両目の色が白と黒に別れた少女は、読んでいたおとぎ話を閉じた。人間愛を語る宗教国家、スレイン法国が誇る最強の部隊。都合の良い捏造が盛り込まれた本など、数か月に一度読む程度で十分だと、無造作に何処かへ放り投げた。

 

「ふー……退屈」

 

 既に物語への興味を失い、漆黒聖典番外席次は”ルビクキュー”を手の中で弄ぶ。静寂が支配していた室内に、玩具が嬲られる音がかちゃかちゃと流れた。

 

「可哀想なスルシャーナ様。馬鹿な奴らなんて放っておけばよかったのに……どうでもいいけどね。はぁーあ、私の王子様はいつ現れるのかしら」

 

 玩具から視線が外れ、贅肉のない腹部に移った。当然、中には何も入っていない。

 

「子供、作らないと勿体ないし」

 

 彼女は彼女なりに王子様の夢を見る。白馬に跨った王子様ではなく、世界最強の自分を殺しきれる強者を。理想的な出会いの舞台も決まっている。血で血を洗う凄惨な戦いこそ望むところだ。悲劇的な血の交じり合いという奇跡の末に誕生した化け物、その彼女からすれば極めて個人的な悲願だった。

 

「これが完成する頃には会えるといいな……あ、一面出来た」

 

 手の中に収まる”ルビクキュー”は、緑の一面だけ揃っていた。

 

 全ての面が完成する目途は立っておらず、現段階では完成など夢のまた夢だった。飽きた彼女は玩具を放り投げ、窓から階下を見下ろした。大神殿の私室から見下ろす夜景には、たくさんの街灯が集まって国民の日々の営みを映し出す。きっと、彼女とは関係ない人間が恋をして、結婚をして、子を産んで死んでいくのだ。いつも通り、自分には関係ない景色をぼんやりと眺めた。じきに何事もない一日が終わり、太陽に追い立てられる短い間、世界を支配する夜が訪れる。

 

「はぁ……退屈……戦争でも起きればいいのに」

 

 少女の部屋にしては簡素な部屋で呟いた。 呟きは窓に衝突して静寂を際立たせた。退屈な顔で窓から階下を見下ろす彼女は、深窓の令嬢に見えた。

 

王子様を待つお姫様は、意味もなく夜空を見上げる。

 

 

 半月は夜に坐し、時が満ちるのを待っていた。

 

 

 


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