「唯、少しテンポ乱れてる」
「は~い」
「唯の場合、得意なフレーズの時は走っていて、苦手な時はわかりやすくもたつくからね。普段好きなフレーズばかり弾いてるだろ」
「えへへ~」
「誉めてない」
「「「「…………」」」」
平沢家での出来事の翌日の練習。一人一人の演奏を注意深く観察し、気になる点を指摘する。これはいつも通りだが、今回は、新入生歓迎ライブに合わせて作った新曲だ。いい感じに皆も集中しているが、俺の脳内には、昨日の憂の裸がこびりついている。おかげで、仕事もミス連発だった。
だが仕方ない。生まれて初めて見た女の子の裸だ。それもあんな可愛い子だ。そう考えていると、あの白い体が……
「フンス!」
唯から頭をはたかれる。
「憂に言いつけちゃうよ?」
「いや、今は演奏について考えて……」
「Hな顔してた!」
「えー……」
マジでか。
軽い自己嫌悪に陥る。
「「「「…………」」」」
ふと視線を感じる。
目を向けると、他の4人がジト目でこちらを見ていた。
「どうかした?」
「いえ、呼び方……」
秋山さんが言いにくそうに俯く。
「呼び方?」
「ええ…その……唯って呼んでたので……」
「仲良さげですし」
「こりゃなんかあったな!」
「憂ちゃんに言いつけるってなにかしら?」
4人が騒ぎ出す。てか、琴吹さんの疑問は非常にまずい。もし昨日の件が知れたらやばい気がする。いや、間違いなくやばい!
「い、いや昨日決めたんだよ!平沢さんだとどっちかわからないから!」
唯が慌てて説明する。グッジョブ!!
その後、他のメンバーも下の名前で呼ぶように強制された。
*******
練習後、昨日の憂の命令通り、食材の調達に行く。帰り道が同じなので、唯もついてきた。
さて、何を買おうか。
「あ、これおいしそう♪」
唯がクッキーをカゴに入れる。
俺はクッキーを棚に戻す。
「これ欲しい~」
唯がポッキーをカゴに入れる。
俺はポッキーを棚に戻す。
「何で買わないのー!?」
「ほら」
先程憂からきたメールを見せる。
『お姉ちゃんにあんまりお菓子を与えないでくださいね』
「憂~……」
本当にできた妹だ。
「さ、はやくすまそう」
「あう~」
「甘えない」
「うぐぅ……」
「キャラ変えるな」
せめて天使の羽をつけろ。
「あら、唯?」
「あ、和ちゃん♪」
後ろからの声に振り向くと、眼鏡をかけた知的な顔立ちをした女の子が立っていた。どうやら唯の知り合いらしい。
「唯も夕飯の買い物?」
「そうだよ~」
「そちらの方は?」
「江崎さんだよ~」
和と呼ばれた女の子は苦笑する。色々はしょりすぎだろ……。
*******
「江崎さん、まだかな~」
憂はぽつりとつぶやいた。
買ったばかりのアコースティックギターを弾きながら。