「おお……」
やっぱりこういうイベントはいい。
憧れのロックスターと同じモデルのギターというのは、とにかくテンションが上がる。いつか全部買いたいなぁ……一本くらいならそろそろ追加しても……おっと、いかんいかん。せっかく唯と憂に片付けてもらったのに、今の部屋で増やしたら、絶対に怒られる。いつか迎えに来てやるからな。
「ふふっ」
「どうした?」
「江崎さん、子供みたいな顔してる~」
「う、うるさいな……ていうか、唯は見なくていいの?」
「私はギー太がいるもん」
「えっ?じゃあなんで……ああ」
さすがにその意図に気づかないほど鈍感ではない。
俺は首筋に手を当てながら、唯に頭を下げた。
「ありがとう。教えてくれて」
「いえいえ~」
ニコニコと笑顔を見せる唯が子犬っぽくて、ついつい頭を撫でてやりたくなる。
そんな衝動を抑えるようにギターを一つ一つ丁寧に見ていると、「あっ」と声が聞こえた。
「江崎君だ!久しぶり!」
「えっ?」
聞き覚えのある声に顔を上げると、俺は圧迫感と呼ぶべき感覚に支配された。
「……檜山」
名前を静かに、だが一音一音噛みしめるように呼ぶと、その男は人懐っこい笑みを浮かべた。
「卒業して以来だよね。元気だった?」
「あ、ああ……」
俺は返事をしながら相手の目をしっかり見て、これが夢ではないことを意味もなく確認する。
男の名前は檜山奏一。俺が通っていた専門学校の同期だ。背丈は俺と同じくらいで、やせ形の童顔だが、はきはきした喋り方と物怖じしない性格で、たまに年上に見える不思議な男だ。そして……こいつは既にプロのギタリストとして活動している。
「江崎さん、お知り合い?」
「ああ、専門学校時代の……」
「今も友達だろ?冷たいなぁ」
「いや、それはわかってるよ」
さらにこの男、爽やかでめちゃくちゃ性格がいい。正にイケメンである。専門学校時代からそりゃもうモテまくっていた。
色々思い出していると、檜山は俺と唯を交互に見て、首を傾げた。
「江崎君、妹いたんだ」
「あ、いや、この子は……」
「彼女?」
「違うわ!」
「むぅ……」
つい勢いよく否定してしまった。いや、嘘はついてないんだけど……ていうか、相変わらず天然だな、こいつ。あと唯、何故背中をさりげなく叩く……。
「今、さわ子さんとこの軽音部の子達に教えてて、そこの部員」
「ああ、さわ子さんか。元気にしてる?」
「言うまでもなく」
「だろうね。あっ、初めまして。檜山奏一といいます」
「初めまして!江崎さんの一番弟子の平沢唯ですっ」
爽やかな檜山の挨拶に対し、唯がほんわかした挨拶を返す。一番弟子って……いや、別にいいんだけど。
「そっかぁ、こいつめっちゃギター上手いでしょ?」
「はいっ、めっちゃ上手いです!」
お前から言われると嫌みに聞こえなくもないんだが……。
「あっ、そうだ。今度ライブやるから観に来てよ。俺はサポートなんだけど」
「へえ、そっか。すごいな」
「そっちはライブの予定とかは?」
「もうちょい先かな」
「やる予定が決まったら教えてよ。おっと、そろそろ行かなきゃ!じゃあまたね!」
現れた時のように檜山はいきなり去っていった。ライブかぁ……見たいけど見たくねぇ……複雑だ。
唯はキラキラした目でこちらを見上げていた。
「あの人、ギター上手い人なんですか!?江崎さんのライバル!?」
「……いや、俺の数倍上手いよ」
俺はその事実を告げるだけで精一杯だった。