「よしっ、今日はここまで。さっきの曲のアウトロ、少しリズムがずれてたから、それぞれ復習しといて」
「「「「「はいっ」」」」」
全員の熱のこもった返事を聞いて、スイッチの切り替わりの凄さに、未だに驚いてしまう。
ちなみに憂は出張から帰ってくる両親をもてなすための料理を作るため、今日は不参加となっている。
大会も刻一刻と近づいているが、メンバーの顔に悪い意味の焦りはなかった。
「ねえ、江崎さん。今日もウチ来るよね?」
「いや、親子水入らずを邪魔するわけには……」
「お父さんとお母さんが、また江崎さんと話したいんだって」
「そ、そうか……」
そう言われてしまっては断るのも心苦しい。何よりいつもご馳走になってるわけだし……。
「じゃあ何か甘い物買っていこう。せっかくだし」
「あっ、いいね!賛成~♪」
「江崎さん、ついに菓子折りを持って挨拶しに行くんですか。頑張れ!」
「やかましいわ!そういうんじゃないよ!」
「律、変な方向に盛り上げるんじゃない」
「は~い……ムギ、どう思う?」
「律ちゃん、変な方向に盛り上げたらダメよ」
「律先輩、変な方向に盛り上げたらダメです」
「なんだよ、皆して~!ま、いいか。はやく帰んないとさわちゃんに叱られちゃう」
「そうだな」
賑やかに音楽室をでると、唯は何故か向こうをむいて、何事かぶつぶつ呟いていた。
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「ありがとうございます。またお越しくださいませ」
店員さんから商品を受け取ると、近くのケーキに見とれている唯に声をかけた。
「お待たせ。行こうか」
「あっ、ちょっと待って!」
「何?」
「あっちでギターのイベントが!」
「むむっ……いや、はやく帰らないと憂達が……」
「ちょっとだけなら大丈夫!ほら、行こ!」
「えっ、あっ、ちょっ……!!」
唯は強引にこちらの手を引いた。
いや、手繋いでるんだけど……。
この子、あんまそういうの気にしないタイプなのか?
いや、それより俺は何でこんなに緊張してるんだ?
相手は教え子だぞ?いや、まあ世間一般の教師と生徒とは全然違うんだけれど。
想像よりも小さな手の感触と温もりに胸が高鳴るのを感じながら、俺は彼女に手を引かれるまま歩いた。
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あわわわ……い、いきおいで手、つないじゃったよお!
さっきから胸がこう、どっくんどっくん鳴ってるよお!どうしよう!?江崎さん、びっくりしてるよね!?
えっと……憂に知られたら怒られちゃうかな……でも、ごめんね?
今だけは……二人で、いたいかな。