「えっ?……唯!?」
なんとそこにいたのは、バスタオルを身体に巻いて、頬を赤らめている唯だ。
目を何度か瞬きして、現実かどうかをしっかり確認すると、そこには確かに唯がいた。
「え?え?な、何やってんの?」
「……あ、あの……いつものお礼がしたくて……ね?」
「ね?」とか言われましても……。
だが、突然の出来事に心臓が激しく脈打ってるのを感じる。
不意に先日のあれこれを思い出し、今の唯にあらぬ想像をしてしまいそうになる。
だが、何とかそれらを取り払い、目をそらして、落ち着いて言葉を絞り出した。
「お、お礼とか言われても……ほら、何と言うか、もっと自分を大事にしたほうがいいというか……」
「……ふっふっふ」
「?」
急に不敵に笑い始めた唯に、つい目を向けると、彼女はばっとタオルを剥ぎ取った。
「じゃ~ん!」
「っ!……………………え?」
なんと彼女は水着を着ていた。
そのことにほっと胸を撫で下ろすと、彼女は悪戯っぽい笑みを浮かべ、こちらを覗き込んできた。
「あ~、もしかして変なこと想像した?江崎さんのエッチ~」
「…………」
とりあえずイラッときたので、湯船のお湯をバシャッと顔面にお見舞いしてやった。
「わぷっ!も~、何するんですか~」
「やかましい」
「お返しするもんね~……わわっ!」
湯船に向かおうとした唯が床で足を滑らせた。
慌てて彼女の身体を受け止めると、意外なくらい華奢で、甘い香りが弾けた。
「ご、ごめんなさい……ありがとう、ございます」
「だ、大丈夫」
謝罪と感謝を立て続けに告げられるが、肌の温もりと柔らかさが気になり、上手く頭に入ってこない。
俺は今、はっきりと彼女を異性として意識していた。
「あのさ……」
沈黙を恐れるような頼りない声音で唯が口を開いた。
「江崎さんって、今好きな人とかいるの?」
「えっ?あ、い、いないけど……」
いきなりのストレートな質問に、ついテンパり気味に答えてしまう。
密着しすぎているので彼女の表情がわかりづらいが、耳が赤くなっているのはわかった。
ていうか、やばい。いつまでもこんな体勢じゃ……。
「そっか。そうなんだ……よかったぁ」
「え?」
聞こえるか聞こえないかくらいの声で何か呟くと、唯は身を翻し、浴室を出ていった。
あっという間に静寂が訪れ、まるで幻を見ていたかのような気分になった。
「……何だったんだ」
わざとそう呟いてみたが、それが誤魔化しなのはわかりきっていた。
それに気づくくらいには、甘い香りが鼻に馴染みすぎていた。