「はぁ……間に合ってよかったね」
「ああ……まあ、これでまたライブ経験が積める。しっかりやろう」
「はいっ」
帰り道。平沢姉妹と歩きながら急遽決まったライブに思いを馳せていると、自然と口数も多くなる。自分がライブをやるわけではないのだが。
我ながら少しはコーチらしくなってきたということだろうか。
「あ、あのっ!」
「?」
憂がいきなり大きめの声を出したので振り返ると、彼女は言いづらそうにTシャツの裾を握りしめていた。
隣にいる唯もキョトンと首を傾げている。
「憂、どしたの?」
「あの、私……今回ソロで出演してみていいかな?」
「…………」
「え……」
正直予想はしていた。
憂としては、こちらのほうが気を遣わないで済む。それと、多分だが彼女はもう気づいてる。
その方が自分の実力が発揮できることに。
あとは唯の反応が気になるが、妹を溺愛しているだけに、この決断は……
「憂、応援する!」
「「え?」」
唯の言葉に、俺だけではなく憂もポカンとしていた。
だが、そんなリアクションなどお構いなしに、唯は憂の肩をガシッと掴んだ。
「憂がそうしたいなら応援するよ!お姉ちゃん離れはとっても寂しいけど、憂がやりたいって言ってるんだもん!」
「お姉ちゃん……ありがとう!私、頑張るね!」
よかった。どうやら丸く収まったようだ。
そこでほっとしてしまったせいか、俺も自然と口を開いていた。
「ていうか、唯は日常で憂離れできてなさすぎだろ」
「っ!江崎さん!?」
「あははっ、いいんです。お姉ちゃんのお世話は私が好きでやってるんですから」
「憂!?」
「じゃあ、しょうがないな」
「江崎さん!?」
「ですね」
「憂!?」
帰り道はいつもより少しだけ賑やかになった。
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夕食後、片付けを手伝っていると(唯はごろ寝中)、憂が何か思い立ったように口を開いた。
「あ、そうだ江崎さん。今日はお風呂に入っていきませんか?」
「お風呂?……」
いきなりの提案に、いつかの事件を思い出す……。
「も、もうっ、そのことは忘れてください!江崎さんのエッチ!」
「いやいや、何も思い出してなんかないよ」
「顔が真っ赤です」
「…………」
いや、だって……ねえ?忘れるのもったいないじゃん?
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勧められるままに湯船に遣っていると、疲れがやわらいでいくのを感じる。アパートだとシャワーですませてばかりだからなぁ。
すると、誰かが脱衣所に入ってくる音が聞こえた。
「あの、入ってもいいですか?」
「…………えっ?」