静まり返った部室内。皆何が起こったか、わからないというような顔をしている。
真っ先に静寂を破ったのは、他ならぬこの事件の当事者の俺自身だった。
「えーと、どういう事?」
素直な疑問が口をついて出る。何故俺はギターを強奪された?それに、ギー子って誰だ?俺のギターの事なのか?
「唯先輩、どうしちゃったんだろう?」
「あんな唯ちゃん初めて……」
中野さんと琴吹さんが呟くように言う。この2人が初めてというくらいだから、よほど意外な姿なのだろう。
「もしかして、選曲悪かったかな?」
「さすがにそれは……」
俺の疑問に秋山さんが苦笑する。
「アンタ結構余裕あるわね」
さわ子さんは呆れていた。
確かに自分でも意外なぐらい落ち着いてる。初対面の女の子にギターを強奪されたのに。
「つーか唯のヤツ、自分のギター忘れてる」
「と、とりあえず追いかけよう!」
田井中さんと秋山さんが出て行こうとした。
「ちょっと待ちなさい」
さわ子さんが2人を止める。
「今日のところは、私が唯ちゃんのところに直接ギターを持って行くから。だから解散しましょ。義昭くんも、明日にはギター戻ってくると思うから。ね?」
そう言ってウインクしてくる。まあ、さわ子さんが信頼してる生徒だから、悪い子じゃないと思うし、あの子が、人のギターを粗末に扱うような子には、どうしても見えなかった。
「わかりました。じゃ、皆もお疲れ様です」
俺はそう言って足早に部室を出た。
*******
さっきの演奏中の平沢さんの顔を思い出しながら、来た道を戻っていると、後ろから騒がしい足音が聞こえてきた。
「江崎さん!」
軽音部のメンバーだ。楽器を持って、急いで追いかけてきたせいか、ギターとベースの二人は肩で息をしていた。
「あの、すいませんでした!」
秋山さんがこちらに丁寧に頭を下げてくる。
「あ、気にしないでいいよ……」
「あはは、ほ、本当にあっさりですねぇ」
琴吹さんが苦笑する。本当に自分でも不思議なくらいなんだが……
「何となくだけど、悪い子に見えなくて」
「お、わかってんじゃん!」
田井中さんが、ほっとしたように笑う。
「お前、急にタメ口か」
秋山さんがツッコむ。
「別にいいよ。それより、何で平沢さんは……」
「それは……」
考えながら話しているうちに、校門まで来ていた。
「じゃあ、俺はバイトに行くから」
方向が逆なので、とりあえずここで別れる事にした。
「あ、あのっ!」
「ん?」
「あの………明日もよろしくお願いします!!」
秋山さんが顔を真っ赤にしながら、頭を下げる。
他のメンバーも、その様子に驚いた後、頭を下げてくる。
その一生懸命な姿が何だか微笑ましくなって、ふいに笑顔が零れた。
「……ああ、また明日」
こちらも彼女らに倣い、頭を下げる。
……まあ、あれだ。はっきり言えるのは、いくら年下とはいえ、あんな魅力的な表情をされたら、こっちが緊張してしまう。
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そして翌日、さわ子さんの指示通りに昼に音楽室に行くと、俺のギターをしっかりと抱きしめる平沢さんがいた。