それから一週間後。
「じゃ、じゃあ、歌います!」
例の公園で憂の弾き語りライブが幕を開けた。
観客は軽音部のメンバーにさわ子さんと俺といういつもの顔触れだが、憂曰く『心強い』らしい。
「わ~ぱちぱち~」
「いいぞー憂ちゃーん!」
この元気二人組が応援してるなら、まあ確かに心強いだろう。かなり照れくさいとは思うけど。
憂はギターを構え、こちらを見たので、黙って頷いておいた。
それに対し、彼女も頷き……ライブが始まった。
「……わあ」
「……すごい」
「…………」
やはりすごい。
出だしの一小節から、しっかりと自分の世界に引き込んでしまう表現力。
緊張もあってか、やや声量は頼りないが、その声はよく通り、歌詞もしっかり聞き取れる。
やがて曲が終わり、憂は目を閉じて頭を下げた。
その姿に軽音部関係者以外の通行人も何人か小さな拍手を送ってくれていた。
「あ、ありがとうございます!」
「憂~!」
やたら感極まってる唯がガバッと抱きつく。
「お、お姉ちゃんっ」
「唯?まだ一曲目だよ」
「えへへ……この前はできなかったから」
「それにしても憂ちゃん、本当に歌上手いな」
「ギターもすぐに覚えちゃったものね」
「むうぅ……悔しいくらい才能ありますね」
「…………」
悔しいくらいの才能か……あいつも……。
「誰の事思い出してんの?」
「……別に」
「嘘ね。顔に出てるわよ。『悔しいくらいの才能に俺も専門学校で出会ったなぁ』みたいな」
「……割と当たってますね。エスパーですか」
「顔に出てるって言ったでしょ?まったく、もう……」
何故か強引に肩を組まれる。すぐ傍にある彼女の横顔は、昔みたいに見えた。
そして、平沢姉妹の視線がこちらに向けられ、さわ子さんが俺を解放するまで固定されていた。
*******
「ふぅ……今日は楽しかったなぁ♪」
帰り道、憂は満足そうな表情で拳を握り、こちらを見た。
特にトラブルもなく、そこそこ立ち止まって聴いていく人がいたので、弾き語り初心者にしては上手くいったほうだろう。
「皆さん、今日はありがとうございました」
「いいよ。いつでも製塩送ってやるから、次も呼んでくれ」
「憂ちゃん、本当にいい声だし」
「今度ああいう場所でお茶したいわねえ。何なら憂ちゃんの歌を聴きながら」
「…………」
「唯、どうした?」
さっきから黙っている唯に声をかけると、彼女は何かを決意したように、しゅばっと手を挙げた。
「今度外でライブやろうよ!」
「…………はい?」
いきなりな提案に、俺はつい首を傾げてしまった。