「私、路上ライブをやってみたいです!」
「お、おう……」
練習後、憂がいきなり提案してきたのに対し、その圧力に俺はたじろいでいた。あと顔近い。
「…………」
唯がじぃ~っとこちらを見ているが、今はそんなに睨まないでくれ。俺は無罪だ。やましいことなど何もない。
俺は気を取り直して、再び憂に向き直った。
「それで……どうしたんだ、いきなり?」
「ただライブがしたいだけです!」
「なるほど……まあ、気持ちはわかる」
「ありがとうございます!……でも、どこでやればいいのかわからなくて……」
「まあ、この辺りに広い公園があるなら、そこでいいと思うんだけど……あと駅の近くとか」
「ウチの近くの公園はダメなの?」
「あそこだと近くに家があるし、集まるのご近所さんだけになるかな」
「それにしてもすごいな、憂ちゃんは……私なんて路上弾き語りとか想像しただけで……うぅ」
「いや、想像だけでそんな顔真っ赤にすんなよ」
「憂ちゃん、絶対観に行くからね」
「あ、ありがとうございます!」
「あはは……何だか収拾つかなくなりそうですね」
「……とりあえず場所探してみるか」
専門学校時代に弾き語りは数回したことはあるが、あの時は場所選びはそんなに考えなかったな。たまに警官に注意された時は、すぐに撤収したし。
だが、それ以上思い出すことはしなかった。いや、思い出したくなかった。
一人かぶりを振った俺を、平沢姉妹が首を傾げて見つめていた。
*******
翌朝。
少し曇りがちだが、そのおかげで程よい涼しさなのがいい。
人通りは、まだ休日の朝九時だからか、普段よりは少なめに感じた。
その緩やかな流れをぼんやり眺めていると、その合間から見慣れた少女が見えた。憂だ。
「おはようございま~す!」
「おはよう。あれ、唯は?」
「あそこにいますよ。ほら」
再び向こうに目を向けると、唯がよたよたと走っていた。
「ま、待って~憂~」
「もうっ、今日は朝から出かけるのに、夜更かししてギター弾いてるからだよっ」
「だってぇ~、ギー太が寝かせてくれなかったんだもん……」
「…………」
まあ、こいつらしい理由だな。俺も高校時代にはよくあった。だが、ギー太が寝かせてくれなかったはやめような。なんかやらしい意味に聞こえるから。
「それじゃあ、行くか」
「はいっ」
「ま、まってぇ~……」
「……少しあの喫茶店で休むか。まだ澪達との合流時間まで時間あるし」
「さんせぇ~」
「あはは……ごめんなさい」
……この二人といれば、昨日記憶に蓋をしたことも忘れられそうな気がした。