今日はバイトも休み。午後から軽音部のコーチがあるのみだ。
というわけで、たまには二度寝をして鋭気を養うとしよう。
すると、そんな甘い考えが通ると思っているのかと言わんばかりに、ピンポーンと呼び鈴が鳴った。
……おい、マジか。まだ朝の6時だぞ。
誰か知り合いが酔っ払った勢いで来たのかと思い、ドアスコープから覗いてみると、見覚えのある人物がそこに立っていたので慌てて開けた。
「あ、おはようございますっ」
「どうした?…………唯?」
そう、このところ毎日会っている平沢唯が何故か我が家を早朝から訪れていた。
「えっと……おはようございますっ」
「う、うん。さっき聞いた……とりあえず中へ」
「お、お邪魔します」
いそいそと靴を脱ぐ唯は、制服姿にギターを背負っており、普段どおりの格好をしている。かなり早起きをしてきたのだろう。
唯はギターを壁に立てかけ、俺が用意したクッションの上に座った。
「ええと、とりあえず……どした?」
「……そ、早朝練習したくて!それで驚かせようと思って!」
「なるほど。練習熱心なのはいいし、サプライズも唯らしいけど、心配しちゃうからもうやらないように。ていうか、せめて連絡入れるように」
「……ごめんなさい」
部活の朝練などで、この時間にうろつく学生もいるかもしれないが、それでも心配にはかわりない。
唯はギー子事件の時のように、やたらしょんぼりしていた。普段があれな分、こういう時調子が狂う。
俺は自然とその頭に手を置いていた。
ほんのりとした温もりと柔らかな髪の感触に、一瞬胸が高鳴りかけたが、そこを振り払い、無心でよしよしと頭を撫でる。
そして、噛まないように慎重に口を開いた。
「その……まあ、ギターにそれだけ熱心に打ち込んでくれるのは、コーチとしても嬉しい……だから、まあ、朝練したい時は、別のやり方を考えよう」
「…………うんっ」
笑顔を見せた唯の頬は赤く、何とか意識しないように……と、ここで1つ気になることがあった。
「一応聞くけど、憂にはちゃんと言ってきた?」
「テーブルに書き置きは残してきましたっ」
「そうか……なら、大丈夫かな?そういえば何で急に朝練?」
「……だって、憂と江崎さんだけ二人でこそこそやってるし」
「いや、こそこそはしてないと思うけど……周りに唯達いたし……」
「でも、なんかもやもやしたもん……」
「う、うん、ごめん……」
や、やばい。さっき笑顔だったのに、またやばいスイッチ押したみたいだ。ほっぺが膨らんでる。
とにかく、この状況を打破せねば……!
「あ、何か飲み物取ってくる!」
そう言って立ち上がったが、焦りのせいか足を滑らせてしまった。
「あっ」
「えっ?」