バイトが終わり、少し傾いた陽を背に受けながら、今日も部室に向かう。
この道を歩くのもだいぶ慣れてきたな。
だが、一つだけ悩みの種があった。
「これだけは未だに慣れないんだよなぁ……」
そう、忘れてはならない。ここはあくまで女子高なのだ。
もちろん、それなりに認知されてきたのか、不審な目を向けられることはなくなったし、何なら知らない女子生徒が挨拶してくるようになった。
だが、女子高である。
先生方のように日々を積み重ねれば慣れるのかもしれないが……。
「あ、江崎さん。こんにちはです」
「おう、こんにちは」
急に声がかかり、慌てて振り向くと、そこには梓がいた。
ツインテールをぴょこぴょこ揺らしながら駆け寄ってくる姿を見ると、何だか心が癒されてくる。
そのまま並んで歩き始めると、梓は真面目な顔をこちらに向けてきた。
「新曲のアレンジがまとまってきたので、またアドバイスお願いします」
「そっか。わかった」
今、新曲を仕上げているところだが、予想どおり梓は仕事がはやかった。まあ、経験値でいえば、放課後ティータイムの中じゃ一番だしな。
「梓の家って音楽一家なんだっけ?」
「はい。家族でバンドやったりもするんですよ」
「へえ、すごく観てみたい」
「またライブする時は連絡します。あ、何なら江崎さんも参加しますか?」
「え、いいの?」
「ええ、もちろんです。江崎さんレベルなら、お父さんも喜ぶと思います。あ、その前に唯先輩と憂に許可取らなきゃ」
「え?何の話?」
「いや、そこは察してください。いや、あまり察しないほうがいいのかな?と、とにかく、女子同士には色々あるんです!」
「う、うん、わかった……」
何だろう、とりあえず聞かないほうがいいのはわかった。
*******
部室に入ると、他のメンバーはまだ着ていなかった。
「まだ来てないみたいですね」
「ああ」
「あ、じゃあセッションしませんか?」
こういう提案がスムーズに出てくるあたり、やはり音楽一家で育ったのだろう。
とりあえず楽器の準備をしようと立ち上がると、同じく準備をしようとしていた梓が足を滑らせた。
「あっ!」
「っと!」
梓を何とか受け止める。てかこの子軽すぎ。なんか小動物みたい。
「ご、ごめんなさい……」
「いや、それより大丈夫?」
「はい……あぁ、びっくりした……」
梓がほっと溜め息を吐くと、彼女の長い髪から、ふわりと、甘い香りが漂ってくる。
その瞬間、何かやばいと思った。あれ、俺って『危機感知』の個性あったっけ?
「「何してるのかな?」」
あ……